Twitterでここ最近流れてきているオープンエデュケーションに関するブログ記事。
大学で得た「今、もっとも役立っていること」って何?
いろいろ読んでいて、ちょっと書きたくなったので書いてみた。
まずはちきりん氏のブログ。オープンエデュケーションは次のように紹介されている。
おそらく「授業料の対価として大学で得たものが役に立った!」と断言できる人の大半は、「職業系の教育訓練」を受けた人なんじゃないかな。医者や薬剤師や看護師、プログラミングなどを学べる工学部とか情報学部、管理栄養士とか建築家とか。だとしたら、つまりそれって、「大学の価値は、実学職業訓練にある」ってことだよね? でもいまや、それさえ授業料を払わなくても手に入るようになってきてます。プログラミングはもちろん、もっと高度な内容でさえ、無料で学べるサイトが増えてるんです。世界でも日本でも、MOOC (Massive Open Online Course)とかいって、大学自身が授業をどんどん外部に公開し始めてる。これなら高校を出てスグじゃなくても、働き始めてからでも勉強できるし、いわゆる授業の中身については、授業料を払わなくても手に入るようになる。大枚はたいて大学に行く価値は何なのか?みんなもーいっかい、よーく考えたほうがいい。
技術発展のスピードが加速し、学校で教えられた知識では到底たちいかなくなり、教えられたこと以上に常に自らが学び続けなければいけない時代になっている。そして、ITの発展により、いつでも、どこでも、誰からでも、どんな内容でも学べる環境が整ってきた。柳川教授が指摘するように、「MOOC」の発展もしかり、初等・中等教育でもカーン・アカデミーがオンラインで分かりやすい授業を公開して話題となり、ビル・ゲイツが大規模支援に乗り出し注目を集めている。日本でも受験対策動画が無料または安値で提供され始め人気を博している。私が記事中で指摘したように、YouTubeやインターネット、アプリ等を活用して英語や他の語学を楽しく効果的に学ぶことができる。まさに「独学に適した環境がこれほど整った時代はない」わけで、「独学天国」だ。
こういった独学に関する記事への批判としてよくあるのが「いやいや独学なんてみんながみんなができるわけない」というもの。
こうした批判は、たいていの場合個人の経験に基づいている。自身がMOOC受講して挫折したとか、ビデオ見るのはつまらないからとか。
修了率っていう客観的数字がある、と言われるかもしれないが、個人的にはMOOCの修了率に関して数字を挙げて論じるのはあまり意味がない気がしている。もちろん、一般的に言ってMOOCの修了率は低い。言い換えれば、独学でMOOCを修了できる人は「少ないらしい」。「少ないらしい」としたのは、修了率が何を意味するのかの議論は現在進行中で、いろんな意見があるから(MOOC受講動機などを考慮した修了率を見るべきだとか)。
どうやったら独学ができるかという話は教育学者やコンピュータサイエンティスト、心理学者、神経科学者など各分野の研究者が取り組んでいる最中なので、ここでは書かないことにする。
独学とか修了率うんぬんといった話よりもここで指摘すべきだと思うのは、そういった話の前に気づくべき、MOOCをはじめとしたオープンエデュケーションの語られ方の問題点について。
何が言いたいかというと、上に紹介した引用で述べられているのは、全てMOOCやネット上の教材のオープンアクセスの側面で、「誰でも自由にアクセスできる状態」のことを指しているということ。これと独学ができることとは別問題。
テクノロジーの歴史を見るとどれも同じだと思いますが、これはテクノロジーが可能にしたものをもって社会の変化を述べる、いわゆる技術決定論的な考え方の例。
「インターネット上を探せば教材は簡単に見つけられるので、誰でも自由にいつでもどこでも学べる社会がやってくる」といった具合に。
でも実際は、アクセスできるからといって学びが促進されるとは限らない。「アクセス」から「学び」にまでもっていくのはとても難しく、今世界の研究者たちが必死に追求していることでもあります。
こういったMOOCに関する技術決定論的な記事は、米国でも2012年を中心に多く見受けられたものの、2013年には「実際は違った」「MOOC続けられない」とアンチMOOCの気運が高まり、その後はMOOCを反転授業の教材で使ったり、企業研修で使ったり、ビジネスモデルを探求したりと、MOOCの行く末はどこなのかの探求に変わってきている印象。それに伴って、「オープンアクセス」と「オープンエデュケーション」の意味が異なることや、それぞれの定義についてもアツく議論されているところ(Audrey Watters, Martin Weller)。
これに対して日本のメディアは2013年くらいから技術決定論的にMOOCを紹介するものが多く、2年近く経つ最近になってもあまり変わってない印象(JMOOCの立ち上げなどの影響もあるかも)。
最後に、上で紹介した本山さんの引用の一部をもう一度引用。
柳川教授が指摘するように、「MOOC」の発展もしかり、初等・中等教育でもカーン・アカデミーがオンラインで分かりやすい授業を公開して話題となり、ビル・ゲイツが大規模支援に乗り出し注目を集めている。
MOOCの発展は果たして「発展」と言えるのだろうか。日本では今月、JMOOCの会員数が10万人を突破し、受講者からの評判も良いよう。しかし米国やヨーロッパの状況を見ていれば、決して直線的な発展ではない気がする。曲がりくねったり後戻りしたりあらぬ方向に向いたり、レールに乗ったかと思えば急ブレーキがかかったり。ビルゲイツがカーンアカデミーに最初に出資したのは4年以上も前の話。一年でがらりと様相を変えてしまう分野である。MOOCの良し悪しを問うのではなく、国内外の状況をきちんと把握した上で、技術決定論だけでなく色んな側面からこの動きを捉えていかなければならない。