Operation Diamond Racket (1978)
インド映画にも007もどきが幾つかある、というのは前から情報として知っていた。中でもいちばん高名であるべきはタミルのジャイシャンカルで、この人は南インドのジェームズ・ボンドの異名をとった俳優である。この頃のタミル語映画はシヴァージ+MGR+ジェミニ・ガネーサンのトロイカ体制ががっちりと出来上がっていたから、一世代若いチャレンジャーが浮かび上がるチャンスはほとんどなかった。国際スパイものというメインストリーム映画のフォーマットからいえば謂わば色物のジャンルでしかジャイシャンカルが頭角を現せなかったのも、事情としてはよく分る。個人的にはジャイシャンカルは好みのハンサム男優で映画俳優としても演技は上手な方だと思う。スパイものの代表作はVallavan Oruvan (1966)とCID Shankar (1970)で、サウスのオールデイスに関心ある人は是非観たらいいと思う。ことに後者は脳天気なメキシカンなOPで私のお気に入りである。前者も往年の踊れる美人女優L・ヴィジャヤラクシュミが出てるのでファンにはお勧めだ。両方とも通販でのディスクの入手は難しいかも知れないが、探せばきっとネット上のどこかに全篇が転がってるに違いない。
ここに紹介するOperation Diamond Racket (1978)はカンナダ語映画で、主演はラージクマールである。ラージクマールが諜報部員CIDプラカーシュ999を演じたシリーズはJedara Bale (1968)を皮切りに…さて一体何本あるんだろ?自分の知ってる限りでもあとGoadalli CID 999 (1968)とOperation Jackpot Nalli CID 999 (1969)の2作がある。むろん全部観たわけではないし、カンナダ語映画にはドワラキシュが主人公になった別シリーズのスパイものもあるらしいのだが、とてもそこまでは手が回らない。ともあれ本作はラージクマールのスパイものの最終作で、それゆえか1作だけ製作年代が下がっており、そのためカラーである。
お話そのものは勧善懲悪のお気楽スパイアクションで諜報部員CIDプラカーシュがダイヤモンドの密輸ルートを捜査するうちに、世界中の兵器や人物を各個に攻撃できる一種のレーザービーム砲(この兵器はネパールの山中の秘密基地に隠されているのだがなぜそれで地球の裏側の攻撃目標を撃破できるのかは最後まで分らない)を開発して世界制覇を企む怪人(演ずるシュリーニワースは誰あろうあのダルシャンの親父である!)の正体を知り、その基地を徒手空拳で破壊する(本当に銃も使わず腕っ節だけで手下を残らずやっつけるのである!)というお話である。その他登場するシンガポール人がヒンディー語を喋るとかネパール人がカンナダ語を喋るとかツボとなるツッコミどころはここいら辺りを見てもらうことにして、自分としていちばん受けたのはラージクマールのおシャレっぷりである。
CIDプラカーシュは敵陣営に潜入する際にキャバレー・シンガーを装うのだが、そこで歌うのがカンナダ人なら知らぬ者はないという「今日では早すぎる、けど明日ではもう遅い」というラブソング。
ラージクマールは旅芸人の出なので当然のことながら演技も出来れば歌も歌える。口パクしかできない今の役者とは大違いである。しかしこのハイヒール+パンタロン姿を見て妙に気恥ずかしくて俯いてしまうのは団塊とその直下の世代だけだろう。しかし恥ずかしがって顔を伏せてばかりはいられない。この映画ではヒーローのCIDプラカーシュは全篇ハイヒール+パンタロン姿だからである。たぶんこれが当時の最先端を行くファッションだったのだろうとよく分る。ジャイシャンカルなどは細いジャケットの襟に細いタイ、タックつきの絞ったパンツにとんがり靴というモッズウェアーなのだが、ドクター・ラージは一世代後のファッションに身を包んで登場するのである。本家ジェームズ・ボンドにも劣らぬ伊達っぷりである。
これを見てよく分かったがドクター・ラージはけっこうな男前である。親父の後を襲って映画俳優になった2人の息子は鼻がでかいだけの醜男なのに。ラージクマールの場合隆とした鼻が強調される横顔でもハンサムなのである。NTRに似てるがそれとは異質の色気がある。やはり一映画界を背負って立つスーパースターのカリスマ性は尋常ではないと改めて思い知らされた。
最後まで気になってならなかったことは、ドクター・ラージはとくだん生え際が激しく後退してるわけでもないのに、なぜ竹村賢一ばりの十一分けなんだろうという疑問だ。おかげでチェイスシーンではお髪(ぐし)が乱れてこんな有様に。