学習する組織
人は自尊心、内発的なモチベーション、尊厳、学びたいという好奇心、学ぶことの喜びを生まれながらにして備えているのにもかかわらずそれらを従来のマネジメントの一般体系は破壊してきた。(従来のマネジメントの一般体系の詳細は添付した下記の図を参照してほしい)
このような伝統的なマネジメントの機能不全によって多くの組織が絶えず目先の緊急事態への対応に追われイノベーションに費やす時間とエネルギーはないに等しい状況にある。この狂乱とカオスは理念中心のマネジメント文化の醸成を阻害し、機に乗じて個人的な権利や富を鷲づかみにする傾向をもたらす。このような他責思考や縦割り意識、当事者意識の欠如などの学習障害は程度の差こそあれほとんどの組織に見受けられる。だからこそ今ほどに「学習する組織」が強く求められる時代はないだろう。「学習する組織」とは目的を達成する能力を効果的に伸ばし続ける組織であり、その目的は皆が望む未来の創造である。「学習する組織」には唯一完全の姿があるわけではない。むしろ変化の激しい環境下で様々な衝撃に耐え復元するしなやかさを持つとともに環境・変化に適応し、学習し、自らをデザインして進化し続ける組織のことである。そして「学習する組織」によって仕事を「手段」とみる見方―仕事は目的を達成する手段であるという見方―から仕事をより「神聖なもの」とする見方―人々は仕事に内在する本質的な恩恵を追い求める見方―へと徐々に変化するだろう。ではどのように「学習する組織」を導入すればいいのだろうか?著者は「チームの中核的な学習能力の三本柱」を提案している。その内訳は「内省的な対話の展開」、「志の育成」、「複雑性の理解」である。そしてこの三本柱をバランスよく伸ばす必要があるということだ。なぜならばただ対話するだけでは皆が望む結果を出せる組織は創造できないからである。またどんな未来を創造したいかについての具体的なビジョンを共有し、一人一人がそのビジョンを自分事として創造的に取り組まなければ前進できないのである。そして仮に共有ビジョンを描けたとしても物理的な制約や利害関係のもつれなど複雑な現実の構造を適切に見極めることができなければ容易に「システムの罠」に陥り現実を効果的に変えることは出来ないだろう。さらに上記の三本柱は5つのディシプリン(理論と手法という意味)に区分される。システム思考。メンタルモデル。自己マスタリー。共有ビジョン。チーム学習である。
まずはシステム思考から論じたい。歴史上初めて人類は誰もとても吸収できないほどの情報を生み出し、誰もとても対応できないほどの相互依存性を生じさせ、誰もついていけないほどの速さで加速する能力を持っている。このような現代社会の中で多くの人が感じる無力感に対する解毒剤がシステム思考である。システム思考とは複雑な状況の根底にある「構造」を見るためのそして「てこの原理」が働きやすい場所を見分けるためのディシプリンである。つまり、システム思考によって私たちは健全性を育む方法―すなわち人々を「無力な人間」になることから現実を形作る「積極的な参加者」となることへ、そして現実に対処することから未来を創り出すことへの認識の変容方法―を学ぶのである。このシステム思考には三つの文法規則が存在するが、その前に三つの文法の根底にある考えを二つ述べたい。このシステム思考を通してみる時の重要なスキルは後述するループ図が語る物語―その構造がどのようにしてある特定の挙動パターンを生み出すのか、そしてそのパターンがどのように影響を受ける可能性があるかーを理解することである。もう一つは構造(システム)が挙動(現象)を引き起こし、私の意図と行動によって構造が作用し始めるという考えである。つまり複雑な状況で私たちが無力であることの根源には個々の行為だけを見て、その行為の根底にある構造を見逃しているという考えである。さてシステム思考の三つの文法について説明していきたい。まずは自己強化型のフィードバックループである。このシステムの中にいる場合、いかに小さな変化が良くも悪くも大きな結果になり得るかが全く見えないかもしれない。しかしこのシステムの利用の仕方次第で正のスパイラルにも負のスパイラルにもなり得るのである。次にバランス型フィードバックループについて説明したい。もしあなたがバランス型のシステムの中にいるとしたら、それは安定を求めるシステムの中にいるということである。そのシステムの目指すものが自分にとって良いものならばよい状態が維持されやすくなるため幸せな結果になるだろう。そうでない場合物事を変えようとするあなたの努力はどれもうまく進まないだろう。このバランス型ループの特徴は自分では気づきにくい何らかの目標または目的を維持しようとする自己補正能力があるということだ。この特徴によって、すべての関係者が変化を望んでいる時でさえ現状を維持したり、「何も起こっていない」ように見えるため自己強化型ループより気づきにくいといった問題が生じるのである。このようなバランス型フィードバックループに対する解決策は以下の通りである。「変化に対する抵抗」があるときはいつでも一つ以上の隠れたバランス型プロセスが存在する。この変化への抵抗は気まぐれでも不可解でもないのである。それは必ずと言ってもいいほど従来の規範ややり方への脅威から生じるのである。多くの場合こういった規範は確立された関係の網目の中に組み込まれている傾向がある。権力や支配の分布は固定化されているため規範も固定化されているのである。術策にとんだリーダーならば変化に対する抵抗に打ち克とうとさらに押すのではなく抵抗の源を見つけようとする。暗黙の規範やその規範が組み込まれている関係に焦点を当てるのである。こうしてバランス型ループの「てこの原理」が働く源を見つけて解決に導くのである。最後のシステム思考に関する文法は遅れー行動と結果の間にあるずれーである。行動に対してのアウトプットとしての結果がでるのにタイムラグがあるために目標が行き過ぎて失敗することもあるし、逆に遅れを認識してうまく連動すればプラスの効果が得られるということがこのルールの特徴である。つまりこのルールから以下のような教訓が得られるだろう。闇雲で積極的な行動は往々して意図されていることのちょうど反対の結果を生み出すのである。そのような行動は目標により早くあなたを近づけるのではなく行き過ぎによる状況の不安定性を生じさせるのである。
次にメンタルモデルについて。新しい見識を実行に移すことができないのはその見識が世の中とはこういうものだという心に染みついたイメージ、つまり慣れ親しんだ考えや行動に私たちを縛り付けるイメージと対立するからだ。だからこそメンタルモデルを管理することー世界はこういうものだという頭の中のイメージを浮かび上がらせ検証し改善することーが学習する組織にとって肝要なのである。そして出来事に支配されたメンタルモデルから長期的な変化のパターンとそのパターンを生み出している根本的な構造を認識できるメンタルモデルに移行することが求められている。
3つ目に自己マスタリー。自己マスタリーのディシプリンはまず私たちにとって本当に大切なことを明確にし、自分の最高の志に仕える人生を生きることである。自己マスタリーが学習する組織のディシプリンの一つである理由は以下の通りである。志に仕えることで持てる力を最大限に発揮することは何よりの「てこの原理」が働く要因になり得るからである。しかし現実には人生に何を求めるかを尋ねると大抵の人は往々にしてまず何から逃れたいか?(ex;「早く有給休暇を取りたい。」)を語る。なぜこのようなことが生じるのだろうか。理由は二つある。一つは私たちは往々にして道の途中で起こる問題に対処するのに多大な時間を費やすあまりなぜその道にいるのかを忘れてしまうからだ。その結果自分にとって何が本当に重要かがぼんやりとしか見えなくなるのである。もう一つには現状をありのままに見ることができなくなってしまうことに起因する。ではどうすれば高度な自己マスタリーに達することができるだろうか。一つは自分のビジョンに忠実になることであり、もう一つは真実に忠実になることである。
4つ目に共有ビジョン。共有ビジョンとは「自分たちは何を創造したいのか」という問いに対する答えである。共有ビジョンは組織に浸透する共通性の意識を生みだし、多様な活動に一貫性を与える。共有ビジョンというディシプリンが十分に浸透した組織では相手と同じようなイメージを抱き、単にそれが個人的にそのビジョンを誓約するだけではなく、そのビジョンを持つお互いに対して誓約することである。また、共有ビジョンがあることによって人々が自分たちにとって大いに意味があることを成し遂げたいという生成的な学習の焦点が絞られ、そして学習のエネルギーが生まれるのである。したがって共有ビジョンは学習する組織のディシプリンになっているのである。この学習する組織では個人のビジョン(自己マスタリー)を築くようにメンバーを絶えず励ますのである。そして学習する組織では個人として進むべき方向をはっきり意識しているので一丸となって「本当に望むもの」を目指す強い相互作用を生み出すのである。これによってふわふわ中を漂う形式的なビジョンではなく、自分たちのビジョンに照らして「今どうなっているのか」を徹底的に吟味するようになるのである。
最後にチーム学習。チーム学習とはメンバーが心から望む結果を出せるようにチームの能力をそろえ伸ばしていくプロセスである。このチーム学習というディシプリンは「ダイアログ」-すなわち複雑で微妙な問題に対して個人では得ることができない洞察をグループとして発見するために自由かつ創造的に相互探求する能力―をすることから始まる。そしてダイアログによる新しい見方の形成後、生産的なディスカッションによって一つの結論や行動指針にまとめていくのである。
以上が学習する組織におけるディシプリンの概要である。しかし著者は学習する組織における手法の一覧を提示したのみであり、具体的で普遍性のある方法論を提示することができていないと感じた。
Peter Senge: "Systems Thinking for a Better World" - Aalto Systems Forum 2014












