## "思考と行為のあいだに違いはないのだ" > この新しい尋問者たちはウィンストンに軽微の苦痛を与え続けるようにしてはいたが、苦痛に主眼を置いているわけではなかった。たしかにかれらは彼の顔に平手打ちを加え、耳をひねり、髪を引っ張る。片足で立たせ、排尿を許さず、涙が止まらなくなるほど目に強烈な光を当てる。しかしその目的はひたすら彼に屈辱感を味あわせ、議論し推論する能力を破壊することなのだ。かれらの真の武器はどこまでも、何時間も続く情け容赦のない尋問だった。彼の揚げ足をとり、罠を仕掛け、彼の言うことをすべて捻じ曲げ、嘘や矛盾を見つけると一つ残らず断罪するのであり、結果として彼は屈辱にまみれ、神経が参ってしまって、泣き出さずにはいられなくなるのだった。一回の尋問中に六度泣いたこともある。たいていの場合、かれらは金切り声で彼を罵り、彼が少しでも言い淀むと、看守の手に戻すぞと脅かすのだが、不意に口調を変えて、彼を同志と呼び、<イングソック>と<ビッグ・ブラザー>の名前を出して情に訴えたりもする。党への忠誠心が多少とも残っていて、犯した罪を帳消しにしたいとは思わないのか、と悲しげに問いかけるのだ。尋問が何時間も続いた後で神経がぼろぼろになっているときには、こうした問いかけによってさえ、思わずすすり泣いて涙が出てくる。つまるところ、看守の拳やブーツ以上に、かれらのどこまでも責めさいなむ声が完膚なきまでに彼を叩き潰したのだった。彼は命ぜられるがままに何でも言う口、何でも署名する手になった。彼が考えるのはただ一つ、かれらが自分に白状させたがっていることを察知し、察知したら新たな拷問の始まる前に素早く自白してしまうこと。彼の告白は党の有力メンバーの暗殺から、扇動的なパンフレットの配布、公金横領、軍事機密の横流し、あらゆる種類の破壊活動にまで及んだ。1968年の昔からイースタシア政府から金を貰ってスパイ活動をしていたと告白した。宗教の信奉者、資本主義の礼賛者、性倒錯者であると告白した。妻がまだ生きていることを彼は知っており、尋問者も知っているに違いないにもかかわらず、妻を殺害したと告白した。何年にもわたってゴールドスタインと個人的な接触があり、ある地下組織のメンバーとなっており、知人のほぼ全員がその組織のメンバーであると告白した。なりふり構わずあらゆることを告白し、あらゆる人間を連座させてしまうほうが楽なのだ。その上、ある意味では、それはすべて真実だった。間違いなく彼は以前から党の敵だったのであり、党の目から見れば、思考と行為のあいだに違いはないのだ。
ジョージ・オーウェル/高橋和久訳『一九八四年【新訳版】』ハヤカワepi文庫、2009年












