しもばしら
富士山と言えば多くの人が山頂部だけ雪を冠した姿を思い浮かべることだろう。これは写真や映像、あるいは絵画などでそういう富士山を多く目にしているからだが、図らずもそれはこの地域の降雪の少なさを示している。事実、富士山が裾の方まで真っ白に雪化粧する事は希だし、むしろ近年は温暖化の影響だろうか、真冬でもスッピンで居ることが多い。
冬型の気圧配置が強まり、北陸当たりで大雪になっている時でも、雪雲は高い山脈に阻まれ、南側の静岡県にはほとんどやってこない。特に沿岸部では滅多に雪が降らないから一般家庭に除雪道具なんか無いし、スノータイヤやチェーンを常備しているのは長距離運送業かスキーヤーぐらいのものである。
一方で降雪が少ないと言うことは冬の降水量が少ないと言うことを意味する。雪下ろしの苦労が無い反面、河川が涸れたり乾燥による火災が発生し易くなる。風の強い地域ではそのリスクはさらに高い。
静岡県でも駿河湾の奥まった所では冬でも風は割と穏やかなのだが、遠州地域や伊豆半島では状況は異なる。若狭湾に入った雲が雪を落とし軽くなり、伊勢湾を経由し強い西風となって抜けてくるからだ。だから敦賀あたりで大雪が降っている時、伊豆南部の我が地は暴風に晒されている。体感温度は風速1m当たり1℃下がると言われており、気温はそこそこあっても寒いのだ。まして大陸から強い寒気が入って来ると、ろくに断熱材も使っていないボロ家で薪ストーブをガンガン焚いても熱をすぐに持っていかれちゃって、部屋の中に居ても寒いんだよね。
そんな冬の気候の当地だが、この時は一時的に冬型気圧配置が緩み、太平洋側から暖かく湿った空気が入って久しぶりの雨が降った。その量は決して多くはなかったが乾燥が進んだ露地の冬野菜にとっては恵みの雨だ。雨が止んだら程なくして北から強い寒気が降りてきた。その結果、我が地では至る所に霜柱が立った。
他の地域ならともかく、この場所でこれほど広範囲に霜柱が見られるのはちょっと珍しい。というのも、水分が地中ではなく表面で凍り、さらに毛細管現象で柱状になるというのは、気温や地中の温度、水分、風などの条件が揃わないと成立しないのだ。ちなみに大気中の水分が凍って付着する「霜」は言葉こそ似ているが異なる現象。
同じ霜柱でも出来る場所によって表情が違う物だなあと感じながら写真に収める。踏み歩くとサクサクと小気味良い音を立てる。それは地表面だけで、地中まで凍っているわけでないので、靴底から伝わる冷たさはない。手でそおっと捲って断面を見ると細かい氷の柱がいくつか纏まって土や砂利を押し上げている様子がわかる。一見するとコンクリート片のようにも見えて妙だが、こちらは比べものにならないほど脆く儚いのであった。


















