UTJスゴイ人列伝 〜大前広樹〜
圧倒的パラメータ
大前さんは別格のスゴイ人だ。いわゆるコーディング能力は最強に位置するし、ビジョンを見せてくれるリーダーとしてもスゴイ人である。三国志で言ったら、統率94、武力95、知力97とかそんな感じ。関羽か。
まあ冗談抜きに、大前さんがいたからUnityが日本に根付いたと割と本気で思っている。「日本においてはマッチョなデフォルトキャラでは(アレとかコレとか)気に入ってもらえない」ってんで「ユニティちゃん」を生み出したり、「AssetBundleが使いづらいのはエディタツールがないからだ」とAssetBundleGraphToolを(自らコード書いてまで)作ったり、まさに八面六臂の働きだ。
出会いからUTJ立ち上げ
大前さんと初めて会ったのはIGDAのAIの勉強会か何かだったと思う。当時はフロムソフトウェアで社内ゲームエンジンを作っていて、その話す内容の端々で大前さんのプログラミング能力に圧倒されたものだった。
その後、KH2Oという会社を作ってiPhoneゲームを作ることになる。当時iPhoneが出始めで、一発ネタのアプリがウケたりするとそれだけでまとまったお金が入ったような時代だった。IGDAのiPhone勉強会(銀座アップルでよくやっていた)も盛んで、そういうところでよく大前さんに会った。その際、Unityというものがあることを教えてもらい、まさに大前さん自身がそのUnityでゲームを作っているということだった。 正直当時はピンと来ていなかったが、あの大前さんが勧めるものなら確かなものだろう、とも思った。
そして大前さんはUnityを一人で広め始める。今じゃ信じられない話かもしれないが、当時の日本はゲームエンジン不毛の地と言われていた。「エンジンは自分の会社で作るものが一番」「お金を払って汎用的なものを買っても役に立たないだろう」「欧米的なFPSなら合うが、日本的な特殊なゲームはエンジンに則さない」という意見が大半だった。そこにUnityを推し進めて行くのは相当難しいことだった。しかし大前さんの心を掴むプレゼンでUnityが徐々に広まり始めた。私もその一人だった。
そんな時私も転職を決意していたところ、大前さんから「Unityの日本法人」の立ち上げに参画してほしいと打診を受けた。紆余曲折あったがUnityにジョインすることになった。 今だから言うが、私がUnityに転職しようとしたのは、大前さんに誘われたからだ。Unityの未来を感じたとか、働きやすそうだとかではなく、ものすごく単純な話、大前さんと一緒に仕事ができるなら楽しそうだ、と思ったからだ。
ビジョナリー
総合して彼がすごい点はビジョナリーだということ。現状の問題を完全に把握して、次の一手を実行するときの閃きは万人に一人の能力だと思う。例を挙げたらきりがないのだか、ひとつだけ。
実はUnityは昔、Unity Games というブランドでゲームを作っていた。しかしこれはUnity開発者と本質的にバッティング(同じ土俵でゲームを作って競合相手として販売するわけだから)していた。そもそもゲーム作って売るなんて簡単じゃないので、そのまま本社の意向の通りにやると失敗することはわかっていた。ただやはり日本支社としては本社の意向は無視はできなかったので、大前さんはある秘策を持ってUTJにもUnity Games Japanを作ることを決断した。ある秘策とは「既に出ている良質のゲームを他プラットフォームにポーティング(移植)するお手伝いをUTJがする」ということだ。こうすることで基本的に開発者とバッティングすることはない(むしろ手助けている)し、移植先のプラットフォームも良質のタイトルが沢山出ることで嬉しいし、もし売れて成功したらみんなハッピーになれるという、一石何鳥もの手だった。
そしてその後、大方の予想通り Unity Games はクローズとなったが、我々としては開発者やプラットフォーマーと親密になることができた。結局なんのマイナスもなかった。
翻ってどうだろう。普通だったら、嫌々ながらもやってしまうのではないか。そしてやはり失敗して「ほらみろ言った通りじゃないか」と後で愚痴を言うのが関の山ではないだろうか。私が大前さんの立場だったら多分そうだった。しかし大前さんは違った。現状の問題点をわかりつつ、最良の一手を選んで実行した。なかなかできることではない。
"Don't be evil"
大前さんは、会社の利益よりもコミュニティの利益をいつも第一に考えている。「開発者コミュニティ的に正しくない」ことは断固としてやらない。Googleで言うところの「Don’t be evil(邪悪であるな)」を体現している。Unityのような巨大なコミュニティを持つ企業は、ともすれば邪悪になってしまう。「これだけ多くのユーザーがいるのなら、もう少し○○してもいいでしょ」と。しかしそれは絶対にしてはいけない。なぜならUnity は開発者とともに大きくなった会社だからだ。だから決して裏切ってはいけない。大前さんがそのことを誰よりも(下手すると本社経営層より)わかっている。
だからUnityユーザーのみなさんは安心して使い続けてほしい。大前さんがいる限り、いきなり方針転換したり、使えなくなったりすることはない。
日本独自路線
よく大前さんが話すことだが、海外のフランチャイズが日本に来て大成功した例はディズニーランドと藤田田のマクドナルドしかない。この藤田田方式というのは、フランチャイズ本社からの言うことをそのまま実行するのではなく、日本流のやり方で浸透させるというもの。大前さんも日本のUnityもこれで行くしかないと思っていたそうだ。Unityの創業者David Helgason が大前さんをUnityの代表にと持ちかけた時、大前さんは「日本は日本のやり方でいく。それができないならやらない」と言ったそうだ。そしてDavidもそれで了承し、以来Unityは独自路線で運営されている。
この独自路線、言うは易し、やるは難しで、ちゃんと日本のUnityの存在感を出していかなくてはいけない。こういった独自路線だからできたことがたくさんあるのだとアピールする必要がある。それは、ユニティちゃんであったり、Alembic Importerであったり、The GIFTであったり。それらを種をまき、水をやり、花が咲き、ようやくさあできたとアピールしてきたのだ。これらの偉業をどれだけのビジョンがあればできるだろうか計り知れない。
未来のハナシ
私は割と本気で次期 Unity Technologies 社(本社)のCEOは大前さんになるべきだと思っている。そうなればもっとUnity Technologies 社は面白い会社に変貌するんではないかと思う。Unity自体ももっと広く使われるようになるはずだ。
ただ正直、今はその段階ではないのかもしれない。まだ足場固めが大事な時期だし。しかしもしUnity社が本気で次のステップに行きたいということであれば、大前さんをCEOに指名すべきだ。なぜなら、大前さんは誰よりもコミュニティを考えているし、大局的に次の一手を打てるからだ。
あと、どうか「CEDEC Award」に大前さん個人をノミネートしてほしい。2011年のCEDEC AwardでUnityがプログラミング・環境部門で最優秀賞をもらっておいて恐縮だが、彼の尽力なくゲームエンジン不毛の地・日本にゲームエンジンが根付かなかったと思う。なので、CEDEC Award選出委員の方々!是非、大前さんをノミネートしてほしい。













