【「土用の丑の日」に憂う【後編】: 「絶滅危機」のウナギ、真の復活への道とは】 - ITmedia ビジネスオンライン : https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1907/26/news041.html
2019年07月26日 05時15分 公開
[真田康弘,ITmedia]
明日、7月27日にとうとうウナギ業界最大のイベント「土用の丑の日」が到来する――。「『土用の丑の日』に憂う」と題した本連載では、国民に広く親しまれてきた伝統食・ウナギの裏側がいかに黒いか、そして密輸や密漁、未報告のウナギの稚魚(シラスウナギ)由来のウナギの蒲焼が跋扈(ばっこ)する現状をレポートしてきた。
記事の前編「 {{ 絶滅危惧のウナギ――横行する“密漁・密輸”がもたらす『希望なき未来』 : https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1907/24/news026.html : https://benediktine.tumblr.com/post/188854154111/ }} 」 では、台湾から香港を経て横行する「ウナギロンダリング」の現状と、資源増殖のために実施されている「放流」事業が、科学的根拠に基づくものではない点を指摘した。加えて、中編「 {{ “ウナギ密漁”の実態を追う――『まるでルパン三世の逃走劇』 : https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1907/25/news035.html : https://benediktine.tumblr.com/post/188854272246/ }} 」では、高知県の事例を取材し、密漁の実態や取り締まりの最前線をお届けしてきた。
後編では、日本全体の取り組みに広げて論じていきたい。違法行為を抑止し、ウナギ資源の保全と持続可能な利用を図る道としてはどのようなものがあるのだろうか。以下、(1)国際的規制、(2)国内的規制、(3)資源増加のための対策、(4)経済的なインセンティブ、(5)流通、消費者の役割、に分けて考える。
{{ 図版 1 : ウナギを保護していくために必要なものは? }}
まず国際的規制の在り方に関して説明する。ニホンウナギについては現在、日本、中国、韓国、台湾で関係国協議を開催しており、2014年にそれらの4カ国の間で(1)ニホンウナギの池入れ数量(養殖池に入れる稚魚の数量)を直近の数量から20%削減し、異種ウナギについては近年(直近3か年)の水準より増やさないための措置をとること、(2)法的拘束力のある枠組み設立について検討すること、などが合意されている。
しかし「20%」削減というのは科学的根拠に基づいたものでもなければ、資源保護のために十分とも言えない。また、中国は15年以降、非公式協議を欠席していて、地域的な法的拘束力のある枠組みの議論は全く進んでいない。
さらに問題なのは、この会議で何がどのように話し合われているのか、外からは全く見えない点だ。報道関係者も、NGOオブザーバーも参加は認められておらず、会議は非公開、結果は水産庁のプレスリリースと記者会見で知らされるのみなのだ。透明性がゼロである。
18年9月には「ニホンウナギに係る科学的データ・情報のレビュー等を行うとともに、今後どのような科学調査を実施すべきか等について、科学的な観点から議論が行」なうとして「ニホンウナギに係る地域ワークショップ」が開催されている。
しかしこちらも中国は欠席で、結果は「具体的な措置の提案には至らなかった(みなと新聞18年9月25日)」と知らされるのみだった。このままでは、埒(らち)が明かない。
{{ 図版 2 : 日本、中国、韓国、台湾で決めた「ニホンウナギの池入れ数量を直近の数量から20%削減」の20%には科学的根拠がない(水産庁「ウナギをめぐる状況と対策について(2019年7月)」より) }}
■《日本が率先して「ワシントン条約附属書掲載」を提案せよ》
そこでこの状態を打破するため、日本自らが率先して動植物の輸出入を規制するワシントン条約において附属書掲載を提案してはどうだろうか。すでにヨーロッパウナギは附属書II(取引を厳重に規制しなければ絶滅のおそれのある種)に掲載されていて、この条約の下で輸出入規制が行われている。
ときどき「ワシントン条約で規制されてしまうと輸出入が一切できなくなってしまう」と勘違いされることがある。確かに附属書Iに掲載されると、商業的輸出入はできなくなってしまうものの、ヨーロッパウナギのように附属書IIに掲載されている種については、輸出が(1)その種の存続を脅かすことがなく、かつ、(2)自国の法令に違反して入手されたものでない場合、輸出側は輸出許可書を発給することができる(ワシントン条約第4条2項)。
つまり、附属書IIの掲載は、商取引の禁止ではなく、資源の持続可能な利用を目的にするものともいえるのだ。
近年ワシントン条約では他の条約などで十分に守られていない種を附属書IIに掲載し、その種の保存と持続可能な利用を図る動きが活発化している。ニホンウナギもこのメカニズムを使って、率先して管理を行ってはどうだろうか。
もしニホンウナギが附属書IIに掲載されれば、香港からの輸出に対して許可書の発給は困難となるだろう。香港の管理当局が、台湾からの密輸の疑いが濃厚なシラスウナギを「自国の法令に違反して入手されたものでない」と認め難いからだ。もちろん、附属書IIに掲載されてしまうと「ロンダリングウナギ」が断たれてしまうため、日本の養殖池に入るシラスウナギの漁は相当量減ることが予想される。
しかし、そもそも密輸された非合法なシラスウナギを使うこと自体が問題なのだから、こうした違法な「ロンダリングウナギ」に依存した養鰻業者は淘汰され、業界の適正化が図られることになるはずだ。
{{ 図版 3 : ワシントン条約の付属書に掲載されている水棲動物種(水産庁「ウナギをめぐる状況と対策について(2019年7月)」より) }}
第二は国内的規制の大幅な強化だ。中編記事で述べた通り、現在ウナギの採捕は都道府県が制定する漁業調整規則などにより規制されている一方、漁業法に定める当該規則の罰則上限は「6月以下の懲役若しくは10万円以下の罰金」にすぎず、暴力団員が直接関与した極めて悪質な事例でも、執行猶予付きの判決で済んでいる。ウナギの稚魚を違法に採捕した場合、その利益は場合によっては数十万円から百万円単位となることから、現行の罰則は違法操業を抑止するものとしては「弱すぎる」と言わざるを得ない。
こうした中、18年に改正された漁業法では罰則が引き上げられ、農林水産省令で特に指定された水産物を密漁した場合、「3年以下の懲役または3000万円以下の罰金」に処すことができるようになった(改正漁業法第132条及び第189条)。この改正はもともと密漁に悩まされているアワビやナマコを想定したものだが、筆者はウナギにもこの厳しい罰則が適用されるようにすべきだと考えている。
なお、シラスウナギの場合は養殖用の種苗(編注:しゅびょう、稚魚のこと)として特別に採捕が認められたもので、そもそも「漁業」とは認められていないため、上記の指定が難しいのではないかとの声も、規制を担当する地方自治体関係者から聞こえてくる。こうした場合は、漁業法をさらに改正し、漁業調整規則などの罰則上限を大幅に引き上げてこの懸念に対応してはどうだろうか。
法的な規制とともに、取り締まりの強化も必要だ。もちろん、各都府県で密漁を担当する人員を強化していくことが望ましい。こうした場合でも、密漁を担当する各当局が連携を強化することにより、対策を強化できるだろう。例えば中編で紹介した高知県の事例でもあったように、シラスウナギ漁の実態をよく知る県庁担当者と、取り締まりのノウハウや反社会勢力に関する情報などを有している都府県警察との連携の強化などが望まれる。
また、密漁・未報告で採捕されたシラスウナギの収益は、当然適正な税務申告がなされていない。事実、これまでにもシラスウナギ密漁に関する脱税で摘発された事案は複数あり、例えば高知地裁は18年12月、シラスウナギ仲介で得た所得を申告せず、2年間で計9600万円を脱税したとして、県内の男に懲役1年6月、執行猶予3年、罰金2000万円の判決を下している(読売新聞18年12月28日)。密漁関係の事案については適宜、所得税法違反にも同時に問い、より高額の罰金を科す形で不十分な漁業調整規則の罰則を補うべきだ。
{{ 図版 4 : アワビやナマコを密漁した場合、「3年以下の懲役または3000万円以下の罰金」に処すことができるように漁業法が改正されたが、ウナギにも適用すべきだ(水産庁のWebサイトより) }}
第三は資源増加のための、真に有効な取り組みの強化だ。
14年と15年に環境省が実施した調査によると、堰(せき)やダム、落差工といった河川横断工作物がウナギの遡上に悪影響を与えていて、ウナギの個体数密度と相関していることが明らかとなっている。従って、まず手始めに、水位差が約40センチ以上の状態が恒常化している河川横断工作物については、必要不可欠でない場合はこれらを撤去し、ニホンウナギが遡上できる環境を整備すべきだ(環境省自然環境局野生生物課「ニホンウナギ生息地保全の考え方」、17年3月)。
もし撤去が困難な場合は、魚道を整備したり、落差を緩和したら、ウナギを下流からくみ上げて堰やダムの上流に再放流したりするなどの対策をすべきだ。
その一方、科学的にその効果がほぼ全く証明されていない養殖ウナギの放流、あるいは「石倉かご」と呼ばれる人工物の設置は、少なくとも税金を投入するものについては全面的な再考が必要だ。効果が全く不明なこうした事業に、高い説明責任が問われるはずの税金を投入すべきではない。
第四は経済的インセンティブだ。中編でレポートした高知県の事例のように、一部の地域では、ウナギ稚魚の採捕者が十分関与できない形で、できるだけ安く買いたい養鰻業者の主導によって買い取り価格が設定されている。安く買いたたかれたと考える採捕者は、高く買ってくれる闇業者に横流しする。ここで闇流通を発生させているのは、市場価格を歪(ゆが)める「不必要な介入」だ。採捕者と買い手側の相互行為に基づく自由な市場価格形成を阻害すべきではない。
事実、水産庁も「都道府県において指定された出荷先への販売価格を設定している場合において、その設定価格が市場価格に比べて低いときには、再点検を行うこと」を都道府県に助言している(水産庁「ウナギをめぐる状況と対策について」19年7月)。
{{ 図版 5 : 水産庁も「都道府県において指定された出荷先への販売価格を設定している場合において、その設定価格が市場価格に比べて低いときには、再点検を行うこと」と都道府県に助言している(水産庁「ウナギをめぐる状況と対策について(2019年7月)」より) }}
最後に流通・消費者の役割だ。例えば日本最大手のスーパー、イオンは6月3日、静岡県と浜名湖養魚漁業協同組合などとの協力を得て、大手小売業界で初めて完全にトレーサビリティーを確保した「静岡県浜名湖産うなぎ蒲焼」を発売した。インドネシア産のビカーラ種ウナギの蒲焼とともに完全トレース品として販売している。
イオンによると、中国でも、浙江省寧波や江蘇省南通など、一部の地方で採捕されたシラスウナギを使い、稚魚の産地まで分かる製品生産のめどが立ったとして、インドネシア産10%、静岡産5%と合わせ、40%がトレーサビリティーを確保した製品として販売可能と解説し、23年までに全てのウナギ商品の完全トレース化を目標としている(水産経済新聞19年6月4日)。
われわれ消費者も、トレーサビリティーが確保されたウナギを買うといった購買行動によって、業界へ影響を与えることができる。
消費者は、購買という選択に加えて、SNSなどでの意見表明によっても、持続可能なウナギ利用に貢献できる。例えば高知県は、極端なシラスウナギ不漁に見舞われた18年、3月5日までの漁期を20日まで15日延長(高知新聞18年2月28日) 、鹿児島県も3月10日までだった漁期を3月末まで21日間延長した(南日本新聞2018年3月11日) 。
これに対しては高知県の関係者も「(シラスウナギを)取らせたくない方々から相当な批判を受けて『炎上』した」と認めるほどSNS上で批判が集まった。今年もシラスウナギ漁は前年を下回る不漁に終わったが、採捕期間は延長されていない。SNSでの「炎上」が、この判断に寄与したともいえよう。
{{ 図版 6 : 2018年にイオン葛西店の売り場で販売されていたウナギ }}
■《「ウナギ食文化」を将来に残すために》
大伴家持が「石麻呂にわれ物申す夏痩せに良しという物ぞ鰻(むなぎ)取り食(め)せ」と万葉集で歌ったように、ウナギが暑い夏に適した食であることが奈良時代から知られていたようである。江戸時代中・後期頃から土用の丑の日にウナギを食べる習慣が生まれ、ウナギは現在われわれの食文化として深く根付いている。
しかしシラスウナギの漁獲量の歴史的不漁が去年も今年も報道される現在、われわれのウナギ消費は持続不可能なレベルに達していると言えよう。事態は一刻を争うように思われる。将来の世代にウナギとその食文化を残してゆくために、あらゆるレベルでの取り組みが必要とされているのだ。
{{ 図版 7 : 将来世代に残していくための取り組みが急務だ(写真提供:ゲッティイメージズ) }}
●著者プロフィール
真田康弘(さなだ やすひろ)
早稲田大学地域・地域間研究機構客員主任研究員・研究院客員准教授。神戸大学国際協力研究科博士課程前期課程修了(修士・政治学)。同研究科博士課程後期課程修了(博士・政治学)。大阪大学大学教育実践センター非常勤講師、東京工業大学社会理工学研究科産学官連携研究員、法政大学サステイナビリティ研究教育機構リサーチ・アドミニストレータ、早稲田大学日米研究機構客員次席研究員・研究院客員講師等を経て2017年より現職。専門は政治学、国際政治史、国際関係論、環境政策論。地球環境政策や漁業資源管理など幅広く研究を行っている。著書に『A Repeated Story of the Tragedy of the Commons: A Short Survey on the Pacific Bluefin Tuna Fisheries and Farming in Japan』(早稲田大学、2015年)、その他論文を多数発表。