小野啓写真集『暗闇から手をのばせ』(silverbooks)
A5変型と写真集としては小ぶりなサイズだが、512ページの厚さがあり存在感を主張してくる。 いわゆる地下アイドルと形容されるライブ主体の活動を行うグループの写真集、と言ってしまえばその通りなのだが、ページをめくっていくと、その内容は良い意味で先入観を裏切る。 名前も知らない彼女たち、ファンたちが「生きている」、その輝きが捉えられているからだ。 写っているのはメンバー個々人のポートレート、ライブ、バックステージ。編集に当たった沖本尚志があとがきで「ドキュメンタリー」と断っているように、あるアイドルグループの活動の表と裏を記録した写真集である。 本来はアイドルにとって写真は幻想をつくり出すためのツールであるはずだ。しかしこの写真家は幻想をつくり出すことをせず、代わりに、彼女たちの身体の躍動と疲労、その連続を写し取っていく。写真家と彼女たちとの間には超えられない距離があり、その距離感の分、まなざしは一方的になる。そして、その視線こそ、ステージの上と下とを隔てる距離でもある。 そういえば。映画『どついたるねん』を監督した阪本順治は、映画のなかでリングのなかにカメラを入れないと決めたという。リングのなかで撮影したほうが迫力は出るはずだ。それができるのは劇映画の強みでもある。でもそうはしなかった。なぜならリングのなかはボクサーの世界だから。『どついたるねん』で拳を振るうのは俳優ではなく、本物のボクサーだった。 『暗闇から手を伸ばせ』もまたアイドルの世界との間に一線を引いている。だからこそ、彼女たちの活動を観察する余裕を持てる。写真のなかの彼女たちはとてもエモーショナルだが、カメラは一貫して冷えている。カメラを手にした写真家は熱くなっていたのかも知れないが、カメラがそれを冷やす。おかげで、私のようにアイドルに感心がない読者にとっても「現象」を観察できるユニークなドキュメンタリー写真集となった。
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