獅子頭芋虫
文政年間のことだという。 同僚たちと、岩木山南麓の温泉場・湯の沢温泉に逗留していた千葉氏は、ある日、山の筍を採ることになった。 山に登り、笹藪の茂みに入って筍を探していると、ふいにガサガサと音がして竹の葉が揺れ渡った。 何だ? 猪か? と皆で身構えていると、やがて奇怪なものが姿を見せた。 長さは二尺ばかり、胴回りは一尺もあるだろうか。 芋虫のように太くて短い形をして、背は金色の鱗で覆われている。 頭は子どものおもちゃの獅子頭に似て、目と口は大きく、頭髪のようなものが生えている。 そんな恐ろし気なものが、竹藪の中からスルスルと這い出てきた。 皆でその化け物に遅いかかろうとすると、一人が堅く制止した。 振り上げた腕を上げたままでいたが、化け物は人を恐れる気色もなく、堂々と路を横切って反対側の竹藪の中にスルスルと潜り込んでいった。 「あれは龍ではない。蟒蛇でもない。書物でも見たことがない、実に奇っ怪な虫でござった」 千葉氏はこう結んで眉根を寄せた。
橘南谿の『西遊記』という紀行文に「榎の蟒蛇」という題名の記事がある。 そこには太くて短い形をした奇妙な蛇についての記述がある。 千葉氏が目撃したのも、榎の蟒蛇なのだろうか。
(平尾魯仙『谷の響』二の卷 「怪蟲」)











