he wasn't even looking at me and he found me
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憑者 賽神
賽の目にはごくまれに、偶然よりも必然を信じたくなるときがある。
吉と出るかそれとも凶か、哀歓くるんで賽神様のおぼしめし。
人為をもって能うを欲せば、修羅場となって因果する。
憑者帖 毛ちらかし
トイレや風呂場は当然として、どの部屋のどんな場所にも、ちぢれた毛をまきちらす。
彼らが本気を出せば冷蔵庫や電子レンジ、カバンや筆箱、本のページの間とか胸ポケットの中など、現代物理学を疑いたくなるような場所にまで入り込んでいて、来客時などに慄然とした心持におそわれることも間々ある。
実に本気でしぶといのである。
憑者帖 夢もらい
食べたことも無いようなごちそう、あきらめていたようなロマンス、願ってやまなかった名誉、財産、権力。まさに成就されようとしたその転瞬、雲散霧消して目が覚める。
残っているのは大きな喪失感とやるせない焦りばかり。 淡い期待を抱いてもう一度寝てみても、続きが見れようはずがない。
夢もらいが幸福感ごと、もらって行ってしまったのだから。
憑者帖 紐がらめ
いったいぜんたい、どうしてこんなにからまっているのか、やろうとしたってこうはいかない、どうしてなのか、現代社会が直面している最大課題ではないのか。
かなり古くからいる妖怪であるが、困られるのが釣り糸くらいしかなかった昔にくらべて、テレビやコンピューターの裏などにやりがいを見出した現代では、どこの家庭でも見られるようになった。
憑者帖 鳩爺
鳩に餌をやるお爺さんというのはどこの公園でもよく見かける風景だが、餌を撒かないのにやたらと鳩が集まっているお年寄りに心当たりは無いだろうか。
無表情な顔を首から上だけ動かして、まばたきの少ない目で周囲をコキザミに見渡し、音と視線に敏感に反応する。
あなたが鳩爺を見るとき、鳩爺もあなたを見ている。
憑者帖 伝鴉
カラスというのは敏感なもので、とくに気にしていない時はすぐ真横にまで近寄れるが、少しでもこちらが意識を向けると、あっという間に飛び去ってしまう。
もし視線を向けて近づいても臆せずにこちらを見つめ返し、逃げないカラスに出会ったら、それは長じて心を読むことができるようになったカラスだ。
誰かの心を読んであなたに伝えに来たのか、あなたの心を誰かに伝えに行くのか。
憑者帖 茸神
雨が降った数日後の早朝の森には、驚くほど立派な茸が生えていることがある。
他よりひときわ大きく見事な姿に感心し場所を憶え、他を散策してから見に戻ってくると無くなっている。
数分の間にどこへ消えたか不思議に思いつつガッカリして歩き出すと、少し離れた別の場所でどう見ても先ほどのものと同じ茸がみつかる。
それは茸神だ。
憑者帖 精霊もっけ
盆かざりの精霊馬をずっとそのままにしておくと、かたづけた憶えもないのにいつの間にか無くなっていたりする。
遣い終るのをうずうずと待っていた虫、動物、風雨や付喪の思念が、しめたとばかりに群がり連れ去っていく。
お盆を過ぎたころの怪現象の多くは、その道すがらで彼らが遊んでいる気配なのだろう。
憑者帖 刺子
首のうしろに重くかぶさり脳にぎりぎりとかみつきながら、こめかみから手を刺し込んで目の裏側を握りしめ、ぐりぐりずんずんする。
いっそ目玉をえぐりだしてしまいたくなるような激痛に、一切が手につかず、眠ることすらできない。
医者にかかっても原因がわからず、薬や按摩、針や灸などもまったく効かない。妖怪なのだ、しかも極めて危険な。
去るのを願って数日の間ひたすら耐えるしかない。
憑者帖 山つぶて
里山や森林などを散策していると、たまに頭の上にどんぐりや松ぼっくりなどがぽとんと落ちてくる。
本来木の実というものは素早く地面にもぐって芽吹くこと目指すべきだが、中にはなぜか人や動物の上めがけて落ちることに情熱を燃やし、狙って待ちかまえているものたちがいる。
なんだかやたらと頭にどんぐりが落ちてくるという場合は、山つぶてのしわざだ。
憑者帖 沓たがえ
家に上がるときの挙措から考えれば、脱いだ靴が左右逆になって揃えられているというのは実におかしい。
同じ靴であればまだしも、ひどいときには別々のものがそのように、しかし不思議と、きれいに揃えられているのだ。
明らかに何か尋常ならざるものの作為を感じないだろうか。
憑者帖 魚心
あるところに魚を食うのが好きな男がいて、小さなものなら骨も気にせず頭からバリボリと、大きなものであれば身の一片たりとも残さずきれいにしゃぶり、魚のことばかり考えているうちに、見るものすべてがなんだか魚っぽく見えてきて、しまいに食べた魚の姿が宙にただよって見えはじめ、あげく自分が魚になってきれいに食われる夢を、繰り返し楽しむようになった。