31
「奢ってくれるっていうから焼肉とか期待したんですけど、なんでサーティワンアイスなんすか」「お前この前31になったんだろ、ちょうどいいじゃん」
会社の先輩にそう言われて、そういえば少し前に誕生日を迎えていたことを思い出す。誕生日が来ても嬉しくもないし誰かに祝われることもないので、自分でもすっかり忘れていたのだ。同じだけ歳を重ねてもそれまでの生き方が違えば、人によってはいくつになっても誕生日を意識することはあるのだろうが、おれはない。ついでに言うと他人の誕生日も興味はなく、親兄弟の生年月日さえうろ覚えだ。これを人に正直に言ったらそれだけでどういう生き方をしてきたのか、察せられてしまうだろう。
「今後1年の抱負は?」「ないです」「即答すな」と突っ込まれたものの、本当にない。
「結婚するとか」「結婚したいとか子供欲しいとか思ったことないんですよ。あ、強いて言うならラーメン二郎再制覇したいですね、今度沖縄店できるんで」鼻で笑われたが、これも本当だ。おれの欲求は31歳まで変化するどころか13歳くらいから変わっていない気がする。正常ならいわゆる社会的な欲求というものがそれこそ思春期から強くなるらしいが、おれの脳内は未だに3大欲求でほぼ埋め尽くされている。というか、それが満たされてこなかったので社会的欲求が成熟する段階にまで至れていないのだろう。
「子供は可愛いぞ〜」と先輩はにんまり笑って、スマホの待受を見せてくれる。娘を抱きしめる奥さんの画像だ。おれはギリギリ口角を上げて表情を作ったが、何の感情も湧いてこなくて内心困った。昨夜ガチガチのティッシュでいっぱいになったゴミ袋を捨てたものの、それは体の欲求の結果で心の望みによるものではない。おそらく、子供を欲しいと思う人の気持ちというのは、自分には一生理解できない。
「仕事どうよ、最近」「上から言われたこと淡々とやってます」今度こそ呆れ果てた顔をして、先輩は苦笑した。そんなリアクションをされても、おれの仕事は砂漠に水をまくような内容だし、いくら業務量が増えようが残業しない限り給料も変わらないのだ。亡き父親から”サラリーマンのやるべきことは上司の指示に素直に従うことと他人の仕事を増やさないことだけだ“”成果を求められる空気があってもお前には求められてないと思っていいからな”と就活中に耳にタコができるほど言われた。こういう社会人にはなりたくねぇなと思っていたが、徐々に父親の言っていたことがわかってきて、今ではすっかりその教え通りに生きている。
〇〇歳、何が正解なのやらと毎年考えるふりをして、何も変わっていない気がする。














