盤面に刻まれた出生の証、そして1986年の記憶:Elvis Costello アナログ・CD巡礼
エルヴィス・コステロの棚。1st『My Aim Is True』から近年の作品まで、彼の40年以上の音楽の旅路が地層のように積み重なっている。
オリジナルや初期のアナログレコードをリアルタイムで持っていながら、この棚の中段を占める米Rhino(ライノ)の2枚組拡大リマスターシリーズ(日本盤はビクターの『Re-Mastered & Bonus Disc Collection』)をわざわざかき集めたのは、ひとえに「ボーナスディスク」が目当てだった。
宅録の生々しいアコースティック・デモや初期の狂気的なライブ音源など、コステロという天才の制作の裏側を覗き込める膨大な情報量を前に、すべてを手元に収めたいという衝動に駆られた。
そんなRhinoシリーズの全15タイトルの中でも、ひときわ音響クオリティが高く、アナログ当時盤の鳴り方が素晴らしい作品がある。1986年作の『King of America』だ。
アコースティックな生楽器が主体のアルバムで、手元にはMoFi盤やCDもあるが、当時盤として愛聴しているのがこの西ドイツ盤(ZL70946 / Printed in West Germany)である。
レコードの内周(ランアウト・グルーヴ)を確認すると、以下の文字が刻まれている。
マトリックス: Precision SF 020 B-4166 A-1 II / B-4166 B-1 III
この Precision という刻印が、この西ドイツ盤の音の良さを裏付けている。これはハリウッドの名門マスタリング・スタジオ「Precision Lacquer」でカッティングされた、本国アメリカの最上級マスター(ラッカー盤)がそのまま使われている証拠だ。
1986年当時、アメリカ盤はビニール質が低下してチリパチノイズが増えていた時期だったが、この盤はアメリカで彫られた最上の音溝を、純度の高い西ドイツの技術でプレスしている。末尾の「A-1」「B-1」という若い枝番も含め、マスターテープの鮮度を損なわない最初期のスタンパーで製造された個体だ。JBL 4312AとSANSUIのシステムで鳴らすと、ウッドベースの低いピチカートやアコースティックギターの乾いた鳴りが非常に生々しく響く。
オーディオ的なスペックとしても申し分ない盤だが、個人的にはこのアルバムを聴くと、1987年11月の日本公演、その最終地となった福岡サンパレスの客席で目撃した記憶が強く蘇る。
アトラクションズを離れたコステロが、ツアーの同行者としてステージに迎えたのが盟友ニック・ロウだった。二人がアコースティックギターを抱えて同じマイクで声を重ね、デュエットで披露したのが「(What's So Funny 'Bout) Peace, Love, and Understanding?」だ。
元々はニック・ロウが在籍したブラインズリー・シュウォーツの曲であり、コステロのカバーによって広く知られるようになった、二人を繋ぐ象徴的な楽曲。中学生の頃からコステロを聴いてきた身としては、あのフォーマットでこの曲を聴かされた瞬間はさすがに目頭が熱くなった。
後年、あの日の空気感をもう一度確認したくて、当時のライブを収めた海賊盤(ブートレグ)のCDも手に入れた。
緻密にコントロールされたMoFi盤、資料として完璧なRhinoマスターのCD、出来はラフだが現場の空気を残す海賊盤。それぞれに良さがあるが、やはりこの西ドイツ盤レコードに針を落とすときが、当時のアコースティックなアンサンブルの再現性という意味でも、自分の記憶のチューニングという意味でも、一番しっくりくる。スペックの数字だけでなく、当時のプレスの背景や自分の記憶と答え合わせができるから、レコードを掘り下げる作業はやめられない。











