驚くべきことに、眠気はあったにもかかわらずイスタンブールからリトアニアのヴィリニュスに向かう飛行機の中でも僕は眠ることができなかった。これからの旅程への緊張だろうか。東京からイスタンブールに向かう飛行機と違ってオンデマンドで映画を見ることのできない小型の飛行機に乗っていたので、機内で眠気を持て余しながら過ごすのは退屈だった。
リトアニアのヴィリニュス国際空港はこれまで訪れた空港の中で最も小規模だった。人もまばらで、これが首都の空港であるということが信じられないくらいである。イミグレーションは特に問い詰められることもなく通過し(何故か入国スタンプをパスポートの最終ページに押された)、無事ヨーロッパに僕は辿り着いた。一番初めのヨーロッパの洗礼は、ヴィリニュスの空港のトイレで起きた。小便器の位置が異様に高いのである。僕は身長も日本では高い方だし、足の長さにもそこそこ自信がある。それでも僕の股関節の高さギリギリに据え付けられたその小便器で用を足すのは少々難儀であった。僕は白人の生活圏に来たのだ。
国際空港から市街への移動には電車とバスの二つの手段がある。電車の到着が1時間後だったこともあり、僕はバスで市街に向かうことにした。起床してから24時間近くが経過し、疲労困憊していた僕は駅前に停車していた適当なバスにとりあえず乗車した(僕はものぐさなので旅先でよくこういうことをする。毎回なんとかなってしまうのが不思議である)。
バスでは運転手に運賃を払わなくてはいけない。僕は20ユーロ札を出したら、運転手はすぐそれを突き返した。何を言っているかわからないが、どうやらお釣りを出せないようだ。運転手は仏頂面でダメだ、と言うのみである。入国したばかりでまだ小銭は持ち合わせていない。取り乱した僕は満員にも関わらず座席に荷物を置いてしまい、老女にたしなめられて益々取り乱した。旅行に出ても、旅についてくるのはいつもと変わらない情けない自分自身である。
そこにリトアニア人の少しがらの悪い青年が片言の英語で話しかけてきた。留学生か、という。違う、と答えた。市街に出たいのだがどこで降りればいいか、ときいたら降りるところを教えるからとりあえず座っていろ、という。僕はそれに従い、席に座ることにした。銭を持ち合わせてなくて困ったよ、と言小銭がなくて困ったよ、と言うとまあそういうものさ、と彼は応じた。話しているうちに僕が降りるべき(と彼の言う)停留所に到着した。
運転手に降りるよ、と言うと不服そうに頷いた。とりあえず降りて良いようである。運賃に関しては海外は割とおおらかであることが多いと感じる。地下鉄駅に改札がないこともざらである。
僕は青年にお礼を言い、ヴィリニュス郊外の川の傍で降車した。










