という訳で、30年以上ぶりくらいにファズ・ペダルを買ってしまった訳ですけども。今、取り掛かっているトラックに被せるエレキの音を、普通に鳴らすよりは、ファズの音を入れたらこれは面白いトラックになりそう、ということで自分の持っている唯一のファズ、Colorsound Tone Bender('90s オペアンプ)を鳴らしてみると、思っている感じとは別の音が鳴るので、何か良いのがあれば、と思って探し始めた訳です。
Sage Fuzz Knight germanium fuzz pedal / (Mosrite Fuzzrite)
今回、使いたいと思った音は、まあまあプログレ文脈の音と言いますか、要するにロバート・フリップですよ。チェロ的なニュアンスの鳴るファズ、と言いますか。本気であのニュアンスを狙うなら、古い Hiwatt なんかも揃えてみるのも良いかもしれませんが、自分の音楽は IDM なので。ヴィンテージの Hiwatt を揃えるまで厳密にあのチェロ風味なファズの音が必要かと言われると、そこまでではありませんので、何かそれっぽいファズはないかな〜、といったところでしょうか。
で、色々 YouTube で物色する訳なのですが、聞けば聞くほど、やはり今の音は「普通」だな〜、という感じでテンションが下がる方向なのでした。と言うのも、要するにクレーム対策の結果なのだと思いますが、音が全部一緒なのです。音はぶっ太いです、ガツンと鳴らせます、ノイズも乗りません、動作も安定してます、という。シリコントランジスタだろうがゲルマニウムトランジスタだろうが、全部一緒の音なのです。我々70年代に人格形成をした老人のセンスからしたら、なんだこれは・・、と思うしかないのですけども、それは乃木坂46の女の子たちが全部同じに見えているのと一緒ですよ、と言われると返す言葉もございません。
じゃ、本物のヴィンテージにするか・・ということで自分の目的からマフとかではなくて、Burns Buzzaround 的な物か、或いは Mosrite Fuzzrite なんかが良いかな?という感じで探すと、ヴィンテージ物はどれも30万円オーバー。流石に1曲だけにちょっと使う程度で30万は出せませんのでじゃレプリカか、と探すと、これまた中々難しいのでした。
例えば15年前に JMI が出していた Buzzaround のレプリカですが、その中身を見ても、おおっ、とはならないと言いますか。
Reverb : 2010 JMI Burns Buzzaround Fuzz Guitar Effects Pedal
これだけ整然とパーツを並べて、抵抗もコンデンサも足の長さが最短で熱対策もばっちりです的な実装を見てしまうと、音はほぼ安定でノイズも殆ど乗りません的なモダンな音になるしかなさそう、と思ってしまう訳です。で、YouTube で確かめると、ちゃんとその通りの音が鳴ってるという。どんなに回路が正しくパーツが良くても、実装が凡庸なら音も凡庸にしかならない、という論より証拠的なアレ。
そして JMI の喧嘩別れなのか何なのか的な British Pedal Company の Buzzaround の中身は、確かにオリジナルとほぼ一緒の回路だろう的な配線にはなっているものの、諸々微妙な感じ。
で、動画を見るとこの音なので、これはもうレプリカには期待するのはよそう・・ということで、個人工房的な物も探して回ることにしました。
国内にも個人工房的なペダル・メーカーで評判の良い所がいくつかあるのは知っていますが、その殆どがマス・ロック的なガッツや太さを出す方向の味付けで、国内の個人工房がどこを目指しているのかを考えれば、国内工房のは無し。そうして Reverb でたまたま見つけたのが、ハンガリーの個人工房のこれです。
Sage Buzzblaster germanium fuzz pedal / (Burns Buzzaround)
内部配線の写真を見ると、これはおそらくゲルマの音を分かっている人の実装で、注意書きにも電源にアダプターを使うならデイジーチェーンで使うな、それより電池で使え、と書いてありますので、ちゃんと PNP 型ゲルマニウムトランジスタの特性を踏まえた設計になっていることが伺えます。そして YouTube にあるサンプル音源を聞いたら、もうこれですよ、これ、と言うしかありませんでした。
おー、と思って Reverb ショップで評判を見ようと思ったら、なんと販売実績がほとんどないのです。これは判断難しいな〜、と思って仕方がないので Reverb 経由でメッセージを送ってみました。翌日、返事があって、そこには「私は1年ほど前まで Massive FX でゲルマ・ファズの組み立てをしていました」と書いてあり、なんだプロ経験ある人だ〜、という感じになりました。まあ、日曜ハンダでこの音は無理だと思います。これはそういう音です。間違いなくプロの音です。で、他にも色々やり取りをして、購入することにしました。結局この人は大丈夫、と思いました。
購入したのは Buzzaround ではなく Fuzzrite の方なのですが、届いて鳴らしてみたら、もう最高ではありませんか。現代的にブラッシュアップされた要素の中でまとめられた、見事なヴィンテージトーン。今時のガツンと鳴ります系の脳筋村社会ファズではまず聞くことのできない、なんとワイドで荒々しい野生的なゲルマ・ファズ。そして一週間くらい鳴らしていると、乾いた本物のヴィンテージトーンが鳴り始めるという。びっくりしますね。もっとも、このペダル屋さんの事業継続性はそんなにないかもしれない、ということも一方では思っています。音は素晴らしいのに成功しなかった職人の屍をまあまあ見てきた経験が、自分らの世代にはあります。正直、これは一期一会のペダルなのかもしれません。ヴィンテージペダルのレプリカは「音」ではなく、「物語」を売るしか買っては貰えないのです。