【Report】「LINK OF LIFE エイジングは未来だ 展」
先日、資生堂銀座ビルで2016年10月28日(金)から11月3日(木・祝)まで行われていた「LINK OF LIFE エイジングは未来だ 展」へ行ってきました。
2015年から始まったLINK OF LIFE、今回の展覧会のテーマは「エイジング」。年齢に抗うのではなく、美しく年を重ねる「サクセスフルエイジング」という考え方をもとに、少子高齢化社会となった現実の状況を踏まえ、未来の美しさを考える展覧会です。
実際に見て、その中でも私が気になったアート作品をご紹介します。
発酵シンフォニー
関 玄達、西川 圭(サントリービジネスエキスパート)+ 古屋 俊樹(東京理科大学)+ 日本音響研究所 + 相田百合子 + 垂見幸哉
“身近にあるさまざまな食材が「発酵する音」をテーマにしたアート作品。砂糖水に、フルーツや植物食材を漬け込んでおり、実際に発酵する様子を見れるだけでなく、スピーカーを通して発酵する際に発する微細な音を聞くことが出来ます。”
※ スピーカーに耳を当てると、パチパチと弾けるような音が聞こえる
発酵を目だけでなく耳を傾けて体験できる作品であることを、異なる要素が交じり合って、ある効果を生み出している様にたとえてシンフォニーという表現をしているのがとてもユニークだなと感じました。
微細な音に耳を傾けていると生命の営みを感じることが出来、また普通では結びつかないようなものとの掛け合わせによって、どういった作品なのかを伝えることで、体験した人の印象により強く残るような独自の表現を生み出すことが出来るのかもしれません。
家族の椅子
大友 聡、国広 美香、三重野 陽子、堀越 渉太(無印良品 / 良品計画企画デザイン室) + ドローイングアンドマニュアル
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“ドローイングアンドマニュアルによる影絵と音のインスタレーション。誰もが暮らしの中で使う「椅子」を用いて、人やものが年を重ねるように暮らしも変化していくことを表現した作品。それぞれの椅子に座る人物や猫のシルエットが投影されます。”
※ 無印良品で販売しているオーク材のスツールにさまざまなパーツを加えることで、ベビーチェアやロッキングチェアなど全部で6種類の椅子に展開。
※ 人だけでなく時折猫が登場
それぞれの椅子に座る子供や大人(+猫)の影絵を通して、ゆっくりと移り変わっていく人生の時間を体感出来る素敵な作品でした。また椅子1つ1つから暮らしの年齢を感じ取れることにこの作品を通して気づくことができたのも印象的でした。
月へ還る
金本成生(エリジウムスペース)+ 渋谷正明(第一フォーム)+ 鈴木弘明(ベルウッド)+ 藤原大(藤原大デザイン事務所)
“ひと昔前までは人は死後、墓に入るしか選択肢がなかった。今では散骨や樹木葬も珍しくはなくなり、遺灰を詰めたカプセルを宇宙に向かって送り出す宇宙葬サービスなるものも始まった。その行き先が夜空で輝く月だとしたら。自分を愛してくれた人が月を見るたびに手を合わせることが出来る。そんな宇宙葬があってもいいと考える藤原大は、宇宙でもゴミにならない遺灰の容器物をデザインした。この小さな箱が、月着陸船によって月に送られる。古くから世界中で不死や再生と結び付けられた月こそ、命を全うした人が還る場所にふさわしい。”
※ 左:月の模型 右:月の模型の中には遺灰の容器物が置かれている
藤原大氏は、亡き人を月から来たかぐや姫に見立てて、月に還してあげようという考えからこの作品を制作したそうです。遺灰の容器物は、竹取の翁の気持ちになってデザインし、ベルウッド社製の竹炭で作ることによって宇宙ゴミにならないものを実現。竹取物語の印象的なシーンに着目して、月に還すという新たな選択肢を目に見える形で提案されていました。
TA/TA/MI/RAI(多々未来)
三輪 英子、円地 知子、奥沢 美砂(資生堂ジャパン)+ 今村 嘉男(アクーヴ・ラボ)+ 齊藤基樹(JBNE DESIGN)+ 鏡 芳昭(畳屋道場)+ 尾形 航(鏡畳店)+ 岡田 晴夫(パイオニア)
“サクセスフルエイジングにはパワーチャージを定期的に行うことが大切だと考えました。疲れから回復する体験を作品化するにあたり、選んだのは、畳。畳を選んだ理由は、畳の上に寝転び、リラックスできる感覚をチーム全員が持っていたから。だが、日本固有の文化である畳は、生活の洋風化によって需要が低下しています。畳の原料、い草の最大の産地である熊本県は震災に見舞われ現在も復興活動が続いています。チームは畳を未来へつなげることを目指すという意味を込めて多々未来と名付けました。”
※ 畳屋道場と鏡畳店が制作した「い草」素材の椅子にアクーヴ・ラボの音響システムが搭載されている。横になると環境音が心地よく響いてくる。
畳の上に寝転がって手足を伸ばしてリラックス感覚は誰しもが持っていると思います。今でこそ少なくはなりましたが、子供の頃は畳が身近に当たり前にあり、過去・現在・未来と変化していく生活の在り方について考えるきっかけにもなりました。
また期間中はSHISEIDO GINZAにて「い草ピロー」や「い草アロマ」といった関連グッズも展開されました。椅子だけでなく様々な形にも展開されており、私たちの生活にもっと身近なものになる可能性を秘めているのかもしれません。
トランスフォーマー・フロッグ
宮川 真紀代(資生堂リサーチセンター)+ 齋藤良、藤島正善 + 祖父江一宏(日建設計)
“発達した後肢でのジャンプ、達者な泳ぎ、オタマジャクシからの変態など、フレキシブルな生命力を持ち、高い保湿力も持ち合わせるカエルに宮川氏が着目。都市化が進むにつれカエルの数は世界的に減少しているらしい。
もしも都会のカエルに未来があるとしたら、林立するビルの屋上庭園という環境に適応・進化し、ビルとビルの間を自由に移動できるカエルが登場するかもしれません。日建設計の協力による都市の模型と、宮川氏のコンセプトをもとにジュエリーアーティストの斎藤と藤島が進化したカエルをモチーフにしたアクセサリーを制作。”
都市化により数が減少の傾向にある一方で、カエルが持つフレキシブルな生命力の可能性について考えされた作品でした。環境が変わると、そこに暮らす様々な生き物も未来に向けて新たな適応の形を持つようになり、現在とは全く違った景色が広がっているのかもしれないという想像力も膨らみます。
ランゲルハウスくん
滝嶋世理、羽田野美帆(資生堂)+ 森奈緒子 + 田中健太郎
“未来の肌づくりの要となる「肌の免疫」をコンセプトにした作品。免疫とは私たちの身体の中でよいものとわるいものを選別し、不要なものを排除する働きのこと。人の肌に備わっている免疫システム「ランゲルハンス」について想いをめぐらすうちに、免疫がなす 「取捨選択」という行為が、誰もが日々の生活の中で無意識に行っている選択と重なることに気づいた。私たちが制作したボックスには、子供たちが楽しめる仕掛けを施されており、子供たちが「選択」する行為は、彼ら自身の未来へつながっていくだろう。”
※ イラストレーターの田中健太郎氏が描いた鮮やかな色彩による動物の絵で覆われた穴の空いたボックス。大人でも少し背をかがめば、ボックスの中に入ることができるくらいの大きさ。
※ ボックスの中には子供が楽しめるさまざまな仕掛けを施している。
田中健太郎氏が描いた、生命力溢れるイラストが印象的でした。子供たちがボックスの中の仕掛けで遊んだりできるだけでなく、イラストを通してアートを身近に感じることができる空間になっており、未来への想像力を育んでくれる空間になっていると感じました。
サウェ ―美しい歯をつくるガーナのスポンジ
伊藤 真一(武蔵野美術大学)+ オンウォナ・アジマン・スィアウ(東京農工大学)+ 光永徹(岐阜大学)+ 金田敏明(ヴェ・マン・フィス香料)+ 資生堂リサーチセンター + エリック・ドンコー、アメド・メンサー
“ガーナ共和国で3年間生活した経験があるデザイナーの伊藤は、ガーナの人々にとって、美しい老いのために欠かせないのは強い歯であると言う。木の繊維を毎朝1時間ほど噛み続ける彼らの歯は白く、丈夫だ。彼らは身体を洗う際にも硬い網を使う。身体のメンテナンスを「丁寧に、やさしく」おこなう東洋的な手法と、「擦り、鍛える」アフリカ的な手法の違いを鑑賞者に体感してもらおうと、この伝統的な歯ブラシとしての木の繊維を展示し、協力者とともに成分を解き明かす。”
※ ガーナで伝統的に歯の手入れに使われている木の繊維。
※ 市場では繊維のままで売られているが、商品化を想定しパッケージ化したものを用意。カカオやマンゴー、ミントなどのフレーバーを加えることで繊維の苦味を抑えている。
歯の手入れの手法が、自分たちとはここまで違うことを初めて知って驚きました。ガーナの人々の写真も一緒に展示されていましたが、どの写真もパワフルな印象があり、鍛えるという考え方を持っていることを写真からも感じ取れたような気がします。
そして自分たちの手法と比較してみたときに、木の繊維であれば毎日新鮮なものを使うということになり、毎日同じ歯ブラシを使うよりも清潔さが保たれていてメリットも大きいのかもしれません。当たり前のように考えていた自分の生活の一部について考えてみるきっかけにもなりました。
まとめ
多彩な領域の人々がつながることで新しい関係が築かれ、そこから様々な作品が生み出されていました。同じテーマに対するアプローチでもチームごとに全く異なっていたことに驚きましたが、それぞれの作品が社会や暮らしの在り方に新しい可能性を提示しており、ワクワクするような体験を得た1日になったと思います。
また、作品がどういう経緯で作られたのかを、実際にチームの方々に聞くことが出来たことも貴重な経験になりました。ものづくりに対する姿勢や見方について話してくれる方に会うことも出来、多くの気づきを得ることが出来たと思います。
今までにはなかった物事の見方、とらえ方を体験することも出来、1つ1つの作品と向き合う中で色々な刺激を受けることが出来た展示会でした。