戦略会議 #028 アートマーケット/韓国のアートフェア出展
海外から帰ってくると、決まって食べたくなって行っていたのは地元の先輩の店のチャーハンだったが、今回は亡くなった妻とよく行っていた蕎麦屋だった。当時毎週何回かは足を運んでいたのだが、妻の病気が進行して以来3年半ほど行けていなかった。久しぶりの蕎麦を食べながら、この数ヶ月の喧騒を振り返った。
9月アタマのソウルは台風だと言うのにアートの熱がすごかった。アートバーゼルと並び世界最大級のアートフェアを開催するFriezeが韓国の老舗アートフェアと5年間の業務提携をし、ソウルの大規模展示施設COEXを分けあった形でアートフェアを行っていた。 5月末にサポートをしてほしいと頼まれた仕事はソウルでこの同じ時期に行われるサテライト的なアートフェアへの参加に関してであった。会期まで2ヶ月となった7月から実際には動き始め、11名のアーティストの作品をロンドン発祥のアートフェアで、ソウルでは初めての開催となるStART ART FAIR SEOULというアートフェアへ出展へと準備をはじめた。 今後立ち上げを予定している「THE TEN」というアートスペースとしての参加となる。スタッフとして手伝わせてもらっているギャラリー、自身がアーティストとして参加した台湾、バーゼルのアートフェアの経験はあるものの当初はなんとかなるとは思いながらも、思いもしない問題だらけで膨大なストレスの日々であった。大学院在学中にお世話になった人のサポートがなかったら、もうちょっと早めにもうやめようと思っていただろうと思う。
8月末からソウル入りし、巨大なふたブースに11人のすばらしいアーティストたちの作品をかけるインストールがはじまった。会期の2週間前になってようやく出てきた展示ブースのレイアウトにあわせ、事前に綿密にCGで展示をシミュレーションしていたおかげで、現地での展示は比較的スムーズに行われた。
韓国のインストーラーはとても優秀で、思いのほかたのしく設営は進んだ。30日の午後、31日の午前という計8時間の間に、48作品60点の作品をかけ、31日の夕方からVIPプレビューが行われた。
Frieze、KIAFのプレビューが2日からで会期はFriezeが5日、KIAFとStART ART FAIR SEOULが6日までなのはそれぞれのアートフェアのチカラ関係をそのままにあらわしている。つまりFrieze目当てのコレクターが前後で溢れることを見越しているのだ。今回のStART ART FAIR SEOULへの参加は当然このFriezeとKIAFに沸くソウルの熱による相乗効果というものを期待しての参加であった。が、これはまったくといっていいほどその効果はなかった。会場の距離そのものはそれほどないのだが、ソウルの街の特徴的な形状である川を挟んでいることから移動が非常に困難で、最低でも4、50分かかる。そして、ソウルではタクシーの供給が圧倒的に足りていない。道でまともにタクシーは拾えないような状態であった。そもそもにソウルではGoogle Mapがまともに機能せず、Kakao Talk関連のアプリを使いこなせないと移動すらままならい。
これらのことから、VIPのプレビューに多くの人が訪れたがFriezeに足を運ぶであろうようなコレクターらしき人は皆無であった。飛ぶように売れると言われて来ただけに、これはかなりの問題である翌日から一般公開となったが、そこからどうやって販売するかを考える時間となった。
1日の1日をかけて、何が誰に売れるのかを考えた。アート作品はふらっと来て買うモノではない。誰かが買ってくれるのではなく買える人は限られている。戦略的に話を進め、この人しかいないという人にしっかりと作品を紹介できるかどうかである。
翌日交渉の末、ゼミ仲間であるアリカワコウヘイ!の大作(提示価格$61,000)はヨーロッパのコレクターによってコレクションされることが決まった。
その後、児嶋啓多や谷村メイチン・ロマーナの作品など数点が販売され、7日間の会期で提示価格にして$78,000分の作品を販売した。2日に開幕したKIAFでの販売が$10,000から$20,000の作品についてARTNETでニュースになっていることを考えると、これはわりと凄いことだったと思う。
With a Little Help From Frieze Seoul, Longstanding Korean Art Fair KIAF Comes Roaring Back
それだけの取引があるアートフェアであるということは出展者にとっては魅力になるのだから、このあたりを事件にするべきだと思うのだが、これができないあたりがアートフェアのチカラのなさだろうと思う。
アート作品は勝手に売れるモノではない。ほとんどの作品は市場的にも無価値だし、コレクターは欲しいもの以外は絶対に買わない。2011年に当時の京都造形芸術大学に入学後、アーティストを目指したころからずっとマーケットのことをギャラリーのオーナーの寵愛を受けながら、自身もコレクションもするし、アートフェアも何度も足を運んで作品を見続けてきた。そうやって学んできたことが間違いなく今の目を育てただろうなとありがたくは思ったが、けっしてやりたい仕事ではないなと思う。 台風直撃の5日にお客さんも少なかったためブースを現地のスタッフに任せ、Friezeを訪れることにした。
台風でStART ART FAIR SEOULはもぬけのからにも関わらず、Friezeは人だらけだ!着いた瞬間に2019年まで欠かさず訪れていたアートバーゼル香港を思い出し、気持ちがざわつく。台湾の台北當代よりもクオリティは上だ。
来年の東京現代がどうなるかだが、、、これを見るとソウルはこの5年で圧倒的にアジアのアートマーケットの中心地になるだろうということは容易に想像がつく。変なアートフェアに出展している場合ではなかったなという思いが込み上げる。研究者としてはこちらをくまなく観る方がよほどに得るものが多い。来年はお客としてソウルにこようと思う。
この夏で妻が亡くなって3年になる。それより前に何をしていたか少し忘れかけていたが、今回のFriezeに行って思い出してきた。何が好きで、何に夢中になって何を考えていたのか。そう、この蕎麦屋の安定しないクオリティがすごく好きだったんだ。












