先月から事務所の入り口にクラフト紙に包まれた刷り立ての本が山のように積まれている。毎日事務所に入るたびに、薄茶色の紙特有の甘い匂いに包まれる。暑い時期は少しうっとうしく感じたけど、涼しくなるほどにそれが心地よくなって来た。
このクラフト紙の匂いがする香水といえば、ルカ・トゥリン曰くL'Artisan Parfumeurの"Dzing!"。サーカスのビジュアルがついた賑やかなイメージの香水で、廃盤になったり復刻したりを繰り返している。トゥリンのレビューを読んでから、例によってアメリカからサンプルを取り寄せてみた。そう言われれば、そうかも…くらいの印象。
香水はだいたいにおいてラスト・ノートは甘くなりがちだから、ちょっとしたノイズの誤差を含めてしまうと、近からず遠からずという甘い判断をしがちだ。正直に言うと、期待していた紙の匂いではなかった。
そして今年もようやく気温が下がってきて、香水をつける日も増えて来た。寒くなって魅力が増すのはLe LaboのPatchouli24だ。「火の匂い」でも書いたけれど、この香水の魅力はトップノートのスモーキーな煙の匂い、そして後半はガラッと変わって甘い匂いになる。
先日シンガポール料理店で、変わった中国酒(老酒)に出会った。「焦香」と書いてあって、ひとくち口に含んだとたんに素晴らしい香りが舌と鼻腔に広がった。焙煎したてのコーヒーの芳しさとプルーンのような濃厚な果実の酸っぱさと甘さ。そして煙の匂い。一緒にいた連れもすっかり魅了されて、それからしばらくいろんな酒屋さんを探してみたけれど、そのお酒はいまだにそこの店でしか見た事がない。そしてその香りに、私はPatchouli24の気配を感じた。
それを思い出して1年ぶりにPatchouli24をつけてみた。この香水はキリっと冷えた空気の中で魅力を発揮すると思っていたので、9月はまだ早いかもしれないと思いつつ。そして、まだ残暑の熱気と湿気が残る中で、冬とはちがった顔を見る事になった。トップノートのスモーキーさが弱まって甘さが出る頃、それはどこかで嗅いだことのある匂いに変わった。ああ、これはあのクラフト紙の匂いだ。
はじめの頃はPatchouli24のトップノートのスモーキーさに衝撃を受けたので、それがすぐに消えてしまうのが嫌だったのだけど、この新しい発見はとても新鮮だった。感覚器の遊びは、結果を急いじゃダメね。じっくり時間を掛けなきゃね。
*1:世界香水ガイド2★1885 ~「匂いの帝王」が五つ星で評価する (著)ルカ・トゥリン&タニア・サンチェス, (訳)芳村むつみ