今はメーカーのアフターサービスをやってるけど、2024年の4月までほとんど港湾の仕事をしていた。最後にやっていたのが船舶代理店で、24時間365日の仕事についていけなくなり鬱が悪化して辞めた。
船舶代理店という仕事は、ざっくり言うと「船が港に入って出て行くのに必要な手続きの代行」だ。船舶(以下、本船)は基本的に荷物の積み下ろし(以下、荷役)以外の時間は航行している。この為トラブルなどが、あれば朝だろうが夜だろうが対応しなければいけない。船舶代理店というのは本船と関係各社、官公庁との唯一の繋ぎ役だから、冗談ではなく24時間365日の対応を迫られる。前職ではその日に帰れるかどうかが17:00までわからなかった。本船がその日の何時に入港するかがわからないからだ。その会社は孫請けとかで船舶代理店をやっていたので、情報が降りてくるのが遅いのだ。週末の予定も金曜の17:00ではわからない。こんな勤務体系だと当たり前だが、予定を立てられない。本船の着離岸に立ち会う必要があるので、冬は寒く夏は暑い現場に出なければいけない。当たり前だがこんな仕事をやりたがる人など少ない。特に若い人が来ないらしいが、さもありなんとしか言えない。船舶代理店に限って言うと、不規則すぎる勤務になるので大手は外注に丸投げしているのが実態だ。外注先は土着の零細企業が多い。前職もその一つだった。
船舶代理店とは別に荷役監督をやっていた。文字通りの仕事で、荷役作業の監督である。会社風土や行う荷役にもよるのだが、俺はババ引かされまくったので、相当しんどい思いをさせられた。結果うつを患う羽目になった。荷役監督の主な業務は荷役計画の作成、実際に行われる荷役の監督である。計画については、船に積まれている貨物をどういう順番で取り出すか、陸で準備した貨物をどうやって船に積むか、ということを計画することである。監督の方は、不安全な行動をしていないか、などの監督である。要は現場監督なのだ。つまり安全だけ見てれば良いわけではない。関係各所の調整が主な業務になる。責任を取るのは監督だけだから、各所から言いたい放題に言われて、どうにか落とし所を見つけて軟着陸させる仕事だ。これも当然外仕事だから暑い寒いがあるし、契約にもよるが荷役が終わるまで現場を離れられないことがある。日付を跨ぐなんてことはしょっちゅうだった。土日を休めないことも多かった。
こんな駄文を読んでくれた人ならわかると思うが、若い人がめちゃくちゃ嫌いな仕事だ。特に荷役監督はいい歳こいた関係者が多かったので、電話で話した時間のほとんどは怒鳴られっぱなしだった。おまけにスケジュールがすぐ乱れる。残業どころか家に帰れないことすらある。しかも外仕事。実際問題人手不足が深刻なのだという。
2024問題などで「日本の物流がヤバい」ということが本当に少しずつ広まり始めている。しかし港湾はとても閉鎖的だから、その実態があまり知られていないのが現状だ。
人手不足よりも深刻な問題が、日本に寄港する航路が減り始めていることだ。リーマンショックなどで本当に死にかけた船会社たちは、一度の航海で大量の貨物を輸送する、という形の効率化に舵をきった。どういうことかというと、釜山くらいの規模のハブ港に巨大なコンテナ船を入れて、近隣の港へ運ぶコンテナをまとめて下す。下ろしたコンテナを2回りくらい小さな船に積み替えて、日本だったり中国の小さな港だったりに運ぶ。ちょっと考えればわかることだが、これは巨大船の運航は効率が良いのだが、コンテナを運ぶということを見ると手間のかかる話だ。日本の港に1回で持ってくれば、積み替えの手間、ハブ港からの別船による輸送費用はかからない。つまり現状輸入品の多くは、輸送コストに余計なものが乗っているということだ。
不健全な話だがコロナ前くらいまでは、船会社や乙仲(フォワーダー)がこれらのコストを負担していた。おかげで「モノ」の値段は抑えられていた。しかし昨今の環境問題への対応や、原油高騰などを受けて、上記のコストが跳ね上がった。もう日本の船会社や乙仲が抱えられるものではなくなり、このコストを荷主(メーカーだったり商社だったり。色んな企業がある)に投げるようになった。メーカーだったらまだ悩むようだが、商社なんかはそのコストは平気でエンドユーザーにぶん投げた。これが全てではないが、最近の物価高の要因の一つになった。
そもそもコンテナ船が直接日本に来れば発生しないコストだ。何故にハブ港を経由するのか。理由は簡単で、日本の港は不便が多い上に金がかかるからだ。不便が多いというのは、船の運航の妨げがあるということだ。現在日本の船内荷役作業員(ステベ)の労組はめちゃくちゃ強い。ストなんか平気でやる(何でそんなに強いのかは三代目山◯組のことを調べるとよくわかる)。東アジアのほとんどの港は24時間365日荷役を行う。おかげで本船は最小の滞在時間で航行できる。しかし日本は未だにステベが強過ぎるので、「夜〇〇時まで仕事したから、翌日は明け休み」などの理由で荷役が止まることがある。せっかく巨大船を用意してもこんな理由で荷役が止まれば、運航効率は悪くなる。加えて本船の運航にかかる料金が高い、というデメリットもある。巨大船を入出港させるには、パイロット(水先人)やタグボート、綱取り船などいくつかの業者が絡む。これらの料金が中韓に比べると高いのだと言う。更に荷役料も高額だ。荷役監督をやっていたころ、「うちはとにかく給料が安いというから、ウチのステベにはあまり無茶が言えないな」とおもっていた。ある時特段親しいわけでもないステベの手取り額を聞いて愕然とした。当時の俺の手取りの2倍以上もらっていたからだ。当時はただ怒りしかなかったが(彼らより深夜荷役や休日出勤が多かったから)、今思うと「役職付きでもないステベにあれだけ払うには、相当な荷役料をもらっていたのだろうな」ということがわかる。結局巨大船の運航会社からしたら、スケジュールは遅れるし、コストはかかるし、で日本に寄港させても良いことがないのだ。
しかし日本は不景気だなんだと言っても、顧客としては優良な部類だ。ハブ港からの二度手間輸送のコストもちゃんと払う。一方で海外の船会社からは見捨てられつつある。彼らが日本にコンテナを持ってくるのは、あくまで日本が金払いが良いからであって、もしこのコストに反発すれば容赦なく見捨てるだろう。だからといって日本の港湾業界が、この状況をどうこうと言う話は聞こえてこない。せいぜい「作業員の成り手がいない」とかの悲鳴くらいだ。
この辺東南アジアの国々は相当な切迫感を持って、港湾設備の改造に注力している。シンガポールやベトナムなどは、巨額の投資を行い先進的な港を建造している。島国だから本船の寄港は生き死にの問題に直結するとわかっているからだ。
これまでに日本の港が生まれ変わる機会が無かったわけではない。釜山は開港した時からハブ港だったわけではない。日本が先行するチャンスだってあったはずなのだ。しかしお役所よりもひどい縦割りシステムと、横並び状態を維持したい港湾業者がことごとく潰してきたのだ。
港湾の外にいる人にはわかりづらいだろうが、この「横並び」の維持こそが日本の港湾の癌である。江戸末期に開国させられ船による貿易が再開した。当時も船に合せての荷役だったため、スケジュールの安定しない仕事だった。今は本船がクレーンを搭載していたり、陸側でラフタークレーンを用意して、半自動の荷役ができている。しかし、幕末の時代にそんなものはどこにもなかった。なので人力で荷物を下ろしたり積んだりするしかなかった。作業員と名のつく仕事はみんなそうだが、とにかく力の必要なな仕事だった。船内荷役に必要な人材とは①力がある②無茶なスケジュールに対応できる、人物だった。①はそれなりにいただろうが、②の方は当時の状況でも厳しかった。ところがこの条件を満たせる人たちがいた。まともな職に就かないヤのつく人たちだ。ちょっと突っ込んだ説明をする。力持ちの流れ者にやらせようと思うと、賃金の支払いなどをそれぞれに対して行わなければならない。これは結構な手間になる仕事だ。この作業員と荷主の間に入って手数料をガメて窓口になる人たちが現れた。これこそが今に残る船内荷役業者である。ごろつきどもを束ねる人たちだから荒事には慣れていた。更に業者同士の棲み分けの必要性もよく理解していた。このおかげで港湾荷役業者は細分化し、超零細荷役業者が今日まで生きながらえているのだ。
この有様で何が困るかと言うと、業務の集約化ができないことだ。今様々な企業が若い人の囲い込みを急いでいる。そのために提携等で集約化して体力をつける企業もある。細分化され過ぎた港湾業者はこういうことができない。無駄に労組が強いのもあって、効率化のために集約を図ろうとすると、確実に淘汰される零細企業が喚き出して御破算にする。こんなことを何十年も続けているのが日本の港湾業界だ。
一つどでかい悪循環に陥っているのが港湾業界だ。①荷役その他のコスト高、効率の悪さで海外船社が日本の寄港をやめる。②物流コスト低減と作業員確保のために業務を集約化し、効率改善を図る。③しがみつく零細企業が喚き出し有形無形の抵抗をする。④日本寄港のメリットがない、と海外船社はますます離れていく。 即物的な問題としては、今の構造が続くとコンテナを運ぶだけでも余計なコスト(荷役料等)がかさみ、それがエンドユーザーにもぶつけられることになる。これまで叩きに叩いた経緯があるから、この費用は相当な高額になる。要するに物価高が加速するということだ。
今はまだトヨタなどの金払いのいい企業があるから、日本にコンテナが届いている。しかしこの先、金払いが悪いと判断されれば、海外船社は容赦なく日本を捨てる。現実捨てられつつある。日本の対応は東南アジアよりも遅れている有様で、もはや先進国とも思われていないのだ。状況は喉元にナイフを「突きつけられている」のではなく、もう「刺さってしまっている」。何をどうしようが出血は避けられない。島国日本の浮沈がかかっている状態だが、それが周知されているとは到底思えない。
人間で言えば港湾というのは口に相当する。ここからモノが入って色んな機関を巡って末端にモノが届く。今日本は口を開けても誰からもモノがもらえなくなりかけているのだ。

















