MATECO 十人素色レポート【十人素色VOL.2 素材と色彩のリノベとイノベ その6】
建築家が考えるエネルギーの未来-建築家・蘆田暢人氏
蘆田氏には建築以外の、もう一つの活動についてお話頂きました。ENERGY MEETというのは東京とバンコクを拠点に活動されているデザインユニットです。蘆田氏の他に日本人とイタリア人のパートナーがいらして、他にもバンコクでタイ人のスタッフが活動に参加されています。
今の時代、エネルギーは農業・産業・情報革命に次ぐ、“第四の革命”と言われているそうです。自然エネルギーの利用よってエネルギーと人が近づいてきている、という言葉からレクチャーが始まりました。
蘆田氏はエネルギーをつくる“もの”がまちの中に出てくるようになると、まちと人、あるいはまちとエネルギーを繋げるということのために、デザインという切り口が必要になると考えられたそうです。
ゆったりとしたBGMと共に、幾つかのプロジェクトが紹介されて行きました。
●ゼロ・インパクト・インフォメーション・ビルボード (ZIIB)
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一つ目はバンコクのデザイン・フェスティバルに出展されたインスタレーションです。
それはゼロ・インパクト・インフォメーション・ビルボードというもので、イベントを開催する時にどうしても大量にゴミが出てしまう、あるいは電気も空調もものすごく使う、という側面がありますが、それを全く出さないでつくってみようというものでした。
仕組みは至ってシンプルでありながら、最先端のロボット工学の制御システムが使われています。300個のミルク用ペットボトルを使いそれを画面に仕立て、パソコン操作でメッセージを流すというもの。電力はソーラーパネルによる発電でまかなわれています。
終わった後ペットボトルはリサイクルし、フレームやソーラーパネルはタイの電気が無い村に寄贈され現在も使われています。これはシリーズ化されており、日本でも福島県のいわき市で実例があるそうです。
●Floating Energy Station (FloES)
次に紹介されたのは水に浮かぶエナジー・ステーションのプロトタイプです。タイは洪水の多い地域です。現地の方は多少の増水には慣れていて日常生活はそれなりに行えるのですが、近年はパソコンでメールが送信できない・スマートフォンの充電ができないのは困る、といった問題があるそうです。
そうした非常時にPCやスマートフォンの充電程度の電力をまかなえるもの、ということで開発されたのがFloESという組立式のエネルギー・ステーションです。
http://www.energymeet.org/E-09b.html
それはまるであめんぼうをロボットにしたようで、スマートなフォルムが印象的です。水にエネルギー・ステーションが浮かぶ姿は、人工衛星が宙に浮いているような姿とも重なります。機能に従った形が生物に近づいて行くということはエネルギーデザインの分野でも同じなのだな、ということを感じました。
次に紹介されたのは国内のメーカーと協働で行われている、太陽光パネルの開発。太陽光パネルは四角くて大きいというものが主流ですが、これは六角形のセルで考えられています。そうすることによって曲面や球体にも対応でき、多様な組み合わせや形状のバリエーション等が検討されています。
それを応用したツリーハウスのプロジェクトも紹介されました。エネルギーを自給し森の中でちょっとした時間を過ごすための空間が設計されています。これも前途のFloESと同じようにとても有機的で、蜘蛛の巣のような姿が印象的でした。
お話は徐々に建築のスケールに移行していきます。長野県の小布施ではまちの中でエネルギーを考える、ということが試みられています。小布施の名産であるリンゴと栗の栽培の際、剪定して余った枝を持ち寄り、それを燃料として電気や熱をつくる、すなわち人が集まる場所をつくるというプロジェクトです。これは蘆田氏が建築家として設計に関わられています。
そのプロジェクトの元になったのが、2012年の6月にスタートし、現在も続いている小布施エネルギー会議というまちづくり会議です。ソーラーパネルをまちに設置するとしたらどこが望ましいのか、まちの中でどうやってエネルギーを使うかということを住民が自分たちで考えながら、エネルギーをつくって・使って行こうという試みが行われています。
http://greenz.jp/2013/01/09/obuse_energy/
最後に大学の社会サービスの研究室と協働している、循環型の都市モデルを構築するというプロジェクトが紹介されました。
これまでのツリー型・スプロール型ではない、円環状に循環する都市モデルを構築するために、都市や社会基盤を道路や建物などのハードから計画するのではなく、様々な要素をあくまで人が行うサービスとして捉え、そこからまちを組み立てて行くということが検証されています。
例えば人が歩くのに苦にならない距離(あるいは味噌汁の冷めない距離など)として、300mという単位が出てきます。それ以外にも提供するサービスによってそれぞれ固有の提供範囲もある訳で、そうした単位からまちを組み立てて行くことができないかという試みです。
現在電気は遠くから運ぶために交流という形式が取られていますが、自然エネルギーが使えるということは近くでつくったものを近くで供給できる、直流型の都市モデルを構築できる、ということに繋がります。これは東南アジアを中心に考えてられているプロジェクトのご紹介でした。
蘆田氏はエネルギーに関してはイノベーションが進んでいるが、そこにはリノベーションの観点も必要だ、とおっしゃられました。
どこかでつくられた電気を勝手に好きなだけ使うということではなく、昔の囲炉裏のようにエネルギーを中心にしてそこに人が集まったり、団らんがあったりという暮らしを実現できないか。エネルギーがそうした場をつくるためのコミュニケーションツールであるということを再認識し、今の技術を使ってこれからの都市に取り戻すことができないか、と考えられているそうです。
蘆田氏には今回、是非ENERGY MEETのお話をして下さい、ということを随分前から決めていて、建築のお話は同年11月に開催の連続セミナーでということにし、同時に二つのお願いを引き受けて頂きました(連続セミナーの模様はまた別途ご紹介していきます)。
2011年3月11日の東日本大震災では、建築や土木に関わる多くの専門家が創造に対しての非力を感じると共に、よりよい社会をという願いを込めて通常の業務や東北地方の復旧・復興に携わられていることと思います。蘆田氏との出逢いは翌年2012年の秋になりますが、その時建築家としての活動やENERGY MEETのお話を伺った際『建築家としてエネルギーのことだけは、どこか人任せだったということに気が付いた』ということをおっしゃられていたことが強く印象に残っています。
私達は目に見えないエネルギーを長く当たり前の存在として(湯水のごとく)使って来ましたが、ENERGY MEETの様々な活動はそうした目に見えない(とされてきた)エネルギーやその仕組みを身近なものにし、人の手や暮らしに返すための試みでもあると感じます。
今回のレクチャーは直接的に素材色彩研究会MATECOの活動との接点はないのでは、と感じる方も多いかも知れません。でも例えば今ある太陽光パネルを設置した屋根等にとってつけた感があると感じたり、自身の分野においては風力発電機の色をどうすればよいか(現況は白が多いですが、設置される地域によっては適さない場合もある)等の相談を受けたりします。そうした観点から見れば、まちとエネルギーというテーマは、まちの景色をつくる要素の一つであると思うのです。
蘆田氏には10分という短い時間の中、エネルギーという観点で様々なスケールのお話をして頂きました。そのどれもが私にとっては未知のものではありますが、ただもっと知りたい・知らなくては、という気持ちに駆られています。
建築家がエネルギーをデザインするということは、まちの未来をつくるということに大きな意味と可能性を持っているのだと考えています。
●レクチャラー紹介
蘆田暢人(あしだまさと)・建築家
1975年京都府生まれ。蘆田暢人建築設計事務所代表・ ENERGY MEET共同主宰・東北アーカイブ理事。
1998年京都大学工学部建築学科卒業、2001年京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了。2001年~2011年、内藤廣建築設計事務所勤務の後、株式会社蘆田暢人建築設計事務所を設立。
ENERGY MEETではエネルギーと社会とデザインを結ぶ活動を、タイ在住の仲間と一緒に展開。長野県小布施町(おぶせちょう)では、人とエネルギーを結び付ける活動に参画、建築の設計を通して新しいエネルギーのデザインにも取り組んでいる。
●レポート執筆担当
加藤幸枝(かとうゆきえ)・色彩計画家
1968年横須賀市生まれ。カラープランニングコーポレーションCLIMAT取締役。
1990年武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒後、日本における環境色彩計画の第一人者、吉田愼悟氏に師事。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築・ランドスケープ・土木・照明等をつなぐ環境色彩デザインを専門としている。
2012年2月、素材色彩研究会MATECOを設立、マテリアルディレクター・田村柚香里氏と共に代表を務める。