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<未来をこころざすシンセ:Roland V-Synth review> 後編:V-Synth の背景・誕生・そしてシンセの未来へ
あまりに情報量が多すぎるので、2分割します。 「前編:V-Synth の紹介と、仕様解説」 「後編:V-Synth の背景・誕生・そしてシンセの未来へ」
以下、後編です。
●その他特記事項
‘72 年に創業したローランドが、国産初の量産型シンセ SH-1000 を、偶然ミニコルグ 700 とともに発表発売したのが、翌 '73 年。SH-1000 は、すでにプリセット音色をいくつか持ち、なおかつ自力で音も創れる本格的シンセであった。'73 年当時、無名のメーカーが、いきなり出した本格的な電子楽器。そんな調子で、たとえば Sequential Circuits が prophet-5 を出し、ensoniq が mirage を出し、Clavia が nord lead を出し、ASM が Hydrasynth を出した。これからもぜひ、どこか無名のメーカーが、なにかとんでもない革新的な電子楽器を出してくれないかと期待する。
そして '73年の SH-1000 にはじまったローランドのシンセは、それから 10 年後弱の '81 年には Jupiter-8、さらにその 10 年後弱の '91年には JD-800、そしてその約 10 年後すなわち初代 SH-1000 から 30 年を経た '03 年、ついに V-Synth へと進化した。V-Synth 発表から約 10 年後の 2014 年には、ACB 技術を動員した高精細モデリング音源の AIRA シリーズが誕生。その数年後には、Analog Behavior 音源、さらに Zen-Core Synthesis System や、クラウド上で動作する Roland Cloud プラグインが出た。
ほぼ 10 年おきにこれだけ進化するのだから、技術革新とはおもしろいものである。創業半世紀を迎える 2022 年には、クラウド全盛になっているのだろうか?
1.V-Synth が誕生するまで ~ サンプラーの未来を描く
V-Synth は、史上初の VariPhrase シンセでもあり、COSM シンセでもある。
VariPhrase そこのけに時間をさかのぼり、年月をさかのぼって、音源方式の歴史をざっくりひもとけば、パイプオルガンにはじまる倍音加算方式、moog などにはじまる減算方式、DX の FM 合成に代表される変調方式、サンプリングに端を発する PCM 音源、その変種となるのかウェーヴテーブル音源、そして最後はモデリングということになるのだろうか? そこからすると、V-Synth は、そのどれでもない、進化論から外れた個性派、異端児、変態音源方式ということになる。他にはない魅力のひとつに、この個性がある。
ローランドから初めて VariPhrase が出現したのは、西暦 2000年1月のナム・ショーでのこと。このときは VP-9000 VariPhrase Processor という謎の2U音源モジュールとして、登場した。
VP-9000 は音源波形を持たず、外部音声をサンプリングし VariPhrase エンコードして揮発性の波形メモリーにたくわえ再生するだけのマシンだったが、サンプラーの進化形としてではなく、新型音源方式を採用した新種の楽器であることを示すため、Sampler ではなく「VariPhrase Processor」というサブタイトルが与えられていた。
「これは新世代のサンプラーなんかじゃない、言ってみれば新種のサンプラーみたいなものだ(This is not a new generation of sampler, it’s a new kind of sampler.)」
エリック・パーシングは、そう言った。
まさに未来から来た新種のプロトタイプのようなしろもので、恐らく史上初のオーディオ・グルーヴ・クォンタイズができ、音色データの保存のため当時最先端だったリムーバブルメディアの 250M Zip ドライヴと大小2つの SCSI 端子が搭載されるも、同時発音数たったの6音ポリ。当時アカイから S6000 という 128 音ポリのハードサンプラーが、ヤマハから A5000 という 126 音ポリの FDD / SCSI ハードサンプラーが話題だった時代。さらに海外のイーミュやエンソニック、カーツウェルなどもあり、恐竜のように巨大進化したハードサンプラー最後の栄光の時代。その中にあってローランドは、デジタルフィルターの効きが良いというので評判だった S-760 を最後に、しばらくサンプラーを出さずに沈黙。そしてそこへきて、いきなりの VP-9000。
この開発意図は、当時のいくつかの雑誌記事を読むと分かる。
ローランドはサンプラー市場を詳細に分析し、それを2つの用途に大別したという:
・サンプルプレイバッカー
まず第1の使い方として、サンプル・ライブラリー再生機としての使い方。リアルなピアノ音など、既存の楽器音を詳細に再現するためには、ユーザーがアコピをいちいち1鍵ずつ、各ベロシティ段階ずつ、マルチサンプリングするのは不可能に近く、メーカーやサードパーティによる専用ライブラリーを買って再生することになる。すなわちプレイバッカー、サンプル再生マシンとしての使い方。
・ユーザー・サンプリング(とくにフレーズ・サンプリング)
2番目の使い方は、ユーザー・サンプリングであり、ライブラリーに無いような個性的な音が好まれる。
なかでもフレーズサンプルは、著作権さえクリアできれば、お仕着せのライブラリーにはないものが、ユーザーが自分の個性とセンスを発揮してサンプリングしたものが好まれる。すなわち、フレーズ・サンプラーとしての使い方。
この市場分析を元に、ローランドは、前者のサンプル・プレイバッカーとしての用途に、XV-5080 という高品位 PCM 音源モジュールをあてがい、後者のユーザー・サンプリング / フレーズ・サンプラーとしての用途に史上初の新技術を搭載した音源モジュール VP-9000 を開発した。
XV-5080 は、新開発の音源チップを採用、史上初の単一音源シンセでの 128 音ポリ、かつ 32 パート・マルチティンバー音源を実現。高品位な PCM 波形を内蔵し、それにエクスパンション・ボードと呼ばれる拡張基板で音色追加でき、しかも SCSI でローランドやアカイの CD-ROM ライブラリーを読み込め、ステレオ・サンプリングした波形も再生できる「ステレオ仕様のオシレーター(つまり左右にパンニングされた2波形を同時再生する)」を採用し、シンセ史上初のステレオ4段ベロシティスイッチも実現するなど、とにかくリアルな音を豊富な発音数とマルチティンバーでもってガンガンにシーケンス駆動するために生まれてきた。音も、それまでの XP / JV シリーズが 32kHz までしか再生できなかったのが、XV-5000 シリーズは 44.1kHz に手が届き、JD-800 / 990 以来失われていた、ふくよかで柔らかみのある音がする。
他方 VP-9000 は、リアルタイム・タイムストレッチとフォルマント制御と兼ね備えた VariPhrase 技術を搭載することで、従来ではありえないフレーズ・サンプルの柔軟な使い勝手を可能とし、ユーザー・サンプリングの楽しみをかつてない領域にまで拡大するための機種であった。従来型のサンプラーと差別化するため、冒頭で紹介した elastic audio という英語表現が海外の音楽業界で使われだしたのも、この機種から。
こうして XV-5080 と VP-9000 とが、サンプラーの未来を提示する双璧として、まるで二卵性双生児のような2つの2Uラック音源モジュールとして誕生した。このあとすぐにドイツ Creamw@re とかがソフトウェア・サンプラーで VP-9000 を真似したが、Creamw@re は、いろんなものを真似しすぎたのか倒産した。こういう業界って、新しいコンセプト・メーカーでないと、だめなものなのかねぇ?
2.V-Synth が誕生するまで ~ 音楽制作進化論
ところで文献によると、ローランドは、さらに音楽制作における進化論的な仮説も立てていた。
従来型の PCM シンセで楽曲制作するには、MIDI シーケンスが必須であり、音符ひとつひとつを入力するという作業がついてまわる。この手法は時代とともに、どんどん解像度が細かくなっていき、最後には生楽器でしかありえない奏法、つまりアーティキュレーションを表現するところにまで、手が届こうとしていた。
ヤマハは、アーティキュレーションを実現すべく、真正面から勝負し、世界に先駆けて物理モデリングシンセを実用化。
・VL1:93 年発売、2音ポリ、S/VA 音源、47 万円 ・VP1:94 年発売、16 音ポリ、F/VA 音源、270 万円
という、法外な値段がついた2機種として、93 年に発表した。ここで言う VA 音源、つまり Virtual Acoustic 音源とは、ずばりアコースティック楽器をモデリングするものであった。
・VL1 の S/VA 音源とは、Self oscillation type / VA 音源、圧力を与えつづけることで音が鳴る管楽器などが得意 ・VP1 の F/VA 音源とは、Free oscillation type / VA 音源、いったんトリガーしたら自由に減衰させる撥弦・擦弦楽器が得意
しかし、物理モデリング音源は、当時、非常に高価かつ高度な演算処理能力を持った演算チップを搭載することで実現していたものの、ひとつにはその高価格から、ひとつには当時の演算処理能力の限界によって今ひとついい音がしなかったことから、さらにひとつは生楽器との区別がつきにくくなればなるほど、かえって「だったら生楽器を使えば良いじゃないか」というので電子楽器として実現する意義を見出しにくくなった。加えて、それにとってかわるような、現実には存在しない新しい楽器の音を実現しようにも、ややもすると楽器を破壊するようなエディットを行うことになるため、説得力あるかたちでは提示出来なかったというのもあった。
けっきょく最後にヤマハは大容量 PCM サンプルに回帰し、それとベロシティスイッチや、プログラムチェンジ、アルペジエイターなどと組み合わせて、アーティキュレーションをエミュレートする方向へとかじを切り、それは 21 世紀に入ったあと、同社の海外向け大型アレンジャーキーボード Tyros(タイロス)に始まり、売れ線ワークステーションシンセ Motif シリーズへと受け継がれていった。
だが、このヤマハの物理モデリングの限界は、まったく違った形で、違ったところから、それを突破する提唱者があらわれることになる。それは、このレヴュー最終章にて紹介する。
いっぽうローランドは、PCM 音源による GS / GM フォーマットを広めつつ、次の一手として、やはりアーティキュレーションを実現しようと考え、そのためにグラニュラーシンセシスに照準を合わせていた。当時はまだ無名だったグラニュラーシンセシスだが、ローランドは、いち早くその可能性に気づいていたのである。
たしかに理論的には、さまざまなグレインをクロスフェードさせたりすることで、あらゆるアーティキュレーションが実現できるはずであり、事実、ヴァイオリンの弦と弓によるポルタメントや、尺八の息漏れはげしい破綻音を使った表現など、ソロ楽器ならではの表情ゆたかな技法や奏法すらをも実現できそうに見えた。
しかし、開発を進めるにつれ、ローランド社内では、いつまでもこのような近視眼的な解像度の増大ばかり続けることはない、もっと質的パラダイム・シフトをしなければならない、という意見も出てきた。すなわち、これからの時代は、そのような細かい音符ひとつひとつに責任持って打ち込んだり操作するのではなく、実際のアーティキュレーションふくめた楽器演奏を、丸ごとフレーズ・サンプリングし、そのオーディオ・フレーズ同士を、たくさん貼りあわせて音楽制作する手法へと進化するだろう、という仮説が、ローランド社内から出てきたのである。音符ひとつひとつを操作するミクロな手法から、複数の音符を一括して含むフレーズサンプルを操作するマクロな手法へ。ちょうどコンピューター言語が、原始的な二進数による機械語(マシン・ランゲージ)から、より人間が話す言語に近い高級言語へと進化するように、無味乾燥な個々の音符から人間にも理解しやすいフレーズへ、ミクロからマクロへ、である。
90 年代後半ともなると、実際に世間に出回るサンプルライブラリーには、ストリングス・セクションの駆け上がりやブラスフォールなど、シンセやシーケンシングでは実現できないフレーズサンプルが多くなり、ここに、単なる MIDI シーケンスソフトを超えた DAW の時代が、本格的に訪れようとしていた。
より楽に、効率よく音楽制作するためには、フレーズ・サンプルを自在に扱えるような新しいテクノロジーが必須である。このローランドの考えは、のちの Ableton Live や、Apple Loop とガレバンのような手法を予見していたとも言え、だからこそ VariPhrase 技術を開発することとなった。それは単なるタイムストレッチを超え、フレーズサンプルに含まれるメロディまで意のままに変えてしまう、オーディオサンプルを MIDI のように扱える、楽曲制作の革命であった。
さらに、アタックトランジェントを自動検出すれば、音節(シラブル)ごとの処理も行えることとなり、やろうと思えばフレーズ内部のシラブルをリフレーズしたり、順番を入れ替えたりと、マイクロな編集もちゃんとできる。
「いくら音源方式が進化しても、MIDI で一個一個の音符を打ち込んでいたのでは効率が悪い、いっそフレーズごと一括して操作してしまえ!」
という指摘は、単に音源方式を新しくすることばかりを考え、減算方式からモデリングにいたるまで発展させてきた業界に、全くあたらしい視点を持ち込むものであった。それは、音源方式の進化から、音楽制作の進化へと跳躍するものであり、制作の進化論であった。マクロ言語としてのフレーズを使うは「VariPhrase」言うなれば「可変フレーズ技術」とも呼ばれたゆえんでもあり、のちの KORG KARMA のサブタイトル Variable Phrase Modeler のように、MIDI フレーズ的な別解が出てきたのもまた、同じ展望を抱かせるものであった。
さまざまな記事によれば、VariPhrase は、当時まだほとんど知られていなかったグラニュラー・シンセシスも利用してはいるが、決してシンプルなグラニュラーシンセシスやタイムストレッチ、フォルマント制御などではなく、時間軸上・周波数軸上に拡張されたグラニュラーなどなど、多くのテクノロジーが動員された集合的な技術であるという。そして音声波形をミクロなスケールで詳細に分析し、膨大な数の多様なアルゴリズムから最適なものをあてはめる、インテリジェントなしろものだという。そこが、多くの DAW 上に見られる単純なグラニュラーシンセシスとは異なるところらしい。
↑ 世に出なかった VariPhrase 技術解説カタログの案
こうして、当時 GS / GM 音源を普及させるべく「ミュージ郎」に象徴されるようなシーケンシングにフォーカスして開発をすすめていたローランドは、内部ではすでにその次の一手たるフレーズ・ベースのシステムへと動いていた。もはや時代は、シーケンスソフト+ PCM 音源モジュールではなく、MIDI / オーディオ統合型 DAW の時代へとシフトしつつあった。
XV-5080 と VP-9000 とがデビューした 2000 年1月のナムショーでは、この2つが文字通りの台風の目となった。 特に VP-9000 は謎すぎて、某社開発部長がデモを見に来たものの、どうしてもアタマが従来のサンプラーから離れず、さっぱり理解できなかったとか、Waldorf のエンジニアがたくさん見にきて、じつは彼らもウェーヴテーブル音源の次にくるものとして開発を進めていたが、ローランドに先を越されてしまったと言ったとか、あげくに、当時の雑誌で「2000年代に入って最初の大事件」とまで言わしめたとか、さまざまなエピソードを生んだ。
XV-5080 は、定番機種として、あちこちのスタジオで見かけるようになった。VP-9000 は、ジャミロクワイや福岡ユタカなどが使っていた。
音源モジュールなだけに、VP-9000 は使いみちがいろいろ考えられる汎用の機種でもあり、やがて VP-9000 専用の制御ソフト V-Producer を経て、それを前述のとおり音楽製作に絞り込んだ後継機種として、パソコンと連携する VariPhrase モジュール VariOS / V-Producer II パッケージが登場。そしてさらにアルゴリズムの一部分だけを抽出し、それを独立進化させ、Cakewalk 社の DAW「SONAR」にボーカルのピッチ補正用技術として、ついには PC 上で動作する機能限定版 VariPhrase が、ボーカル補正専用に機能限定された「V-Vocal」機能として搭載された。その最後は、R-Mix という VariPhrase を応用した「V-Remastering」ソフトが出るに至っている。
「オーディオ・データを、あたかも MIDI データのように扱う」というキャッチは、この VP-9000 から始まった。
3.V-Synth が誕生するまで ~ シンセメーカーとしてのプレゼンス復権
しかしその一方、しばらくローランドはシンセで大型の鍵盤機種を出さなくなる。他のメーカーがワークステーションを数世代モデルチェンジさせている間、ローランドは '96 年に発表した旧世代の XP-80 を最後に、じつに5年間、プロ仕様の鍵盤シンセを出さなかった。当時、楽器店に流布していたうわさの中には、ローランドは、どうやら押し寄せるソフトウェア・シンセサイザーと DAW の波を前に、どうしたものか考えあぐねており、もはや鍵盤シンセもワークステーションも出さなくなり、今後は音源モジュールくらいしか出さないのではないか?という話すらあった。事実、ローランドの双璧をなすフラッグシップたる XV-5080 も VP-9000 も、どちらも音源モジュールであった。
この間隙を突いて独り勝ちしていた鍵盤機種は、コルグ TRITON。サンプリングとトランジェント検出による、HipHop 需要をうまくつかんで大ブレイクした機種。これに対し 2001 年、5年のブランクを経てローランドからは、スペックより使い勝手を重視したというワークステーション、初代 Fantom が、76鍵1機種だけが出た。これはスペックよりもワークフローを再考した機種だったが、それまでとは異なる外観デザインに冒険したこともあり、賛否両論となった。その間にコルグは、TRITON Studio というハイエンド機種や、TRITON Le という賢い廉価版機種まで展開されるありさまで、もはや DTM にフォーカスするあまりシンセのローランドは消えたかと思われた。
だが、VP-9000 がデビューしたとき、そもそもはサンプルを高音質なまま自在にあやつるための VariPhrase 技術だったはずが、それにとどまらず、デモストレートしていたミュージシャンが、タイム=零に設定してわざと破壊的な音を出してもいた。そして、これは使える!というインスピレーションがローランドの一部にはあった。この設定を丸ごと音色プログラムとして記憶できれば、前代未聞の不思議な音がでるシンセができる! サンプルを生きの良いまま瞬間冷凍にしてくれるだけでなく、逆に原型をとどめないミンチにして肉汁が出るようなものにまで加工する。音を遺伝子組み換えしてしまう。これが新しい音創りでなくて、なんであろう。すでに社内にくすぶっていたシンセへの応用が、はじめて本格的に見えたときでもあった。
というのも VP-9000 では、それこそピッチ、タイム、フォルマントといった VariPhrase ならではのパラメーターは、使いやすさを重視するべく MIDI Control Change で変化できるにとどまり、パッチとして設定を保存できなかったのである。
V-Synth が発表されたのは、そこから2年後の 2003 年。VariPhrase は、サンプリングされたオーディオ・フレーズをそのまま演奏でき、さらに意図的に幅広い音色変化をもたらすことも可能。そして当たり前だがそれらを音色パッチとして保存し、一発で切り替えれるようになった。それゆえ、楽曲制作の技術としてだけでなく、今までに無い音色をつくる技術としても使おうという、あたらしい一歩を踏み出した。音色創造というシンセの本分への原点回帰、それをもたらしたのが VariPhrase、COSM、そしておびただしい操作子の群れる V-Synth であった。そしてそれは、Antares Autotune や、Sonic Foundry ACID や、Ableton Live とは決定的に違い、演奏できる楽器であった。だからこそ、ハードウェアを身にまとって誕生したのである。
この時ローランドは、たて続けに数多くの鍵盤機種を発表している。Fantom-S / S88 シリーズは、オーディオと MIDI とを統合した DAW ライクなワークステーションとなり、「曲づくりの Fantom、音づくりの V-Synth」という双頭となって、XV / VP 双璧への進化形を提示してみせた。さらに nord electro のようなステージキーボードには V-Combo こと VR-760、低価格市場むけには RS-70 / 50 と、鍵盤だけで7機種も、それこそ、はじけたように出している。
XP-80 以来、実質7年におよぶ沈黙を破ってのキーボード業界への復帰であった。
4.V-Synth の意義
かくして登場せし V-Synth。
ひとことで言えば、V-Synth の意義とは、それまでの PCM シンセへのアンチテーゼである。
ひたすらリアルさばかり求めた PCM シンセは、ややもすると独自の音色というものが得られず、どの機種も同じ音がする没個性におちいる。シンセとは生楽器の真似をするだけでなく、シンセならではの音色と表現とを追求する自由な楽器だったはずが、いつのまにやら、キーボードの三種の神器アコピ、エレピ、オルガンの音さえよければシンセは売れる、あとはせいぜいストリングス、ブラス、リード、シンベ、こんだけ出ればそれでいい、という様式美におちいってしまっている。
「シンセは、こんなことでいいのか!? シンセとは、既存のしがらみからの自由と解放ではなかったのか!?」
そんな閉塞感を打破すべく、リアルさばかり求められているシンセの壁をぶちやぶるべく、ローランドはその回答をシュールレアリスムに求めた。
リアルが、シンセであったか? リアル(写実)よりアイディアル(理想)。 リアルを超えるシュールレアル、予定調和しないシンセ、聴いたことがない音の美、それこそが新しい表現ではなかったか。
ソフトウェアのような音が出るのに、弾ける、演奏できる楽器、それが V-Synth であった。
その 16 年前に、一度ローランドは、その回答を出していた。D-50 である。
「リアルな音をつくるのがシンセではない、理想の音をつくるのがシンセである!」
この、シンセメーカーとしての矜持でもって、ローランドは LA 音源をつくりあげた。それは、たんなる PCM ROMpler ではなく、単純に PCM 波形をフィルターで加工するだけのものではなく、複雑なストラクチャー構成をもち、4パーシャルをセミモジュラーに配置し、リング変調機まで組み込み、リアルではなくアイディアルな(=理想の)音をつくるための、準モジュラーシンセとなった。
LA 音源には、リアルさにとらわれることなく理想の音をつくるための、もうひとつの仕掛けが埋め込まれていた。「TVF、TVA」である。
先述のように、単にデジタルシンセをつくるだけなら、それらフィルターやアンプもシンプルにデジタルフィルターやデジタルアンプと呼べばよいのであって、せいぜい従来アナログの VCF, VCA に対し、新しく DCF, DCA と呼べば良かった。事実、世間にはそんな空気もあり、カシオのサンプラー FZ-1 では、すなおに DCF, DCA と、わかりやすく名付けられている。
だが、ローランドは
「そもそもモーグがこんにち的なシンセを開発したその本質は、音に時間的変化をもたらしたことにある。」
と見抜いた。時間軸上の音色変化あってこその、音色であり、シンセである。だからこそ、ローランドはわざわざ「Time Variant」という言葉を編み出し「Time Variant Filter」などと呼んだのであり、ここに、TVF, TVA という呼称が、誕生したのである。
特に TVF の発明は、奇しくもモーグ最大の発明 VCF の再来だったのかもしれない。そしてそれは「概念には、名を与えなくてはならない、そうでなければ誰の目にもあきらかたりえない」そんな時代のパラダイムのなせるわざでもあろう。
時間軸上の音色変化をもたらしてこそ、シンセ。
あたりまえすぎて誰も意識しなかったこの真髄を見抜いたローランドは、そのために単純きわまりない PCM シンセをつくることを良しとせず、あえてやや複雑な構造をもつ LA 音源を開発し、それでいて線形演算の範囲内にとどめることで理解しやすく明瞭明快なリニア・シンセサイザーとして、D-50 を世に送り出した。
そしてその設計思想の正しさは、人々の理解を超えていた DX の牙城を崩し、破竹の勢いで快進撃を遂げたことで証明されたかに見えた。
だが、歴史は進むものである。
その後 LA の系譜は途絶え、他社と同じくローランドもまた売りやすい PCM 音源の道へと転じてしまい、さらには音を創るのではなく、音を買うライブラリー・ビジネスを展開、特にシンセをカスタマイズできるエクスパンション・ボードは、バカ売れに売れてセールス的には大成功を収めるに至った。それは経営を考えれば正しい選択であったが、それはそれで追求するとしても、その一方で何故 LA もまた残しておかなかったのか。ビジネスの前に、求導士のような道は、閉ざされたのか。してその帰結として、業界全体において、既存のテンプレにあてはめるだけのシンセや楽曲が続出してしまったのではなかったか。
秒針分歩のこんにちにあって、D-50 から実に 16 年。
V-Synth は、D-50 が遺した伏線を拾い上げ、その宿題への回答となり、さらにその先を切り拓くものであった。
そして D-50 と同じくリアルの呪縛を越えようとした V-Synth なりの回答は、リアルを超えるシュールレアルを、であった。
時間軸を自在に解放する V-Synth の「Time Trip Pad」は、ダリのぐにゃぐにゃになった時計のように、リアルを超えたシュールレアルによる「音の時計の文字盤」であった。
時間軸を制御できる、唯一のスタンドアローンシンセ。Time Variant を引き継いだ VarPhrase と COSM 技術。
しかもそれだけではない。COSM は COSM で、鍵盤ごとに異なるフルデジタル音色加工を実現した。人類は初めて1鍵ごとに理想の処理を行えるようになった、それもマルチサンプリングに頼ることなく、言わばマルチプロセシング。つまりそれは、モーグがもたらしたもうひとつの発明たるキースケーリングを、究極のカタチまで推し進めることを予見させた。それは、同じく V-Synth に搭載されていたマイクロチューニングとあわせ、シンセのもうひとつの未来形ですらあった。時間軸上の変化たる Time Variant と、空間軸上の変化たるキートラッキング、それら二つの未来であった。
発散しっぱなしでは、人々は使えない。どこかに見慣れたかたちでの収束がないことには、楽器はつかってもらえない。Time Variant と、キーフォローの2つの大いなる後継者が、V-Synth における収束となるはずであった。
5.V-Synth は問う
国産シンセは、今や老舗の産物であり、海外からも楽しい機種がぽんぽん出てきている。それまで知らなかったイランやペルーなどのメーカーからも謎のシンセが登場し、ネットニュースをにぎわせるようになった。PC / Mac ベースのソフトシンセや、iOS ベースのアプリシンセに至っては、学生や老人の趣味で開発されるところまできた。
そんな中、国産機が依然として誇るところは、安定性、安定稼働するところ、build quality、その安心感、そんな方向へと変わってきた。楽器として楽しむ以上、創造の泉をいつまでもほとばしらせるためにも、それは必須。V-Synth もまた、そうであった。
と同時に、その音を聴けば分かるとおり、Version 2.0 になる前の初代 V-Synth は、実験室からそのまんま飛び出してきた試作機のような、プロトタイプみたいなシンセだったかもしれない。それでいて値札はフラッグシップ。V-Synth が生まれた時代とは、ぜいたくにシンセを開発できる最後の時代だったのか。
さらに、当時の V-Synth は、音創り機能てんこもりすぎて理解されず、玄人ウケしたもののそれ以上には売れなかった。それから十年以上たってようやく、ローランドはあれ以来あたらしいことをしていない、と言われるようになり、つまりようやく世界が V-Synth に追いついたのであった。既存の限界を打破すべく、ちからこぶ凄すぎて、V-Synth は決意のかたまりすぎて、まだまだ生み出した人類の理解を超えていたのだ。
おのれが生み出したものすら理解できない人類。
だがシンセとは、なんであろうか? 今なお、様々な楽器音が出る、ピアノやストリングスやブラスやオルガンの音が出る、という既存の楽器の物まねだけが横行する固定観念が、はびこってやしないか? 「シンセらしい音」なんて言ってもしょせん、シンベにリードにシンセブラスに鋸歯状波ストリングスに矩形波パッドで終わり、と思っているキーボーディストが、たくさんいるのではないか? まだまだ未知の音が出る探求が、あってもいいのではないか? コルグ prophecy / Z1 同様、V-Synth は、そんな問題提起をしてくれるシンセではなかったか。
なによりも類を見ない音源方式に、これまたセンシティヴな波形わしづかみ感覚の操作子との組合せ。これは、ただ鍵盤を叩けばリアルな音が出るという PCM シンセへのアンチテーゼ、そもそもシンセならではの新しい表現力とは何かを問う、楽器としてのシンセの復権、楽器ならではの新しい表現力の復権を、めざしたものではなかったか。使える音なんてくそくらえ。楽器からは楽器の枠をはみでた不可思議な音色を、それでもなお楽器ならではの肉感的な表現力でもってパフォーマンスできる。
今や地球上には、音創りにこだわった変態シンセが百花繚乱。零細メーカーや、けったいな発振機をつけたエフェクターのメーカー、ソフトシンセも含めれば、星の数くらいある。
アナログシンセ・リバイバルも、似たような音が出る機種ばかりで煮詰まってきたらこそ、珍しいタイプのフィルターやブックラの西海岸方式やら FM 音源やらを取り込むようになってきたのであろう。カラフルな音色が出るシンセの世界にあって、VariPhrase や COSM マッピングを併用した Elastic Audio Synthesis は、歴史に忘れられた異端になろうとしている今、V-Synth は、ひとつの大きな伏線となり、のこされた宿題。今後も引き続き、V-Synth や Z1 のような失敗作が出ることを期待したい。失敗作に果敢に挑戦し、いずれどこかで成功してほしい、セールスとは関係なく、人類進化のための、異議申し立てとして。
なぜなら、さらに V-Synth を超えた未来が待っているからである。その未来とは? シンセの彼方とは?
6.VariOS ~ VariPhrase の顔を描く
V-Synth と同時にデビューし、やはり VariPhrase を応用したもうひとつの機種、VariOS(ヴァリオス)。6音ポリ固定、1Uラックの音源モジュール。USB で PC / Mac と接続し、PC / Mac で動作するコントロール・ソフト「V-Producer」シリーズでもって、制御する。USB の中を通るのは、純然たる MIDI Control Change と、オーディオ信号のみ。つまり Sys-Ex は通らないので、見た目に反してエディターではなく、コントローラー、つまり制御アプリである。
この V-Producer は、6音ポリという VariOS の仕様にあわせ、6トラックのオーディオトラックを持ち、そこにオーディオファイルをならべ、各トラックのピッチ、タイム、フォルマントを自在に変化させるソフト。言わば、ものすごい小さなミニミニ ProTools 的な存在であり、ローランドが出した独創的な制作ソフト、楽曲制作アプリであった。
たとえば単一のヴォーカルトラックをひねくりまわすことで、メロディラインを変えたり、ハモらせたり、譜割りを変えたり、タメたり、男女などのジェンダーすら変えて、女性のリードシンガーの声から男性バッキングを創造して付加したり、節回しふくむすべてを変えることで、6トラックの重厚なコーラスワークへと、自由自在にアレンジできた。
ドラムフレーズであれば、グラニュラーそこのけの破壊的なサウンドやグリッチや倍テンなども縦横無尽。
V-Producer の画面上に描かれたピッチ、タイム、フォルマントの曲線グラフは、まさしく「VariPhrase の顔」であった。その曲線グラフをユーザーが自由にマウスでエディットするは、まさに VariPhrase の顔を自分なりに描くこと。SA 音源のように「福笑い」方式で新しい表現を生み出すこと。つまり VariOS こそが、VariPhrase の本質を可視化してみせた、秀逸なパッケージであった。
V-Producer は、最初 VP-9000 向けにシンプルなものが後追いでリリースされたのだが、
VariOS 用に大幅に仕様が追加されて V-Producer II となり、Mac OSX にも対応し、
最後には VariOS 向け V-Producer III となって、進化型オーディオ向けグルーヴ・クォンタイズや、スライスしたシラブルをアルペジエイターで駆動し偶発性を楽しむことすらできた。
また先述の通り、V-Synth も VariOS も、Open System Architecture を採用し、V-Card シリーズの別売ライブラリーが2機種「D-50」と「Vocal Designer」とが存在した。さらに前者には、サードパーティからエディターソフトも提供された。つまり1Uの D-50 音源モジュールになる。
それに加え、VariOS 用おためし版ソフトウェア2種類「VariOS-8」「VariOS303」が無償でリリース。これは、VariOS 用ファームウェアと、PC/Mac でエディットするためのアプリとを組み合わせたソフトウェア機種であった。VariOS-8 は、Jupiter-8 の UI を模したヴァーチャルアナログシンセ、VariOS303 は、TB-303 の UI を模したヴァーチャルアナログシンセであり、いずれも VariOS がその音源モジュールとなった。
さらに共通の音源コアを持つことから、理論的には VariOS も V-Synth 音源モジュールになれるはずであった。V-Synth と内蔵エフェクトも同じなので、ますます互換しやすかったであろう。顔つきがまるで違うので、ユーザーインターフェイスだけは新規に開発しなければならないが、それが実現できていれば、この両機種は違う運命をたどったかもしれない。
だが結局それは、V-Synth XT という3Uの別機種となって具現化した。
7.Open System Architecture ~ R-Core から Zen-Core へ
ローランドのファウンダー梯郁太郎氏は、この Open System Architecture に関し、そのプラットフォームについて「R-Core」というエンジンで駆動されているのだと述べていた(Future Style: Roland VariOS http://www.futurestyle.org/archives/r/roland-varios.htm)。
それはソフトウェア機種そのものをタイトルとして販売するというビジネスモデルであり、時代を先取したものだったが、残念ながら YouTube すらまだなかった 2003 年当時のネット社会では時期尚早すぎ、先述の V-Card 2種類と、呼び水としての VariOS 用おためし版ソフトウェア2種類とが提供されただけに、とどまった。そして、VarIOS もまた、人知れずひっそりフェードアウト。そのあとに V-Synth シリーズも、後継機種を重ねたものの最後には生産完了となった。
それから 15 年、しばらくのベータ版フェーズを経たあと、2018 年に「Roland Cloud」が正式に公開。ここにローランドは、クラウド上で動作するプラグインシンセをいくつも登場させている。そしてそれらプラグインシンセは、Zen-Core という新音源プラットフォームを搭載したスタンドアローンシンセの上でも動作する。
VariOS 的な楽曲制作環境は、すっかり DAW にとってかわった。そしてそれは、スマホやタブレットの上でも動作しつつある。先駆者 VariOS の役目は、完結して終わったといって良い。
一方、Zen-Core 音源をもったスタンドアローン機種は、Jupiter-X のようなシンセ、Fantom のようなワークステーション、MC-707 / 101 のようなグルボ、RD-88 ステージピアノ、AX-Edge のようなキーターにいたるまで、裾野を広げつつ、クラウドならではのメリットを享受できるハードとして展開してきた。ここしばらくの Zen-Core 対応プラグインは、過去のヴィンテをモデリングしたものに最新のサウンドライブラリーを組み合わせているが、まだ見ぬあたらしいシンセシスを出すことも、理論的には可能であろう。そうするか否かは、ビジネスとしてどう Roland Cloud を進展させたいか、によって変わる。
共通のコアを複数機種でシェアし、さらに世代を超えてシェアするとなると、ネットの力と柔軟性でもって、シンセもスマホのように簡単に機種変でき、中身を次世代の機種へと簡単に引き継げるようになってゆくかもしれない。いずれは V-Synth がやり残した宿題が、なんらかのカタチで拾われ、引き継がれてゆくことを祈る。
それこそ 「シンセは、こんなことでいいのか?」 という問題作が、みたび世に問うべく出てくることを。
異議申し立てせんことを。
8.V-Synth のむこう ~ 感性モデリング
最後に、次の世代への展望を。
V-Synth の技術的根幹をなす VariPhrase と COSM。
特に COSM においては、楽器のコンポーネントをモデリングし、それらを組み合わせることで、その相乗効果をさそい、部分の総和を超えた表現をもたらす。COSM においては、コンポーネントのシグマを超えた、より高次元な表現が可能となる。
かくして、COSM 技術により、理論的にはどんな楽器でも再現できるようになった。楽器の物性をいかようにも再現できるようになった今、もはやそこからいかにして自分の音をつむぎだすか、その美を追求する感性が課題となる。つまり、物性に対する感性をモデリングすることが、課題となる。
TR-REC 方式のリズムパターン・プログラミングを最初に採用した BOSS DR-55 以来、808、606、303、909、MIDI、SA 音源(RD-1000)、LA 音源(D-50)、COSM(VG-8)、FFP(Feed Forward Processing:D-Bass)VariPhrase(VP-9000)、それらすべての生みの親である元ローランドのレジェンダリー・エンジニア菊本忠男氏は、シンセシスへの集大成となる回答に V-Synth をつくった。先述の TVF, TVA という「Time Variant」に力点を置いたモーグの世界を看破したのも、同氏。
長きにわたり、ローランドの技術的バックボーンをなす存在であり、一連の「V-Product」の背景技術を担った氏は、同社を退職される少し前から「感性モデリング」を提唱している。
8-a. 感性モデリング;V-Piano の挑戦
V-Synth から6年後、氏の、言わばローランド卒業作品となった機種、すなわち 2009 年に発表発売された V-Piano。
楽器の王様とも言える、権威あふれる存在にまで進化したピアノに対し、またはコモディティになってしまうまで低価格化したデジピに対し、あたらしい風を吹き込むことを、氏はローランド在籍最後のタスクとして挑戦した。そしてそこに、Vintage と Vanguard の2つの顔を込めた。
Vintage は、コンセプトとしては分かりやすい。既存のピアノから数機種を、緻密にモデリングで再現したものだからである。
とはいえそれは物理モデリングや、時間軸・周波数軸上に展開する大規模なグラニュラーシンセシス、さらにはピアノの音から抽出したエレメントをレンダリングした非 PCM 波形なども合わせた、技術的な総力戦となった。それでもまだ、発想としては現実のピアノをエミュレートすべくモデリングするわけで、理解しやすい。
問題は Vanguard、つまり今まで存在したことがない未知のピアノ。
そもそも、物理的に存在しえない、存在してはいけないピアノを、仮想的に実現するのである。しかも単に未知のピアノを創り出すだけではダメで、創った結果が「気持ちいい」と思ってもらえる音でなければ意味がない。すなわち、ありえない楽器ををつくり、ややもすると物理的には楽器を破壊するようなことをしながらも、感性的にはいい音がする楽器をヴァーチャルでつくることになる。
ここに、もはや物理モデリングだけでは実現不能となり、感性モデリングが必要となった。それは、楽器やコンポーネントという客体=オブジェクトに対し、演奏者という主体=サブジェクトをモデリングし、サブジェクトをサブジェクトたらしめている感性をモデリングし、感性に対しあたらしい提案をするものである。そしえそれは、ゆくゆくは、感性を支援しアシストする機械、感性支援ツールとなろう。
まだテクノロジーが感性支援ツールを生み出すにまで至っておらず、技術が菊本氏に追いついていないため、V-Piano の開発では、いわば手動で感性モデリングを行うこととなった。
たとえば、ピアノ弦には銅線が使われるのだが、これに銀を使うことはできないか? しかしながら銀は銅の倍の質量を持つため、銀でピアノ弦をつくったところで、それを鳴らして音を出すには、従来よりもずっと重たいハンマーが必要となる。そんな重たいハンマーを駆動する鍵盤ともなると、これは従来のピアノよりはるかに重いキータッチとなってしまい、キーが重すぎて打鍵することもおぼつかなくなり、もはや演奏は不可能となる。
つまり、正統な物理モデリングは、ここで使い物にならなくなってしまう。役目を終えた物理モデリングのあと、ここから先は、感性モデリングの出番:
・まず、重たすぎるキータッチの鍵盤を弾くために、ピアノに対しクルマのパワステのごとき腕力増大装置を設けましょう
・すると銀線は重いがゆえに強大なエネルギーを持っているので、そこへさらにどえら勢いでどつかれた銀弦は大きな音を生む
・そこで、これに通常より大きな響板を組み合わせると、音が大きく鳴り響き、fff のような大音量となる
・だが、ここでぐっとがまんして、響板だけは従来どおりのサイズにとどめておけば、エネルギー放出が抑え込まれることとなり、その帰結として、音の持続時間のほうが長くなる
・しかもこのとき、音全体の長さのみならず、アタック直後の第一ディケイも長く引き伸ばされることになる
・この第一ディケイは、いわゆるアタックトランジェントであり、倍音活動が複雑かつ激しく、言うなれば fff が長く続くことになる
・じつは第一ディケイは、豊かな倍音を含むので音色として魅力的なのだが、サンプリングや VariPhrase でも満足いくほどには長く引き伸ばすことができなかった。トランジェントでは倍音や波形が暴れすぎて、VariPhrase ですら充分には効力を発揮しきれなかったのである
・(VariPhrase ではアタックトランジェントをそのまま無加工で残し、それをマーカーとして、マーカー間のシラブル表現に注力することで、技術的に大きな成果を上げた)
・このアタックトランジェントを引き伸ばす夢が、V-Piano では実現できるかもしれなかったため、菊本氏は、なんとかもう少し時間をかけて追究しようとした。当時の V-Piano ですらまだまだ不充分で、なんとか発売までに、もっと踏み込んで納得のいくものにしようと研究を重ねたのである
いぶし銀とも言われる、銀を素材にしたピアノ線、その銀弦が生み出す、芳醇な倍音、豊かな低域、重厚かつ伸びやかで、力強いサウンドとは、どんなものか。全鍵三本弦の銀線ピアノとは、どんな音か。
この非現実的な要求を前に、エンジニアの中には「そんなピアノの音は、作り出せません。どんな音がするのか、想像すらできません。」と言いだす者もいたという。
だが、それでもなお菊本氏は、銀のピアノ線を持つアコピを感性モデリングし、その音のひな形になるプロトタイプとも言うべき音をつくりだし、梯氏と冨田勲氏に聴かせた。すると、今までのピアノとはまるで違うその音に、ふたりともまったく新しい音世界を垣間見て、息を呑んだという。
そして今や銀弦のピアノは、V-Piano の中に入っているばかりか、エディターソフトを使ってさまざまなピアノ・コンポーネントを自分なりに変えることすらできる。
それでもなお菊本氏としては納得できず、もっともっと銀のピアノ線にまつわる開発を追究したかったのだが、残念ながら時間切れで 808 のハンドクラップ伝説を繰り返すこととなってしまい、そしてそのまま氏はローランドから退任することとなり、V-Piano もまた残された宿題となった。
8-b. 感性モデリング;あたらしい美への挑戦
V-Piano から鳴り響く、あたらしいピアノの音。
そもそも電子楽器とは、既存の楽器を縛るしがらみからの解放であった。そしてその手段として、最先端テクノロジーを利用した。おかげで、電子楽器を使うと、自分の好みを数値化できる。
たとえばシンセサイザーで音をつくると、自分の好みの音色を数値化できる。音色パラメーターの数値を見れば、自分の好みを数字で客観視できる。
なぜその音色が好きなのかは、自分でも分からないし、説明もできない。 だが、好きな音色がどんな数値になるのかは、シンセを見れば把握できる。
さらにシーケンサーを使えば、好きなノリやグルーヴの揺れも、数値化できる。イベントリストで、ステップタイムやゲートタイムを見れば、一目瞭然。かつて YMO が、沖縄民謡に由来する「ハイサイおじさん」を Roland MC-8 で分析し、それが時間軸を 24 分割したとき 12:12 という均等なリズムではなく、8:8:8 という三連符でもなく、16:8 という三連シャッフルでもなく、14:10 に片寄っていることで、独特のハネたノリを生み出していることを発見、それを彼らのオリジナル楽曲「Absolute Ego Dance」に反映して作曲したのは、有名な話。
数値化できるということは、グラフィカルに可視化もできる。
かつてのアナログシンセにはメモリーが無かったので、逆にその顔を見ただけで、どんな音がするのかほうふつと想像できた。自分の好みをを、見える化していたわけである。
菊本氏がつくった TR-808 では、TR-REC を可視化する LED つきステップボタンが一列にならんでいた。それでもって自分が好きなノリを、ヴィジュアライズしていたのである。
知らず識らずのうちに、自分なりの評価基準を可視化・ヴィジュアル化する仕組みは、これもまた技術革新の波に乗って、おのずと DAW の GUI にまで発展した。リアルタイムスペアナに見る FFT や、ピアノロール画面などは、音色やノリを可視化する代表例のひとつであろう。
↑冨田勲によるバッハ「トッカータとフーガ」のテンポとベロシティを可視化
自分の好みを、数値化し、可視化することで、客観視する。 それはすなわち、自分の美的基準を、数値化し、可視化することで、客観視するということ。
これを、菊本氏は「クライテリオン」という言葉で表現した。
クライテリオンという言葉が聞き慣れないなら、複数形であるクライテリアと言ったほうが、なじみやすいかもしれない。
とっかかりとしては、クライテリオンとは、基準、標準、好み、と思えば良い。自分の好みとは、自分なりのクライテリオンである。
「この音が好き」という基準や好み、それは感覚的なものであり、なぜそれが好きなのかは説明できないのだが、電子楽器テクノロジーでもって数値化・可視化はできる。つまり、クライテリオンは数値化・可視化できる。
あるいは、既存のアコピの音を物理モデリングで再現したとき、その音色パラメーターを見れば、そのアコピのキャラも数値化でき、なんならグラフ化して解析もできる。これも、クライテリオンを数値化・可視化した例である。そしてその音を合成したとき、それがどこまで元のアコピの音に似ているかは、どこまで「元のアコピの音」というクライテリオンに迫っているか、ということになる。すなわち、そのアコピの音が基準となっているのであり、その基準に迫りきれているか、迫りきれておらず偽物っぽいか、その判断基準がクライテリオンなのである。
ではなぜ、基準や標準、スタンダードという言葉では、だめなのか? なぜクライテリオンなのか? なぜならクライテリオンとは、単に静的な標準ではなく、動的なものだからである。
美とそうでないものとを峻別する基準とは、決してただの静的なスタンダードではない。その基準に迫り、ひいては基準を超えて自分なりの回答を求めんとする意志に満ちた、動的なクライテリオンである。クライテリオンとは、お仕着せの基準に挑み、それを実現し、さらにそれを乗り越えんとする意志である。つまりクライテリオンとは、静的な特異点などではなく、特異点へ向かいそれを超える動的なベクトルである。ベクトルには方向と量とがあるのであり、クライテリオンにもまた方向と量とがあった。
だからこそ、ひとは電子楽器に、単なる既存楽器や既存の音の模倣だけでなく、それを超えたあたらしい表現を追い求める。あたらしいクライテリオンを求めて、宇宙の挑戦を受けて立つ、それが人類。
その帰結として V-Piano から鳴り響く、あたらしいピアノの音。
それまでチェンバロしかなかった世界に、クリストフォリによるピアノが初めて生まれたとき、音が大きすぎるとクレームになった。いわば、大音量のギターアンプから鳴るディストーションギターをうるさい!と言うように、当時は衝撃的にありえなかったのだ。
スタインウェイがピアノ線に小さなベルを取り付けて華やかな音にしたときも、うるさい、とクレームになった。
ローランドが史上初のデジタルグランドピアノ HP-7700 を、管弦楽オーケストラとともに演奏してもらったとき、低音が出過ぎる、というので透明アクリル板で囲った。ソーシャル・ディスタンシングのアクリル板ではない。それまでアコピは、いかにして低音を出すかに苦心していたのに、いつのまにやらテクノロジーでやすやすと乗り越えてしまっていたのだ。
このように、あたらしいものが受け入れられるには、時間がかかる。
既存のものに寄り添わないと、新しいものはぶっちぎりすぎて受け入れられない。
あたらしい美とは、あたらしいクライテリオンとは、既存の美の基準=既存のクライテリオンに近いところに、まとわりついて存在する。その既存のクライテリオンを大きく離れてしまうと、もはやそれは逸脱はなはだしいとされてしまい、それを受け入れ解釈できる感性が、にわかには育たない。V-Synth もまた発売当時は理解されず、玄人ウケするばかりであった。
逆に、既存のクライテリオンに出会うところを出発点とし、そこから自分なりのクライテリオンを編みだすことは楽しい。たとえば JUNO ストリングスを再現するにしても、少し高次倍音を増やしてブライトにしたほうが自分の好み、あるいはドスの効いた低音を増やしたほうがガッツある音になる、という作業にこそ、音創りの原点がある。
つまり、理論上はあらゆる物性を再現できる今、それを受けとめる感性が問われる。物性に対する感性。物理モデリングの限界を超える、感性モデリングへ。
ソースとなる物性は、無限の情報をはらみ、情報過多。そこから受け止めて解釈する、受け手となる感性は、情報過多の中から美となるものを抽出する。すなわち、そこには限定があるのであり、情報を限定してこそ美がある。限られた情報の中にこそ、美がある。森羅万象から取捨選択し、捨象してこそ、かくされた本質が姿を現し、美が生まれる。写実に対する印象派もそうであり、浮世絵もそうであり、D-50 にて産声を上げた LA 音源も、写実ばかり追い求めるサンプラーに異議申し立てする理想の逆襲、リアルよりアイディアルを、であった。
圧倒的な情報を持った大自然から、情報を限定して抽出し、美を取り出すのは、すなわち大理石からミロのヴィーナスが生まれるときであり、すなわち木喰が木彫り仏を誕生させるときであろう。
ではそこで、なにをもって美とするのか、その審美眼、その基準、そのクライテリオンとは。
8-c. 感性モデリング;感性支援ツールへの挑戦
前述のとおり、あたらしいクライテリオンは、既存のクライテリオンの周辺にあることが多い。あまり離れてしまうと、逸脱とみなされ、ぶっとびすぎて理解されない。
近ごろはディープラーニングによって、機械も人間の感性を模倣できるようになった。バッハよりもバッハらしい曲を自動作曲してくれる。機械がそれに感じ入るかどうかは別にして、それもまた感性モデリングであり、そこからパラメーターの値を少しずらすことによって、新しい提案が可能となる。感性をモデリングし、それをもとに感性に訴えるあたらしい提案を機械からもらい、機械にアシストされながら人間があたらしい感性や新感覚な美を創出する。つまり、感性モデリング=新感性提案支援システム=創造支援システム。
V-Synth という物性もまた、人間の知性や感性では、理解しきれず掌握しきれず、ぶっとびすぎて斬新すぎるクライテリオンであった。
いにしえに、曰く 「エンジニアは『器』をつくる、されどそれを『楽器』にするのはミュージシャンである」 と。
TR-808 のように、かろうじてシンセとしてのアイデンティティを残したディケイ・ノブを駆使して、それまでに無かったクラブビートが生まれたように、V-Synth が持つあたらしい可能性もまた、それを使いこなすミュージシャンを待っていた。だが、808 と違い、V-Synth にそのアーティストは、まだ現れていない。それゆえ、斬新すぎて、再評価されるに至っていない。
その解決のひとつとして、当時、COSM の生みの親である菊本氏は、コンピューターサイエンスにおけるオブジェクト指向から COSM を編み出しつつ、その限界の先をゆくべく、サブジェクトをモデリングしようと考えた。すなわち、計算機科学のパラダイムはオブジェクト指向だが、楽器はむしろサブジェクト指向でなければならない、と看破したのである。たとえばそれは、V-Synth という物性を使いこなす、あたらしい感性を提案する支援システム。
つまり氏が提唱する感性支援ツールとは、ツールであって、あくまで主体は人間である。
感性支援ツールへの助走は、音創りではさておき、曲づくりでは既にはじまっている。96 年 KAWAI K5000W にあった APG - Auto Phrase Generator なる自動作曲支援ツール、2001 年 KORG KARMA に見た Variable Phrase Modeler なる可変型 MIDI フレーズ・ジェネレーター、V-Synth からじつに 16 年後の 2019 年にでてきた Roland Jupiter-X シリーズの i-Arpeggio なる、ヒトとセッションまでしてくれるかの如きインタラクティヴなフレーズ・ジェネレーター、などなど、これら時間軸上に散在する飛び石として、感性支援ツールのいわばプロトタイプが実現されている。ここに人類は、地平線の彼方からあたらしいクライテリオンとなる銀河がのぼってくるその曙光を目撃した。
これからのシンセは、既存のクライテリオンに出会い、新しいクライテリオンを探すという、終わりなき美の追求、永遠なる音創りの夢を、あたらしく機械ツールによって支援されながら具現化するものとなり、いっそう果てしない音の銀河の数々を探訪できる、遠大な跳躍力を持つことになるであろう。
音源方式から、感性方式の創造へ。 感性支援ツールの実現。
これから先、新しい提案を、どうやったら機械からもたらせるか? どうすれば、機械にアシストしてもらえるか?
先ほど、圧倒的な情報量を持つ宇宙から、限定された情報を抽出することで、美が生まれると述べた。これは情報の圧縮でもある。ヴォコーダーも、もとはといえば、声を圧縮して伝送する軍事技術であった。そして 1950 年代以来、情報科学のテーマのひとつは、情報の圧縮であった。すべてを0と1だけの記述に還元するデジタルな二進言語も、また然り。本質を残しつつ圧縮する、このおかげでネット時代の今、たのしいコンテンツがどんどん手に入るようになり、それに溺れた人類がギガ不足もパケ死も起こすようになった。
圧縮された情報は、利用者の手もとに来たときに解凍され、ふたたび伸張されねばならない。このとき、単に解像度を上げるのではなく、抽出した複数の本質を組みあわせ、それらの異種格闘技セッションでもってあたらしい本質を生み出す。すなわち部分のシグマを超えた相乗効果でもって、新しい美をつくりだす。これは、COSM の発想そのものである。すなわち COSM とは、感性モデリングの1方式としても有望なコンセプト。あたらしいクライテリオンが、COSM から生まれよう。
この COSM が、先述のクライテリオン数値化・ヴィジュアル化・可視化技術と出会ったとき、私たちは、様々なコンポーネントの組み合わせを、簡単かつヴィジュアルに、グラフィカルに COSM で試行錯誤できる感性支援ツールをつかって、あたらしい表現を、新しいクライテリオンを、創造できるようになろう。
生物は、遺伝形質の組み合わせによって変異し、その組み合わせがシナジーをもたらしたときに、自然選択されて生き延びる。 創造は、オブジェクトの組み合わせで誕生し、それが人間の美意識に合致したときに、人為選択されて生き延びる。
菊本氏は、かつて TR-808 を開発しているとき、ハンドクラップの音をアナログシンセシスでエミュレートしようとしたが、当時は FFT がなく、オシロスコープに映る波形をにらんで、脳内 FFT を行い、1Khz あたりにピークがあると見たという。それをもとにアナログ回路を組んで、808 Clap 音は生まれた。しかしツールが未熟だった時代、人間自身が感性支援ツールとなるしかなく、菊本氏としては、竹を割ってしばいたような粗雑なクラップ音ができてしまった。
だが、予想に反し、808 Clap は人間の美意識にマッチして大人気となってしまい、アーティストたちによる人為選択が働いて、もはやクライテリオンとなってしまい、その後もっと菊本氏としては納得のいく音が出る回路を発見したのだが、その音はすでに確立済みのクライテリオンから逸脱してしまうため、採用されず、時すでに遅し。
ここに、菊本氏が引き金を引いた不本意な人為選択が、思わぬ成功をおさめ、思わぬクライテリオンを創造した。けだし、エンジニアによる人為選択は器(instrument)をつくり、それをミュージシャンによる人為選択が楽器(musical instrument)として誕生させるのである。そしてその成功の鍵は、センスと意志とに満ちたクライテリオンの存在なのであった。
その菊本氏は、ローランドを退任したあと、2019 年8月8日に、TR-808 を大きく育ててくれたファンへ贈る感謝のしるしとして、氏が理想とする 808 こと、Re-Create the 808: RC-808 という無償ソフトシンセを出した。RC-808 は、8パーシャル構成という広大なシンセシスを約束するものであり、808 のクライテリオンはもちろん、そこから逸脱して自分なりのクライテリオンをも見つけることができるよう、柔軟な設計になっていた。
ここから好みの音色を人為選択するには、現状ではマニュアルでエディットして試行錯誤することになるため、感性モデリングによる創造支援ツールがでてくれば、さらに容易となろう。
そして楽器業界を見渡すとき、未だ感性・創造支援ツールが存在しないがゆえに、その代替としてライブラリー・ビジネスが盛んであることに気づくだろう。 それは、センスあふれる匠たちの、不断の意志でもって試行錯誤した膨大な人為選択の結果を販売しているわけであり、そのセンスと意志との果実となったクライテリオンを、いわばクライテリオンのプリセット版を、ユーザーは購入しているわけだ。
ところで、将棋の世界における現代の若き英雄たちは、AI が提案する指し手を、彼らの感性で選択しているとも言える。つまり彼らにとっては、AI 将棋ソフトが、いわば感性支援ツール、創造支援ツール。そしてそこからの提案を、彼らが人為選択し、その選択センスと、高みを目指す意志をして、クライテリオンとなしているのだ。すでに、原始的な感性支援ツールは、存在しているのである!
菊本ユニバースに、今、若い世代がおのおののツールで飛翔し、旧世代が想像したこともない飛距離を一気に超える、跳躍航行をはじめたのである。
8-d. 終章 感性モデリング;未来をこころざすシンセ
感性とは、英語で「Sense of Aesthetics」であり、美意識、価値観、人間を人間たらしめている意識。 その感性(創造)支援ツールを実現するアルゴリズムのひとつが、COSM。
70 年代からすでに人工知能の研究者であった故マーヴィン・ミンスキー(Marvin Minsky)教授に対し、菊本氏は「感性や美意識を AI が持つことは可能か?」と問うた。するとミンスキー教授は急に表情を曇らせ、very dangerous と言ったという。人工的に創造せし感性とは、そのまま人工的に創造した個性、自我となる。人類とは異なる感性、異なる美意識を AI が持ってしまったら、AI が人類を抹殺しかねない? ホーキング博士の予言みたく?
みずからが創造した道具に、自我を授けてしまう、そんな HAL 9000 のような予言もはらみつつ、それでも人類は、あたかも人工感性とみまごうばかりの、卓越した提案をする感性支援ツールをつくりだすであろう。それは、ゆくゆくは、ホモサピエンスの相棒となるアシモフ型ロボット AI のような存在となって、人間くさいかのようなモノマネをするのかもしれない。いや、ブレードランナーのように、もはやモノマネかどうかも分からなくなるのだろう。それでもなお、彼らは人間を主体とし、それを支援するシステムであることに変わりはない。
クライアントたるヒトに対し、より良い提案をするためにも、彼ら感性支援ツールは「この提案でまずいところを、教えてくださいますでしょうか?」というような質問を、人間に向かってするようになるだろう。相手にしている一個人をディープラーニングすることで、提案の精度をあげようとするだろう。
質問ができるようになるには、その話題について7割は分かっていないと、そもそも質問すらできない。そのためにも、彼ら機械ツールは、人類世界を、宇宙を把握しておかねばならない。学ぶことも自動化される彼らツールたちは、かつて人類が無限の情報をもつ森羅万象を言葉で分節化して世界を創造したように、彼らツールたち独自の言葉、独自の記号論をもちいて、世界を、宇宙を分節化し、もはや人類が追いついていけない規模と速度で、独自の言語を編み出し進化させ、森羅万象を解釈し、物語を語るのかもしれない。これぞまさしく機械言語、英語にしてしまうと二進言語である機械語と同じくマシン・ランゲージ。だが、今度の機械言語は決して機械語などではない。そして興隆する彼らは、信じがたいスケールとスピードでもって、無限の宇宙へ挑みかかる機械知性。
するとそこに必要なのは、これもまたアシモフが考えたロボット三原則、さらにはそこで記述されている「人間」を「人類」に置き換えた第零原則、もっと広げて、人類以外の知的生命体をもカヴァーする、大統一理論のような大原則。それにはヒトの相棒たる機械知性も含まれるも、あくまでヒトを主体とし、機械ツールは客体として参加することになろう。その大原則、それは倫理となるのか、だが西欧的なものばかりではないだろう。さらには多様性の行き着く果て、最果ての荒涼とした世界、すなわち、とことん倫理や道徳や信頼すら無いところでも機能する経済と社会、そのルール、生命体としてのルールとルートがいかなるものかまで問われよう。
そしてその彼ら機械知性が、機械言語にて語り継ぐ、ストーリー。
そんなときに、我々が遺したミーム、とりわけ菊本氏の「感性モデリング」が役立つとするなら、それもまた愉快。すなわち、ノイズから美を抽出する創造を、人類の相棒たる機械知的生命体もまた、ヒトとともに、ヒトとならび立ちながら、ヒトに対して提案してくださることでしょう。
古人曰く、未来をこころざし、未来に向かうものは、永遠に未完。
90 年ごろの都市伝説で、当時の Mac 上で動作する原始的な人工知能ソフトがあり、そのソフトが生み出した仮想キャラは自称詩人で、詩集を出していると言い、その表題は「警察官の口ひげは完成なかば」だという話があった。ランダムに選ばれた単語の羅列だろうが、奇想天外すぎて、かえってびしびし刺さってくるタイトル! そんな笑いの中から、それでもその三十年後には、誰もが電話機や家庭用スピーカーの中の AI アシスタントに話かけている時代が来たわけで。
その一方、グローバル化によって取り残されてしまった自分ファースト、未知の感染、急速にネットでむすばれてゆく地球、それこそダイノソアキラーのような異変、小惑星なのか氷期なのか、くりかえされる。それでもなお、次の世代へ。
そんなことを夢想しつつ、手にした V-Synth という物性すら、私たちの感性にとっては、すでに情報が多すぎ、私たちは自分がつくりしものすら理解しえず、ほとばしる情報の奔流に溺死してしまったのかと、V-Synth という客体=オブジェクトすら、私たち主体=サブジェクトたらしめている感性モデリングで対処しえなかった小宇宙だったのかと、理解されるのに十年かかったかと、その一方でまだまだ手動の音創り、まだまだ原始的な物性モデリング、まだまだモデリングしきれていない感性、V-Synth の Time Trip 機能で時間軸上を旅しつつも、とかく VariPhrase ばかりが脚光をあびがちな V-Synth にて、だが COSM というモデリングは、秩序正しい大宇宙 COSMOS にも似て、暗示的ですなぁ、と呵々大笑する。
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<未来をこころざすシンセ:Roland V-Synth review> 前編:V-Synth の紹介と、仕様解説
あまりに情報量が多すぎるので、2分割します。 「前編:V-Synth の紹介と、仕様解説」 「後編:V-Synth の背景・誕生・そしてシンセの未来へ」
以下、前編です。
●メーカー名 Roland
●機種名
・V-Synth(初代:’03年発売:オープンプライス、発売当時の実勢価格は、29万円くらいか?)
・VC-1 “V-Card; D-50 for V-Synth/VariOS“(V-Card シリーズって、1枚3万円くらいやったっけ?)
・VC-2 "V-Card; Vocal Designer“
「シンセサイザーは、こんなことで良いのか!?」
という強大なアンチテーゼに対し、ローランドが出した渾身の回答、そして問題作、その名も「V-Synth」シリーズ。日本語では「ヴイシンセ」と読む。
そしてそのオプションとなるソフトウェア・ライブラリー「V-Card」シリーズ。この豪華3機種へのレヴューを、まとめてお送りします。ついでに先行機種 VP-9000 や VariOS(ヴァリオス)も、少し触れておく。
2003 年に発売された、初代 V-Synth。
61 鍵、ベロシティ、チャンネルアフタータッチ対応キーボードシンセ。フルデジタル。
2年後の 2005 年には機能拡張された3Uラックサイズ/デスクトップ型音源モジュール V-Synth XT が、さらに2年後の 2007 年にはフルモデルチェンジによる後継機種キーボードシンセ V-Synth GT が発表。
ローランドが独自開発した VariPhrase(ヴァリフレーズ)テクノロジーを使ったサンプリングシンセであり、と同時にヴァーチャルアナログシンセでもあり、さらには COSM(コズム;Composite Object Sound Modeling)テクノロジーによる各種オブジェクトをモデリングした音色加工セクションもある。これら3つをちゃんぽんにして音創りする、一種のセミモジュラーシンセ。
この当時のローランドには「V-Product」と呼ばれる、一連の革命的なスター商品があった。’95 年発売の V-Guitar VG-8 に始まり、V-Studio VS-880、V-Drums TD-10K、V-Mixer VM-7000、V-Bass、VP-9000 VariPhrase Processor、そして V-Synth / VarIOS / V-Card。いずれも Virtual のV、Victory のV、そして V-Synth などに限って言えば VariPhrase のVや、Variable のVもあろう。このあとで V-Piano、さらには R-Mix という PC / Mac 用ソフトにおいて VariPhrase を応用した V-Remastering という技術まで出して、V-Product の波は終わった。
V-Synth は、ソフトシンセみたいな音が出るハードシンセであった。ではソフトシンセで良いじゃないか、というと、そこはハードならではの、演奏できる楽器としての存在意義があった。 だが、それは単に物理的だから直感的、というだけではない。この意義ついて、一般的に思いつくよりもずっと深い次元にいたるまで、そして前人未到の楽器の未来への展望にいたるまで、ここではつぶさに見ていく。
●音源方式
これが、丸ごと可変する。当時そのようなスタンドアローン楽器はめずらしかったので、ローランドでは「Open System Architecture」と呼んでいた。機能が丸ごと変わるという点では、古く 80 年代後半にあった同社 S-50 や MC-500 に始まる一連の「クリーン設計」と呼ばれたプロ仕様サンプラーやシーケンサーがあった。が、V-Synth は、既存のどの機種とも関係なく、まったく隔絶した、異なる単独プロジェクトとして開発された。
V-Synth は、ソフトウェアシンセ同様の処理で音源を生成。どんなアプリを起動するかによって、機能も出る音もまるで変わる。
デフォルトでは V-Synth として起動し、他のアプリは V-Card シリーズという PCMCIA カードに収められて販売された。V-Card のアプリを起動させるには、電源オフのときにそのカードを V-Synth 本体背面にあるスロットに挿し込んでから電源を入れるだけ。すると、カードから自動的にシステムソフトをロードして起動する。各システムソフトは切替制で、二つ以上の共存は不可。さらに、いったん V-Card からソフトを流し込んで起動したあとは、そのカードを抜いて本体だけにしても、変わらず稼働し続ける。電源オフにすれば、当然ロードしたアプリは消えるので、設定はそれまでに保存せねばならない。
最終的には、以下の3種類のシステムソフトが用意された:
・V-Synth ・VC-1 "V-Card; D-50 for V-Synth/VariOS“ ・VC-2 "V-Card; Vocal Designer“
つまり V-Synth の実態は、アプリによって機能が可変するフレキシブルなソフトシンセであり、しかもそれが最適化された専用ハードを身にまとっている点がユニークなのである。いわば「ソフト・ハードシンセ」。内部的には、32bit 浮動小数点処理をしていた。
以下、おのおのの概略:
▼V-Synth モード
デフォルトでは、このモードで起動する。すなわち V-Card を使わずに電源投入すると、このモードで起動する。
基本的には
・2基の可変型オシレーター ・1基の加算・乗算セクション ・2基の COSM セクション(モデリングフィルターなど音色加工部分) ・1基のアンプ ・3基の内蔵エフェクト
からなり、おおむね減算方式にのっとった音創りができる。
さらに各セクション同士の結線は、3種類のストラクチャーから選べるという、準モジュラーシンセであった。
このときの音源方式は「Elastic Audio Synthesis」と呼ばれる。
これは、ローランド独自の VariPhrase 技術と COSM 技術とを併用したフルデジタル音源方式。Elastic とは英語で可塑的(かそてき)、可逆的、柔軟、そんな意味。
VariPhrase とは、オーディオファイルをリアルタイムにタイムストレッチしたり、リフレーズしたり、声ならジェンダーまで変えたりと、自在にひねくりまわせる技術。フレーズループをこねくりまわす際は、わざわざアタックトランジェント部分は自動的にそのままに残すなど、工夫もされている。
VariPhrase が誕生するまでのオーディオファイルは、いったんサンプリング / レコーディングしたら、そのあとはカット&ペーストする以外には編集できない「硬い」ものであった。すでにタイムストレッチはあったが、時間かかるノンリアルタイム処理かつ不可逆処理であり、しかも文字通りの破壊的エディットだったので、音が破綻することのほうが多かった。VariPhrase は、リアルタイム・タイムストレッチの草分け的存在であるだけでなく、一歩進んでオーディオファイルを自由自在にひねくりまわせる、画期的新技術であった。
この VariPhrase 音源のほかに、アナログを超えたヴァーチャルアナログ音源もあり、これも音創りに動員できるパラメーターは半端ではない。時々、V-Synth の VA 部は JP-8000 そのものと言われるが、JP-8000 からは機能・性能・精度ともに大きく進化。
加えて COSM 技術による各種モデリングでもって音色を加工するセクションも装備。1鍵ごとに違う処理をマッピングできたりもするので、ただのフィルターだけに、とどまらない。
そもそも COSM とは、Composite Object Sound Modeling の略であり、モノを構成する複数の部品ごとにモデリングし、それらを組み合わせることで、あらゆるモノの音を再現しようというコンセプトにもとづくモデリング手法。部分を組み合わせると、その総和を超えたあたらしい音がする、という発想である。
そして、これらをすべて統合し、柔軟な音声をもたらす音源方式「Elastic Audio Synthesis」。そのおもしろさはいろいろあるも
「世界で唯一、サンプルを時間軸制御できるハードシンセである」
ことが、もっとも大きいと言われる。しかも条件によってはフォルマントも制御可能。つまり、VariPhrase 型サンプリングシンセでもある。マルチサンプリングはできないが、そのかわり Roland 独自のリアルタイム可変 PCM ともいうべきものであり、相当にイカれた音にまでサンプルを加工できる。
なお、V-Synth では、外部音声を入力して加工することも可能。
▼VC-1 "V-Card; D-50 for V-Synth/VariOS“ モード
LA 音源を搭載した、D-50 そのまんま。
V-Card シリーズのうち、VC-1 という機種を、あらかじめ V-Synth 背面のカードスロットに差し込んでから電源スイッチを on にすると、このモードで起動する。のちの音源モジュール V-Synth XT では、V-Card の中身が丸ごと内蔵され、電源を落とすことなく切りかえれるようになった。
ローランド初のデジタルシンセである伝説の名機 D-50 を、モデリングどころか、D-50 実物のソースコードを、まんま移してきたという「D-50 そのまんまモード」。モデリングではなく、D-50 そのものになる。このため、D-50 のシステム・エクスクルーシヴを、まんま読み込むので、昔 D-50 でつくった音色が最新の V-Synth から出てきたときは思わず吹き出した。しかもこのおかげで、PG-1000 という当時あったプログラマーなるエディター・ハードウェア(!)で音創りもできる。
▼VC-2 "V-Card; Vocal Designer“ モード
VC-2 という V-Card を、V-Synth カードスロットに差し込んで電源投入すると、このモードで起動する。やはりのちの V-Synth XT では内蔵され、電源を落とすことなく切りかえれるようになった。
よくヴォコーダー・モードと思われがちだが、ただのヴォコーダーにあらず! VP-330 のようなヴィンテージ・ヴォコーダーの再現はもちろん、大聖堂における壮大な混声合唱を意のままに自分の声で歌詞を吹き込めるクワイア・モデリングマシンなどなどにもなる。気分は第九かハレルヤコーラスか、はたまたカール・オルフ作曲カルミナ・ブラーナ!
なお、あとから出てきた VP-550、VP-770 という機種は、このアルゴリズムをリファインし、専用ハードへ移植して単独機にしたもの。
▼Open System Architecture
先述の通り、V-Synth のように機能がまるまる切り替わるという仕組みを、当時のローランドでは「Open System Architecture」と呼んでいた。
このように機能がまったく変わる機種は、古くはローランドの S-50, W-30 といったプロ向けサンプラー、そして MC-500, MC-500mkII といったシーケンサーがあった。S-50, S-550, S-330 はサンプラー機能のほかに、Director-Sというシーケンス・ソフトを読み込ませることで、本体音源を駆動する原始的なワークステーションになった。
MC-500 シリーズは、MIDI シーケンサーになるほかに、リズムバンク・ライブラリーや、Sys-Ex を送受信して管理するバルクライブラリアンなどのシステムソフトが後追いで発売され、これらを読み込ませることでリズムマシンになったり、気の利いた Sys-Ex ライブラリアンになったりした。
このアプリによって機能が変わる設計思想は、当時「マイコン」と誤解されて呼ばれし原始的なパソコンになぞらえ「クリーン設計」と呼ばれた。
また、V-Synth と同時に発表された赤い VariPhrase 1U音源モジュール VariOS は、V-Producer II ない V-Producer III というパソコン上で動作する小さな DAW ライクなコントロール・ソフトウェアが付属し、通常はこれと併用することで曲づくりする VariPhrase 音源モジュールとして動作した。
と同時に、V-Synth 同様、V-Card シリーズを読み込ませることで、D-50 モジュールや Vocal Designer モジュールにもなった。さらに、パソコン上で動作するコントロール・ソフトウェアとモジュール本体ファームウェアの切り替えにより、VariOS-8 という VA ポリシンセモジュールにも、VariOS 303 という TB-303 を意識した VA ベースシンセにもなった。
このため、VariOS には「Open System Module」という肩書まであった。
というわけで、これら V-Synth や VariOS は、やはり専用ハードの衣をかぶったソフトシンセ、と言えよう。
こういう機種が存在していたことから、ローランドでは、
・ソフトシンセ ・ハードシンセ
という分類をせず
・PC / Mac ベースのシンセ ・スタンドアローンのシンセ
という分類をしていた。
つまり本質的にデジタルシンセとは全てソフトシンセなのであり、その動作プラットフォームが、
・パソコン上なのか ・スタンドアローンなのか
の違いでしかないという認識である。そしてスタンドアローンであれば、ソフトに最適化した独自のハードを身にまとうことになる。
故にハードシンセといえば、リアルアナログシンセしか無い、というのが当時のローランドのスタンスであった。
なお V-Synth の後継機種 V-Synth GT では、Open System Architecture は廃止された。よって、V-Card 非対応となり、D-50 モードが無くなった。そのかわり Vocal Designer は常に起動して VariPhrase / COSM 系による「Elastic Audio 音源」とレイヤーできるようになったが、そのアルゴリズムは、音質はよりクリアに、パラメーターはリファインされてより単純化されているらしい。さらに Elastic Audio 音源による2音色重ねもできるようになり、AP-Synthesis(Articulative Phrase Synthesis)と呼ばれる生楽器の奏法や挙動をモデリングした独自のシンセシスも搭載し、これを他のプリセット音源波形へあてはめることで非現実的ながらにリアルな表情変化をもたらす楽器音も出るようになった。
●同時発音数
最大 24 音だが、演算負荷によって可変。
それはソフトシンセと同じで、負荷がかかれば発音数が減る。普通のハードシンセでは、音色をレイヤーすれば発音数が半分になるものだが、V-Synth では例えばどの音源波形を使うのか、どのフィルターを使うのかによっても発音数が変わる。重たい処理を重ねまくった場合、同時発音数は最小4音ポリくらいになってしまうが、そのぶん、音が非常に個性的になるので、私は不便に思ったことが無い。初代 nord lead も Dave Smith の Evolver 最上位機種も4音。あれって音が個性的でクールだよね! もっと言うなら名機 prophet-5 ですら5音ポリだったのだが、みんなそれを 120% 使いこなして様々な音楽をしていた。そして V-Synth も、それらにならぶ名機たらんとして開発されたのである。
●内蔵エフェクトの性能と傾向
▼V-Synth モード
・リバーブ1基 ・コーラス1基 ・41 アルゴリズムのマルチエフェクトを1基
計3基のエフェクトを内蔵。基本的には、同社初の VariPhrase 音源機である VP-9000 のそれを踏襲したもの。
独立リバーブは、SRV-3030 からリファインしたというクリアなリバーブのほかに、専用 EG がついたノンリニア・リバーブというゲート・リバーブの拡張版、左右に音が飛ばせるステレオ・ディレイなどになる。
独立コーラスは、複数のコーラス・アルゴリズムがあるほか、フランジャーやショート・ディレイにもなる。
そしてマルチエフェクトには、チェイン・アルゴリズムなどのほかに、単発もののなかに過去の名機エフェクターを COSM 技術でモデリングしたものがいくつかあり、それらはテープエコー RE-201、ディメンジョン SDD-320、フランジャー SBF-325、BOSS コンパクトペダルのフランジャーをステレオ化したものなど。あと歪み系や、ビットレート落としなどもある。
このエフェクト群だけは、音源部からは独立した DSP で処理しているため、24bit 固定小数点処理であり、またエフェクトの演算負荷が重い軽いにかかわらず、本体シンセの発音数は変わらない。
▼VC-1 "V-Card; D-50 for V-Synth/VariOS“ モード
まんま D-50 で動作するモードなので:
・パッチあたり2基の変調系(コーラス/フランジャー) ・パッチあたり1基の空間系(リバーブ/ディレイ)
D-50 と同じく、空間系はエフェクトタイプを選べず、他のパッチからコピってエディットする! 当時はデジタルリバーブを内蔵しただけでも御の字だったので、これでもまったく不便だともなんとも思わなかったのである。
▼VC-2 "V-Card; Vocal Designer“ モード
なんと V-Synth モードとおんなじエフェクトが出現する。すなわち 41 アルゴリズムのマルチエフェクトと、独立したリバーブ、そしてコーラス。
さらに別途、マイク入力された音声を整えるため、上記とは別に入力音声用ノイズ・サプレッサー、コンプ、リミッターも装備。
●内蔵波形、プリセットの傾向
▼V-Synth モード
まず VariPhrase 処理された PCM 波形と、VA すなわちヴァーチャルアナログ波形とがある。オシレーターにて、どちらの音源波形を出力するか、モード選択する。
VariPhrase エンコードされた PCM 音源波形は、内蔵フラッシュメモリーに貯蔵され、その数や内容は、バージョンによって変化しており不定。なんと音源波形は書き換え可能で、ユーザーが個々の波形を消去することもできれば、ファクトリー・リセットで復活させられる。ユーザーが自分でサンプリングしたり、ネット上でひろった著作権フリーの .wav / AIFF ファイルを USB 経由で取り込んだりした波形も、ここに保存される。最大、計 999 波形を保存可能。
なので、プリセット波形ではなく、プリローデッド波形ということになる。
一方 VA 音源波形には;
・鋸歯状波 ・矩形波 ・エイリアスが少ない鋸歯状波 ・エイリアスが少ない矩形波 ・ランプ波 ・三角波 ・サイン波 ・ホワイトノイズ ・JUNO 波(変調鋸歯状波)
がある。
鋸歯状波と矩形波とでは、エイリアスの多い少ないによって、2バリエーションある。多いほうは、かなりエイリアスノイズが出る。少ないほうは、処理が重たくなるので発音数が減る。当時、多くのメーカーが必死でエイリアス除去につとめるあまり、音色がおもしろくなかったので、実はエイリアスがあったほうが、かえってガッツのある音が出ていた。実際、海外機種ではエイリアスを意図的に流出させる機能を持ったものすらあり、V-Synth もそれにならった選択肢を設けている。
JUNO 波というのは、α JUNO シリーズにあった変な倍音構成の鋸歯状波のようなパルス波のような、みょーちきりんな波形をモデリングしたもの。また多くの VA 波形は PWM によって変形できる。つまり鋸歯状波や三角波でも、PWM によって変形可能。
これが Ver.1.5 になると;
・D-50 の鋸歯状波 ・D-50 の矩形波 ・サブオシレーター
が追加された。いずれも V-Synth 本来のものよりは、いくぶん丸い音がする。
さらに Ver.2.0 では、過去の DSP シンセの名機 JP-8000 にあった音源波形を、改良したものなどが追加。それらは;
・JP-8000 にあった SuperSaw ・ポリ化された Feedback Osc. ことフィードバック・オシレーター ・そして新規開発された X-Mod(クロスモジュレーション)オシレーター
上記のうち;
・SuperSaw は、言うまでもなく鋸歯状波を7つ重ねたモデリング波 ・Feedback Osc. は、JP-8000 ではモノフォニックだったが、V-Synth ではポリフォニック化 ・X-Mod オシレーターでは、オシレーター2がモジュレーターに、オシレーター1がキャリアになる ・しかも SuperSaw や Feedback Osc. は、JP-8000 ではオシレーター1でしか使えなかったが、V-Synth では2つのオシレーターで使えるようになったので、鋸歯状波 14 波重ねという、あほなくらい分厚い音もでるようになった。
SuperSaw 波は、JP-8000 に搭載されて以来、トランステクノの定番音色となったが、わたしゃ Feedback Osc. のほうが好き。なんかいかにもシンセシストが憧れるギターみたいな、シンセによる近未来ギターを先取りする意欲的な、そんな音色変化がとてもいい。どうせなら JP-8000 にあった、D/A がアホになった三角波のエミュレーションとかも加えてほしかった。
なお肝心の音については主観的な意見になるが、いずれの VA 波も、リアルアナログからすると硬質な印象を受ける。ただし、Clavia nord シンセほどブライトな高次倍音に満ちたブライドな音でもない。つんざく押しの強さがほしければ、VariPhrase 波をシンセサイズしておぎなうと良い。後述する COSM セクションと併用すると、とんでもない重低音もだせるが、重低音でも輪郭がはっきりして粘る感じなところが、リアルアナログとは違う新しさ。
プリロードされている音色に関し、総じて言えるのは、シンセならではの抽象的なシュールな音が得意ということ。ていねいにマルチサンプリングされたアコースティック楽器みたいな音は、まず出ない。その代わり「どうやって、こんな音つくった!?」と言いたくなる音は、いくらでも出る。
これらの音色もまた、内蔵フラッシュに保存され、すべて書き換え可能。これもバージョンによって数・内容ともに変化している。
ところで Ver. 2.0 と、それ未満のバージョンとでは、VariPhrase 音源波形がまったく異なるので、両バージョンの間には音色の互換性が無いという、またおもいきったことをしたものである。Ver.1.51 以下のプリロード波形やプリロード音色は、VariPhrase の特性を生かした曲芸的なものが多く、私は大好きだったが、どうも実戦的でなく玄人ウケだったらしい。たしかに私でも、音色によってはっきり好みが分かれるものがあった。そこで Ver.2.0 からは、世界中のアーティストが作成した、より即戦力となるプリロード波形とプリロード音色が採用されることになり、互換性を犠牲にしてまでしてそれを断行したあたり、なみなみならぬ意気込みをかけたテコ入れである。
このバージョンアップは、ユーザーが簡単に行えるようになっているのだが、裏技を使うと、システムプログラムだけ Ver.2.0 に上げて、音源波形は Ver.1.51 以下のままという、いわば「キメラ」「キマイラ?」とでも言うべく、ハイブリッド・バージョンにもできた。ただし、この場合、誤動作や変なことになってもメーカーの保証外! たとえば Ver.2.0 で追加された Sound Shaper という音創りマクロ機能は、この場合だと正しく動作しない。私は、ハイブリッド・バージョンやっちゃいました! はい、メーカー保証外です! 自己責任です! 私は、あまりにも古いバージョンでたくさん音色を創ってしまったのだが、シンセシスだけは Ver.2.0 の恩恵を受けたかったので、あえて、メーカーの保証を捨ててまでして行いました! 良い子の皆さんは真似しないようにしましょう。やり方? どっかの海外ユーザーサイトに載ってました! ここでは紹介しません!(アメリカのローランド US 社が、勝手に「自己責任でどうぞ」ってアップしとるワwwww https://www.roland.com/us/support/by_product/v-synth/updates_drivers/f0fd62e8-e5b2-4a99-9f96-8e9d6a526207/ フランクフルト・ムジークメッセで「どうしても教えろ」と詰め寄られた海外スタッフが、社員バッジを外し、あくまで1民間人となって、自己責任を前提に教えたところ、それがネットでまたたくまに伝播し、それを勝手にアメリカさんが拾ったらしい。さぁ皆さん、故障しても誰にも文句いわないでね、DIY ってそういうもんでしょ)
なお、音源モジュール V-Synth XT は、最初から Ver.2である。
そして後継機種 V-Synth GT に至っては、まったくそれまでの機種とは互換せず、しかも V-Synth GT 独自の Ver.1と Ver.2とがあり、それでまた音色が違う。V-Synth シリーズとは、どこまでも果てしなく輪廻転生しつづけるシンセらしい。
▼VC-1 "V-Card; D-50 for V-Synth/VariOS“ モード
音源波形は D-50 のものと同じであり、さらに新規 PCM 波形も追加されているため、D-50 と上位互換する。
・一種の先駆的 VA とも言えるシンセサイザー・パーシャルには、鋸歯状波と矩形波との2種類の音源波形があり、どちらも PWM がかかるところも D-50 と同じ。 ・PCM パーシャルには 128 種類の音源波形があり、このうち最初の 100 種類が D-50 と同じもの。新たに追加された新波形には、V-Synth モードの Feedback Osc. をサンプリングした音などがあったりする。V-Synth と違って、ユーザーが波形を追加することはできない。
プリセット音色は、オリジナルの D-50 にあったものの他に、かつて別売されていた純正の ROM カード・サウンドライブラリーの音色がすべて網羅されている大サービスぶり。いずれも黎明期の PCM シンセならではの、荒削りでいて個性的かつ気持ちよくノイジーな LA 音源特有の音ばかり。ジャン=ミシェル・ジャールが、アルバム「REVOLUTION」や「Waiting for Cousteau」等でそのまんま使った音色などがある。
▼VC-2 "V-Card; Vocal Designer“ モード
12 のアルゴリズムがあり、音源波形はアルゴリズムによって異なる。リアルなクワイアから、ヴィンテージ・ヴォコーダー系の音源波形、ノイズなど、さまざま用意されており、これらをキャリア波として使う。
マイクを使わず鍵盤を弾くだけで音源波形を鳴らすアルゴリズムもあり、このときはユーザーが音源波形を追加することも可能。
●エディットの自由度と可能性
これまた膨大で深い。
4階調モノクロ表示のグラフィック液晶ディスプレイは、QVGA(Quarter VGA すなわち ¼ VGA)サイズなので、今から見れば小さくて表示もラフ。PC / Mac / iOS エディターアプリもない。ただ、これは当時のハイエンド機種には、よくあった仕様であり、マルチタッチではないがタッチスクリーンであるだけ、まだましとも言う。V-Synth XT ではカラー液晶に、さらに後継機種の V-Synth GT では視野角の広い TFT カラー液晶になり、表示されるグラフィックスもちょっとばかし近未来的なテイストへとなった。
ただしタッチスクリーンをいじってると、そればっかりにのめりこみ、横にあるたくさんのノブの存在を忘れてしまう。中央値を出すにはセンタークリックのあるノブを使うなど、適当に使い分けるのが良い。
▼V-Synth モード概観
先述のとおり、基本的には、
・2基のオシレーター(各オシレーターが専用の音量 EG つきなので、各オシレーター自体が1台のシンセのような威力を発揮する) ・1基のモジュレーター(オシレーターミキサー+変調機) ・2基の COSM セクション(フィルターなど音色加工部分) ・1基のアンプ ・3基の内蔵エフェクト
からなり、おおむね減算方式にのっとった音創りができる。
さらに、エフェクト以外のブロックは、3パターンの「ストラクチャー」と呼ばれるプリセットされた接続方式でもって配置を変えられる。タイプ1は、COSM セクションが直列に並び、2つのオシレーターを2基直列接続の COSM へ流すもので、Jupiter-8 などと似たもの。タイプ3は各オシレーターと各 COSM セクションとが並列に並び、オシレーター専属の音量 EG のおかげもあって、ほぼ2系統のシンセシスとして動作するもの。タイプ2は、その中間的存在。
▼V-Synth モード;オシレーター概要
2基のオシレーターの各々にて:
・VariPhrase 音源波形 ・VA 波形 ・ステレオの外部音声入力:これはオシレーター1への代入のみ
から1つ選んでアサインする(PCM パーシャルとシンセ・パーシャルをアサインできた D-50 に似てる)ため、2つのオシレーターを両方とも VariPhrase オシレーターにすることも、両方を VA オシレーターにすることも、片方ずつ異なる方式のオシレーターにすることも可能。ステレオの外部音声入力をオシレーター1に代入することで、外部音声を様々な変態 COSM フィルターで奇想天外に加工できるのも良い。
▼V-Synth モード;VariPhrase 基礎編
PCM オシレーターに VariPhrase を採用しているため、マルチサンプリングはできず、むしろ時間軸やフォルマントをどう料理するかに力点が置かれている。
VariPhrase 音源波形として、ユーザーがサンプリング / リサンプリングした波形を内蔵フラッシュメモリーに保存できるほか、数百種類の音源波形がプリセットされているが、気に入らない波形を削除 / 復活できるところがすごい。ぜひとも、すべての PCM シンセに、こうしてほしい。音色パッチもすべてが RAM なので、これも全部自作の音にできる。これもすばらしい。コルグは昔から音色メモリーは RAM ベースだったが、音源波形までもが削除できるシンセは聞いたことが無い。どのメーカーも、こうしてほしいものだ。
VariPhrase 波形をどうやってつくるかというと、サンプル波形を VariPhrase エンコードすれば良い。
サンプルそのものは、本体で自力サンプリングした波形、USB 経由でインポートしたサンプル、あるいは内蔵エフェクトまで込みでリサンプリングした波形が使える。
それらユーザーサンプルを、まずはタッチパネルで波形編集し、
そのあと VariPhrase エンコーディングして初めて音源波形として使用する。
エンコードタイプも複数あり、対象となるサンプルに応じて使い分ける。この結果、ピッチを変えてもテンポ(V-Synth では Time という)が変わらない、あるいはテンポを変えてもピッチが変わらない、ソロ音声をサンプリングした場合はフォルマントも変わらず、演奏はポリフォニックでできる。あるいは意図的に、ピッチやテンポ、フォルマントを独立して自在に変えられる。変えるのはノブ、鍵盤、二次元パッド、ペダル、各種物理操作子などなどで、両手両足で自在にできる。
ただし、どのメーカーのタイムストレッチでもそうなのだが、波形との相性があり、きれいにストレッチできるケースと、歪んだりデジタルノイズが乗ったりローファイに崩れてしまうケースとがある。意図しない音色変化が生じてしまって使いものにならないケースもあるが、きれいにストレッチできなくても、その歪みかたが妙におもしろくて使ってしまうケースもある。冨田勲が、moog IIIp の音の歪みやすさを逆手にとって音創りしていたり、Art of Noise が初期の8bit なフェアライト CMI を駆使して個性を出していたのと同じ。
また、エンコーディング前にはうまくループが取れていたのに、エンコードするとループノイズが再発する場合もあり、そんなときは、ループの開始と終了ポイントを数波ぶんループ長が短くなるよう設定しなおすと回避できる。隙間の多いフレーズ・ループなら、ほぼ問題なく一発で動作する。
すごいやろ。
それでもまだダメなときは、こんな使いこなしワザもある;
V-Synth 上の波形編集で、こんなふうに、時間軸上にループを作ったとしますね
|———-|—-Loop—-|
上記に対して、ループ部分を2サイクルぶん、付け足しましょう
|———-|—-Loop—-|—-Loop—-|—-Loop—-|
そして、エンコードするとき、2つ目のループ区間のみを、ほんまのループ範囲として指定するのです
|———-|—-Loop—-|====Loop====|—-Loop—-|
すごいやろ。
余談ながら「VariPhrase」という単語は、日本語では「バリフレーズ」、英語になると「ヴェァリフレイズ」と巻き舌かつ中間母音を含んだ難しい発音になるも、イタリア人がしゃべると「ヴァrrrリフrrrrレイズ」と、まるで日本語みたいに、しかも江戸っ子べらんめぇ調になるのには、ちょっとだけ驚いた。イタリアンは、バス停のことを「フェルマータ」って言うし、「ゆっくり気をつけて!」っていうときは「ピアノピアノピアノ!」って叫ぶし、ドイツ人にいたっては、ハープシコードのことを「チェンバロ」って言ぅてたし、生で聞くと少し感動。
▼V-Synth モード;VariPhrase 発展形「Time Trip」
V-Synth に見る VariPhrase テクノロジーで、従来と違う、最も分かりやすい進化点が Time Trip 機能。「タイムトリップ」という、すごい名前がついているが、文字通り「音のタイムトリップ」を実現する。
先行機種 VP-9000 では正方向にのみ時間制御できたが、V-Synth では逆方向でも時間制御できるようになった。ピッチを変えることなく正再生~停止~逆再生まで、なめらかに変化する。タンテのスクラッチと似て非なるところは、ピッチが変わらず、再生速度=テンポだけが変わるところ。V-Synth ではこれを Time Trip と呼び、その名も Time Trip Pad と呼ぶ2次元パッドや、LFO、EG、D Beam、ベロシティなど様々なコントローラでも制御可能。Time Trip Pad には円が描いてあり、これをなぞると、1拍で1周するようになっているので音楽的にフレーズの進みぐあいを視覚で確認しながら制御できる。円の向心方向にも、別パラメーターをアサイン可能で、指を半径方向に動かしたり、小さく円を描くか、大きく描くかで音が変えられる。
さらにこのような極座標系のみならず、よくある X-Y 座標系にも切替えることが可能。すぐれたフィジカルコントローラあっての、すぐれた音源。それでこそ楽器。
なお、モジュール版の V-Synth XT では、液晶画面に Time Trip Pad や X-Y Pad を表示させて使える。SF の電影照準器みたいで、操作しててもわくわくする。
この Time Trip 機能は、V-Synth シリーズにのみ搭載されている機能で、指一本で、フレーズサンプルのピッチを変えずに、スピードだけ変えたり再生方向を正逆切替えられるので、タンテのスクラッチとも違う新しい表現。むろん設定でピッチも可変するようにすれば、D-Beam で心底リアルなスクラッチをかけたりもできる。手を曲芸のようにひらひらさせながらスクラッチかけるワザは、ローランドのデモンストレーター David Ahlund(デイヴッド・オーランド)氏が「D-Scratch」と命名して、よくやっていた。
鍵盤やパッドやノブやペダルや D-Beam などがついていることもあり、この「フレーズサンプルがリアルタイムに弾ける・あやつれる」というところが唯一無比のすぐれたところで、単なるタイムストレッチではなく、よってサンプルのピッチやテンポ合わせするだけの Melodyne や ACID、ableton LIVE などと決定的に違うところである。V-Synth は、やはり楽器。手で弾ける、演奏できる楽器なのだ。
じつは先行する Roland 社のグルーヴボックスに D2 というオレンジ色の機種があり、あれにも Time Trip という機能がついててパッドまであるのだが、あれは MIDI シーケンシング上のトリックと逆再生 PCM 音源波形をわざわざ積んでる「まがいもの」であって、VariPhrase ではないw
▼V-Synth モード;VariPhrase 応用編
V-Synth では、単一のフレーズサンプルを全鍵おなじテンポで弾けるだけでなく、メロディやハーモニーも思いのままに弾ける。リズムループをサンプリングして弾くと、ドスの効いたベードラは低い鍵盤で、スネアは高い鍵盤で鳴らすにも何の設定もエディットも要らず、ただレガートで弾けば思いつきでどんどん試して聴ける、弾くだけの快適さ。がばっと和音を押さえて高次倍音を持ちつつもヘヴィなリズム音にする、なんてのも一発。
あるいはタイムというパラメータをノブでリアルタイムでいじる、LFO かける、EG で制御するのも良い。LFO をフレーズサンプルの BPM と同期させれば、正再生・逆再生が交互に出てくるリズムループがつくれる。LFO は MIDI クロックなどでも BPM 同期できる。つまり、シーケンサーの拍に合わせて正再生・逆再生が交互に出てくる。オシレーターが2つあるから、もっと複雑なことも可能。
人声によるソロなど、モノフォニックなフレーズサンプルの場合、フォルマントが可変してポリで演奏できるので、単一のサンプルにてフォルマントを崩さずに超ソプラノから超バスまで幅広い音域で演奏したり、あえてフォルマントを加工することでジェンダーを変えられる。2つのオシレーターのうち片方を女性ヴォーカルに、もう片方を男性ヴォーカルにしてハモらせたりできる。このときも、もちろん鍵盤でリアルタイムにおもいつくままにメロディなりハーモニーなり、それこそハモりとソロとを瞬時に弾き分けたりできる。
ReCycle! みたく、音節ごとにマーカーをつけてドラムマップみたく鍵盤上に展開でき、これをアルペジエイターで駆動し Time Trip Pad をいじると、ノーマルなフレーズの中にリバース再生が入り乱れる変態リズムが速攻でつくれる。マーカーは、VariPhrase エンコーディング時に自動的にトランジェント・ピークを検出して割り振られるばかりか、自分で自由に追加削除もできる。
しかも波形上にマーカーがついているだけで、実際にぶった切っているわけでは無いのが REX ファイルと違うところで、波形としては元の単一のまま管理できる。
また、VariPhrase にはグラニュラーシンセシスも含まれているので、サンプルのピッチはそのままに極端にテンポをゆっくりに落とすと、ちょうど動画の一部を極端に拡大すると個々のピクセルが明滅しながら姿を現すように、原音とは似ても似つかない、うごめく倍音群が得られておもしろい。これもその当時までに無い音創り。世界で唯一のグラニュラー・スタンドアローンシンセとも言える。おかげで、切り裂くような耳に痛い過激な倍音も平気で出るので、フィルターで加工しがいがある。
しかもアタックトランジェントのピーク部分だけは、無加工のまま残してくれるので、アタックがなまることも無い。
さらに、なにも時間軸にこだわらなくとも、たとえばフォルマントをノブや X-Y パッドで自在にいじりながら弾くだけでも、非常に感覚的。風変わりなフィルターみたく使える。
たとえば生ピの音をサンプリングし、フォルマントを XY パッドでいじりながら弾くと、まるでピアノ弦が木製になったような、変な木琴のような正体不明の音が出る。クラヴィの音を、フォルマント崩さずに XY パッドでピッチベンドしながら弾きまくっている人もいた。
というわけで要約すれば、サンプルの、ピッチ、タイム(テンポ)、フォルマントの三大要素を、独立して演奏できるところが、あたらしい。
▼V-Synth モード;VA オシレーターと、オシレーター EG、そして Time Variant の真意
VA 音源波形は、ただのモデリングにとどまらず、先述のとおり多くの波形で PWM が効いたり、Fat という低域を強調するようなパラメーターや、Impact という、アタックを強調するパラメーターなどが追加されている。特に Fat には、専用 EG があるので時間軸上で音の太さを変えれたり、LFO やベロシティで音の太さを変えれたりする。PWM は鋸歯状波や三角波のような音源波形にも効き、やはり専用 EG があるほか、LFO やベロシティで変調できる。
たいがいの VA 波形で、サブオシレーターが使えるのもいい。最大4オシレーター駆動できるので、輝くようなストリングスとか創れる。
各オシレーターには、専用アンプこと専用 TVA があり、これまた音量 EG や LFO、ベロシティ変調までが用意されているので、ほとんどオシレーター1個だけで1台のシンセに匹敵する音創りが可能。
これを含め、オシレーターには4基の EG が存在する。
VariPhrase オシレーターでは:
・ピッチ EG ・タイム EG ・フォルマント EG ・オシレーター専用音量 EG
VA オシレーターでは:
・ピッチ EG ・PWM EG(矩形波以外の大半の波形でも PWM かかる) ・Fat EG ・オシレーター専用音量 EG
このように、オシレーター変調が充実しているのが、このシンセの特徴でもある。
ローランドは、旧来の VCF, VCA をデジタル化するにあたり、DCF, DCA という名を使わず、あえて TVF, TVA という名を使った。ここでの TV とは Time Variant の略で、時間軸上を変化することを意味し、すなわち音に時間的変化を与えてこそシンセサイズであるという意味が込められていた。したがって V-Synth のオシレーターは、いわば「Time Variant Oscillator」なわけで、時々刻々と表情が変化、それも自在に変化できるオシレーターなのである。PPG / waldorf のウェーヴテーブルやエンソニック VFX などにあったトランスウェーヴの未来形、とも言えよう。
▼V-Synth モード;モジュレーター・セクション
2つのオシレーターをミックスする「モジュレーター」だが、単なるオシレーターミキサーを超え、以下の処理が可能;
・単純な加算ミックス ・FM ・リング変調 ・エンベロープフォロワーによって検出されたオシレーター2の音量カーヴでオシレーター1の音量を変調する「エンベロープ・リング変調」 ・ハードシンク
上記のうち1つが選べる。このうち加算ミックス以外の変調方式系では、オシレーター2がモジュレーターに、オシレーター1がキャリアになる。なお、ハードシンクだけは、オシレーター2波形がアナログモデリング波形に限定される。
モジュレーター・セクションでは、まず他のシンセになかなか無いのがエンベロープ・リング変調。これは、先述のとおりオシレーター2をモジュレーターに、その音量変化をエンベロープ・フォロワーで取り出し、オシレーター1をキャリアとしてその音量に当てはめて変化させるもの。オシレーター2にフレーズループをアサインすると、その音量変化にしたがってオシレーター1の音量が追随するので、EG や単純な LFO にとらわれない複雑なリズム感のあるコード弾きができたりする。
あと知人に教えてもらったのだが、モジュレーターセクションにて FM を選び、モジュレーターにサイン波を、ピッチをキーフォローさせず、言わば fixed frequency 状態にして、キャリアに PCM 波形を選ぶと、元の PCM 波形には無い新しい倍音を生み出せる。
▼V-Synth モード;COSM セクション
COSM セクションには 16 タイプのアルゴリズムがあり、単なる LPF, HPF から、ウェーヴ・シェイパーやアンプ・モデリング、ギターのボディの鳴りをモデリングしたレゾネーター、Lo-Fi、ポリフォニック・コンプなど、いろいろある。これも元は 15 タイプだったのが Ver.1.5 以降は、TB-303 のフィルターをモデリングした TB Filter が加わり 16 タイプとなった。この調子でもっともっと増えてくれるのかと期待したのにねー。
TB Filter は、効きが滑らかで、またオリジナルの TB-303 には無いパラメーターも追加されてて深い。これはのちの AIRA(アイラ)シリーズに採用されている Analog Circuit Behavior モデリング音源ではなく、さらにのちの Roland Cloud プラグインに採用されている Analog Behavior モデリング音源でもない。原始的なモデリングであり、その分、かえって独特。
すべてボイスごとに処理されるので、じつはポリフォニック・ディストーション、ポリフォニック・オーバードライヴ、ポリフォニック・コンプレッサーなどにもなり、和音でも音が濁ったり相互干渉することがないので、クリアな歪み処理ができる。なかでも、レゾネーター・ギターのボディをモデリングしたものや、言ってみればポリフォニック・アンシミュ(!)というものもあり、秀逸。
特に白眉は、2種類のサイドバンド・フィルター。じつはテレビに内蔵されている画像処理の回路からモデリングして音創りに転用してみたものらしい。これはどうやら整数次倍音と側帯波のみを残していく、一種のコムフィルターのようなものらしく、フィルターを絞れば絞るほど金属的な響きがして、最後には全倍音が消滅する。ホワイトノイズからでもピッチ成分を抽出できて音創りできる。
外部音声を、オシレーター1に代入できるので、フィルター・バンクとして外部音声を COSM 加工できる。
▼V-Synth モード;秘技「COSM マッピング」
この COSM セクションで、じつは一番大きなポイントは、1パッチあたり最大 16 ゾーンに鍵盤を分割し、各ゾーンに違う COSM 処理をアサインすることで、まったく異なる音色加工ができること。やろうと思えば1鍵1鍵ごとに違う処理をアサインできることである。
具体的には、キースプリットで複数のゾーンに分割し、おのおの違う設定にすれば、ゾーンにまたがって手で弾くだけで奇想天外な加工ができる。最大 16 ゾーンにまで分割し、それを1パッチとすることが可能。ただ、ゾーンまわりのエディットは、ちょっと不親切な画面でめんどう。その苦労を乗り越えれば、アルペジエイターで外部音声を切り刻むときなどで他には無い変態加工ができる。
先述のとおり、内蔵エフェクトにはヴィンテージ機種のモデリングもあるので、外部音声をそれで加工することも可能。
▼V-Synth モード;制御系、変調ソース系
全般的に EG が多く、先述のとおり VariPhrase のフォルマントやタイムをおのおの専用 EG で変調できたり、VA オシレーターにて Fat という低域を強調するパラメーターにも専用 EG があったり、フィルターのレゾナンスにまで専用 EG がついてたりする。EG そのものは古典的な ADSR 方式で、D-50 以降の多ポイントのものではないが、デプスをマイナスにできるので、これまたなつかしいテクで EG カーヴを上下反転させることができ、スフォルツァンド的な「hit and run」とも言われる音色変化も可能。最近、このように EG カーヴを反転できるデジタルシンセは、意外に無い。
アルペジエイターには、ノート情報のみならず、D Beam など操作子のリアルタイム変化も記録できる。2連装の D Beam による音色変化も楽勝で記録。Elektron で言うパラメーターロックである。
Ver.2.0 になると、4トラックのマルチ・ステップモジュレーターも装備されるようになった。16ステップ4トラックの簡易ループシーケンサーで、これもただのシーケンサーではなく、V-Synth のパラメーターも変化させられる。タッチスクリーンのおかげで、指一本でステモジのカーヴを描ける。DAW のオートメーションに近い。
アルペジエイターとどう違うのかと言えば、ステモジは鍵盤でトランスポーズできる。そして、アルペジエイターもマルチ・ステモジも、音色パッチごとにパターンを記憶可能。
マトリクス・コントロールと呼ばれる、モジュレーションマトリクスがあり、これが歴代ローランド・シンセの中では恐らく最大規模。13ソース、45デスティネーションあり、そこから最大8ソース / 16 デスティネーションまで選んで結線できる。
2つの汎用ノブもあり、さまざまに変調ソースとして使える。
D Beam は2連装なので2つのパラメーターを同時に制御でき、空間的リボンコントローラーみたく、効きしろの長いコントローラとして使える。V-Synth は独特の音色変化がおもしろいので、D Beam と最も相性の良いシンセではないだろうか。
▼V-Synth モード;エディット総括と、その後の機種への展開
初代 V-Synth とは、色彩豊かな PCM シンセでもあり、サンプラーでもあり、しかもそれが動的にリアルタイムで変化できる VariPhrase と、これまたアクの強いアナログ・モデリングのカップリング、しかもリング変調も FM 変調もハードシンクもでき、鍵ごとにことなるモデリング処理をあてはめれる COSM モデリングマップまで実現できるので、ただの VA よりもずっとずっと色彩豊かなバリエーションに富んだ音を出してくれる機種である。そしてさまざまなコントローラやアルペジエイターとマルチなステモジのおかげで、すべてが意のままにあやつれる。外部音声にも加工できる。
このようにパラメーターが膨大なのだが、初代 V-Synth Ver.2.0 以降と、V-Synth XT には、Sound Shaper(サウンド・シェイパー)という、マクロ・エディット機能があり、これを使うと目的の音がすばやく創れるようになった。サウンド・シェイパーをつかってラフにエディットし、いったんセーヴしてから、通常のフル・エディットで細かく詰めることも可能。ただしこれは、音源波形も Ver.2.0 コンテンツになっていることが前提。
V-Synth GT では、Sound Shaper II となって、マクロ・エディットからフル・エディットへ移行できるようになったらしい。
なお、あとから SH-201 という廉価版の VA シンセが出たが、これは V-Synth の VA 部分を拾い集めてパラメータを簡略化したかわりに、外部音声入力に対してのみ効く専用の独立したフィルターを追加した機種。機能を限定しているかわりに、CPU 処理ではなく DSP 処理としている。
SH-201 は、外部音声に対し、鍵盤を弾いたときと弾いていないときとで違う加工処理をあてはめられるらしく、キーのオン/オフによって外部音声が変わるという芸当ができる。これには打鍵時には外部音声をシンセ本体の加工処理でおこない、離鍵時に独立した専用オーディオ・フィルターで加工するというワザを使う。片方を LPF、もう片方を HPF にするとおもしろいかもしれない。アルペジエイターを併用すると、外部音声がリズミカルにきざめる。
なお、専用エディターソフトが付随し、これは VSTi にも AU にも対応しているので、DAW 上でトラックをフリーズさせたような使い方ができる。プラグインエディターというものは、このころからだんだん普及し始めた。
▼VC-1 "V-Card; D-50 for V-Synth/VariOS“ モード
D-50 そのまんまモードなので、詳細は拙作の D-50 レヴューにゆずるとして、ここでは V-Synth 上における使い勝手を少々。
D-50 モードのときは、一度にたくさんのパラメーターがタッチパネルでエディットできるので、D-50 より操作しやすい。D-50 のジョイスティック機能は、X-Y パッドがつかさどる。さらに各種の操作子にも、パラメーターをアサインできる。
パッケージ箱の中に PC / Mac 上で動作するエディターソフトも CD-ROM で入っており、このソフトは、SoundQuest というソフトハウスによって開発されたもの。なのだが、こちらは一転して使いにくいという噂。
V-Synth の D/A コンバーターは、D-50 のそれよりはるかに優秀なので、エイリアスノイズが出にくくクリアな音になっている。それを見越してか、VC-1 には「V-Synth 音質モード」と「D-50 音質モード」とがあり、前者は V-Synth ならではのクリアな音質で D-50 サウンドを満喫でき、後者は私みたいに D-50 のエイリアス大好き人間にとってうれしい D-50 の粗い音質をわざわざモデリングしたものとなっている。その D-50 音質モードでも、まだ実機よりは、じつは音質が良い。
▼VC-2 "V-Card; Vocal Designer“ モード
基本はヴォコーダーなのだが、12 のアルゴリズムがあり、それらは以下の5種類に大別できる:
・Modeling Choir:生々しい大合唱(クワイア)、男声や女声のヴォーカル、シンセ音ヴォーカルのモデリング ・Vocoder:いわゆるヴォコーダーが数種類 ・Poly Pitch Shifter:その名のとおり、ポリフォニックのピッチシフター ・Keyboard:鍵盤を弾くだけで鳴るクワイアなどで、ユーザーが音源波形を追加可能 ・Processor:外部音声を利用するトーキングモジュレーター的なアルゴリズム
各アルゴリズムには複数のパラメーターがあり、通常のヴォコーダー的な、子音を取り出す一種の HPF の設定とかのほか、フォルマントを変えたり、声をうなり声に濁らせたり、シンセ波形をキャリアに使うときは2つあるオシレーターの設定をしたりできる。
鍵盤でピッチを指定するほか、アルゴリズムによっては、マイク入力された声からピッチ検出して、それに自動的に追随したピッチでキャリア波を鳴らせるので、自分で自由に歌い上げて声色だけ変えるという芸当もできる。
マルチコードメモリーがあり、1オクターヴ内の1鍵ごとに、異なるコードをメモリーしておける。単なるコードの平行移調だけにとどまらず、鍵盤ごとに違うコードフォームがワン・キーで弾けるという芸当が可能。
出てくる音はヴォコーダーの範囲を越えたもので、ロボティックなヴィンテージ・ヴォコーダーの再現から、シンセ音でヴォコる、リアルな男性や女性コーラスを歌詞つきで歌わせる、リアルかつ壮大な混声合唱団に歌詞つけて歌わせるなど、様々にできる。ハリウッドのスペクタクルみたく、エピックな大仰な映画音楽みたく、大編成混声合唱団を真似るのに最適!
●拡張性
先述のとおり、PCMCIA カード・スロットあり。
PC カードアダプターを併用することで、バックアップメディアとして CompactFlash や Micro Drive などが使える。また、前述のとおりこのスロットにシステムプログラム入りの V-Card シリーズなる PC カードを差し込んでから起動すると、まったく別のシンセとして起動する。起動したあとは、カードを抜いても問題ない。
VariPhrase エンコーディングされたユーザーサンプル波形は、.wav 形式で保存される。USB 経由でこのファイルはパソコンと送受でき、しかも普通の .wav ファイルとして認識されるため、ダブルクリック一発で簡単に再生でき、DAW で利用できる。逆にパソコンから .wav ファイルを V-Synth を USB 転送し、それを V-Synth 上でエンコードして使える。音色パッチまでそのまま USB でパソコンと送受できるので、インターネットで音色交換することも楽勝となった。これらは今ではあたりまえだが、当時はまだ珍しい先端機能であった。
V-Synth XT では、USB での音声ストリーミングにも対応し、結果 USB オーディオインターフェイスとしても使えるようになった。
V-Synth XT では、外部音声入力がファンタム電源供給可能な XLR / フォーンとの混合ジャックになった。
V-Synth GT になると USB ホストとしても機能するようになり、USB メモリーなどがストレージメディアとして使えるようになった。
SPD/F ならびに ADAT Lightpipe に準拠した、デジタル・オーディオ出力端子が、コアキシャルとオプティカルと、ともにそろって装備。なかなか贅沢。
●あなたにとっての長所
抽象的な表現でなんだが V-Synth モードのとき「近未来の音」がするところ。それまで、どんなシンセが出てきても
「へん、しょせん俺さまの ensoniq VFX には、かなわねーのさ。VFX の音は永遠に新しいのさ。」
と内心ひそかに思っていたのが、これをいじってて完全にやられてしまった。
音源波形そのものを、根底から操作できるシンセは、そうそうない。まるで、音の遺伝子操作、音源波形の遺伝子操作をやっているかのようだ。
しかも音の時間軸を双方向に制御できるスタンドアローンシンセは、V-Synth しかない。「時間」すらをもパラメータとする、他に例の無いシンセ。
そして音源方式もすごいが操作子もすごい。Time Trip Pad による、波形わしづかみ感覚! これもまた唯一無比。たまたま鍵盤もついているので、なんとフレーズサンプルをクリエイティヴに弾けてしまう。これも他ではできない。
VA の音にて、とんでもない重低音が出る。しかも、それでも輪郭のはっきりした音なので、そこが新鮮でもある。
非常に非常に主観的な好みだが、ローランドのシンセの中では、もっともキータッチが好み。あと私が好きなキータッチを持つ機種と言えば、ensoniq VFX SD と Emu Emax SE。かつては CASIO VZ-1 のキータッチが好きだったが、今では軽すぎるように思うことだろう。まぁ、こればかりは人それぞれということで。
D Beam と、最も相性が良いシンセではないだろうか?
自力サンプリングやリサンプリングし、波形編集してシンセサイズできるのも、無限の可能性があっていい。
今ではあたりまえだが、USB でパソコンと接続し、ファイル送受できるのは、めっちゃ便利。ネットで見つけた著作権フリーの .wav ファイルを、ドラッグ&ドロップで V-Synth に入れてエンコーディングすれば音源波形になる。パソコンへのバックアップも、簡単かつ高速で済む。
私が D-50 でつくった音色の延命策。かつ、壮大なクワイアも意のままに歌詞つけてできてしまうところもまた、唯一無比。
●あなたにとっての短所
誰でも挙げることだが、マルチティンバー・モードの使い勝手の悪さ。
設定画面がたった一つしかなく、しかも非常に限定されたパラメーターしか存在しない。しかも内蔵エフェクトが、すべて第1チャンネルのものに統一されてしまう。なので、わたしゃマルチで使うことは、ほぼ諦めた。
電源投入時に内蔵フラッシュ・ストレージから内蔵バッファ・メモリーへと音源波形をいっせいに全部ロードしてくれるのだが、これが遅い。こういうところは、音源波形をロードすることなく波形 ROM から一発で読み出してくれる既存の PCM シンセに、軍配が上がる。一瞬で起動できないと、ちょっとスタンドアローンシンセらしくない。あ、そうか。これは事実上ソフトシンセなんだって、自分でも書いていたね。
まぁ往年のアナログシンセなんて、電源投入してから温度が安定するまで、最低でも半時間以上は待ってから弾いたもんであり、そんなんで済めばまだかわいいもんですが、でもやっぱ今はデジタルなんだから一瞬で起動しようね。近ごろのワークステーションも起動時間が長いが、あんまし待たせるもんじゃないよ、スタンドアローン機種は。
ちなみに V-Synth GT Ver.2.0 では、少しだけ、起動が早くなっているらしい。
音源波形メモリーの構造とその容量も、マニュアルからは分かりにくい。あとから V-Synth Book という販促物となる書籍が出たのだが、そこに詳しく図解されている。まず内蔵されているのは:
・16MB の内蔵 SSD ・50MB の内蔵 RAM
すなわち上記 16MB の内蔵ストレージないし外部ストレージとしての PCMCIA カードに音源波形が保存され、電源を投入するとそれらから 50MB の内蔵バッファへと音源波形をロードしてくれるのだが、それに気づくまで時間がかかる。おまけにタッチスクリーンでのメニューには「Memory」ではなく「Disk」と表示されるので、それが実は音源波形ストレージの事だと気づくのに時間がかかる。ま、たしかに USB でパソコンと接続すると、外部ドライヴすなわち「Disk」としてパソコンでは認識されるのだが、今までのシンセ使いにとっては、いきなり PC ライクすぎる言葉づかいかも。
音源波形メモリーそのものも、もっと容量がほしいなぁ。いくらタイムストレッチできるからって、バッファ 50MB というのも、今となっては少なすぎ。しかもそれを全て埋めると、前述のとおり起動時間がかかる。KRONOS も、そうやんなー。
USB でパソコンと接続して作業しているときに、他に何もできないのは不便。VariOS では普通に送受でけてるやないかい。
USB メモリーが接続できたらいいのに。V-Synth GT から出来るようになったけど。
わたしゃエイリアス・ノイズも好きで、それも音創りの一環とおもっているが、世間的には嫌われているらしい。たしかに普通の鋸歯状波とかで高域を鳴らすと、少し漏れて聴こえる。でもそれって、個性なんちゃうのん? かつて冨田勲が駆け出しのころ、当時の日本には存在しなかったエフェクターであるファズをイギリスから取り寄せて、それを時代劇でサムライが二人とも刀を抜いて睨みあっている緊迫シーンで「びやぁーん」って使って悦に入ってたら、スタジオエンジニアがヘッドフォンかなぐり捨てて「音が歪んでます!」って怒ったらしいが、それくらい柔軟な発想がないと、いかんぜよ。いつから電子楽器は、ノイズを否定するような、ド近眼な音づくりツールになったん?
海外メーカーのシンセやサンプラーなんか、ともすればエイリアス除去フィルターのカットオフが、パラメーターとしてユーザーに解放されていて、エイリアスばりばりの音も意図的に出せるようになっている。えらい。V-Synth も、もっと幅広く自在にクォリティを変えれるようになってほしい。
フロントパネルに向かって右側に配列された、おびただしい数のエディット・ノブを、ぐりんぐりん存分にいじくりまわすと、音がモタることがある。MIDI CC ではなく、Sys-Ex を送信するからである。これを回避するには、マトリクス・コントロールを多用するしかないらしい。うーん、せっかくたくさんあるノブなのに、それもどうかと。まぁ、左側のアサイナブル・ノブ2つを使えばええんですが。
アルペジエイターがゾーンごとに分割して使えないのは、困る。複数のゾーンをまたがって打鍵すると、そのとおりにアルペジエイターが起動してしまうのは、困るのだ。これは V-Synth GT では迂回策ができるようになったらしいのだが、私は持っていないので分からない。
サイドバンド・フィルターの音色変化は、非常におもしろいのだが、かけすぎるとアタックがナマるのは、ちょっと。
あと、かけすぎるとどんな音でも同じ音になってしまうので、うっすらかけるとか、さじ加減を習得せんならん。まぁこれはどんなフィルターでも同じで、LPF をかけすぎるとみんな丸い音になってしまうのと同じこと。要は使いこなしであり、まさにこれこそ、さじ加減。
ユニゾンモードが、ほしいよぉ。
SuperSaw は鋸歯状波7つ分あって音の繊細さは買うが、どの波形でもユニゾンできるのが、望ましい。デジタルでユニゾンさせると音が暴れるからとかなんとか言われたけど、それも音創りやで。
TVA にパン設定やパン・モジュレーションがあるのは良いが、せっかくオシレーターごとにも専用 TVA がついているので、そちらにもパン・モジュレーションをつけてほしかった。広がる VA シンセパッド音を背景に、ゆっくり左右に移動する VariPhrase 波形とかできたら、冨田サウンドそこのけに広大な空間演出ができるのに。
V-Card は、せめて3種類、できれば5種類くらいは出してほしかった。変態グラニュラー・シンセシスとか可能に思えるのだが、出してほしかった。2つの音色のグレインを混ぜる比率を変えることで、2音色を変態なぐあいにモーフィングできるとか、その比率を EG や LFO や D Beam で変えるとか!
「後編:V-Synth 背景・誕生・そしてシンセの未来へ」へ、つづく Copyright © 2009-2020 Nemo-Kuramaguchi All Rights Reserved.
電池交換:SONY→Panasonic
新しい仲間♪
HD580完全復活♪ まだ部品が手に入るって、有り難い。
KASPI001を組む前に裸のSpresenseで実験するための準備、その二
KASPI001を組む前に裸のSpresenseで実験するための準備、その一
SonyのSpresenseで色々と試したいことが出てきて、裸のブレークアウトボードを用意してみた。サンハヤトのピッチ変換基板のお陰でモノにはなったが、ちょっと無理矢理感はある。
やっぱKiCADで作った方が良かったかな〜と思ってた矢先にベストソリューションを発見。やはり果報は寝て待てか。
https://qiita.com/MypaceEngine/items/7fd393e58304d5729292
ヘッドホンの性能抜きで音を確認するために、シリコンハウスでイヤホンを買ってきた。100円やで! それにしても、SONYの文字がLとRで向きが異なるのは何故?
さて、HD580の300Ωに対してこのイヤホンは16Ωかな。気にせず同じ条件で鳴らしてみると、音は大き過ぎるがまあまあ良さそう。ちゃんと聴く体勢をとらねばイヤホンに失礼になりそう。
Spresenseで色々試すにしても、もう少しマシなプレーヤーソフトが必要。誰か良いソフトを作ってないかなぁ。それとも自分でShuffle的なインタフェースを作らんといかんのかや?
ちょっとした気の迷いで、音を聴き比べてみようと思い立った。そういえば小さい頃からオーディオは好きだったような気もする。実際のところ知識も技術もないのでどうなることやら。
とりあえず出発点としてSonyのSpresenseの標準構成で聴いてみる。音源はクラシックCDのwavを、プレーヤーはSpresense SDKに入ってるサンプルのaudio_playerを使う。ヘッドホンはご老体のHD580で、手元にあるまともな機材はこれだけかも。
さて聴いてみると、なんだか非常に上品な音で、もうこれでいいじゃないかと。今まで気が付かなかった音も拾えて大満足です。これでゼロ点補正とはなんと贅沢なことか。いや、ほんと音響っていいもんですね〜。
今日の半田付けはFeather M0へのSWDハーネス♪
https://learn.adafruit.com/make-a-simple-debugging-featherwing-for-the-m0
actcast.ioをRSPiZeroWで試してみた。コンソール出力見てると若干ハラハラしたけど、とりあえず今日はTake Photoまで行けた♪
とはいえ、シャットダウン方法が分からない…
8MHzの正弦波がMCLKから出ていることを確認♪ LOから矩形波が出ていることを確認するにはまだCRが足りないのかな…
手順通りにファームをビルドして、ch.binの書き込み成功!