コンソールの音(Helios編)
今、世の中の空気とすれば、機材の音が音楽に及ぼす影響を高く見積もるのは「分かっていない」人の行為にされがちではありますよね。プロの方々も「大事なのは機材より音楽だ」と仰いますし、実際、プロにコンソールの違いのようなことを尋ねても、面倒くさそうにはぐらかされてしまうのが常ではあります。
その一方で、自分はコンソールの音の違いがどこにあるのか、だいぶ前から探ったりしていました。自分は古い Helios のコンソールからモジュールをラッキングした物を使っているのですが、作っている音楽はアーカイブされた音の再構築をベースにしています。なのでアーカイブされている Helios の印象をある程度は正確に捕まえて、その違いを分類しておくくらいはやっておかないと、自分の音楽がアーカイブされた音を無視する形になってしまいかねません。Discogs や Sound on Sound の記事には、本当にお世話になっていますよ。
Helios というコンソールは、ロンドンにあった Olympic Studios のエンジニアであった Dick Swettenham が、当時の Olympic Studios 用に製作したカスタムコンソールが原型になっているようです。そういう意味では60年代後半からの Olympic Studios の音を Helios 的な音として捉えても、大きくは違わなさそうです。
Traffic - Dear Mr. Fantasy
The Jimi Hendrix Experience – Axis: Bold As Love
Led Zeppelin - Led Zeppelin II
この辺りの音は、厳密には Helios の音ではありませんが、大枠とすれば Helios の音の内として分類しても良いと思われます。
Helios は Island Records の依頼で Dick Swettenham が Basing St. Studios の卓を制作したことで立ち上がった会社と本人が生前に記録していますので、 Basing St. Studios で制作された以下のアルバムなどは、Helios の音と言えるのだと思います。もちろん、どれも詳細な記録が残っている訳ではありませんので、細かく見ていけば違う音も混じっているとは思いますが。
Genesis - The Lamb Lies Down on Broadway
Eagles - Desperado
Helios は、スタジオに設置された卓ではなく、トラックに設置された移動式の環境でも(Rolling Stones Mobile Studio)伝説的な録音が生まれています。
The Rolling Stones - Exile On Main Street
Deep Purple - Machine Head
あとは、10cc の Strawberry Studios も Helios で有名なのでこちらも載せておきます。
こうやって Helios の音だけを並べて聞いていても気が付きにくいのですが、Neve や API の卓などと比べると、Helios は低域が柔らかく広がっていく方向の音に大きな特徴があると言えます。60年代の音楽の録音は、今の録音のように個別の音を、近接マイクではっきりくっきり拾いにいくというよりは、ルームマイクの音を基調にした録音のやり方だったでしょう。なので、Helios ではマイクの近接効果的な、そういう距離感のマイクの音を前面に出す仕上がりは、あまり想定していないように感じます。拾える帯域が広く、感度も質感も高いマイクをルームマイクとして立てて、その音にメルヘンと言いますか、幻想的な倍音を乗せて世界を作っていくのが Helios が想定していた録音なのではないかと、もちろん個人の感想ですけども。
70年代に入り、多チャンネル録音が一般化し、各楽器の音が同じ空気で混じり合った状態よりは、分離された録音が未来的であるというトレンドになると、Helios でも部屋の残響音を排除した音を前面に出す使われ方になっていきますが、Helios の音はそういう分離感の良いドライな音像とは、あまり相性の良いプリアンプではないのかもしれません。結局、Helios は70年代後半になると、居場所を失ってしまったように見受けられるのです。マイクの近接効果なども含めた分離の良い音は、Neve や API の方が得意というのはあったのではないでしょうか。
例えば今、プラグインなどでも Helios の音を利用することができますが、マイクをソースに近づけた音を Helios に入れても、アーカイブされた音の印象からすると、印象の散漫な音になってしまいませんかね?
言ってみれば、自分ら素人が職業音楽家の方々の、機材の音より「音楽」が大事だ、をそのまま受け取っていたら、曲だけはしっかりしてても、同じ空気を介さない分離された音を Helios に突っ込んで、印象の散漫な音を完成させていたりすることも、普通に起こり得るのだと思います。
新たなレシピを開発するというのは、結果オーライの延長線上にある話ではないと思います。組み合わせる素材のことをちゃんと知ることが、やはり必要なのだと思いますけどね。














