[ロッシーニ 『アルジェのイタリア女』]
チェチェーリア・バルトリは今年はこちらの作品で出演した。 よく知られているロッシーニの作品である。演出はベルギーの二人組ユニット、モーシュ・ライザー+パトリス・コーリエ、ピットに入ったのはジャン・クリストフ・スピノジとアンサンブル・マテウス。演出もアンサンブルも、バルトリとの共同制作も多く、安定のコラボレーションである。
ザルツブルクは演劇や音楽の世界では一応アカデミックな位置づけなので、新演出を含めて毎年4、5作ぶつけてくるオペラ作品は実験的で革新的な演出が多くて、一般受けするものとはけっして言えない。イタリアオペラもモーツァルトも、ヨーロッパ内の歌劇場の普通のレパートリーの方が、よっぽどしっとりしたものが見られるだろう。こういう経験値から、私の場合も、毎年のスケジュールから徐々にオペラのプログラムが減っている。今年は祝祭劇場は『魔笛』だけに抑えたが、それでもこちらと昨日の『ポッペア』だけで、もうしばらくオペラ観たくない、というくらいげんなりしてしまった。
そんな中で、毎年歌姫(というより「歌の女王」という貫禄だが…)チェチェーリア・バルトリが仕込むプログラムは、かなりエンタメ性を前面に押し出したプロジェクトになる。これは、難解な作品ばかりみせられてアタマがグルグルになりそうになっているお客さんには、本当に素晴らしい息抜きになるだろう。 妃に飽き飽きしたアルジェの君主ムスタファが、新しい妻にするからとイタリア女をさらってこさせる。さらわれたじゃじゃ馬娘、イザベッラの元の恋人リンドーロはムスタファのもとで奴隷にされており、イタリアからイザベラについてきた自称「伯父」のテッデーオもイザベラに気がある。こんな登場人物の間で醸されるドタバタ恋愛喜劇である。 とにかくバルトリがいろんな意味ですごい。一幕の誘拐場面からして、ラクダにまたがって登場である。そのほか、バスタブに横たわって泡風呂で歌ってみたり、ラストシーンはクルーズ船までステージに「入港」させる。もうこのスペクタクル性と無茶ぶりは、女王にしか許されないものだろう。さすがは大スター、舞台上でまとうオーラ感も半端ではない。特にこの作品では、昨年のアリオダンテのように男装とかではなく、終始華やかなリゾートドレスを身につけているので(こういうのが本当に似合うのだ)、もうバルトリ様の周りに少女漫画のようなキラキラの星が終始散り輝いているかのようだった。そして歌がもうめっぽううまくてチャーミング。 チェチェーリア・バルトリに関してはそれほどファンというわけでもないのだが、なんとなく流れで毎年見ている。2015年が『ノルマ』、16年が『ウェストサイド・ストーリー』、そして昨年が『アリオダンテ』。考えてみると、ベルカント→ミュージカル→バロックオペラと続いてきて、バルトリが最も得意とするロッシーニはこれまで見る機会を持てなかった。そして、バルトリのロッシーニ、本当に良いのである。歌詞の言葉をたくさん詰め込んで早口言葉のように歌うのが19世紀前半のオペラの特徴だが、語り始めから歌詞を丁寧に、そしてベルカントの技法は堂々たるものである。 本日はお相手も素晴らしかった。ムスタファにイルダール・アブドラザコフ、テッデーオにアレッサンドロ・コルベッリ。特にバスバリトンのアブドラザコフは世界中のオペラハウスでこの役を歌いこなして定評があるようだが、歌に安定感があって上手なだけでなく、演技も素晴らしい。道化役のコルベッリも同様で、バルトリと三人が絡んで歌うことが多いので、見事な「ロッシーニの多重唱」がたっぷり楽しめる仕掛けになっている。 二枚目のリンドーロ役のテノール、エドガルド・ロチャは本当に美しい声で一瞬は聴き惚れるが、多少不安定なのがちょっとドキドキさせられた。ロチャ、長い独唱部分で、ロッシーニ特有のまくしたてる歌唱をしばらくやっていると、音程が「はっ?」となる時があるのだ。後半はだいぶんとのってきて随分良くなっていたが、若い歌手なので今後に期待したい。 最後はムスタファをだまして、とらわれていたイタリア人の奴隷たち全員と船で逃亡するシーンで大団円。なんとラストでは、舳先に立ったブルーのドレスのバルトリとタキシード姿のロチャが、あの「タイタニックのポーズ」で決めてみせる。…いったいどこまでサービス精神旺盛なんだ?? 見ていて心配になってくるほどだ。しかし、ここまでされるとお客さんは熱狂して大喜び。カーテンコールではスピノジもステージに上がり、そして、舞台からアンサンブルのいるピットに乗り出すようにして終曲の大合唱をアンコール。客席からは手拍子まで湧いていた。こういう雰囲気は個人的にはあまり好きではないが、演奏者はみんなとても楽しそう。バルトリ・オペラは毎年こうなので、あらゆる面で素晴らしいプロダクションなのだと思う。昨日とは対照的に、時間が短く感じられる公演であった。











