A short Giulio x Gian story detailing an encounter the two have prior to their escape of Madison Prison. Originally published in Cool-B magazine.
A transcription of its contents can be read below:
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なんで、いないんだ? シマシマ服の囚人が群れる運動場をもう一度見回し、首を傾げる。
ベルナルドの運動時間の割り当ては、俺とおんなじ筈だ。隣の房の房だし。
向こうの方で、いかにもかったるそうに、「CR:5」幹部の一人であるイヴァンが肩とか首とかをブン回している。体操のつもりだろうか。
馬鹿正直に運動時間に運動って。ムショ慣れてねえな、アイツ。
絡まれたら邪魔くさい、目ぇ合わせないようにしよ……さりげなく横に視線を外す。
── と、予想外の視線とぶつかって、俺は無意識に瞬きした。
数歩離れた場所でコッチを見ていたのはジュリオ──こいつも我等が「CR:5」の一員、幹部の一人だ。
内心驚きながら声を掛けると、ジュリオは軽く目礼して近付いてくる。穏やかな無表情といった、いつもの落ち着いた風情だ。
いつからコッチ見てたんだろ。本当、気配感じさせねえな──。こうして横に来ると、奇妙なくらい存在感があるってのに。
「ジュリオ。俺、ベルナルドに話があるんだけどさ、知らないか?」
「面会じゃ、ないですか。いつもの弁護士……毎日のように、来てますから」
「やっぱそうかね? 昨日は言ってなかったんだがなぁ──」
「ああ……例の件の、アレのソレの。まぁなんだ、ここじゃとても言えなぁ〜い相談、で?」
脱獄の相談してました、なんてココじゃモロに言える筈もないので、周囲を意識して下ネタかのようにいやらしく笑ってみせる。
俺は、ジュリオの呟きを半分聞き流していた。思い付きでしゃがみこみ、地面の小石を拾っていたから。
立ち上がると、小石の重さを確かめるように掌を上下させて、それから目標の方向を注視する。
俺はニヤッと笑い、肩をヘたててる人影が途切れる瞬間を見計らって──華麗にスロー!
イヴァンが慌てた声を上げている。驚いてキョロキョロ周囲を見回しているが、何が起こったのか分からない様子だ。
「刺殺大成功、ツーアウト。リック・フェレルにゃ負けないぜ?」
ふと見れば、横でジュリオも、拾ったらしい小石を掌に載せていた。
無造作に、ほとんど手首だけの動きでジュリオが石を投げた。人の切れ目のない、イヴァンがどこに居るのかも見えない状況で。
なのに石を放ったジュリオは、興味なさげにすぐ背中を向ける。
「──アッ! なんだ、鳥のフンか!? 違う、一体、誰だおい、…………!!」
騒がしい声だけが耳に届いて、石が見事、イヴァンに着弾したことが知れた。
……すげえ。感心して、ピューッと口笛を吹いてしまう。
流石、と言うべきか──垣間見たジュリオの運動能力に、俺は心底感心した。
ジュリオの二つ名は「ナイフ使い」だ。……「狂犬ジュリオ」なんて呼ばれているのも聞いたことがあったな、そういや。実際に戦っているところを見た機会は一度もねぇが、コイツの率いる実戦部隊は「CR:5」最強って噂だ。コイツの表情乏しげっぽい落ち着きとか、俺に対するやたら丁寧な態度からは、どうも想像できねぇんだけど。このシマシマ囚人服が、俺の目ぇ曇らせてんのかね──。
今の名ピッチにも、騒ぐイヴァンの方にも、全く意識を裂いていない冷静さで、ジュリオが小首を傾げる。ほんの少し、不思議そうに。
珍しく、素の感情が見えていた。ごくたまに、コイツは、少し幼い表情になる──。
「ベルナルドを……探しに行くんでしょう? 付き合います」
イヴァンが八つ当たり気味に周りの奴等に絡んでいるっぽい声が聞こえ始め、俺は急いで離れた方向へ歩き出した。ジュリオもついてくる。
「なお前、やるじゃん──捕殺王の座は、残念だけどお前に譲るわ」
親しげに背中を叩くと、ジュリオは照れたように目を伏せた。
予想外の方向から声が掛かり、そっちを見れば幹部仲間のルキーノだった。さっきの石投げを見ていたらしい。俺は舌を出し、肩をすくめる。
運動場の入り口で監視している看守は、今日はロイドだった。ラッキー、こいつは基本、囚人に甘い。ちょっと場を外すくらいなら見なかったことにしてくれる。
「了解。いってらっしゃいジャンカルロ。……ね、見学しても良い?」
横を通り過ぎつつ、ジュリオは不審そうな目でロイドを見ていた。……ロイドは悪いヤツじゃないんだが、本気の変態なだけ、困ったトコなんだよなぁ。
通路をこっちに向かってくる長身に声を投げると、驚いた顔でベルナルドが健足を架る。
「ジャン? ジュリオも。どうした? まだ運動時間だろう、看守は?」
「ちょい抜けてきた。すぐ戻るからって。そっちこそ?」
辺りに人の気配はない。こりゃあ、秘密の相談をするには、またとない好機ってヤツだ。
俺はベルナルドの横に並び、来た道をゆっくり戻り始めた。
ちらりと背後を見てベルナルドが確認する。ジュリオに聞かせても良いのか、という意味だ。さっきからジュリオは黙って、俺の半歩後ろを歩いている。
確かに秘密の情報を知る人間は、少ない方が良い。だが、ジュリオなら問題ないだろうと思えた。
俺は、脱獄の準備について、ベルナルドと手早く相談を進めた。
ちょっとでも余所に漏れれば即アウト、スリーアウトチェンジの超ヤバい内容だ。
ジュリオは、会話が耳に入っていないようなポーカーフェイスで黙って後を付いてきている。空気読んでて有り難いね。
──考えてみると、この話の内容、あのうるさいイヴァンには絶対聞かせたくねえ。……ルキーノもなぁ、信用していない訳じゃないが、聞かせず済むなら聞かせたくないかもな。
自分でも、なんでジュリオなら平気なのかは、よく分からなかった。
……面と向かって言えないけど、友達居なさそうだから、かね。
そんなことを考えていると、ベルナルドがジュリオに話を振った。
素っ気ない一言に、ベルナルドは優しい微笑を口元に浮かべる。
「そうか。ならいい。しかしお前、何についてきたんだ、護衛のつもりか? 未来のボスの」
「え? や、たまたま居たから、付き合わせただけだって」
俺は慌てて否定した。イヴァンの頭に石ぶつけた同士でもあるし。
ジュリオは小さく「護衛……」と呟いて、続けて何か言うかと思ったら、黙り込んだ。
沈黙をフォローするように、ベルナルドが俺とジュリオの肩を叩く。
「機会があれば、どんどん打ち解けておいてくれよ? これから、いざという時の為に気心知れておくべきだ」
「うお! ベルナルドに兄貴風吹かされるなんて、何年振りデショ」
「くくっ、俺は、兄貴風そんなにも吹かせてた覚えはないぜ──?」
肘で小突き合っていると、黙ったままのジュリオが表情を硬くした気がした。
このまま三人一緒に戻って目立つのは良くない。なので一番前に出ていたベルナルドが先一人戻る、というのを視線と頷きで了解し合った。
「言い忘れは無いか、ジャンカルロ? 大事な話は次の機会に、じゃ駄目だぜ? それから懲罰房だけは回避してくれよ」
「言われなくても分かってるって……むしろコッチの台詞だから。それじゃ、さっきの話、頼むぜベルナルド・ハニー?」
ウインクと投げキッスを残し、ベルナルドが先に行った。
ふぅ。ベルナルドと軽口を叩き合ってると、まるで塀の外に居るような気分になる。俺がもっとガキで、あいつもまだ幹部じゃなかった頃の──。
──良いお返事ですけど、や、なんか、お前の周囲の空気マジ硬いんですけど?
こいつって、微妙に感情が貧しいか、それとも顔面の表情が乏しいタイプかと思ってたけど……明らかにキツい熱さが今、瞳の奥に見え隠れしている。
ジュリオが何に怒ったのか、全く見当もつかず、次の言葉に迷う。ベルナルドと二人でマジな話に夢中になってたから? でもそれは仕方ないし納得もしてたよな?
あ、それとも……。ホモネタの冗談を嫌がってすぐ騒ぐイヴァンが、頭に思い浮かんだ。
「さっきの軽口、不愉快だったとか? ダーリンとかハニーとか」
「そ? あれは随分昔から、俺とベルナルドの間じゃお約束のネタで……」
ピクッと、ジュリオの眉が揺れたのは、瞳の錯覚だろうか。
まだ微妙に空気が悪い。……そもそも何で俺が、言い訳せにゃならんのだ?
「……ジュリオ、先に行ってくれよ。別々に戻ろうぜ」
気詰まりなのと、半分は本当に人目を気にして、俺はそう言った。
ジュリオが運動場の方を横目で見る。そして、聴き取れるギリギリの声量で呟いた。
「……俺は、ジャンさんのことを、ほとんど知りませんから」
でも、どうしても聞き流せなくて、俺はジュリオに掛ける言葉を懸命に探した。
そんな俺の内心に構わず、ジュリオは小さく頭を下げ、歩き始める──。
「なあ。俺だってお前のこと、まだロクに知らないんだぜ?」
強張りの減った、代わりに少し落ち着きの消えた声で言い残し、足早に運動場へ歩き去った。
よく分からない男、一つ年下の幹部ジュリオ・ディ・ボンドーネ──。
これから先、アイツの「ナイフ使い」の腕前を目の当たりにする時が来るんだろうか。もっと内面を知る機会が来たりするのだろうか。
無事にデイバンに戻ってから、それとも何年か先、いつかマブダチになったりとか?
あいつは、たまーに幼い表情を見せるけど、まだ笑い顔は見たことがない──。
俺は、去っていくジュリオの俺より縦に長い背中を眺めながら、そんなことを考えていた。