毎年音楽祭期間中に一度、聖ペーター僧院教会でカメラータザルツブルクが演奏するモーツァルトのハ短調ミサ曲。今年は同教会が改修中のため、本日8月5日、場所を変えてモーツァルテウム大ホールにて行われるスケジュールになっていた。ただ、今日の夜はウィーンフィルのシリーズコンサート、ヴェルザー=メストの回と重なっていたので、チケット注文時に予定から外さざるを得なかった。
ところが、週末にたまたまフェイスブックを見ていたら、今日の午前中にゲネラルブローベがあり、そのチケットを、不足している聖ペーター教会修復費用のためのチャリティとして売り出すことになったらしい。席種なし指定席全25ユーロということで、値段はともかく、いずれにしてもできれば聴きたいプログラムだったので、すぐに購入した。
今年の指揮はアンドリュー・マンツェ。会場に到着すると、プローベにもかかわらず、国営放送の中継まで入っていた。
ちなみに今年2019年は、レオポルト・モーツァルトの生誕300周年である。これを記念して、市内のモーツァルトのかつての住居内にある博物館でも、記念の展覧会が企画されている。恒例のハ短調ミサ曲の演奏会では、この記念イヤーを祝うべく、今年は特別にメインのプログラムに先立ってレオポルトのリタニア変ホ長調を演奏し、さらにプローベでは冒頭にまず大ホールのオルガンでミヒャエル・アイグナーがモーツァルトのアダージョとアレグロ(KV594)を披露するという、なかなか洒落たしつらえになっていた。モーツァルテウムでのコンサートには数多く通ったが、ホールのオルガンの音色を耳にするのは今回が初めてだった。大聖堂やフランチェスコ教会のオルガンとはまたひと味違う、明るく快活な音色が強く印象に残った。
ちなみに、この未完のハ短調ミサ曲、今年はモーツァルテウムで教鞭をとったバトリーナー教授の補筆によるヴァージョンらしい。いずれにしても、この有名なミサ曲の前に、あまり演奏機会のない父レオポルトのリテニアを紹介するというこの今年限りの特別な構成は、ふたつの教会作品のコントラストを鮮やかに照らし出した。伝統的なカトリックの宗教音楽の枠組を守り、バロックの教会音楽の華やかさを残したレオポルトの作品と比べると、ヴォルフガング・アマデウスは、ミサ曲の形式を踏みながらも、さまざまな実験や革新を盛り込んでいる。ハ短調ミサ曲だけを聴くときに、なんとなくスルーしてしまうその細部のすごさを、前半に父のリタニアを聴くことで鮮明に意識させられることになった。
今年はソリストも実力派が揃っている。キャロリン・サンプソン、マリアンネ・ベアーテ・キールラント、ベンジャミン・ブルンス、ダグラス・ウィリアムス。合唱はザルツブルク・バッハコーア。
そして、カメラータザルツブルク。スター級の演奏家が入れ替わり立ち替わり登場し、モーツァルトの作品も、オペラをはじめさまざまな公演で繰り返し取り上げられるザルツブルク音楽祭だが、この地元オーケストラこそ、モーツァルト演奏に毅然としてひとつの基準を示し続けるのである。カメラータはおそらく、この世でもっともオーセンティックなモーツァルトを演奏するオーケストラといっていいだろう。華やかな歌手陣が歌い上げる祈りの言葉を支えるオーケストラの音色にも、心奪われる瞬間が何度もあった。ゲネラルプローベという形で、今年もカメラータのハ短調ミサ曲を聴くことができたのは、本当に幸運であった。