メリーギャラクシークリスマス
この記事は、Galaxy Advent Calendar の 25 日目の記事です。
メリークリスマス!みなさん、楽しいホリデーシーズンをお過ごしですか。
元はとある企業による販促のための広告戦略であり、さらにその前はとある宗教が征服した土地の祭事を滅ぼすためにでっちあげたイベントであると言われていますが、「対価なく欲しいものがもらえる」というイベントを喜んで受け入れない理由はありません。 メリークリスマス! しかしながら当然のことですが対価なく何かを貰えるなんてことはこの世において一切ないということを承知することが求められます。あなたがプレゼントをもらったとき、その代償を誰かが支払っているのです。逆に言えば、あなたが何かタフな仕事をしたときには、きっとどこかの誰かが報われているのです。そう信じなくてはやっていけないのもまたこの世の中です。
さて、この Galaxy Advent Calendar では、Galaxyを使って研究を円滑に進めるために役に立つtipsなどが紹介されてきましたが、そういった「こうすればうまくいくよ」という技術情報の蓄積が有難がられる程度にはGalaxyを高度に使いこなすのは簡単なことではありません。時には大変なこともあるでしょう。経験が浅いと「このエラーは何が原因でどうすれば治るのか分からない」なんて場面に遭遇することもあるかもしれません。エラーの原因を自分で考えて、入力を変えたりツールを変えたり環境を変えたりして試して、それでも分からなくてウェブで調べて、それっぽい事例を見つけて自分の環境で試して、でもうまくいかなくて、誰か助けてくれと他のGalaxyユーザを頼ったら「どっかで見た気がするなー」とだけ返されて、一緒になって悩み、喜び、泣き、笑い、いつしか問題が解決して、あるいは解決しないから自分でツール作って。それがGalaxyを使うことであり、コンピュータを用いてデータを解析するということであり、有象無象の生命科学データから新たな知識を得るということなのです。時間がかかることもあるでしょう。マシンの前でモニターを見つめてドライアイになったり肩こりが酷くなったりします。魂を削られることもあるかもしれません。それらは大きな代償です。とても大きな代償です!ですが、あなたが代償を払うとき、誰かが報われています。 そうです、プレゼントを受け取っているのです! そしてプレゼントとは論文です。
「専門家によるレビューを受けてコミュニティに信頼される媒体上で成果を発表する」ことが知識を得るための科学の方法であるならば、論文を出すことはそれに最も近い形態を成すもののひとつであり、あなたがGalaxyで、あるいはGalaxyでない何かでデータを解析して、その過程で代償を払ったとき、誰かが報われることが予期されます。つまり論文が出ます。報われる誰かが代償を払った誰かと必ずしも一致しないというのがアカデミアのアカデミアたる所以であり恐ろしいところですが、つらいデバッグの作業の間ずっと「俺はただ日々を穏やかに過ごしたいだけなのに…俺がこんなことをしてどうなるというのだ…これに何の意味があるんだ…人生とは…人間とは…我々はどこから来たのか…我々はどこへ向かうのか…」という気持ちになったときに未来への希望が欲しい。そこで Galaxy を使って解析を行った論文を探してみることにしました。
Galaxy Project に論文リストへのリンクがあります。かつては citeulike で纏められていましたが今は Zotero というサービスでまとめられています。実際のところこの記事を書き始めたときは citeulike を紹介するつもりでしたがいつの間にか変わっていて今とても驚いている。ここでまとめられているのは Galaxy を使った、拡張した、あるいは実装したなどのあらゆる形で Galaxy Project に関わった論文、Conference proceedings, 学位論文、書籍などです。トータルで5,300のアイテムが登録されています。5,300件全てが学術論文というわけではないけれども、でもまあそれくらいだということです。なお Citing Galaxy のページを見ると、Galaxyそのものの論文で最も古いのが Galaxy: a platform for interactive large-scale genome analysis で、2005年です。2005年ですよ。12年前です。10年以上前に作られたソフトウェアで今なおメンテされ現役バリバリで使えるものってそうないですよ。すごくないですか。で、2005年から12年で5,300件。年間約440件の発表があるということです。凄い数字ですね。それで、2005年の論文は以下のような書き出しで始まっています。
Accessing and analyzing the exponentially expanding genomic sequence and functional data pose a challenge for biomedical researchers.
今でも同じような文句を論文の冒頭に書きがちですよね?これ、12年前ですよ。454やGAIIxがまともに使えるようになったのが2007年ごろのことと思いますが、それよりも前です。きっと10年後もこんな感じなんでしょう。
なおその論文ではこの後、色々のデータリソースに対してクエリを投げて、それらを統合して可視化する、というシステムの概要と、その本質である履歴管理について述べられています。リソースの統合は現在のRDF統合にも通じるものがありますが(この頃はSADIとか言っていたはず)、ウェブ上に分散したリソースを惑星に見立てて Galaxy という名前になったのでしょう、たぶん。今ではデータが一箇所に集中し動かないのであまりデータ解析の過程でGalaxy感を感じることはなくなりましたが。他にも Galaxy Project の昔の論文を追っかけるのは楽しいです。特にabstractの書き出し。
While most experimental biologists know where to download genomic data, few have a concrete plan on how to analyze it.
Using galaxy to perform large-scale interactive data analyses (2007) のこれとか、
Increased reliance on computational approaches in the life sciences has revealed grave concerns about how accessible and reproducible computation-reliant results truly are.
Galaxy: a comprehensive approach for supporting accessible, reproducible, and transparent computational research in the life sciences (2010) のこれとか。
他にも沢山ありますが、どれも今より前に書かれたものには時代の流れを感じます。スムーズで信頼できるデータ解析を実現するためにその時々の人々がどう考えていたかということが窺い知れますね。いつかこういった書き出しをする必要のないスマートな生命科学が営まれる日が来るのかもしれません。しかし、その日が来るまでには多くの人の努力と正義感と自己犠牲を今以上に積み上げる必要があるのです。












