地元・岩手の技術がヒントに。伝統と革新が融合した、「会話」を生み出すバッグたち/コシェルドゥ・澤藤詩子さん(デザイナー)【後編】
岩手産の成島和紙を使い、岩手の伝統的な漆の技法で仕上げた個性的なバッグをつくるコシェルドゥの澤藤詩子さん。パートナーの小笠原 禎さんとともに、東京で10年間続けたアトリエ兼ショップを閉め、さまざまな手仕事の技術が残る岩手に拠点を移した澤藤さんは、うらやましくなるほど穏やかな環境で、静かにものづくりと向き合っていました。
「見た目だけでは紙だとわからないみたいで、よく『鉄でできてるの?』って聞かれるんです。『面白いと思うけど、そんな重いものは持てないよ』って(笑)」
澤藤詩子さんが、パートナーの小笠原 禎さんとともに始めたコシェルドゥは、張子の技術で和紙を成形し、漆で仕上げたバッグや雑貨で人気のブランド。澤藤さんが話すように、パッと見ただけでは紙でできていると思えないバッグは、手に取ってみるとその軽さに驚かされます。このユニークなバッグたちは、澤藤さんの実家が、岩手で張子の民芸品をつくっていたことがきっかけで生まれたんだそうです。
「子どもの頃に、張子のお面をつくったことはありましたが、当時はあまり面白いと感じなかったし、家業を継ごうという思いもありませんでした。でも、自分でものづくりをするようになって、あの技法を使えば、想像した形をもっと簡単につくれるんじゃないかと、ふと思ったんです。張子なら、革ではできない細かいディテールが表現できるし、コストも安くなるなと。そしてなにより、その軽さというのが大きな魅力でした」
高校卒業後、役者になることを志して上京した澤藤さんは、当時から舞台衣装や小道具などのものづくりも好きだったそうです。そして、役者の下積み時代に映画の仕事を通して小笠原さんと出会ったことをきっかけに、衣装や美術などのモノを通して自分を表現することに魅力を感じるようになり、やがてふたりで下北沢にアトリエ兼ショップを構えるようになったのだとか。そのお店が当初からの目標だった10年を迎え、次のステップを模索する中で出てきたのが、張子を使ったバッグのアイデアでした。そして、張子の技術を一から学ぶために、はじめは1年間のつもりで、岩手の実家に戻ったのだといいます。
「岩手には、浄法寺塗という漆の技術もあるので、これをバッグに取り入れたらどうかと考え、小笠原が近所の先生のところで漆を勉強するようになったんです。技術を習得したら東京に戻るつもりだったのですが、紙に漆を塗るというのは、あまり他の人がしていなかった試みで、試行錯誤しているうちに予定の1年が過ぎ、結局そのまま現在に至るんです(笑)」
漆と張子の技術を組み合わせた小鳥のバッグが初めて完成したのは2010年。そこから、岩手の方言で「こしらえる」を意味する「coshell」という言葉を冠した「coshell 2(コシェルドゥ)」としての活動が始まります。
「最初は、深く考えずに岩手に来たのですが、バイヤーさんとの話などを通して、多くの人たちがつくり手の顔やものづくりの背景が見えるものを求めるようになっていることに気付いたんです。それなら、岩手にある技術を新しい形に変えて伝えていくということが、自分たちの強みになるんじゃないかと考えるようになりました」
現在は、穏やかな田園風景が広がる奥州市胆沢にある一軒家をリフォームし、アトリエ兼住居として使っているコシェルドゥのおふたり。自然豊かな環境で製作に励んでいるふたりは、朝4時に起きて草刈りをしたり、DIYで家のリフォームを進めたりと、生活のスタイルも東京にいた頃から大きく変わったそうです。
「東京にいる時は刺激を求めていて、人と接する機会も多かったのですが、ここにはほとんど誰も訪ねてきません(笑)。穏やかな気持ちでものづくりに集中できるのは気持ちが良いですし、白鳥やリス、シジュウカラなど、自然に目に入ってくるものを表現したいという思いが強くなりました。また、こっちに来てからは、静かな環境でものづくりをされている職人さんたちの姿を目にすることも多く、とても素敵だなと感じます」
誰にも邪魔されず、穏やかな環境の中で生活を営みながら、ものづくりに勤しむふたりもまた、まさに職人のイメージにピッタリ。そんな澤藤さんは最後に、こんな思いを語ってくれました。
「私たちは、下北沢でお店をしていた頃から、お客さんが入ってくる度に緊張して、ろくに挨拶もできないほどの人見知りなんです(笑)。だからこそ、自分が持っているバッグに興味を持って話しかけられたりすることがとてもうれしいんですね。自分たちの作品がコミュニケーションツールになって、知らない人たち同士がおしゃべりをするきっかけになったらいいなと思ってつくっているところがあるんです」
高校卒業後、青年座研究所に入所し役者を目指す。退所後は女優さんの付き人として、映画やテレビドラマ・舞台などの現場を経験する。映画撮影所で映画の小道具・衣裳などの製作に興味を持ち、もの作りを学ぶため、文化服装学院ファッション工芸科へ入学。3年間バッグや帽子、アクセサリーなど服飾雑貨の製作を学ぶ。
1996年に「コシェル」を立ち上げ、1999年に小笠原と共に東京・下北沢にアトリエ兼直営店をオープン。
日本独特の宣伝文字などが入った“前掛け”をリメイクしたバッグや小物や、小笠原禎が描くどこか昭和の懐かしさを感じる“やればできるTシャツ”などを展開。2010年7月、東京のアトリエを閉店。岩手県に移転し、2011年2月より「コシェルドゥ」と改める。
岩手の地域資源である「浄法寺漆」や「成島和紙」、漆塗や張子などの工芸技術を使った商品開発に取り組む。張子の自由なカタチが作れる特性を生かした、ただ持つだけでなく、持つことによってコミュニケーションが生まれるような楽しいバッグやアクセサリーを展開中。
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