NuBass & MPH (feat Purple Velvet Curtains) - The Night
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NuBass & MPH (feat Purple Velvet Curtains) - The Night
<祝 国産初のシンセ展示半世紀 : KORG volca nubass review>
世界のシンセの起源をさぐった前回の記事「Make Noise 0-Coast review」。 その次となる本稿では、日本のシンセの源流をさぐりそのあけぼのの時代からひもといてゆく。
日本のシンセの夜明けは、とある呑み屋での故事から始まる。 呑み屋。なんだかそのこと自体がすでに失われつつある旧世界の話にも思える。
今まさに急速に旧世界になりつつあるのかもしれない、私たちの世界。
ご時世がら呑み屋にも行けなくなってしまった今。どう人類社会が変貌するにせよ、そのサバイバルを祈願し、それでもなお歌舞音曲が許されている今を祝し、来たる新世界シンセ界を夢見て、ここに全人類へ拙作をささげん!
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●メーカー名
KORG
1963 年、カトちゃんこと加藤孟(かとう・つとむ)と長内端(おさない・ただし)の2人が興した電子楽器メーカー。従業員数 300 人程度。ちなみにローランドは 800 人、ヤマハは1万人もいる。
1.コルグ創世神話
カトちゃんが講演会にてコルグ創世神話を語っていたことがある。 渋い声、惹き込まれる話術、えもいわれんカリスマ性、魅力的でスタイリッシュな爺。
隣に置いてあるのは、コルグ2番めに最古の機種「ドンカマチック」二代目。
もともとカトちゃんは新宿歌舞伎町でバーのマスターをしていた。渋くて話術がうまいはずである。そのお抱えバンドでアコーディオンを弾いていたのが、長内。 東京帝国大学工学部出身のエンジニアであった長内は、偏屈ポーカーフェイス野郎。しかも、おもしろくないくらいに正確無比に演奏する。彼の演奏は完全無欠とすら言われ、唯一欠点を挙げるとするならば完璧すぎることだとすら評されたという。
あまりにも正確無比に演奏するため、バンドのドラマーが叩くリズムが不満で不満で仕方がない。ついに思いあまって自分で工具をふるってお手製の真空管式の電子リズムボックスをでっちあげてしまった。 これが初代ドンカマチック(Donca Matic)。機種名はベードラの「ドン」、クラベスの「カッ」、そしてオートマチックだから。
このドンカマチック・シリーズはお手軽かつ正確にリズムを刻んでくれる装置として生まれ、のちのレコスタで仮リズムトラックのことを「ドンカマ」と呼ぶようになるくらい普及したのだが、長内にしてみれば 「おめぇーがもっとマシなドラム叩いてりゃー、こんなもん作んなかったんだよ」 と思っていたらしい。
そうして出来上がった初代ドンカマは、おもっきし機械じかけ。
だがその一方、初代ドンカマの出来栄えに満足した長内。緻密なエンジニアである彼にはひとつだけ正反対な欠点があり、それはギャンブルが大好きなことであった。彼はカトちゃんに 「これで大儲けしてヴェガスで遊ぼう!」 と持ちかける。その言葉にころっといったカトちゃん、4人の従業員を雇い入れて会社をたちあげてしまった。加藤・長内でK・O、そして京王沿線にあったので京王、京王技研、のちのコルグの誕生である。創業 1963 年。 ちなみにカトちゃんは、ついぞヴェガスへ行ったことがなかったという。
会社を設立したはいいが、みんなカトちゃんの身内でド素人ばかり。器具はテスター1つしかなく、工作器具を借りに知人の知人のところまで行ったら、それがのちに Roland VP-330 ボコーダーの生みの親となる則安治男(のりやす・はるお)、そしてその紹介で当時すでにエーストーン(Ace Tone)を立ち上げていた梯郁太郎(かけはし・いくたろう)と出会った。
エーストーンとは、エース電子工業株式会社のブランド。 エース電子工業とは日本の電子楽器メーカー。ハモンドとも提携する一方、オルガンやギーアンなどを自社で開発製造しエーストーンのブランドをつけて販売していた。京王技研に先立つこと3年前 1960 年設立。それはボーデが史上初の電圧制御式シンセをつくったのと同じころ。そして創業者である梯は、ユーモラスな大阪人だが酒がいっさい飲めないエンジニア。のちに梯は優良企業エース電子工業を銀行に乗っ取られそうになり、理想を求めてスピンナウト、ローランドを立ち上げることになる。 だがまだそんなことになるとはつゆ知らず、呑み屋のマスターと酒が呑めないエンジニア、水と油、二人の会話が合うはずもなくカトちゃんイクぴーとで果てしなく議論しあっていたという。
電子楽器の黎明期では、誰がどことか関係なくみんなして知り合いで、狭いにもほどがある超ニッチなコミュニティで喧々諤々に議論しあう間柄であったのだ。
そのコルグのドンカマ。 音楽を愛する緻密なエンジニアだけに、不確定なギャンブルを愛する長内にだまされて(カトちゃん談)つくった初代ドンカマは不良の山。いきなり経営危機。
二代目は家具屋に外装をたのんで、ようやく売り物になった。浜松市楽器博物館に展示されているのは、この二代目。
上面の操作パネルを見ると、演歌とかドドンパ(Do と書いてあるプッシュスイッチ)とかある。 10 鍵だけある鍵盤には、ボンゴ、コンガ、マラカス、ウッドブロック、クラベス、シンバル、スネアがアサインされていて、いわば史上初のドラムマップなのか!? パーカッションが多いのもモンドでラテンなラウンジ系か?
スピーカー・グリルを外して基板をのぞいてみると:
同心円状に並んだ接点パターンの上を、オルゴールよろしくアームが時計の針のようにぐるんぐるん回ってスキャンしてトリガーする。
かなりひんぱんに接点が錆びてクレームになったのだが、 「しばらく回してりゃ、直ります」 と返事していたという。
それでもドンカマが売れず、設立して3年で京王技研はKO技研、ノックアウト技研寸前。 するとある人物があらわれたのだが、そのときのことをカトちゃん述懐して曰く
「その人がねぇ『百万円で買い取ってやる』って言うんですよ。 わたし今日ここでその人の名前言いたいんですけど、その会社の人がここに聞きにきてるもんだから言えないんですよーぉ。」
げらげら。
「でも、あそこで五百万とか壱千万とかって言われてたら、いやぁ、きっと売ってたでしょうねーぇ。」
つくづくえもいわれんカリスマ性たっぷり魅惑のスタイリッシュ爺だが、その下で働くとなると愛憎半ばかもしれない 笑
その後もコルグの経営は傾きつづけ、やがて MINI POPS 5 というヤマハ・エレクトーンの上に搭載できるようにしてつくった機種が、当のヤマハ(当時は日本楽器)の輸出担当に認められて大量受注されるまでは、マジつぶれかかっていたらしい。
だがここでヤマハの「輸出担当に認められた」というところが、じつはひとつの隠れたポイント。 やはり狭い日本市場だけを見ていたのでは限界があり、広大な海外市場、特に当時流行の最先端だった欧米市場で売れないことには日本でも売れないのだ。その後にたどった道すじからして、カトちゃんもイクぴーもおのずと目が海外へ向いたであろうことは容易に想像できる。
ともあれ、ここまでは 1965 年までの話なんだと!
2.コルグ・シンセ創世紀
このころは、まだアメリカでシンセが販売されるかどうかというころであり、あったとしてもどでかいモジュラーシンセしかなく、巨大すぎて高価すぎてアヴァンギャルドすぎて技術的機械装置すぎて前衛的な実験や研究目的で使われるようなものであり、およそ普通の音楽業界に入っていけるものではなかった。 なので当時の電子楽器の最先端といえばオルガン。ハモンドやファルフィッサなどの類が百花繚乱。エース電子工業も自前のエーストーン・ブランドでオルガンなどをどんどんつくっていた。
もともと梯は電子工作を得意とし、電気機器の修理をなりわいとしていたのだが、大阪の小さな教会に設置されていたチャーチオルガンを修理したときその音に魅せられ、さらに電波を検波して音声へ変換するラジオと違い音源そのものが電子回路のなかに内蔵されていることに興味を持った。かくして梯はエース電子工業を起業したのである。
なんとも時代なエーストーンのカタログ。
コルグがドンカマをえっちらおっちら世に出した前年 '62 年には、すでにエース電子工業が、海外の Clavioline を元に「Canary(キャナリー)」という電子楽器を発表。
これは3オクターヴ鍵盤のモノフォニック・キーボードで、鍵盤下にならんだタブレットスイッチ群による5つの音色切替やソプラノ / アルト / テナー / バスといった音域切替、ヴィブラートの on / off 機能、音量の抑揚レバーを装備した、言わばシンセ的なシンセの一歩手前とも言うべきキーボードであった。
その仕組みは真空管によってアナログのノンリニアなウェーヴシェイパー回路をつくり、オシレーターからの音をそれに通すことで倍音を生成する方式。
キャナリーとは英語でカナリア鳥のことなので、かわいいシンセリードっぽい音がしたのかなぁと想像するばかり。
アンプに見える「α」みたいなのがエーストーンのロゴ。 スタンドが三脚というのも斬新ですね。
このキャナリーはおそらくアクセントとして使うソロ鍵盤として創造されたものと思われ、’62 年発売の Canary S-2(44,400 円)と ’64 年発売の Canary S-3(39,800 円)の2機種がある。S-2 は真空管なのだが、S-3 はひょっとしたらトランジスタ方式かもしれない。 さらに S-3 には、鍵盤の左横、のちのシンセであればピッチベンダーがついているところに手で叩く2個の白い丸いアナログ電子パーカッション・ボタンが追加されている。むちゃくちゃなことを言えば Fantom ワークステーションシンセの右側についている4×4パッドの、大大大ご先祖さま。
このキャナリーの音量抑揚レバーには操作性の向上のため先っぽに1円玉くらいの大きさの丸い黒い玉がついているのだが、この玉は家具メーカーから仕入れた、つまり家具の部品を流用したもの。 電子楽器あけぼのの時代には、こうした混沌とした珍エピソードがごろごろころがっているものらしい。
そんな中、コルグでは他社の真似をしてもおもしろくないのでちょっと個性的なオルガンを開発。つくったのは、Uni-Vibe なる変態エフェクトを開発した知恵者エンジニア、三枝文夫(みえだ・ふみお)。1967 年、彼は自分が構想している新コンセプトのオルガンをカトちゃんに売り込み、18 ヶ月後にプロトタイプを持って再びやってきた。それは母音を発音できたりもする、けったいな鍵盤機種。カトちゃんはこの試作機を数名のオルガニストなどに見せ、そこで得てきたアドバイスをもとに三枝がさらなる改良を行なっていった。
あるとき、この試作品を見たジャズピアニストの佐藤允彦(さとう・まさひこ)は、これはシンセサイザーというものだと指摘。海外通の佐藤氏にシンセだと指摘されてはじめてコルグは、これはシンセだったのかと認識。国産シンセ第1号。やがて 1970 年、その三枝がつくった試作シンセは国内のオーディオショーにて展示された。 この年、海外では minimoog が発売された。それまでモジュラーシンセしかなかった時代から、よりコンパクトで使いやすくなによりも楽器然としたコンボタイプの時代が来ようとしていた。だがネット時代なんて三十年くらい早い、まだまだ海外情勢なんて伝聞のまた伝聞でしかなかった当時。そもそもシンセとはなにかどんなものか、何の情報もないまま知らずし知らずのうちにコルグはシンセをつくってしまっていたのである。
この国産初のシンセ、コルグ「試作機1号」にはひとつの技術的なイノベーションがあった。フィルターである。 しかもモーグがトランジスターを梯子状にならべたトランジスター・ラダーフィルターを発明したのに対し、コルグはまったく独自にダイオードをならべたダイオード・ブリッジ型フィルターを発明していた。このころすでにオシレーターやアンプは存在したが、フィルターを発明したのはロバート・モーグ博士その人とコルグだけだったのである。 フィルターこそは減算方式シンセをシンセたらしめている中核部分であり、群を抜いてモーグ最大の発明であった。他の誰もフィルターを思いつかず、モーグ本人にしてもパテントを取った唯一の回路が VCF だったのであり、のちの後発メーカーはフィルター回路だけは見破れず苦心したという。 そんな VCF を、コルグはまったくの独力で独自の別解をみちびきだして発明していたのであった。しかもシンセのことを知らなかったコルグは VCF もフィルターも知るよしもなく、勝手にトラベラー(Traveler)と名付けていた。カットオフが動くところを周波数軸での旅人になぞらえたらしい。
この試作機には全鍵ポリのオルガンも内蔵されており、そこを出発点にさらに開発しているうちにフィート合成したあとにトラベラー型フィルターをかますという、みょうなコンボオルガンができあがった。機種名「コルグ(Korgue)」通称デカコルグ、またはコルグ・デカオルガン。これは実際に 1972 年に発売され、50 台くらいが生産され難波弘之などが購入した。氏のデビューアルバム「センス・オブ・ワンダー」に収録されている曲「虎よ! 虎よ!」にて、その音が聴ける。
このとき KO にオルガン(organ)をくっつけて「KORGAN」としたものの、日本語で発音するとやばいので、おふらんせーふうに洒落て「Korgue」としてみたら、今度は「読めん」というのでエンドをトランケートして「KORG」となったのが、のちのコルグ・ブランドの始まり。
かくして、コルグはまったくの独学で試行錯誤を重ねながら独自にシンセを実現し、それを量産型にして販売せんとしていた。
首都圏でコルグがよく分かっていないままにシンセをつくろうと四苦八苦していたのと同じころ、日本第2の都市、大阪市は南のはしっこ、堺市との境界にある住之江区にて。
梯が創業し運営するエース電子工業は、好調にエーストーン・ブランドのオルガンやリズムボックス、ギーアンなどと製造販売し続けていた。だがその大株主だった阪田商会が経営危機におちいり、某・都銀が介入。銀行屋は優良メーカーであったエース電子工業に目をつけ、その経営に口出してきた。自社を銀行に乗っ取られそうになった梯は悩み抜いたあげく、自身を含む七人の侍でもってスピンナウト。数百メートルしか離れてない近所に六畳二間のプレハブを建て、新会社ローランドを創立。時に 1972 年のこと。梯、42 歳。
まったくの無名の楽器メーカーゆえ新しいことに挑戦しないことには話にならないというので、ローランドは国産初の量産型シンセを開発しはじめた。すでに梯はモーグともコンタクトしたことがあり一緒にシンセをつくるはずが、モーグも経営がおかしくなって会社が傾いてしまい話が立ち消えになりローランド単独で開発することになった。それでもやはりフィルター回路だけは分からず苦労したというが、それでもこの経緯があったためか、ローランドは最初からかなりまっとうなシンセを構想していた。
コルグが何年もかかってちんたら試行錯誤しているうちに、ローランドは急ピッチでシンセを開発。だが資金が無い。海のものとも山のものともつかぬぽっと出のベンチャー企業にすぎなかったローランドに融資する銀行など、あるはずがない。 するとそこにある若い銀行マンが、大阪に生まれたスーパーリージョナルバンクの若手が、エーストーン時代のころからすでに梯の熱意にほだされ、テクノロジーも音楽も楽器のこともよく分からないままに、則安がエーストーンのオルガンを華麗に弾いてもわからないままに、それなら則安くん、彼にも分かる曲を弾いてあげなさい、と梯がいうので則安は猫ふんじゃったを弾き、やがて梯がスピンナウトしてローランドを立ち上げると、その若き銀行マンは「この新会社ローランドこそが投資すべき企業なのです」と滔々と上司を説得したおし、あまりのしつこさに音を上げた上司が 「○○くん! ボカぁ、もうこの歳であぶない橋を渡りたくないのだよ!」 と怒りながらぽんとはんこを押した。
かくして1973 年、コルグから miniKORG 700、ローランドから SH-1000、二つのモノシンセが世に躍り出る。 厳密にどちらが先だったかは、分かっていない。 発表はコルグが先? 発売はローランドが先? などと諸説ある。分かっているのは、ともに1973年にでてきた国産初のシンセだったということ。
SH-1000 の取扱説明書:
「1.限りない音の創造への第一歩」
「お話に入る前に、先ずこれだけの用語はおぼえてください。 そうです。未知なるもの、新しいものへの開眼には常に多少の努力は必要なのです。」
SH-1000 の「SH」は「シ」ンセサイザーの「シ」に由来するという、日本語ならではの都市伝説がある。
ミニコルグの名称は、デカコルグの逆を行くのだろうと思われる。 ミニコルグの次に出てきたコルグ 800DV は、海外では MaxiKORG(マキシコルグ)と呼ばれることもあった。ミニコルグそのものは、1年後にサブオシとリングモジュレーターとを追加し miniKORG 700Sとしてマイナーチェンジされる。700Sはヴァンゲリスや喜多郎、難波弘之など、多くのアーティストに愛され、東洋のわびさびのように枯れた良い音がする名機。カトちゃんにとっても感慨深い機種だったらしく、のちのちになって大きな伏線としてコルグを変革させることになるのだが、このときはまだそんな未来を誰も知るよしもない。
↑なんと高校時代の彼女から、タダで上げると言われて譲ってもらった私のミニコルグ 700S、ええ音したんやこれが
国産初のシンセが発売された 1973 年。 それは、アメリカで minimoog が発売されて三年のちのことであった。インターネットが登場し普及するのは、さらにじつに四半世紀くらいあとのこと。ましてや海外のちんけなシンセのことなど、分かるはずもない。 しかもこの年、それまで 18 年間もつづいた高度成長期が中東戦争にはじまる石油ショックでまさかの終わりを告げ、従来の田中角栄内閣による日本改造計画はスローダウンを余儀なくされ、高度成長の影で公害問題が大きくクローズアップされ、バラ色から一転終末論が世間を覆いつくし、年末には「ノストラダムスの大予言」なる人類滅亡論の本がベストセラーになる。巨大テクノロジーに対する憧れと畏怖と恐怖とが、表裏一体で一気に混濁。そんな人類への希望と絶望とその中での自分自身のポジショニングとをわかりやすく若い世代に魅せたのが、当時はテレビまんがと言われたジャパニメであり、ロボットものやヤマトなどであった。
開発中はイケイケの好景気がえんえん続く順風満帆な時代だったのに、いざ発売したとたん石油ショックでトイペ買い占め騒ぎになるくらい未曾有の不景気。 だがそれでも最先端テクノロジーを理屈ではわりきれない感性と抱き合わせるシンセは、そんな先の見通しがたたない幻滅した世界に受け入れられやすかったのかもしれない。
しかもコルグもローランドも海外市場を先に考えて販売を進めていた。 まずは広大かつ進んだ海外で売れること、そこで売れれば逆に流行は海外から日本へ流れ込むので、おのずとシンセの波も還流して帰ってくる。今はまだ誰もシンセを知らなくとも、海外で人気のあれだよとなってくれれば話は早い。 そしてそのまま両社とも売上の7割以上は海外で稼ぐくらいにまで成長していったのである。
このあとしばらくコルグからはトラベラー型フィルターを搭載した機種が続き、やがて 1977 年に分周型全鍵ポリシンセ PS-3100 / PS-3200 / PS-3300、さらに翌 1978 年に MS-10 / MS-20 という、まさに社運を賭けた看板機種シリーズが出るに至って、ようやく世間一般と同じような仕様、同じようなパラメーター名称に落ち着いてきた。
以降は、すでによく知られている歴史である。
だが、カトちゃんは遥かのちにデジタル時代になってからも、M1 が出ても、WaveDrum を世に送り出しても、TRITON が大ヒットしても、どうしても miniKORG 700Sから離れない。 「喜多郎は相変わらずミニコルグ使ってるじゃないか。うちのエンジニアに聞いたら、あの音はサンプリングで出るって言うんだけれど、出ないんだよ。」 それがひとつの宿題となり、伏線となり、伏流水となり、やがてどこかでふたたび表に姿を現すことになるのは、最初にミニコルグが登場してから実に四十年近くもたってからのこと。その回収された伏線はコルグを動かすおおきな奔流のひとつとなり、いくつもの驚くべき機種を生み出したあと、流行に対する解、それもこれまた別解の鬼たるコルグらしい別解となって結実する。 それを本稿では紹介する。
●機種名
volca nubass Vacuum Tube Synthesizer
2019 年1月発表 2019 年3月発売 国内価格2万7千8百円以下
2013 年以来続く volca シリーズ最新機種。 なお、volca の名はドイツ語の volks から転じたものであり、とかく高価なプレミアム価格がついてまわるスノッブなヴィンテアナログに対し、誰もが買える庶民のためのアナログシンセやギアをめざしたからだという。
真空管を利用したオシレーターを使ったフルアナログ・グルーヴボックス。Roland TB-303 的な機種だが、さまざまに現代解釈がほどこしてあり、もはや 303 クローンとは呼べない別物へと進化し、独自の境地に至った真空管モノシンセ。
本体にへぼいスピーカーがあって、とりあえず音の確認はできる。 単三電池6本で稼働し、別売の AC アダプターでも駆動できる。
●音源方式
フルアナログ減算方式
真空管を使っているから目を惹くのであって、やっていること自体は普通にアナログモノシンセ;
1基の VTO こと、Vacuum Tube Oscillator すなわち真空管オシレーター 1基の真空管サチュレーター 1基の 矩形波サブオシ 1基の VCF −24dB / Oct のトランジスター・ラダー型ローパスフィルター 1基の VCA 1基の AD / ADSR 切替式 EG 1基の LFO
とはいえ真空管ならではのポイントといえば、オシレーターの他にノンリニアなサチュレーションを用意したことも挙げられる。
21 世紀に入ったコルグは真空管を使ったギターマルチをリリースしたり、グルーヴボックス elctribe シリーズや 2004 年発売のワークステーションシンセ TRITON Extreme などに、Valve Force と銘打って真空管 12AX7 を内蔵させマスタリング・エフェクトとしたりしていた。 シンセの最終段にマスタリング・エフェクトを入れるのは、その前のローランド MC-909 グルボや Fantom-Sシリーズ・ワークステーションシンセにて、マスタリング・エフェクトとしてデジタルの3バンドコンプを搭載していたことに始まる。20 世紀末のコルグはデジタルの盟主となることを M1 以来謳っていたが、ここへ来て急速にアナログ復刻へ舵を切っていた。
だが真空管を生産してきた東欧やアジアにおいて、工場設備の老朽化レガシー化が進み、その供給に不安が出てきた。それがためにコルグはノリタケ伊勢電子と共同で、新しいコンセプトの真空管 NuTube を開発。それは LSI とおんなじ形状おんなじサイズの極小真空管。ノリタケ伊勢電子は、もともと蛍光管表示管こと VFD(Visual Flourecent Display)の開発製造に長けており、ここにコルグのレジェンダリー・エンジニア、かの「試作機1号」をつくって以来ずーっとコルグの技術的屋台骨を支えてきた三枝が目をつけた。
90秒で分かる! 蛍光表示管 VFDとは? - by ノリタケ伊勢電子;
真空管とは、大飯食らいで電気を浪費し、そのために人を感電させ、すぐ熱くなるので放熱させねばならず、放熱しなければたちまち切れて使い物にならず、切れたから買おうにも値段も高く、買ってきても大きいために基板上の場所が広くないと使えず、邪魔で、すぐ割れる、どんだけお膳立てしてもすぐ切れて寿命短い、なにひとつ宜しいことが無いわがままな素子なのに、めったらやたらと人気者。
しかし VFD であればすべて解決できる。三枝はかつて真空管ラジオに使われた同調指示管 magic eye tube にヒントを得て、ノリタケ伊勢電子とともに音響増幅用 VFD を開発。
結果、VFD 技術を使ってできた新型真空管 NuTube は、サイズも消費電力も劇的におさえこむことに成功。たとえば一般的なギーアンが 300V にまで電圧を昇圧するのに対し、NuTube を使ったプリアンプはわずか 12V で済ませられる。感電しないし放熱もほとんど無視できるくらいでしかない。熱くならないから安定稼働し、寿命も圧倒的に長寿になる。小さく LSI チップ用パッケージに入っているので取り扱いも簡単、衝撃耐久性も大幅にアップ。単価は 5,500 円
NuTube 公式サイト; https://korgnutube.com/jp/
この NuTube にはよくある真空管のように素子が2つ入っているので、volca nubass では、そのうちひとつをオシレーターに、もうひとつをサブオシ用サチュレーターに利用している。
なお、もとが蛍光管だっただけのことあり通電すると青く発光する。
●同時発音数
1音 ローランド TB-303 にインスパイアされた機種なので、これで充分。
●内蔵エフェクトの性能と傾向
最終段にアナログの overdrive を内蔵し、ドライヴ感あふれる加工が可能。こえはサブオシ用のサチュレーターとは別物であり、ギター向けストンプボックスを真似た回路であるという。BOSS OD-1 とかか? はたまた 303 DevilFish 魔改造の歪みなのか? たしかにデヴィルフィッシュっぽぅなる。
原始的な EQ ともいうべき Tone ノブがあり、高域を強調すればしゃっきりドライヴやフィルターの動きが明らかに、低域を使えばドスが効く。
●内蔵波形、プリセットの傾向
VTO こと真空管オシレーターから出る音源波形は;
・鋸歯状波 ・矩形波
の2種類を切り替える方式。どうやらトライアングルベースではなく、ソーベース(saw base)のオシレーターらしいので、原理的には鋸歯状波のみが出て、そこから矩形波を回路で編み出しているらしい。
サブオシもあり、つねにメインオシレーターたる VTO のオクターヴ下で矩形波を発振。分周しているのだろう。
音源波形の音はトライアングルベースのように基音が強くてぶっとい感じとは違う。やはりソーベースなので古くさいホコリっぽいオシレーターとでも言うのか、なんだかアナログにぐわーっと波形がゆがんだような音。ゆがむと言っても、オーバードライヴやディストーションのように天井に当たってばりばり歪むタイプとは全く違う。いかにも古い時代の真空管みたいなマイルドに歪んだ音色であり、実際にオシロで波形を見ても上下非対称であるのが歪みの特徴。 サブオシにはサチュレーションというパラメーターまである。
プログラマブルではないので音色メモリーは無く、プリセット音色も無い。
●エディットの自由度と可能性
先述の通り、真空管オシレーターこと VTO は鋸歯状波と矩形波との切替式。 プラマイ1オクターヴまでピッチを連続可変可能。かなり上モノの音域まで出せる。
サブオシにはサチュレーション量を制御するノブがついている。このサチュレーションが VTO と同じ nutube で処理されていることに注目。おかげでまさにサチュレーターと呼ぶにふさわしい不可思議な波形変化を見せる、アナログのウェーヴシェイパーである。
VCF は TB-303 のそれにヒントを得て開発されたトランジスター・ラダー型 LPF だが、−24db/Oct であるところが違う。オリジナルの TB-303 は−18dB/Oct であった。 レゾナンスはコルグ MS-20 などにあったように Peak という名前。TB-303 同様発振ぎりぎりで止まるが、それはもとのオリジナル機がエレキベースの代用品であり、もとからあえてフィードバックを抑えこんだ設計になっているがゆえ。それがアシッドベースとして使われるときも逆にアジとなった。
VCF EG は ADR ないし ADSR 切替型。ただし、アタック、ディケイ / リリースタイム、そしてデプスのみが変えられる。 VCF にはアクセント機能もあり、16 ステップシーケンサー上にて強弱を設定し、そのデプスをノブでリアルタイムに可変可能。 VCA は表からは不可視なところに存在。ゆるやかな減衰音 EG がかけられているので、打鍵しっぱなしにしていると分かる。
LFO は三角波と矩形波との切替式。デスティネーションは、アンプ、ピッチ、カットオフ。
なめらかなガラス板で覆われた 16 鍵のマルチタッチ鍵盤が装備され、触るだけで電流が流れて音がトリガーされる。その鍵盤はなんと黒白逆、お歯黒鍵盤、リバース鍵盤。おかげで最初どう読み解くのか分からず、分かったあともトリッキー。でも美しく高級感あり、すべすべして所有感も満足。 作成したシーケンスパターンもこのマルチタッチ鍵盤から呼び出し、シーケンスの各ステップもここで指定するのは、303 を意識したお約束で明快。
16 ステップシーケンサーが内蔵され、多くの音創りパラメーターをオートメーション可能。オートメーションされたパラメーターのノブは、再生中に LED で自照するのでわかりやすい。なおコルグのハードウェア機種では、オートメーションのことを、モーションシーケンスと呼ぶ。
303 を意識してステップごとのスライド、アクセント、トランスポーズを設定可能。さらに monotribe 以来のお家芸 Active Step やステップジャンプ機能装備。しかも演奏中リアルタイムでもどんどん思いつきで設定を変えられる。 Active Step とは、moog 960 シーケンサーモジュールと同じく再生中リアルタイムにステップを飛ばすとシーケンスの長さも追随してどんどん可変する機能で、非常にインタラクティヴにフレーズが七変化して楽しい。 またスライド、アクセント、トランスポーズには強弱の2段階あり、ぽんとステップを押せば弱、長押しすれば強、トランスポーズでは弱がオクターヴ上、強が2オクターヴ上となる。ランダマイズもあって超簡単。
この、トランスポーズが演奏中でも短く押せばオクターヴ上に、長押しすれば2オクターヴ上に簡単にジャンプするというのは、もはや直感的なんてもんやないめっさ肉感的、というかほとんど考えずほいほい押さえてるだけで、ごっつむずかしいことしたようなクールなループがなんぼでもできる。他の volca 機種とも違って特徴的、さすが 303 エミュ。けっこう高いピッチも出せるので、ベースラインだけでなく上モノにも使える。 アクセントも音量だけでなく、フィルター EG デプスも持ち上がるので音がブライトになって良い。
肉感的かつインタラクティヴに、ほいほい操作できるシーケンサーが秀逸でチャンスファクターをどんどん誘発させてくれる。このシーケンサーこそが 303 の本質! おっさんなことを言えばジャン=ミシェル・ジャールの名言に、 「シーケンサーはレコーダーではない。シーケンサーはグルーヴを生み出すものである」 というのがある。せめてジェフ・ミルズの言葉を引用しなさい、と仰せの諸兄、すみません。
つくった 16 ステップシーケンス・パターンは、16 パターンまでメモリーできる。
赤い7セグ4桁 LED による英数字表示は、デザイン的にレガシー・テクノロジーへの憧憬だけでなく意外にも情報量が多くて助かる。
一方現代によみがえった真空管 NuTube は青く光り、サブオシのレベルを上げたりサチュレーションを上げたりするとそれに反応して輝度が変わる。さらにシーケンス再生中もノートに応じて輝度が刻々と変わるので、見ていて飽きない。 そしてボディ全体が半透明のダークなプラスチック、しかもクルマのテールランプみたいにプリズム的な造形が内面にほどこしてあるので、NuTube の青い光をはじめ赤色 LED などさまざまな発行体が外から屈折して見えるのも凝っている。
音は当然アシッドな音なのだが、303 のようにビキビキとアタマに直撃するような高音がつんざくわけではない。もっと鈍重な低音がぶるぶるっとすべり出る感がある。かなりキャラが違うのでこれ1台だけで個性派になれる。
●拡張性
MIDI IN 端子、パルス信号による同期の入出力、ミニジャック型ヘッドフォン端子装備。USB が無いのが残念だが、あとはひとしきり最低限のものはある。この選択はおそらく少し前の monotribe で獲得した経験に由来するものであろう。
このうち同期端子はなかなかのすぐれもので、別にただのパルス同期なのだがシンプルすぎて明快なことこの上ない。また iOS アプリ Sync Control を使えば、超簡単にクロックマスターとして iPhone が使える。
端子がすべて上向きについているので、volca シリーズは縦横に隙間なくぴちっと並べられる。そして整然と配列されたものたちが一斉に同期演奏されるさまは壮観であろう。
●あなたにとっての長所
小さい軽い場所とらないしかもクール! デザインもいい。トラッドな真空管チューブを模した NuTube のケース。その神聖な青い光をモチーフにした左側の碧と、アナログドライヴを中心とする右側のダークネス、その光と闇との二つの領土が格子型フィルターにてマージする。なかなかいい外観コンセプト。しかもドットの濃淡でグラデを表現。 おかげで nubass の名にふさわしくかなり斬新であたらしいルックスになっており、過去に媚びていない新種であることを明示してていい。 303 よろしくピッチを高くして上モノにも使える。
真空管、その音と歪みと連続的な音色変化。ただの太い音や歪みだけならソフトシンセやプラグインエフェクトのほうが得意かつノイズレスなんだろうが、やはり真空管というのはウェーヴシェイパーの一種でもあるので、音の変化がノンリニアでおもしろい。
秀逸すぎるシーケンサーが、インタラクティヴで楽しくて仕方がない。
●あなたにとっての短所
こんだけ小さく電池駆動できるので、いっそ Bluetooth でオーディオもワイアレス送信してほしい。どこでも置ける自由なモバイルギアとなる。 USB 対応してほしい。USB-MIDI だけでもいい。 MIDI Out もほしい。 AC アダプターくらいは標準で付属させなさい。 ファンクションキーという名のシフトキーがあるのは構わないが、その操作が意外にトリッキーで、取説なくしては飲み込めない。いったん把握できたら、あとは早いがちょっと運動神経がいる。特にライヴ時には予習必須。 アナログシンセなので S/N 比が悪い。それはアナログだから当たり前なのだが、デジタルやプラグインみたいに原理的にノイズがゼロ値のものばっか当然のように使ってきた若い人らにしてみれば、しゃーしゃーノイジーな volca nubass は使えねーとかって言う人がいても不思議ではない。若者はアナログをゆるし、年寄は若者をゆるしてあげてね。
●その他特記事項
1.過去へのリスペクトと、あたらしい挑戦
Roland TB-303 への憧れは永遠にやみそうにない。 それでも 90 年前後の当初、いわゆる 303 クローンとはただの音源部分だけであった。が、Propellerhead が ReBirth 338 を出したとき、使いづらい内蔵シーケンサーこそが実は 303 の本質であることを見抜き、すなわちあの特異な仕様のシーケンサーと難解な UI こそが、逆に怪我の巧妙でチャンスファクターを誘発しおもしろいループを量産するシカケだと看破したのであった。 音のリアルさもあいまって、ReBirth 338 こそはソフトがハードを追い越して先を行った歴史的な瞬間である。
それら凡百の 303 エミュの中にあって、この nubass はかなり異色。303 の本質、チャンスファクターを誘発させるシーケンサーはもちろん、その音色は 303 をむやみにフォローするものとは違い、きわめて独自のものになっていて個性的。303 そのものの物真似は他機種に任せておいて、新種のアシッドベースとはこうだ!みたいに主張があるものとなっている。 その点で 303 の元祖ローランドから出たフルデジタルの TB-3 とは、好敵手をなす存在。
ローランド TB-3 は音こそ 303 モデリングに始まるが、UI は大胆に変貌しタッチパネルが中心となっており、あげくにまったく違う音が出る DSP シンセというところにこっそり軸足を移している。 303 モデリングはもちろん、DevilFish 改造に着想したと思われるするどい歪み音、さまざまなモノシンセの音にヒントを得たと思われる、実に多彩なアシッドベースのバリエーションも豊富。さらにはウェーヴフォールドっぽい音、ビットクラッシャー系、あげくの果てにまったく異なる音、それもコードシンセ系、チルアウト系やノイズ系などなど、303 という固定概念をなんなく吹っ飛ばすおそろしく自由すぎる発想の音色が出てくる。しかもデジタルでモデリングしているので、原理的に最高の音質、最高のダイナミックレンジを実現、思い出補正がかかった 303 とか鋭利なエッジが効いたドライヴとか、いくらでも理想の条件で出せる。 この、303 エミュという羊の皮をかぶった狼、逆にとらわれない自由なシンセシスをたくさん網羅した DSP シンセというところこそが、じつは TB-3 の本性であり、ほんとうに驚かされる部分はむしろこれら新規音色なのであった。タッチパネル搭載に象徴されるその名も Touch Bassline。過去へリスペクトしつつ、本家ならではの英断的リミックスと新境地への革新とを詰め込んだような存在。
2.ローランド
そもそもローランドは、過去を振り返らないメーカーとして永らく有名であった。
なぜか? テクノロジーとは、新陳代謝するものだからである。
今でもプラグインで育った人が初めてアナログシンセを使うと、ノイズが多いことに驚くことが多くクレームにもなるという。 そしてヴィンテアナログが現役だった時代、かならずしも人々はシンセに音の太さや温かさを求めていたわけではない。むしろ求められてきたのは、安定性、信頼性、高音質、S/N 比の良さ、ダイナミックレンジの広さ、などなどであった。 だからこそシンセは、モノからポリへ、音色メモリーがついてプログラマブルへ、MIDI 対応、デジタル化、サンプリング、モデリング、オールインワン、SMF / GM、ソフト化、アプリ化、ネットワーク化、クラウド処理、分散処理へと進化していった。それは便利であるだけでなく、幅広い用途での使用に耐えるようになり、信頼性も高く再現性が担保され、表現の可能性が飛躍的に拡大したことにつながる。
テクノロジーが描くバラ色の未来を、健全な未来観を、SF 的センスオヴワンダーを追究する。
それゆえローランドは「We Design the Future」を掲げ、デジタルでもってアナログの復刻だけでなく、アナログではやりたくてもできなかったことを実現してきた。
そのローランドがアナログに回帰することは、デジタルはアナログに勝てませんでしたという、技術的敗北を期することなのだ。将来ものすごく演算精度が高まったとき、それこそ人体や脳の活動の全情報をワンチップみたいなものに収納できるようになったとき、それこそ人類が仮想空間に住まうソフトウェアだけの情報生命体みたいなものになったとき、アナログシンセの振る舞いもまた完璧に再現できるデジタルの時代となるであろう。そこへの一番乗りを果たしたく、日夜奮闘するを提唱するのが、ローランドに課せられた社是であり宿命なのだ。
TB-3 にて衝撃的なまでに新解釈された 303 も、まさにその権化であり象徴。JD-XA、JD-Xi に至っては、まったく過去とは異なる次世代アナログシンセを搭載しており、だいたいよくもまぁアナログシンセを復活できたねぇと感心するくらい。
ひとえにローランドはテクノロジー指向であり、テクノロジーによって拡大解釈する会社であり、新技術で切り拓いてこそ未来があるのであり、革新する姿勢の前に過去の亡霊を育てる気はない。Biggest より Best というくらいだから、量的拡大する気もない。
3.コルグ
だが一方コルグは、技術的敗北を期そうがどうしようがおかまいなしに、ユーザーがほしがるものを分かっていてそれを提供しようとする。そのしたたかさゆえに、ひねり無しでストレートに復刻しアナログシンセも簡単にぽんぽんと出てくる。必ずしもテクノロジー的には目新しくないが、取捨選択の仕方、割り切り方がうまい。そしてその高いセンスに立脚した新解釈アナログシンセが、volca であり nubass であり logue シリーズ。 古いテクノロジーだが楽しく遊べるというのは、そもそも海外のアーティストたちに再発見された 303 や 808 などの遺産もそうであった。挙げ句コルグが開拓したアナログシンセ復権のお株を、ベリンガーが製造業のパンクとして義賊を気取って奪取せんとする。
21 世紀に入ったカトちゃんは、どんだけカネかかってでもいいから miniKORG 700Sをもっぺん復刻してくれと開発陣に言い、たっての希望をかなえるべくエンジニアたちが1台試作したという。だが、復刻できたものの 15 万円以上するため、量産はありえないと判断された。カトちゃんにとって、いや、コルグにとって、理想の中の理想たるシンセの音は当時最先端の TRITON Extreme や m3 ではなく、じつに四十年近く前のヴィンテアナログから出る音だったのである。これを技術的敗北と言わずして、なんであろう。
ところが、どうせ高くなってしまうなら逆に仕様を削って安くアナログシンセをつくってみようということになり、どんどんスペックダウンにコストダウンしてできたのがスマホサイズで売価5千円を割り込むアナログシンセ、MS-20 前期型 VCF を搭載した monotron である。 しかもそこへゆくまでには、ひとひねりあった。
2008 年7月 30 日に学研から書籍「大人の科学 特別編集版:シンセサイザー・クロニクル」が発売。定価 3,360 円の本についてきた付録が SX-150 なる、組み立て式アナログモノシンセ。
素朴なもの原始的なものにこそ、学びと楽しみの本質が宿る。そう考えた学研の人たちは、本屋でシンセを販売するというエデュテイメントならではの奇策に出た。いわゆるマルチメディア本の一種。 しかも改造推奨。メーカー保証も製造者責任もあったもんじゃない。回路図も大公開、どんどん禁じ手を繰り出してくる、掟破りな痛快さがあった。実際 SX-150 は、ちゃんとしたモニターで鳴らすとおどろくほどいい音がするのである。
案の定それにインスパイアされたのか、2年後の 2010 年の春にはコルグから monotron が誕生。
その後次々と新機種がリリースされ、シリーズ合計3機種となった。
SX-150 と同じくツッコミようがないシンプルさ、でもつややかで見事に抜けるアナログシンセの音、しかも LFO でぎりぎり可聴域な周波数変調の音まで出せるといううれしい機能つき、ダメ押しに取りあえず弾けるリボン鍵盤をつけて出てきた monotron。試作しているときにコルグの二代目社長カトちゃん2世こと加藤世紀が、壁から通して抜けて聴こえてくるその音に驚き「それは売れる!」と太鼓判を押したという。
そして monotron シリーズもまた回路図が公開され、基板にまで「cutoff」だの「saw2」だの印字される親切設計ぶりで、サーキットベンディング野郎どもにまでウケたのである。
すでにモジュラーシンセの世界では自分で改造したりトリムを回したりというのはもはやパラメーター設定の範疇であり、広くあたりまえに行われている。コルグはその文化に一歩あゆみよったメーカーとなった。
しかしここで面白いのは、翌年 2011 年4月にはそれにシーケンサーとディスクリートによるアナログリズム音源、そして音を確認するためのへぼいスピーカーとを追加したフルアナログ・グルーヴボックス monotribe を出してきたこと。そのほうが開発が容易だったのだろうが、これはあまり売れず、販売完了が決まってから我先に買い求める人が殺到したという。
そのことに、コルグは重要なヒントを得たらしい。
2013 年からの volca シリーズには、そこからのノウハウがたくさんつまっている。 機能別に機種を分けて登場させることで各キャラを明快にし、内蔵シーケンサーは 16 ステップはっきり表に出し、トリッキーなリボン鍵盤はちゃんと弾けるマルチタッチ鍵盤にとってかわり、MIDI In も装備。 逆に monotribe で良かった点は継承され、それらはパルス同期、リアルタイムに七変化するインタラクティヴなシーケンサー、音確認用のスピーカー、それでいて安価というところ。
ここでポイントはつないだだけで同期できるということ。ソングポジションポインターもへったくれもないが、超わかりやすく同期できるのだからとことん明快。そしてこのごっつう楽ちんな同期システムのおかげで、volca シリーズは 「どれを買おう」ではなく 「どれから買おう」と思わせてくれる、なんとも商売うまいシリーズ。
おかげで volca は売れ線となり、ユーザーもシンセとシーケンサーの区別がつかないド素人が「なんやしらん最近アナログがかっこいいらしい」というので、買うケースがやたら目立つとも。
第1世代の volca beats volca bass は、もちろん TR、TB を意識して開発され、 volca keys は、幻に終わったローランド TC-404 的なものへの、はからずもオマージュとなった。
第2世代は、そこから冒険し、 volca sample volca FM volca kick へと拡充。kick 以外ではデジタルシンセシスにまで踏み込み、KRONOS にある各音源を切り出してきたような感もあった。
そして第3世代では、 volca drum volca modular volca nubass へと発展。volca drum は DSP によるモデリング音源ドラム、volca modular は珍しいウェストコーストシンセシスの音源を使った超絶マイクロモジュラーシンセ、そして次世代真空管 NuTube を使ったシンベこと本機 volca nubass。
さらには専用のミキサーやスタンドまで充実。
一方、monotron / monotribe でウリだった MS-20 型 VCFは、volca に採用されることなく、むしろそのまんまストレートに復刻へと昇華される。 2014 年1月には、ついにコルグが初めて本格的な復刻に取り組んだ MS-20mini を発表。すでにオリジナルの MS-20 そのものにはプレミアがつき旧定価よりも高い十万円以上していたのを、サイズだけ小さくなったとはいえ3万円で買えるように復刻。バリエーション機種も続出。
この「3万円で復刻出来る」というのは衝撃で、それまで古いテクノロジーだから復刻してもやみくもに高価なだけだ、という言い訳は通用しなくなった。あれこれ工夫すれば、現代のパーツでもレガシーを代用できてしまうのである。 むろんアナログゆえ個体差もあり歩留まりもあるので、そこはおいそれと一朝一夕にはできず積年のノウハウの積み上げを要する。つまり歳月を重ねたものだけが見事に安価で復刻できるのであり、そこはコルグに一日の長があった。現にベリンガーの復刻シンセの数々を操作すると、値段相応でしかないことも多々ある。アナログはデジタルのように簡単にはいかないリソースを食うものなのだ。 アプローチこそ違うが、ローランドや DSI あらため新生 Sequential が音声経路はフルアナログでありつつ EG や LFO にはじまる変調系を DSP でデジタル処理をしているのも、やはり経験あってこそのこと。この点で両者は、コルグとは異なる解を出したと言っていい。
4.決別
2016 年に ARP Odyssey を復刻させたコルグは、だが内蔵リングモジュレーターにデジタル式のものを使うなどさすがに苦労もにじむ。そもそも自社のものではないレガシーをなぜに復刻するのか、という声も開発現場からはあったという。 そして復刻の呪縛から解放されたコルグは、次世代のアナログポリシンセを自社の名前で出した。
ARP Odyssey 復刻と同じく、2016 年1月のこと。 アナログシンセ4音ポリ。 売価が 499 米ドルしかなかったため当時としては価格破壊であり、DSI のちの新生シーケンシャルとなるデイヴ・スミスをして 「4ボイスのアナログポリシンセが 499 ドルしかせんとかって、あきれるばかりだね」 といまいましそうにぼやきせしめた逸品、それが現代の名機、未来のヴィンテ、minilogue。制作系を念頭に4音に抑え、スリムなミニ鍵で敷居も下げ、外観も未来のヴィンテにふさわしく曲面をあしらった。
そこから logue シリーズはまたたく間にラインナップを拡充させ、シンベやリードに特化しカラフルなバリエーションも可愛い monologue、手弾きを念頭に置いたフルスケールのポリシンセ prologue シリーズ、そして小さくも相手を選ばない自由な機種 minilogue xd にまで広がった。
5.次世代アナログ
2019 年1月、コルグが minilogue xd と volca nubass とを同時に発表してきたことには意義がある。 それはどちらもアナログでありながら、過去とは決別した新種だからである。nubass にしても、過去へのオマージュでありながら音もデザインも新規のもの。
アナログシンセへ回帰し、復刻とリバイバルの盟主となったコルグ。真空管というアナログの権化、アナログの極致のような素子にまで先祖帰りし、原理主義、大復古主義であるかのように生まれたコルグ nubass、だがそれはあたらしい真空管 NuTube であり、すでに未来を志すものである。すなわち真空管という、カテゴリーはレガシーでも NuTube という素子は革新であり、音的にもアシッド世界にて新種を誕生せしめるものである。
また minilogue と minilogue xd とでは VCF 肩特性が違うということも大きく、minilogue はヴィンテアナログの集大成っぽい音、minilogue xd は新世代のアナログシンセを提案するような音っぽくチューニングされているように思える。
minilogue xd Pearl White edition.
過去をリスペクトしつつ、過去との決別。
すでにアナログシンセの音は、もはやギターやエレピやオルガンなどと同じく定番の音になっていた。20 世紀の楽器と言われるくらい歴史が浅い電子楽器といえど、もうそんなになるまで音楽と楽器は大きく育ち成熟したのだ。それは見ちがえる我が子をみる気分なのか。 それが 21 世紀の楽器、ということか。 そしてその世界の中でもひときわ新しい種の音が、その名も「nu」bass。
6.次世代デジタル
いっぽうコルグのキーボード型シンセは、こちらも新世代のアナログの音を編み出したあと、そこから別の道をたどり四十年近くぶりに再びのデジアナハイブリッドを経てデジタルへと舵を切った。それが prologue、minilogue xd、Nu:Tekt NTS-1、そして wavestate という鍵盤楽器の流れになるのだろう。
デジタルへの回帰、すでにユーロラック世界ではたくさんのサンプリングやモデリング、グラニュラー処理などの、デジタルモジュールも出回っている。
そして logue SDK を使い、C言語で自作したオシレーターやエフェクトをロードできる prologue、minilogue xd、NTS-1 は、デジタルならではのぶっとんだハックをするたのしみを知らしめた。事前にソフトの動作を確認できるウェブアプリまで用意されている。
最初のアナログ復興シンセ monotron は、基板に「cutoff」などといった案内を設けることで、ハックしやすくサービキットベンディングしやすく、アナログならはの自作する楽しみを広めた。 同じく prologue、minilogue xd や NTS-1 では、地球の裏側の人がプログラミングしてつくった、けったいなウェーヴフォールド・オシレーターのアルゴリズムとかをネットから流し込んで鳴らすことができる。安全規格もへったくれもありゃしない、この過激な未来志向、その音にぞくぞくする。さすがデジタルである。
デジアナ問わず、ユーザーはついに自分にとっての理想の楽器を、みずからの手で生み出せるに至った。ようやくメーカーの圧政から逃れ、自分たちの手で「ぼくがかんがえたさいきょうのしんせ」をつくれるようになった。デジアナ問わず自分がほしいものをゲットし、自分でカスタマイズする時代となったのだ。
その波がようやくコルグのような大手を動かすに至ったのが、こちらも時に 2019 年から 2020 年にかけてのこと。
7.未来
アナログシンセのリバイバルは、ついに古典から脱しあたらしい次元を迎えた。 過去に媚びない、誰が見ても未来志向のアナログが出た今、やっとアナログ志向だけではなく、デジタルも再評価されるようになった。ASM 社の HydraSynth が 「Digital is the New Analog」 とキャッチを打ち、各社からの FM 音源やベクター音源、ウェーヴシーケンスなども再び進化しはじめた。
KORG volca nubass も Roland TB-3 も、ともに競合ではなく、ともにバリエーションとして補完しあうものであり、さらにそこから未来へ向かって進化するものでろう。
アナログの権化のようなギターの世界でも、NuTube による真空管アンプがある一方、アンシミュの大半はデジタルでありアプリですらある。ローランドは早くから VG-8 を始めとする「モデリングギター」の開発に熱心であった。そして今、世界はようやくそこまで成熟してきたのだ。
デジタルもアナログも、どちらが古いとか新しいとかでなく、どちらもひとしく未来を志すテクノロジー。 その切っ先の座をめぐって争う波に乗り、あたらしい音を創る。 電子楽器とは、テクノロジーに直結した表現手段。科学技術への全幅の信頼を置いてこそ、はじめて実現可能となる、あたらしい表現。だからこそ陳腐化も激しい一方、レガシー・テクノロジーであっても表現に有効なものは、生き残る、生き延びる、伏流水となって潜ったあとに再発見される。すなわち単一の規格に押し込められること無く、いや、CV / Gate、MIDI、GM などといった規格ですらもが、個性をゆるすルーズなもの、ましてや規格外の表現手段は星のようにあまた存在する、それが電子楽器、その自由さが電子楽器。科学と技術への健全な信頼があってこそ、人類はとらわれることなく前を向いて未来をこころざして、永遠に未完ながらも革新を重ねる道をあゆむことができる。それこそが、テクノロジーがもらたすセンスオヴワンダー。
そんな私たちを見下ろしながら、天国でカトちゃんとイクぴーとは、ひょっとしたら、あんなふうにユーザーを育んだのは誰のせいか、あんなことでいいのかと、まぁそう思ってるか言ってるかは知らないけれど、少なくともまだまだお互い一歩も譲らずに楽器への哲学と情熱とを戦わせていることだろう。
完
P.S
私は決してダンストラックを作る人間ではなく、アシッドもなにも音楽としてではなく音色として聴いている。すなわち私にとっての 808 / 303 などなどは、あくまでシンセ。 だからここでもシンセとして取り上げた。クラブ音楽的な観点からの解説は世間にいくらでもあり、それらに私は到底かなわず、かなうつもりもなく、あくまで1シンセシストとしての観点から書いた。
地球の歴史では、小惑星衝突によって生態系が一変したことも何度かあった。今回のウィルスによって人類社会も大きく変貌しようとしている中、それでもこれが単一のパラダイムにではなく、多くの科学と技術に立脚しこれからの新時代へ跳躍するためのカタパルトとなることを祈りながら、執筆作業の後半を続けていたことを付記しておく。
Stay safe, stay healthy, and stay cool.
Take care.
↑ 結びとしてアシッドなダンストラックの代わりに、カトちゃんとともにコルグを創業した長内端氏による正確無比なアコーディオン演奏を掲載。あまりに正確無比すぎて、じつにおもしろくない演奏なのだと人は言う。この機械っぷりからドンカマが誕生し、コルグが生まれたのであった。
* 写真は、筆者が撮影したもの以外は引用です。
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Moksi - Boom Shakalaka (Feat. Digitzz & Emy Perez) (Nubass Remix)
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