サンセバスチャン2.0。美食の街から文化の街へ。(前編)
世界中から美食家が集まるユニークな街、サンセバスチャン。ぼくが街ごと日本に持ち帰りたいと思ったバル文化を紹介します。
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期待を胸にスペイン入国。LCCで縮まる都市間の距離。
サンセバスチャンはガイドブックでは控えめにしか紹介されていないのですが、人口に対してミシュラン星つきのレストランが世界で一番多い地域なのです。旧市街を歩くと所狭しとバルが立ち並び、各国から来た旅行者が軒先に溢れながら食べ歩きを楽しむ風景が続きます。つい最近、高城剛氏がこのエリアをテーマにした本を書いたり国内メディアでもじわじわと火がつきはじめているみたいです。
ロンドンから期待を胸にスペイン北西部のビルバオ空港へ。ちなみにヨーロッパに来て最も驚いたことのひとつが、発達した交通網。陸続きなのでバスはもちろん、LCCがだいたいの都市を網羅していて、短時間・格安でヨーロッパ中をまわることができます。ちょっとリゾートに、ちょっとご飯を食べに、ちょっとアウトドアに。行きたいところがあるとすぐに行っちゃうのがヨーロッパ流。ということで、街づくりも観光産業を中心にして、外貨を獲得しているところが多い。ぼくたちもヨーロッパ滞在中はただ観光するだけではなく、まちごとの取り組みを学んで帰ろうと思っていました。
バスクの独自性。スペインであってスペインでない!?
さて。サンセバスチャンについて。ここを語る上で大事なキーワードが「バスク」でしょう。
バスクとはスペイン北部とピレネー山脈をまたがってフランスの一部が属する地方の名前で、独自の文化や言語を持っているバスク人が住んでいます。習得するのが超難解なバスク語を話したり(神からどんな罰を与えられてもひるまなかった悪魔でさえ、バスク語を勉強する罰は耐えられなかったという逸話もある)、サッカーのリーガエスパニョーラにはバスク人しか入団できないチームのアスレチックビルバオがあったり(それでいてリーグ通算順位はレアル、バルサ、バレンシアにつぐ4位)、暗い部分ではバスク地方の独立を主張するテロ組織の存在もあったり。それほどにスペイン内で最も独立志向が強く、独自性を持った地域と言われています。
旅行していて特に戸惑ったのが言葉の面。まちで見る案内板は、バスク語+スペイン語+英語・仏語という組み合わせがだいたいで、挨拶もスペイン語圏のどこでも使われる「Hola(オラ!)」ではなく、バスク語の「Kaixo(カイショ)」でされることもしばしば。「San Sebastian」という市の名前も、州内ではバスク語の「Donostia」となり、ビルバオ空港からのバスですら当たり前のように「Donostia」表記なので、このことを事前に知らないと到着するまでに苦労するでしょう。こっちからすると、ひとつの国で全く違う言語系統があるということが超非合理な気がするのですが、それ以上に民族性が彼らの大事なアイデンティティになっているのだろうと感じました。
性格も一般的に言われるスペイン人=情熱的で明るいノリとは異なり(これは南スペインのフラメンコや闘牛文化のアンダルシアの方かな)、バスク人は勤勉で仕事熱心と言われているみたいです。それにサンセバスチャンは港町のオープンさと、海・山の自然の恵みが加わり豊かな食文化が育まれる地域になったようです。
人口わずか18万人の街に17ものミシュラン星つきのお店が存在するようになった背景には、「ヌエバ・コシーナ(新しい食)」という運動があります。これは「食のオープンソース」とも称されていて、これまでの師弟間で伝承していく閉鎖的な料理業界において、シェフが集まりレシピを共有したり勉強会を開いてまち全体の食文化を高めていっています。街中で実際にこの勉強会が開かれていたりしてのぞいてみたところ、地元のお父さんたちも参加していたりして、ああ本当に生きた運動なのだなと実感したのでした。
地元のバル1軒の商圏なんて知れている範囲だし、呼び込めるお客さんの数にも限界があります。それを、各店が技術を高め合うことで地域全体がブランド化して、観光産業へと変革させているのです。まちの内側だけが商圏であれば各店は商売敵になるわけだけれども、外側を向いているからこそ協力体制がとれている。これといって大きな観光名所が無い地域にもかかわらず、毎晩のまちの賑わいようを見る限りでは「食」をキーワードにした観光戦略は大成功と言えるでしょう。
交通網の発達と観光の多様化の中で、「良質な体験」があれば世界中から人を呼び寄せることができる典型例を目の当たりにしたことは、島国育ち、ヨーロッパ初体験のぼくには貴重な学びになりました。地元の資源は何か、どんな体験を提供できるか、そして利害関係をこえた協力体制づくり・・日本はサンセバスチャンから見習うことは多いと思います。
ぼくらはここに1週間滞在し、バル文化を堪能してきました。ピンチョスというフィンガーフードがカウンターに並び、数品食べては次の店へ。1日で2、3軒食べ歩くのが普通です。1品が2、3ユーロ、お酒は1〜2ユーロ。ひとり2、3千円もあれば満足感が得られるもの嬉しい&楽しかったですね。このスタイルは寿司、焼き鳥、居酒屋文化の日本とだいぶ近いものを感じました。
素材の料理方法はなるほど確かにこれまでのイギリス、フランスよりはバリエーションが豊富。もちろん全部のお店がイケてる訳では無いのですが、なんとなく入ったお店のハズレじゃない率は結構高いんじゃないかなと思います。短期間で星付きレストラン狙いで行くも良し、ゆっくり滞在してまちの空気を楽しんだり、馴染みのバルをつくるのも良し。まだアジア圏からの観光客は少ないのですが日本の食文化との親和性もあるし、多くの方に訪れてほしい場所です。
バスクの地ワイン、チャコリ。辛口微発泡の若々しいワインでだいたいこれを呑んでました。オーダーすると高い位置から注いでくれます。
まち。夜が来るとみんな一斉に食事スタート。路地まで溢れます。
新市街の創作系ピンチョス。素材の組み合わせ方、調理方法が面白い!
フィレ肉。いかにもグルメブロガーなドイツ人が食べていたのに触発されて。ワンコインステーキなのに超美味で滞在中三度食すことに。
関連記事:サンセバスチャン2.0。美食の街から文化の街へ。(後編)