確かなことなど消えて
ピアノは氷を叩く音 甘い夢を見ている 君が窓をノックする 近くの空が燃えている 僕は重たい体で君に沈み込んでいく そしてまた、硬い静脈に弾き返される 乾いた音がする 水が水でなくなった音がする これほどまでに強く燃えていた信仰を 今日になればもう忘れてしまえるなんて いったいどうなってってんだ 記憶の真実味が強くなるほど 今がまるで嘘のように揺らめいた ひたすら固まって 乾いた氷になった この音は僕の声ではない 何も知らないのと同じだ 最後には 信じようとしているのに
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確かなことなど消えて
ピアノは氷を叩く音 甘い夢を見ている 君が窓をノックする 近くの空が燃えている 僕は重たい体で君に沈み込んでいく そしてまた、硬い静脈に弾き返される 乾いた音がする 水が水でなくなった音がする これほどまでに強く燃えていた信仰を 今日になればもう忘れてしまえるなんて いったいどうなってってんだ 記憶の真実味が強くなるほど 今がまるで嘘のように揺らめいた ひたすら固まって 乾いた氷になった この音は僕の声ではない 何も知らないのと同じだ 最後には 信じようとしているのに
フレーズ
言葉は呪いで 君に贈ろうとしたその言葉に僕自身が傷つけられることになった あれほど言いたくて とても言えなくて どれほど苦しんで やっと出た言葉は 誰よりも僕自身の心臓を刺し貫いた 言葉にすると形になる 今ここにいる 頭を掴んで離さない人形 君の心 こんな形だっただろうか 身を焼く毒は くすぐるような甘い味がした 破滅の気配が纏わりついた もう帰れないね 「 」
抱擁
それまで僕はこの感情をどうすればいいのか知らなかった 今君を通して知って 愛を知って
失うことを知って 君を知って 明日には消えていく
強く腕の中に抱いた
そうすればするほど、この感情は治らない痛みになる
それを分かっていても 僕はその最後をいつまでも惜しんだ 最大の感情で強く、強く、まるで壊れることを望むように強く
痛みさえ望んでいる
尚早/焦燥
黄身がこぼれて 白身と半端に溶けて濁って グズグズに固まった卵だ 僕は人じゃなくて そんな死んだ卵だ 君もそうなんだきっと 僕は怯えを隠して 君を責める目をしている 君はただ怯えた目をしている でもどうにもならないだろう 明日君は何処かへ行くらしい
追放
できうる限りの犠牲を払ってやっとその天国に辿り着いて もしそこにも 救いがなかったらどうなるんだ、 と、君は言ったような気がした
そう言われたような気がしてしまった 割れそうな頭 片付いた部屋 奇妙な言葉の音楽 性欲が巻き上がり消えていく 小刻みな波で嵩を増す倦怠 時間はだんだんと遅くなり 鼓動は速まっていく 焦燥感の中 蜘蛛の糸が垂れるのを信じようとしている この地獄の先にあるものが 期待外れな現実だとしたら 一度は救われると思ったこの井戸の中で 知らない恐怖に苛まれている 右と左へ裂かれるように頭痛がする 目と耳 塞がないで もしそこが楽園ではないとしたら 僕はもうそこで木を切って家を建てるしかないんだ 夢のエピソードをひとつひとつ忘れていく それだけを 痛みを伴いながら 続ける そこも 地獄も天国も地続きと知って 磨耗しきった骨で立ち上がり 忘れて生活をするんだ
賛美歌
今日をまた、思い出せるようにしよう ボロボロに崩れ、泣きじゃくり、歌った 虚無を、欠乏を、足りないものしかない日々を歌う 気が触れそうな孤独の賛美歌を この日々を忘れられなくしよう 私は今 夕凪にいる 海を背に、潮の匂いを吸って、ぼけた光に沈む町を見ている 夜の喧騒が始まろうとしている 知らない雫が溢れ、震えていた 夕凪の海で、今日を歌う 終わっていく日々を、 過ぎようとしているものを、祝福する すぐそこへ、眩しい明日が迫っている これからずっと 豊かな幸福に傷つけられ 真っ二つに折れてしまわないよう 祈る 私が私であるこの傷に祈る 歌を歌う
日ノ出
変わってしまった君は、 もうここに居ない どこにも居ない 雑然と伸び散らかしていた庭草は、 今はもう刈り取られ整理されている 冷たいニスの木床 感じながら呆然と縁側に居る 昔と同じように、 そこに座ってみたけれど それだけのことも 何かが決定的に違うんだ 深い夜の底を壊して 君は曳かれるまま昇っていった 何かを失ってしまった
箱
命の鮮度 思い出せないことが増えていく 思い出の形 ささやかな匂いの記憶 記憶に絡みつく実際の感触 決して不快でない潮流の中で 苦しい時に愛したことだけ それだけがいつまでも焼きついていた この日々を きっと恨む日が来て そんな日のことさえも愛おしく思うような日もやがて来る その日に使い古した椅子の脇、小さな宝箱に手を添えていられればいい 鍵は開いたまま壊れて開かない
箱