“人生という舞台には、決して書かれることのない、2つの場面がある。それは、己自身の「誕生」と「死の瞬間」だ。 忘却の彼方に埋もれた「生誕の記憶」と、立ち会うことを許されぬ「臨終の場」。人が目撃しうるのは、常に、他人の生と死であるにすぎず、自己の存在は、不確かな生と死の途上にあって、たえず、不安にさらされ、そのドラマは、完結を無限に遅延されている。 それゆえにこそ、ひとは物語を追い求めるのだ。予感にみちた発端と、感動の終幕を。始まりと終わり。 始まりがあって、終わりがある。 「むかしむかしあるところに―」「―しあわせにくらしましたとさ」 人はただそれのみを求めて、物語につきあい続けるのだ。これが「物語」と呼ばれるものの正体なのだ。真に生きられるべき物語にあっては、けっしてありえぬ、発端と終幕こそ、人を魅了してやまぬ物語の本質なのだ。 そして悲しいかな、人はその人生を物語の渦中において生きはじめる。誰もが踏む家族という名の初舞台から。なんという皮肉だ。終幕を目指して演じられるべき物語が、いつからはじまり、いつ終わるとも知れぬ血縁の場を舞台として幕をあげねばならないとは。しかし、であるなら、あらゆる物語の最終的な至高のテーマとは実は物語を終わらせることでなくてはならない。”
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