すくいようがない

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すくいようがない
LOG:juju
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出会いも別れも、人の御業。/一度あるなら二度はある。
髪を切ったから、もしかしたら気付かないかもしれない。 ──なんてのは、どうやら杞憂だったらしい。 大学のキャンバスをほっつき歩いていたさなか。 前方から向かってきた学生が、落ちた何かを拾おうとして、派手にリュックの中身をひっくり返した。屈んだ際に、ドザザザザザと。正に一瞬。まるで漫画の様なぶちまけっぷりに、夏油は思わず吹き出した。 「ぶはっ」 「……おい」 目の前の白い後頭部から低い声が響く。盛大に笑ってしまった手前、手伝う気持ちで彼の足元へと屈む。 「いや、笑ってしまってすまない」 彼が拾おうとした指の先を追えば、学生証が目に入った。案の定「五条悟」と記載されていて、やっぱりねと思う。まあこんなつむじの根元から真っ白い髪の持ち主なんてあの旧友くらいだろう。それには触れずに、夏油は含み笑いは堪え切れないまま、リュックから落とされた書類やノートを拾い集めた。 「これで全部かな」 はいどうぞ、と落とし主へ手渡す。落とし主──五条は少々仏頂面だったが、受け取りながら「どーも」と会釈した。 覗いたサングラスの瞳からは、どこまでも他人行儀な色が見える。髪の毛が耳に掛かるくらいまでしかない今の夏油を見ても、からかいの言葉ひとつ飛び出やしない。どうやら本当に、目の前の友人は自分のことを覚えていない様だ。そのことに、夏油は正直、ほっとした。 袂を別ったやつのことなんか忘れて、しあわせになればよかったのに。 夢幻に思われた空港での邂逅で、思っていても口には出さなかった、ひとつの本音。 告げるべき時は今だろう。 「いいえ、良いキャンバスライフを」 淡いさよならを滲ませて。目の前の親友だった男へ、心の底から祝いの言葉を掛ける。 返事を待たずに、夏油はその場を後にした。 縁があればまた袖触れ合うこともあるかもしれない。もしかしたら、今生これきりかもしれない。 それでもよかった。 この世に生を受けて早十八年。物心ついた頃にはいわゆる「前世」とやらを憶えていた夏油少年は、自分が持ち得るツールを使って、ありとあらゆる可能性を調べた。図書館やネットで年間行方不明者や都市伝説系な噂、かつて高専が存在した地域など。調べて、調べて、そしてそのすべてが空振りに終わった時、やっと心から実感したのだ。 どうやらこの世に、呪いや呪霊なんてものは無いらしい。 何より、今の夏油にはもう呪霊など見えなかった。幽霊だって一度も気配すら感じたことは無い。つまり自分は、あの頃「猿」と呼んだ人々と同じ存在になったということで。 そのことに気付いても、夏油は特に何も感じなかった。ただ、そうなのかと腑に落ちただけ。 結局のところ、あの環境から完全に脱却してしまえばそんなものだ。そんなものに自分は拘って、己と他者の命を賭した。 かつての行動に後悔は無い。しない、と言った方が正しいか。例え他人から見ればどれだけ無駄で無意味な行いだろうと、あの頃の夏油には必要だった。自身が捨て、篩にかけ、屠った者たちを無駄にしない為にも、果たさなければならない大儀だった。けれど、呪いなんてものが存在しない今生でまで、引き摺るほどの禍根もまた、無かった。 ありはしないのだと、今なら言える。 なら、もうそれでよかった。 呪霊がいない世界。術師が──仲間が、いたずらに命を奪われない世界。非術師を憎まなくてもいい世界。それが叶ったのだから。 感傷なんてものは、全部全部、あの頃に置いていけばいい。 君もね。
天気は快晴。 まるで親友の瞳の様に鮮やかな青さが広がる空を、夏油はただただ、満足そうに見上げた。 ──なんて、殊勝なことを思ったものだが。 「そういや傑、髪伸ばしてんの?」 「今結構長めだよな」五条が夏油の首筋から肩口あたりを目掛けて、無造作に手を突っ込む。するする。指で横髪を梳いたと思ったら、そのまま五条の腕は反対側の肩へと着地した。抱き寄せられるまま、「こら、悟」と小さくぼやく。そこで、ふと。ぼさついた髪の毛を整えながら、夏油はちょっと、はっとした。 ──そういえば、昔は悟に髪を触らせたことなんて無かったか。 ここに来て初めてのことも、どうやらまだまだあるらしい。 正直な話、今となっては五条の記憶があろうと無かろうと関係なかったな、とは思っている。自分たちは結局また出会い、友人になった。あの頃の境遇や環境以外でも、どうやらちゃんと友誼を結べる下地があったらしい。 特に今生なんて最近の記憶だというのに、どうやって仲良くなったのかがさっぱり思い出せない。ただ、目が合って、会話して、一緒にいる様になった。それだけだ。本当に、ただそれだけだった。 けれど。 それだけ、ってのがきっと、人の出会いには大事なのだろう。 「実は前にもロングだった時があってね。久し振りに伸ばそうかと」 「へえ、いつ?」 五条の問いに、夏油はふっと閃く。 もしも髪があの頃くらいまで伸びて、五条が思い出したりしたら。その時はばっさり切ってやろうか。何なら坊主でもいいかもしれない。 それだってきっと、私たちふたりにとっては、この世で初めての経験だろうから。 なんてね。 己の詮無い思い付きに、夏油はこっそりと笑う。 「もう随分昔の話だよ」 「あ、ああ~……」 クッソ情けない声に惹かれて、五条は思わず振り返った。 目にした先には、床に一列で並び散らばったノートと、それを前に途方へ暮れている、一人の青年。耳にかぶる様切り揃えられたサイドと、同じくらいの長さで揃えられた、ワンレンの前髪。黒いカーテンみたいなそこから除く男の顔を認めて、五条はちょっと目を見張った。いつぞやに自分がぶちまけた落とし物を拾う際、手伝ってくれた人物だったからだ。 何となく、足をノートの先頭列へと向ける。 膝をついて下から順繰りに拾い上げてやれば、目の前の男が「あっ」と声を上げた。 「こないだの」 「人のこと笑うからじゃね、この惨状」 人を呪わば何とやらだ。軽く鼻で笑ってやれば、青年はバツが悪そうに眉尻を下げた。「違いない」 そこからは無駄口を叩かず、青年と両端からせっせとノートを積み上げた。お互い半分ほど拾い上げたところで、「ほらよ」と元通りに重ねてやれば、彼は小さく頭を垂れる。長めの前髪がさらりと揺れた。 「ありがとう、おかげで助かったよ」 「別に、先に施し受けたのは俺だし」 「お礼と言っちゃなんだけど、学食でもおごろうか?」 ふいの誘いに、五条は手許のノートに目を配る。 「オマエ、それどっかの教授のとこに持ってかなきゃじゃねえの?」 「お腹が空いて力が出ないんだよね。どうせ急ぎのものでもないし、大丈夫大丈夫」 情けないアンパンマンみたいなことを言いながら、ほらこっち、と立ち上がった青年が顎で進路を指し示す。 ちょうど学食の入り口前で立ち往生していた手前、誘導されてしまえばついつい足がつられてしまい。あれよあれよと流された先。手馴れた様子で角席のソファーと椅子へノートの山を半分ずつ座らせる男に、コイツ絶対初犯じゃないなと五条は悟った。 「オマエ、まさかこれ目当てでそいつ引き受けたの?」 「情けは人の為ならずってことさ」 「調子の良いこって」 席取りを終えた青年に、そのままのこのこと付いて行く。二台の食券は程よく空いていた為、そう待たずに五条たちの番が回ってきた。 「何でも頼むといいよ。今の私はバイト代入って小金持ちだから」 コガネモチ? とやらはよく判らなかったが、ならばと五条は遠慮せずに、自分の食べたいもののボタンを押す。ピッ。ペッ。吐き出された食券を見て、男がしみじみと呟いた。 「この食べ合わせっておいしいの?」 「知らん。腹に入れば同じだろ」 「君にはぜひ、ちょっとは食に対して楽しみを見出すことをおすすめするよ」 「けっ、言ってろ」 そのまま自販機に万札を投入し、青年へと振り返る。 「ん?」 「オマエもなんか買いな」 「俺だけ奢られんのもフェアじゃないだろ」とぼやけば、「律儀だなあ」と青年は顔をくしゃりとさせ、笑った。これまで浮かべていた柔らかい笑みとは違う、どこかあどけない顔だった。何となく、どきりとした様な、しない様な。どうにも納まりが良くない心地に、五条は足先を打ち鳴らす。 ピッ。ペッ。迷いなく青年もボタンを押す。食券に記された料理は蕎麦だった。大学生にしては渋いチョイスだ。 「ホントにそれでいいの?」 「大好物」 ピースまでして喜びを露にした青年は、「ありがとう」と五条に微笑んだ。またしてもどぎまぎしてしまったので、思ったよりも余った釣銭で、ついでに自分用のパフェを買い足しておく。 時間にして幾何か。 利用者も多い学食だけあって、さほど待たずに受け取り口へ料理がサーブされた。各々受け取って席へ戻り、腰を落ちつける。鼻先に香ばしい匂いが漂えば、現金なもので、急に空きっ腹を感じ出す。 「いただきます」 「召し上がれ」 「お互い様だろ」 そこからは先ほどまでとは打って変わり、しばらく沈黙が続いた。 食事中に口を開くのは、幼少期から叩きこまれたマナーが染みついている手前、嫌煙しがちだ。だから黙ったまま食を進める青年に、五条は内心で口笛を吹く。厳つい見た目の割に、どうやら行儀は良い様だ。 強引な様で柔和。危うげな雰囲気の割に律儀。距離感が近い様で、こちらに踏み込み過ぎない。総括すれば、変なヤツ。 だからだろうか。 ふたりとも食べ終わったタイミングで、五条にしては珍しく、自分から相手に切り出した。 「そういやオマエ、名前は?」 一瞬とぼけた顔をしたのち、「ああ」と青年が口を開く。 「夏油だよ。夏油傑」 「あん? どういう字?」 漢字がパっと出て来なかった為問い返せば、夏の油に傑作のケツ、と青年──夏油がすべらかに語る。 「そういう君は?」 「あ? ホントに知らねえの?」 言っちゃ悪いが、この大学ではそこそこ有名人な自覚はある。百九十はある巨体に、白髪碧眼。見た目だけで十分噂される要素があった。だからこそ、思わず胡乱な眼差しを返したのだが。 「友達になりたいんなら、ちゃんと本人の口から知りたいだろ」 「……何だそりゃ」 「礼儀だよ、礼儀」 逆にじとっと見つめ返されて、五条は思わず息を呑む。まさかこの歳で友達云々を説かれるとは。いや、その前にダチになんのってこういう流れだっけ? 生憎常時つるむ様な相手がいなかった為、こんなもんなのかどうなのかすら見当がつかない。 よく判らない混乱を抱えて促されるまま、ぽつり。自身の名前を口走る。 「……五条悟」 「漢字は?」 「五条橋に、悟りを開くのサトル」 「なるほど、うん、想像通り」 「やっぱオマエ知ってんじゃねえか!」 そんなことはないさ、なんて胡散臭い顔で夏油が笑う。腹は立つが、正直どこかむず痒いのも確かで。 苛立ち半分、照れ隠し半分の中で、ふと。五条は気になっていたことを思い出す。 「じゃあ友達ついでに聞くんだけど、コガネモチって何?」 「さては君、普通のお金持ちだろ」 しょっぱいものを見た様な夏油の顔に、今度は五条が爆笑した。 一生の親友と二度目ましてになる、今日この良き日。 俗にいう、友達記念日というやつである。
LOG:juju
悪魔は囁く
鳴らないはずの、電話が鳴った。
忘れられない番号がディスプレイに表示された瞬間、己の指はいつの間にか画面をスライドさせていた。 プツリ。 電波の線と線が、しっかりと繋がる。 『悟……』 久しく聞いていない、甘ったるい声音が耳を叩く。 『よかった、繋がって。ちょっとヘマしたみたいで……悪いんだけど、ここまで迎えに来てくれないか』 一体何が何なんだか。 あまりにも「あの頃」の体で話し続ける電話の向こうの男──夏油に、流石の五条も鼻白む。 自分が現在利用している部屋は、同じ高専内とはいえど、昔とは違う場所だ。部屋の間取りだって、家具の配置だって、何もかも違うのに。機械越しの彼だけが、あまりにもあの青春の日々を彷彿とさせるものだから。 今の自分を、一瞬見失った刹那。 『頼む、悟』 「判った」 錯覚を患ったまま、気付けば応えを返していた。半ば無意識化で行われた動作に、五条は自分でうっすら驚く。 ──おいおい、正気かよ。 なんて内心でツッコんではみるが、後の祭で。 そんな五条の戸惑いに気付いているのかいないのか。電話越しの彼は、小さく「よかった」と呟いた。 本当に、心の底からそう思っている様な様子で。 『ありがとう、待ってる』 自身の居所を大まかに告げ、夏油が通話を切った。ツーツーツー。切れた糸の残響を聞きながら、五条は小さく嘆息する。 ──罠かな。 「罠かもなあ」 冷静に考えればそうだ。何を考えているのかは知れないが、五条をおびき寄せる何かしらの可能性は十分にある。 けれど、最初の一声が。 自分を呼んだ声が、あまりにも頼りなさそうに聞こえてしまったものだから。 まるで夏油から乞われた様な錯覚をどうにも捨てられず、五条は大人しく、スマートフォンをジャケットのポケットに突っ込んだ。 向かうは玄関である。 「悟!」 駅の出口を出た先のベンチスペースから、五条を見付けた彼が声を上げる。のこのこと近寄れば、眉根を下げた夏油が小さく頭を垂れた。 「悪いね、こんなところまで来てもらって」 大仰な袈裟を身にまとっている割に、浮かべる表情はどうにも毒っ気が無い。 別離を宣った時は、あんなに冷めた目をしていたくせに。 「……オマエ、一体どうしたんだよ」 本当に、心の底から大真面目に問い質す。 夏油の親指が、彼の額を細かく掻いた。 「それが、正直判らないんだ。気付いたらここにいて……新宿の様だけど、何だか微妙に店のラインナップも違うし、ケータイも持ってないし……だから、何故か持ってた小型のタブレットPCみたいなので、微妙に覚えてた君の電話に掛けてみたんだけど」 「……へぇ」 「ホント、繋がってよかったよ。正直合ってるかどうかも判らなかったから……」 「意外と覚えてるもんだね」なんて、夏油がころころと笑う。 あんまりにも屈託が無い顔をするものだから、五条はいよいよ状況を察してしまった。 だって今の傑はきっと、こんな風に笑ってくれない。 「正直、ガラスで自分の姿を見た時から、薄々変だとは思ってたんだ……だから君の姿を見て、確信したよ」 彼自身、どうやらちゃんと自覚していたらしい。 「なあ、悟……今の私たちは、一体何歳なんだ?」 途方に暮れた色をほんのり滲ませて、夏油が五条を一心に見上げる。 瞬間、五条の脳内はありとあらゆる様々な想定を算出した。 殊勝な様子すらも罠の可能性。 本当に記憶喪失であり、身寄りが無い可能性。 ──彼を拘束してしまう段取り。 高専以外で所有している、独り暮らしでは持て余しがちなマンションの一室。 長身の自分でも足を伸ばせる、オーダーメイドのベッド。
「……とりあえず、一旦帰ろうか。俺たちの部屋に」 あまりにも荒唐無稽なことを口走った自分に、五条は心底戸惑ったが。 けれど訂正の言葉は、終ぞ口から出なかった。
タナトスにはなれない
「じゃあ俺が殺してやるよ」 何の話の流れだったか。 彼の憂いに対して、悟はこう返した。 己ならば苦しませずに殺してやれると、そう心から自負している。そして必要な後始末だからこそ、実行するだけのこと。すべてはただ、オマエが望むままに。ただそれだけの発言だった。 人の情緒というものにある程度理解を示せる、「今」ならば判る。 オマエなど取るに足らないと受け取られても仕方が無い言葉だったと。 けれどもアイツは──傑は、悟の心情を正しく汲み取った。 悟の真心を汲み取り、受け留めた上で、笑った。 どこか、ほっとした顔つきで。 「ああ、任せた」
だからきっと、「最強に成った」はずの悟は、前よりも弱くなった。 人の手緩さに慣れた、野生の動物と同じだ。 一度でもその生温い施しに触れようものなら、二度と元いた理の中では生きられない。生きていけない。 気付いたのは、傑から明確に拒絶された、あの瞬間だ。 半ば無意識に術式を放つべく指を構えて──微動だに出来なかった。まるで中指と親指が蝋で固められた様に、ぴくりとも動かない。 彼を映す六眼はこんなにも揺れているというのに。 構えを解けたのは、傑の姿が完全に雑踏から消えた後だった。 馬鹿だ。阿呆だ。自分はとんだ大洞吹きだ。 何が殺してやるよ、だ。 傑に情を抱いてしまった時点で、悟が「殺せる理由」など、無くなったも同然だった。 もう彼を知らない頃の自分には戻れない。それくらい深く、深く、「傑」という存在が悟の根幹に根付いてしまった。 忘れれば楽になるだろうか。 望み通り、屠ってしまえば前の自分を装えるだろうか。 答えは否だ。 そんなもの、現在の自分にとっては自殺と同一である。 「何故追わなかった?」 「……それ……聞きます?」 まさか己が一般的な感性などというものを振りかざす羽目になるとは。遠く目を凝らしたまま、悟は夜蛾に質問で返す。 そう、結局はご想像の通りだ。 傑に求められてもいないのに、追い縋ることなど出来なかった。求められないまま、この足元を廻る結界の外に出る気概など持てなかった。それくらい自身の持ち得る「常識」は、どうやら正しく足を引っ張る代物だったのだと。悟は生まれて初めてようやく、壁を越えられない無力感を自覚した。 「……いやいい。悪かった」 そんな悟の真っ当さを、夜蛾はどうやら正しく察してくれた様だった。 それくらい、今の自分は、きっと判りやすいのだ。そういう生き物になってしまった。されてしまった。 アイツの所為で。 「先生、俺強いよね?」 「あぁ、生意気にもな」 期待通りの回答に、悟は小さく鼻を鳴らす。 「でも、俺だけ強くても駄目らしいよ」 ──あーあ、やってらんねぇ。 オマエを想わなければ生きていけないなんて、一生気付きたくなかった。 気付くことも無いまま、ただ彼と共に在れたらよかった。 まるで掴めない桜の花びらの如く。 指の隙間から零れ落ちた青い春の残滓を思って、悟はただただ自戒した。
「俺が救えるのは、他人に救われる準備がある奴だけだ」
青天の霹靂
本当に、何てことは無い出来事だったはずだ。
五条は最強である。 既に呪術界における等級も最上位であり、経験こそ年配の者には劣るが、単純な力量で己を上回る術師は存在しないだろう自負もある。 故に一級相当の呪霊程度では、早々手こずるわけもなく。いつも通り、綽々と祓除を完了した。 一つ、異なることと言えば。 今日は級友である夏油が同行していたことくらいだ。 夏油は一般家庭の出の割に、珍しい術式と身の丈に似合わない責任感を備えた少年だった。格闘技が趣味と宣うだけあって、五条の足を引っ張ることも無く。むしろ的確に自身の取りこぼしを捌いていく様に、内心口笛を吹いてやりたい気分ですらあった。 白状しよう。自分の心は、確かに浮ついてすらいた。 だからだろうか。 「やったな五条!」 「いっで!」 馬鹿力で叩かれた方を見やれば、満面の笑みの夏油がいた。五条が文句を言う暇もなく、「今のチームプレイ、中々じゃなかったか?」なんて、矢継ぎ早に彼が言葉を繋ぐ。 よくよく伺えば、その頬は真っ赤に紅潮しており、耳まで綺麗に色付いていた。 いつもの澄ました素振りはどこへやら。 ──何だその、あからさまにはしゃいだ様は。 そう内心で毒づいたくせに。 「私たち二人で力を合わせれば、何だって出来そうだ」 「……そうかもな」 夢見がちな夏油の言葉に、気付けば相槌を返している。頷いた自分に、五条は心底驚いた。 些か「らしくない」と自嘲し、手持無沙汰に頭を掻く。 「……傑」 誤魔化し半分で、目の前の級友を「初めて」呼べば。 夏油は当然の様な顔をして、嬉しそうに目を細めた。 「だろ? 悟」 その日、五条──悟は夢を見た。 自分は何故か、高い高いタワーのてっぺんに立っていて。 茫然と眼下に広がる有象無象を見下ろしている際に、ふと。 ──ほら、見てみなよ。 袖を引かれるまま腰を下ろす。 隣にいたのは、最近出来た級友で。 特徴的な前髪を揺らし、小粒な瞳を弓形に細めて。 あちらこちらと、何かを指差し。 どこかわくわくとした笑みを浮かべている横顔をただただ、馬鹿みたいに見つめている。 見つめて、見つめて、物足りなくなった。
──傑。
呼び掛ければ、誰よりも楽しそうな鳶色とひたり、目が合って。 ──悟。 甘ったるい声が、軽やかに自分を呼ばうものだから。 脳が──いや、胸が、焦げる。 そういう夢だった。
LUG:juju
かけごとの行方
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診断メーカーログ
でもつい読んじゃう
OH MY SWEET!
!ケーキバースパロ
LOG:juju
カウントダウンはとうに、
LOG:juju
友達の良いところ