「年収が上がり続ける人」の共通点は、ここ数十年の研究データで驚くほど明確に見えてきました。
ハーバード大学が1938年に開始した「Harvard Study of Adult Development」は、724人の男性を10代から老後まで追跡し続けている、人類史上最長の縦断研究です。追跡期間は87年以上。
研究代表者は4代にわたって交代し、後に被験者の配偶者と子孫1,300人も対象に追加されました。
現在の代表者Robert Waldinger教授のTEDトークは4,400万回再生されています。
この研究が出した結論は、多くの人の直感に反するものでした。
年収を分けたのは、IQでも、学歴でも、スキルでもなく、「人間関係の温かさ」だったのです。
今回は、この87年分のデータと、あらゆる研究調査などを交差させて、「人間関係の温かさ」がなぜ年収を上げるのか、そして具体的に何をすればその温かさを構築できるのかを整理しました。
研究を30年以上率いたGeorge Vaillant教授が2012年の著書『Triumphs of Experience』で公開した数字によると、IQ 110〜115の被験者と、IQ 150以上の被験者を比較したとき、ピーク年収に統計的な有意差はありませんでした。
IQが40ポイント違っても、生涯で稼ぐ金額はほぼ変わらなかった。
多くの人は「頭がいい人が稼ぐ」と思い込んでいます。
しかし87年間の追跡データは、その前提を完全に否定しています。
IQは学業成績や初期のキャリアには影響しますが、長期的な年収の上昇にはほぼ寄与していなかった。
研究チームは被験者に「Warm Relationships(温かい人間関係)」のスコアをつけました。
家族、友人、同僚との関係の質を総合的に数値化したものです。
このスコアの上位58人と下位31人のピーク年収(55〜60歳時点)を比較した結果、年間14万1,000ドル、日本円で約2,100万円の差が生まれていました。
人間関係の温かさスコアが違うだけで、年収にこれだけの差がついた。
「子供の頃、母親との関係が温かかった」と回答した被験者は、「冷たかった」と回答した被験者より、ピーク年収が年間8万7,000ドル(約1,300万円)高かったのです。
幼少期の人間関係が、40年後の年収にまで影響している。
このデータは「ハーバードのエリート群」だけでなく、「ボストンの貧困地域群」でも類似の傾向が確認されています。
つまり社会階層に関係なく、人間関係の質が経済的な成功の最大の予測因子だった。
「いい人だから出世する」という精神論ではありません。
人間関係が年収に効くメカニズムは、3つの研究で明確に裏付けられています。
MITとLinkedInの共同研究(2022年、Science誌掲載)は、2,000万人のLinkedInユーザーを5年間追跡し、20億の新しいつながりと60万件の転職を分析しました。
結果、転職に最も効果的だったのは「親友」ではなく「弱い紐帯」でした。
特に「共通の知人が10人程度」の適度に弱い関係が最も有効だった。
これは1973年にスタンフォード大学のMark Granovetterが提唱した「弱い紐帯の強さ」理論を、2,000万人規模で実証したものです。
温かい人間関係を幅広く持つ人は、この弱い紐帯が自然に増える。
結果として、他の人には届かない情報やチャンスが、向こうからやってくるようになります。
メカニズム2:「この人を推薦したい」が周囲に起きる
温かい関係を築ける人は、周囲に「この人を紹介したい」「この人と一緒に働きたい」という行動を自然に引き起こします。
ペンシルベニア大学のAdam Grant教授の研究では、「Giver(先に与える人)」が長期的に最も高い成果を出すことが証明されています。
ポイントは「見返りを求めずに先に価値を提供する」姿勢が、結果的にもっとも大きなリターンを生むということです。
メカニズム3:ストレス耐性が上がり、判断の質が長期間維持される
Grant Studyの核心的発見の1つは、温かい人間関係がストレスへの耐性を高め、意思決定の質を長期間にわたって維持させるということでした。
逆に孤立した被験者は、ストレスで判断を誤り、キャリアの重要な局面で間違った選択をする確率が高かった。
その判断の質を支えているのが、日々の人間関係の温かさです。
ハーバードの研究を別の角度から補強するデータがあります。
TalentSmartEQ社が50万人以上を対象に行った調査では、EQ(感情的知性)が高い人は低い人より年間平均2万9,000ドル(約430万円)多く稼いでいました。
EQスコアが1ポイント上がるごとに年収は約1,300ドル(約19万円)増加し、30年間で換算すると約50万ドル(約7,500万円)の差になります。
さらに、職場のトップパフォーマーの90%はEQが高く、雇用主の71%がIQよりEQを重視すると回答しています。
EQとは要するに「人の感情を読み、適切に関係を築く力」のこと。
ハーバードの研究が「温かい人間関係」と呼んでいるものの、測定可能なバージョンです。
重要なのは、EQはIQと違って後天的に鍛えられるという点です。
問題は、「具体的に何をすれば、その温かさスコアが上がるのか」という再現性のある方法論です。
ハーバードの研究+関連する5つの大規模研究から逆算して、5つのアクションに整理しました。
キャリアの機会は「親友」ではなく、「弱い紐帯」からもたらされます。
弱い紐帯とは、たまに会う程度の知り合いのことです。
しかもこの研究で最も効果的だったのは、「共通の知人が10人程度」の関係。
つまり、「知ってはいるけど、最近連絡を取っていない人」がまさにそれです。
今すぐスマホのメモを開いて、3ヶ月以上連絡を取っていない知人を10人書き出してください。
元同僚、大学の友人、前職の上司、勉強会で名刺交換した人。
内容は「最近どう?」でも、面白かった記事のシェアでも構いません。
この行動の本質は、「眠っている弱い紐帯を再起動すること」です。
連絡するだけで、あなたの情報ネットワークは確実に広がっていきます。
TalentSmartEQ社の50万人調査で、年収に最も影響したEQ要素は「関係管理」スキルでした。
いつもの半分しか話さず、代わりに質問を2つ増やす。
「聴く」は才能ではありません。「話さない」という意思決定です。
会議で最後に話す人は、全員の意見を聞いた上で発言できます。
さらに、「この人は自分の話を聴いてくれる」という信頼が蓄積されます。
年収が上がる人は、自分が賢く見える発言をする人ではありません。
③頼まれる前に「紹介」を切る。ただしTakerは切る
Adam Grantの研究が示す「Giver戦略」を手軽に実行する方法がこれです。
AさんとBさんが知り合ったら得をしそうだと思ったら、頼まれる前に繋げる。
「〇〇さん、△△さんと一度話してみませんか。たぶん合うと思います」
というポジションを取ると、情報が向こうから集まるようになります。
これを科学的に証明したのが、コーネル大学のKevin Kniffin教授です。
2015年、大都市の消防署50以上、上官395名を対象に15ヶ月間の調査を行った結果、一緒に食事をする頻度が高い小隊ほど、パフォーマンス評価が高いことが確認されました。
「一緒に食事をすることは、一緒にExcelシートを見るよりもはるかに親密な行為です。その親密さが仕事にも波及するのです」
同じくMITのPentland教授がBank of Americaのコールセンターで行った実験では、バラバラだった15分の休憩を「チーム全員同時」に変更しただけで、生産性が23%向上、従業員定着率が28%改善しました。
やったことは、一緒に休憩を取るようにしただけです。
週5回の昼飯のうち2回だけ、いつもと違う人と食べる。
このたった一言が、弱い紐帯の構築と心理的安全性の醸成を同時にやってくれます。
業務から離れた文脈で本音を共有する経験が、翌日の会議で、「実はこう思うんですけど」と言える空気を作ります。
5つのアクションの中で、もっともコストが低く、もっともリターンが大きいのがこれです。
ただし、「いつもありがとうございます」ではダメです。
たとえば、「先週の会議で、〇〇さんが△△って指摘してくれたおかげで、クライアントへの提案が通りました。あの一言がなかったら気づけなかったです」
Grant Studyで「温かい人間関係スコア」が高い被験者の共通点は、「相手の存在を具体的に認めていること」でした。
「ありがとう」は挨拶ですが、「あのとき、あなたがこれをしてくれたから、こうなれた」は、関係への投資です。
この習慣だけで、あなたの周囲の人間関係の温度は確実に変わります。
ハーバードが87年かけて証明した「年収が上がり続ける人の共通点」は、人間関係の温かさでした。
温かい関係スコア上位と下位で、ピーク年収差は2,100万円。
・最近助けてもらった人に、具体的な感謝を1通送る。30秒でできます。
・次の会議で、「話す量を半分にして、質問を2つ増やす」を試す。
・3ヶ月リストを棚卸しし、放置している関係をメンテナンスする。
今日1つだけやるなら、「具体的な感謝」を1通送ることです。
スマホを開いて、最近助けてもらった人に、「あのとき〇〇してくれたおかげで助かりました」と送る。
しかし、87年分のデータが示しているのは、その30秒の積み重ねが、10年後の年収を決めているという事実です。