退役した盲導犬のアンカを引き取って、5年になります。
この5年間、アンカは一度も吠えたことがありませんでした。
そして一度も、家の中で排泄を失敗したことがなかった。
家族全員が言っていました。
「今までで一番、しつけが完璧な犬だ」と。
しかも特別な訓練は何もしていない。
散歩に連れて行けば「元・盲導犬なんです」と少し誇らしい気持ちにもなれる。
正直に言えば――楽でした。
唯一の欠点があるとすれば、私にべったりなこと。
どこへ行くにもついてくる。
まるで私が目の見えない人間で、彼が誘導しているかのように。
だから家族で決めていました。
「これからも迎えるなら、退役した盲導犬にしよう」と。
その“完璧な規律”が、晩年のアンカを縛る鎖になるとは、思いもしませんでした。
歩けなくなり始めた頃。
アンカは必死に尿を我慢していました。
盲導犬として叩き込まれた規律。
「家の中で排泄するのは、悪い犬のすること」
ペットシーツを敷いても、絶対にしない。
どれだけ苦しくても、しない。
「自分は大丈夫だ」と証明するかのように。
犬は群れの動物です。
弱くなれば、置いていかれる。
だから彼は、必死に“まだできる自分”を演じていたのかもしれません。
でも問題がありました。
30キロを超える体重。
抱えられるのは私だけ。
私が仕事でいない昼間、家族は誰も階下まで連れて行けない。
圧迫排尿も試しましたが、うまくいかない。
私が抱えてエレベーターに乗った瞬間、
滝のように大量の尿が流れました。
アンカは全身を震わせていました。
生まれて初めての失禁。
きっと混乱していたはずです。
自分の体に何が起きたのか、理解できなかったでしょう。
私は彼を叱りませんでした。
むしろ何度も伝えました。
大丈夫だよ。
家の中でしてもいい。
もう我慢しなくていい。
わざとその尿をペットシーツに少し移し、
「ここでしていいんだ」と教えました。
アンカは、ついに盲導犬としての誇りを手放したのです。
でも、体はまだ震えている。
私は以前、強いストレスで何度も倒れたことがあります。
自分の体をコントロールできない恐怖。
その感覚を、私は知っています。
だからシーツを替え、体を拭き、体位を整え、
彼のそばに座りました。
しばらくすると、震えは止まり、
呼吸が穏やかになりました。
排泄を片づけながら、
彼は深く、長いため息をつきました。
アンカ。
もう我慢しなくていい。
吠えてもいい。
家の中でしてもいい。
完璧であることを求められ続けた命が、
最後まで「失敗」を恐れて震えている現実を、
私たちはどこまで想像できているでしょうか。
老いた一頭の元・盲導犬が、
身をもって問いかけてきた話です。
#天使達は人間の道具ではありません
https://www.google.comhttps://www.instagram.com/p/DYVgWEDzDrM/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=NTc4MTIwNjQ2YQ==