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@amidtheknownandtheunknowable
静かの海
今日は休みだったから、一人で近場の海に行った。近くのセブンで煙草とコーヒーとチョコレートを買ってから向かう。何をするでもなく砂浜を歩く。二十代になったばかりの頃とか、たまにこうしてあてもなく海岸を歩いていたが、当時とは周りの視線が違う。相変わらず不審そうではあるが、すぐに興味を失うような眼だった。
空が暗くなり始めていて、足元には一匹の魚が転がっている。さっきまで運ばれていた潮風の匂いが、いつの間にか消えている。この場を形づくるものから、悪いものだけがきれいに抜け落ちているような気がした。ここに僕を脅かすものはないのだ、と思う。
何十分かずっと歩いていたら疲れた。浅瀬に落ちていた大きな流木を拾い上げ、椅子代わりにして座り込む。煙草に火をつける。いつもより乾いている、と思う。コーヒーはもう氷が完全に溶けていて、水出しコーヒーみたいに薄い。一気に飲んだときの、一瞬の凍てつくような冷たさが喉の位置をはっきりとさせる。
ぼーっと地平線を眺めていると大きな羽虫がとんできて、びっくりして振り返る。視線より少し上の高さの道路を横切るトラックの遅さに、知らぬ間にplentyが再始動していたことを思い出す。
存在しない午後
喉の奥がスースーする。フリスクやメンソール煙草のような、口の中を軽く撫でていくようなスースーではなくて、まるで自分の身体の内部から湧いてくるような、不自然なスースー。
子どもの頃、風邪を引いたときに病院で吸入器をあてられ、レモンやイチゴの香りがする霧を吸わされた、あの不可解な時間を思い出した。黙り込む大人たちと、鳴りやまない空咳と、午後の日差しを浴びた、あたたかい気怠さ。もう存在しない午後を連れてくる。
明日はみんなで釣りに行く。帰ったら準備して、午前三時に家を出る。
灰色のスウェット
夏服が欲しいなと思い、PARCOへ行った。何軒か見て回ったが、どうにも気分に合うものがない。結局いつものようにZARAへ流れ、ウォッシュブルーのリネンシャツを買った。
こういう服を何と呼ぶのだろう。ユニセックスというのか、とにかく男が着ていても女が着ていても不自然ではないものが好きだ。
服には年齢や性別を強調するものと、それらを意図して曖昧にするものがある。後者のほうが長く生き残る気がする。高校生が着ても、三十代が着ても、定年を迎えた人が着ても、それぞれ似合ってしまう服。流行の真ん中にいるわけでも、流行遅れでもない。街の背景として静かに存在することができて、誰の印象にも残らないような服だ。そういう服は、人ではなく生活に属している。
試着を終えてカーテンを開けると、ほぼ同じタイミングで隣の試着室から人が出てきた。セーラー服を着たおじさんだった。思わず目が合ったが、お互い何事もなかったように逸らした。彼は買い物かごを持っていて、中には灰色のスウェットが入っている。一瞬考えてから気づいた。彼は灰色のスウェットを着て試着室でセーラー服に着替えたのではない。セーラー服を着て試着室に入り、灰色のスウェットへ着替えたのだ。
あのおじさんについて僕が確実に知っていることは、一つしかない。灰色のスウェットを一着、買おうとしていたということだけである。
二冊
何で本屋ってどこも十時っていう中途半端な時間に開店するんだろう。村上春樹の新刊発売日くらい、朝早く開けてくれたっていいのではないか。
仕事終わりに急いで行ったらまだあって、わくわくしながら買って帰ったが、玄関の前に小さなダンボール箱が置かれていてイヤな予感がした。ネットで予約注文していたのを忘れていたのだ。
どうしようか迷った挙句、Kさんにプレゼントしようと思った。明後日休みだから、おしゃんな紙袋を買いに行こう。
The perfect album for a walk in the woods
Maybe we don't need to know Where we go Solo sigue tu corazón Let it drive you like a Porsche Like a Porsche Like a Porsche Vroom, vroom, vroom Vroom, vroom, vroom Ooh-ooh-ooh-ooh Ooh-ooh-ooh-ooh-ooh ooh-ooh-ooh
love it💛
配置
源氏名なんだったんですかと聞かれるたびに、「んー、何だったかな」と適当に誤魔化してきた。だいたいは本名から一文字取ったり、好きなアニメのキャラクターから借りたり、先輩の名前を少しいじったりして決めるものらしいが、僕の場合は大学のときに付き合っていた女の子の名前から取った。理由としては結構キモいので、あまり人に話したことはない。
その女の子との出会い方も少し変わっていた。大学でも、バイト先でも、昔の同級生というわけでもなく、すすきのの雑居ビルの一階の階段下だった。
バイト先の先輩たちと四人で飲みに行った帰りだ。終電はとうに過ぎていて、「センター地理得意だったんで歩いて帰れますわ」と言ったものの、歩く気力は残っていなかった。酔いつぶれて階段脇に座り込んでいると、彼女は近くのコンビニで水を買ってきて、それを僕に差し出した。最初の記憶はいつもそこから始まる。
ずいぶん長く一緒にいたはずなのに、思い出そうとすると変なものばかりが残っている。洗面台の端のヘアゴム。ベッド脇のタイプCケーブル。冷蔵庫のドアポケットに入った麦茶。
何を話していたのかは、あまり覚えていない。どこへ出かけたのかも曖昧だ。けれど、あの階段がどちら向きだったかは覚えている。店の入口がどこにあったかも覚えている。人を思い出そうとすると、先に場所が出てくる。
コンビニの酒類コーナーを横切ると、「碧」と書かれたウイスキーが目に入ることがある。その隣に「凜」が並んでいると、なぜか一列ずらしてしまう。店員でもないのに、少し間隔を空けて並べ直す。そんな変な癖がついたのは、一体いつからだろう。
独り言の保護色
ハンズフリーイヤホンが普及したおかげで、深夜に独り言を呟きながら歩く僕の危うさが薄れてきたような気がして嬉しい、というか安心しつつある。昨日と今日で六人も見た。そのうちイヤホンすら見えなくなって、僕と彼らのあいだの隔たりは完全になくなるのだろう。もっと流行れハンズフリー。
雲の向こうからJ-POP
新垣結衣をかわいいと思ったことは人生で一度もないのだが、最近よく曲を聴く。こういう平成中期から後期の、メインストリームから外れたJ-POPには特有の空気感があって、何かこの時間にずっと浸っていたくなるような、不思議な魔力のようなものがある気がする。雲子の「飛行船」もそうだ。具島直子の「今を生きる」とか、Advantage Lucyの「遠い日」も近いし僕は好きだが、これらは失われたものへの憧れに寄りすぎていて、少々感傷的すぎる。僕が感じる魔力はもっと自然に明るくてポップだし、中身がない。
いつだって I believe ひっそり咲く花のように強く凛として生きてゆける いつまでも I believe どこまでも I do believe 微笑んで明日また歩き出せる ここからまた
野良猫
運の良し悪しもあるだろうが、一つの職場で何年も働き続けることができる人を本当に尊敬する。学校生活でさえしんどかったのに、それ以上の時間を同じ場所で過ごすなんて耐えられない。しかも学校のように卒業なんていう明確な指標もなくて、いつまで続くか誰にもわからないまま色んなことを経験して、人として壊れて、人として立て直すことの繰り返し。これは僕には絶対できないことだ。
僕は、そこに無理やり自分を合わせなくてもいいのだと思った。もちろん、合わせようとしたうえで、それでもダメだったのなら、これはもう仕方のないことだ。風に流されるように生きて、綿毛のようにあっさり消えてなくなりたい。名前のない野良猫が、自らの死期を悟って街から姿を消すように、生きているうちはたくさんの誰かに知られたいけれど、死ぬ手前の時間は誰にも知られたくない。
足跡を辿る灰の向こうで よみがえる教室ゆれうごく時計 身体中から力が抜けたら 泡めくような無重力へと いつかのわたしを迎えにいきたい あなたの夢がかなうと
一人のまま二人
男友達と二人でフレンチに行くのがすきって言ったらキモいと笑われたが、キモいのかな。やっぱり可愛い女の子と行くべきか。でも変に誤解されるのも面倒なんだよな。
僕はただ、何にも考えずにのんびりしたい。一人でいる時間がそのまま二人になったような関係性が好きだ。友人にしろ恋人にしろ家族にしろ、廊下についたどうしたって取れない染みのように、いつしか理由が失われ、存在だけが残るような。
一本だけの話
これまでに何度も禁煙しようと決めてきた。ただ、その決意は長くても一時間くらいしかもたない。一本だけならいいだろうという考えが、決まって同じタイミングで入り込んでくるからだ。例外のつもりで許したはずの一本が、そのまま次の一本を呼ぶ。そういうことを何度も繰り返して、いまもヤニカスであり続けている。
先週末、友達から「電子煙草にしてみたらどう」と言われて、Ploom AURAを買った。吸ってみて最初に思ったのは、単純に不味い、ということだった。メンソールなら何とか吸えるが、それでも吸いたいというより「吸えてしまう」という感じに近い。それでも、不味いものを吸い続けていれば、そのうち吸わなくなるのではないか、という期待があった。それに、IQOSみたいに周りで使っている人が多いものだと、「一本ちょうだい」の一声で、そのまま本数が増えてしまいそうな気がした。そう考えると、この選択は悪くないはずだった。
実際、一箱空けるのに三日もかかっていた。紙巻きのときには考えられないペースで、これはうまくいっていると思った。
夜、デスクに座っているときだった。手持ち無沙汰というほどでもないが、何かが少しだけ足りない感じがする。画面を見ながら、指先だけが落ち着かない。電子煙草を吸ってみるが、喉の奥でひっかかるような感触だけが残って、すぐに消える。満たされた感じはしない。そのとき、一本だけならいいだろうと思う。毎回同じ言い方で、毎回同じ強さで、その考えは浮かんでくる。特別な理由があるわけではない。ただ、そう思うと、すでに少し楽になっている。
ライターの石を擦る音がして、火がつく。煙を吸い込むと、さっきまで曖昧だった部分が一気に輪郭を持つ。喉の奥に重さが落ちて、指先の所在がはっきりする。たったそれだけのことで、「これでいいか」という気持ちになる。
一本だけのはずだった。一週間後、デスクの上にはパーラメントライトの空き箱がいくつも並んでいる。散らばっているというより、いつのまにか増えていた、という感じに近い。空き箱は、散らばっているわけではない。ただ、置かれたままになっている。自分がそのあいだを、何度も往復しているだけだ。
非公式MVだが、ものすごく良い。「水の中の八月」という映画はこれで知って気になったのでwikiで調べたが、もうこのあらすじからしてわけわかんなくて面白そう。暇ができたら観たいが、当分先になりそうだ。
超新星が爆発したある年の夏、高校生の桑島真魚は、水族館で少女がイルカの水槽に飛び込む姿を目撃する。その少女は、同じ学校の後輩で高飛び込み選手の葉月泉だった。真魚と泉が親交を深めていくなか、世界では原因不明の奇病「石化病」が流行し、人々が次々と倒れていった。ユニバーシアードの全国大会に参加した泉は、決勝戦で飛び込みに失敗する。真魚はプールに沈んだ泉を助け出すが、彼女は意識不明の重体となる。泉は臨死体験を経て目覚めるが性格が一変し、さまざまな自然と交感できるようになったと述べる。夢遊病のように遺跡を彷徨う泉を真魚は心配する。やがて、泉は自分が生き返ったのは世界を救うためだと悟ると、真魚の静止も聞かずに夜の川に身を投げる。その結果、石化病は消え去った。真魚は考古学者となり、泉の起こした奇跡を調べることに一生を捧げるのだった。ーー出典:Wikipedia「水の中の八月」より引用
ちなみにsample sourceというか元ネタはWinkの「冬のフォトグラフ」。これはこれで良い。