人が人に審判をくだすのは間違っていることだ、人が人を進化させようとするのも、滅びの審判を下すのもすべて間違っている、そうアムロは考えていた。
コックピットの中の装置は全ていかれてしまって温度が上昇し続けている、もう動くことも無いだろう。
シャアが喋らなくなったので自分は色々なことを考えていた、アクシズに大気圏まで押し込まれて、もうすこしで自分も燃え尽きてしまうだろうな、というそういう確信もあった。
こういうときは時間がじわじわと進む、焼け爛れて死んでゆくのは苦痛であるはずなのになぜか頭が冴えていた、何かの力が働いて苦痛をやわらげてくれているのかも知れない。
人が人に審判を下すのも間違いだが、人がほかの生物に審判も下すのも間違っていることだ、とも思った、それは人間が地球に行ってきた行為そのものだ。
シャアがだんまりを決めてしまったのは、死んでしまったからだとは知っていたが、アムロはそれでも、シャアがいるように話を話し始めた。
「あなたがやってしまったことも、地球にいる人間がやってしまったことも間違いだ、しかし時間は一人のためには止まってはくれないんだ、いくらがんばってもあなたが言う、地球にしがみつく人らはずっと地球にしがみつくんだよ、どこかで許さなければいけなかったんだ」
熱さに意識が朦朧としている中アムロは続ける「あなたが許せなかった気持ちもわかるが、どこかで許して、信じなければいけなかったんだ、それもわからなければあなたはずっとこのカンジを共有できない、死んでも。」
アムロはどこか、まだこの近くでシャアが漂っているような気がしていた、このままここにしがみつかせるのはあまりにも可哀想であるな、とアムロは思い独り言のように話した、あまりにも可哀想である、アムロはポロリと涙を溢した。
純粋さ故の悲しみと怒りだったはずだ、ならその純粋さで人を信じることもできるはずだろう、涙声で声が上ずるのも気にせず小さく呟く、もう時間がないのにアムロはまだシャアがどこかにいるような気がしていた、まだ信じることが出来ていないのだろうか、どうすれば信じてくれるのだろう、どうすればいいのだろう、混乱とあせりの中でアムロの涙も止まることが無く、コックピット内の熱さは上昇をし続ける、自分の皮が焼け爛れていくのを感じる、恐ろしさで叫びそうにはなるが痛みは不思議なことにあまりにも感じない、他の人々の意思が手伝ってくれているように感じた。
初めて宇宙に出たときはわずか10歳の時であったか、今になって地球への道中に体験した大気圏突入の際の衝撃を思い出している。その時は怯えていたがその恐怖を妹に伝えてはならないと思い、彼女の手をなるべく優しく握っていた、しかしそれでももしかしたらこのままシャトルは燃え尽きて、僕と彼女と他の皆は死ぬのかもしれない、そしてシャトルの残骸だけが地球の海に沈んでいくのかもしれない、という妄想は頭をついて回っていた。妹は眉を顰めて今にも泣きそうな顔をしていた、それに反して自分は無表情であった。そこまで思い出した後、暑苦しさにグルリと瞳が回って、現実に引き戻される、自分は今あの衝撃を再び感じている。ただあの時と違うのは、これが初めてでは無く、すでに何度も体験した衝撃に慣れてしまったこと、そして今回の「シャトル」はもうすでに燃え尽きそうになっていること。ただしく言えば今自分が乗っているものはシャトルではなく、モビルスーツのコックピットであった、加えてモビルスーツにあるべき装甲は全て無くなっていて、ただのコックピットだけが摩擦熱に削られている状態である。勿論こんな状態で生き延びる可能性は無い、加えてそこまでして生き残るべき理由も残されていなかった。今まで抜けぬけと生き延びてきたので、今はこれで充分であった、先ほどまでアムロの声が通信で入ってきていたが今では通信機能さえ壊れてしまったらしい。皮膚が溶けている、瞼も眼球も溶け始めていて視界がメチャクチャだ、血液が煮えあがって脳が死に始めている、勿論痛くて熱くて仕方が無かったがそれでもまだ懐かしい感覚に呼び起こされていた、走馬灯と呼ばれるものだろう、そしてその過去がある時点に到着した時点で生命維持に必要な身体の組織が全て燃え尽きた。小さなものが一瞬にして広がり自分の思考を飲み込んだ。
そしてシャアは何も見えないところに行く、肉体も存在しない、けれども何者かとのつながりを感じている。シャアはララァ、と発した、ゆらゆらした存在がシャアに近づいていた、シャアは喜びも悲しみも感じない、そこにいる、という事実だけを感じている。そしてその存在はシャアを飲み込んでそしてこなごなにした。その時にシャアは感覚を失って完璧に無くなってしまった。それと同時にアルテイシアは空を見上げておいおいと泣きはじめていた、彼女は兄の死とそしてアムロの死を感じ取っていた。ニュータイプである彼女はアクシズが地球に近付くにつれ段々と大きくなる二人の意識を共有していた、彼女はもちろんアムロの意識を信用していたが、それ以上に兄の意識を感じて悲しくなっていた。言葉には形容の出来ない罪悪感と悲哀感が彼女を傷つけ始めていた。「私はあの時兄さんが不安なのを知っていたのよ」アルテイシアはアルテイシアと呼ばれていた子どもの時のように顔を歪めてボロボロと涙をこぼしている、何度拭っても溢れ出てくるのでアルテイシアは思いきり泣く事にした、兄がそう出来なかった分まで泣いてやろうと、そんな傲慢な考えを持っていた。
眼下に広がる緑と青の大地、それが地球と呼ばれる惑星であった。少し寒い程のシャトルの中でアルテイシアとキャスバルは毛布を共有して、窓の外を見ていた。自分たちがいたコロニーから3時間ほど経ったであろう、それでもまだ到着予定時刻までは時間があった。
「綺麗な星ね、お母様にいつか見せてあげたいわ」アルテイシアはしばらく見せていなかった笑みを浮かべて呟いた、それを見た兄、キャスバルはほほ笑んだ。「地球は無くならないよ、アルテイシア」アルテイシアは何のことだろうと思い兄の顔を見る、浮かべられた笑いは張付けられたようなものであるのに幼いながらも気づき、毛布を強く握りしめる。「お母様がこの景色を見るまでは、地球は無くならない」だから安心して、と付け加えてキャスバルはアルテイシアの肩を抱いた、アルテイシアは兄の強がりを感じ取って素直に体重を兄に任せた。