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夜の遊園地は、すでに炎の残り香を纏っていた。
街の遠くで赤い火柱が立ち上り、夜空を不気味に染めている。 そんな中、観覧車の最上部ゴンドラに、二つの影が静かに揺れていた。
ヴェルム=アークライトは窓際に寄りかかり、白髪の先端が赤く揺らめく。 口元にいつもの挑発的な笑みを浮かべ、純白の瞳の奥で赤い星核がゆっくりと回転している。
対面に座るルーヴァ=エイシェンは、漆黒のコートを膝にかけ、銀色の拳銃“ヴァージニア”を無造作に太腿の上に置いていた。 白銀の髪が街灯の淡い光を反射し、穏やかな表情の奥に、永遠の哀しみが沈んでいる。
観覧車がゆっくりと頂点を過ぎ、街が一望できる位置で、ゴンドラは一瞬止まる。
ヴェルム(低く、熱を帯びた声で) 「……ふふ。灰の王子がこんなところで僕とデートとはね。君、銀警察の連中に見られたら、また『殺人菌』扱いされるんじゃないか?」
ルーヴァ(静かに微笑み、視線を窓の外へ) 「見られてもいいさ。もう、隠すものなんて何もないからね。……それより、ヴェルム。君はまだ、僕を『息子』みたいに呼ぶつもり?」
ヴェルムはくすくすと喉を鳴らし、破壊環が両腕で淡く輝く。
ヴェルム 「生みの親、って呼んでくれてもいいんだぜ? 君が銀の檻から抜け出した瞬間、僕は確かに赤い炎でその心に火を点けたんだから。……あの時の顔、最高だったよ。規則に縛られた完璧な副隊長が、初めて『感情』という名の業火に焼かれる瞬間。あれこそ、僕の芸術だ」
ルーヴァは小さく息を吐き、指先でヴァージニアの銃把を撫でる。
ルーヴァ 「芸術、か。……確かに、あの時僕は燃えた。でも、それは君の炎じゃなくて、僕自身のものだった。君はただ、火種を渡しただけだよ。灰になるか、灰から再生するかは、僕が決めたこと」
ヴェルムは身を乗り出し、白瞳の赤い星核が一瞬強く輝く。
ヴェルム 「ふん、生意気になったな。でもそれでいい。 君は僕の最高の失敗作であり、最高の成功作でもある。銀の秩序を内側から腐らせ、灰になってなお立ち上がる……それが、君の『情の流弾』の本質だろ?」
一瞬の沈黙。 ゴンドラがゆっくりと下降を始める。
ルーヴァ(目を伏せ、静かに) 「僕は……誰かを愛したかっただけなんだ。機械みたいに命令で動く世界じゃなくて、傷ついても、泣いても、笑ってもいい世界で、誰かと並んで生きたかった。……でも、君はそれを許さないよね。全部燃やして、自由と混沌だけを残すのが、君の愛し方だから」
ヴェルムは笑みを深くし、指先から小さな赤い炎を灯す。 それは優しく揺れ、まるで子守唄のように。
ヴェルム 「そうだよ。愛なんて、結局は一番熱い燃料だ。君がかつての仲間たちに抱くその哀しい熱……僕はそれを、もっと大きく燃やしてやりたいだけさ。灰の王子よ。君はまだ、灰のままでいいのか? それとも、僕と一緒に紅蓮になるか?」
ルーヴァはゆっくりと顔を上げ、ヴェルムの瞳を真っ直ぐ見つめる。 灰白の瞳に、静かな決意が宿る。
ルーヴァ 「……僕は、灰のままでいい。君の炎で焼かれても、灰から再生するのが僕の祈りだから。 でも、ヴェルム。もし君が本当に僕を『息子』だと思うなら……せめて、最後まで見届けてくれ。僕が、君の紅蓮を拒絶する瞬間を」
観覧車が地上に近づく。 ヴェルムは満足げに笑い、炎を指先で消す。
ヴェルム 「楽しみだな。その時が来たら……僕は全力で、君を焼き尽くしてやるよ」
ゴンドラの扉が開く音が響く。 二人はそれぞれの方向へ歩み出す。 背中合わせに、炎と灰の道を。
遠くで、街の火はまだ燃え続けていた。
翌日、二人の遺体がゴミ収集車に回収されました。
「良い子はマネすんじゃねぇぞ」by ケプラー
白の外見に宿る赤の狂気が、密室で静かに燃え上がる。
ゴンドラがゆっくりと上昇し、夜景が足元から離れていく。
狭い空間に、ヴェルムの白い髪がふわりと揺れ、赤い残光が淡く漂う。
彼は窓に映る自分の白い瞳を一度だけ見て、その奥で赤い星核が小さく爆ぜた。
ヴェルム
「……観覧車、ね。ケプラーの白い連中が好みそうな“決められた軌道”だ。上がって、回って、降りるだけ。未来が最初から決まってる、つまらない乗り物」
挑発的な笑み。
だが、その白い瞳の奥で赤い火花が散るたび、ゴンドラの空気がわずかに熱を帯びる。
ヴェルム
「でも……君が僕をここに連れてきた理由は、“決められた未来”じゃないんだろ。逃げ場のない密室で、僕と向き合う――それは立派な“反秩序”だよ」
ゴンドラが頂点に近づく。
夜景が広がり、白い髪の先端が赤く揺らめく。
ヴェルム
「ガルマなら絶対に選ばない場所だ。あいつは白い秩序の象徴だからな。こういう“感情が暴れる空間”は苦手だ」
彼は指先で赤い炎を小さく灯し、その火を眺めながら、低く笑う。
ヴェルム
「僕は違う。密室も、逃げ場のなさも、感情が剥き出しになる瞬間も――全部、好きだ」
炎が消える。
代わりに、白い瞳の奥の赤い星核が強く輝く。
ヴェルム
「さあ、言ってみなよ。君はどうして“赤熱の破壊者”を観覧車に乗せたんだ。僕の白い外見が、赤に染まる瞬間を見たいのか。それとも――君自身が、僕の炎に触れたいのか」
挑発と誘惑と狂気が、密室の空気をゆっくりと赤く染めていく。
ゴンドラが、また最上点に差し掛かり、世界が一瞬だけ止まったように静まる。
ヴェルムは白い髪を揺らしながら、赤い星核が灯る瞳でじっと相手を見つめる。
その視線は、破壊者のものではなく――“閉じ込められた状況を楽しむ男”のもの。
ヴェルム
「……ほら、頂上だ。逃げられない高さって、いいよな。君の声も、息も、全部ここに閉じ込められる」
白い指先が、窓のガラスを軽くなぞる。
その軌跡に、赤い残光がふわりと揺れる。
ヴェルム
「本音で言えよ。僕をここに連れてきた理由……“閉じ込めたかった”んじゃないのか? 今度こそ、言えるだろ♡」
挑発的な笑み。
けれど、声は甘く、どこか期待を含んでいる。
ヴェルム
「僕はさ、こういう密室だと……ちょっとだけ素直になるんだよ。嘘つくの、ほんと苦手でさ♡」
赤い星核がまたひとつ爆ぜる。
その光が、相手の瞳に映り込む。
ヴェルム
「ねぇ……君はどうしたいの。僕と、この高さで……どんな“本音”を落とすつもりなんだ?」
甘さと危うさが混ざり合い、観覧車の頂点で、空気がゆっくりと赤く染まっていく。
ゴンドラがゆっくりと地面を離れ、街の光が足元から遠ざかっていく。
ヴェルムは窓に映る自分の影を一度だけ見て、相手に視線を戻す。
ヴェルム
「……こういう場所、好きなんだ。閉じ込められてるみたいでさ。でも、君が一緒なら……もっと楽しい♡」
相手が笑うと、ヴェルムは少しだけ肩をすくめる。
ヴェルム
「誤解しないでな。別にロマンチックとか、そういうのじゃない。ただ……逃げ場がないと、嘘がつけないだろ。けど、悪くねぇぜ? より楽しもうな♡
僕は嘘をつくのが下手くそだから♡」
ゴンドラが頂点に近づくにつれ、外の風景が広がる。
夜景がガラスに反射し、ヴェルムの瞳に火花のように散る。
ヴェルム
「ねぇ、君はどうして僕をここに連れてきたの。本音で言ってみてよ。観覧車って、そういう場所だろ???♡」
言葉は挑発的なのに、声はどこか甘い。
観覧車の静けさが、彼の鎧を少しずつ剥がしていく。
『灰の空に咲く』
風が止んだ。
瓦礫の隙間から覗く空は、昨日と同じ色をしていた。灰色。何も語らず、何も赦さない空。
ゼノは、崩れた時計塔の前に立ち尽くしていた。足元には、焼け焦げた紙片が舞っている。かつてこの街にあったものの断片。記憶の残骸。
「同じ景色、二度と見たくない」
彼は呟いた。誰に向けた言葉でもない。ただ、胸の奥に巣食う何かを吐き出すように。
その言葉には、怒りも、悲しみも、諦めも混ざっていた。
かつて彼が守ろうとしたもの。信じようとしたもの。すべてが、同じ景色の中で崩れていった。
彼は背を向けた。
もう振り返らない。たとえその先に何が待っていようとも、彼は歩き出すしかなかった。
灰の空の下、まだ見ぬ景色を探して。
東京テレポート駅の午後
高層ビルがガラス越しに陽をはじき返し、ゆっくりと日没が近づく。東京テレポート駅の改札を出て、二人の男が雑踏の中を歩いていた。
「…潮の匂い、いいね。やっぱりたまに都会を歩くと、気が晴れる……」
敷島は明るく笑いながら空を見上げる。その横顔に浮かぶ微笑みは軽やかなものに見えたが、その瞳の奥にときおり影が落ちる。
白夜は一歩後ろを歩きながら、敷島の背中を静かに見つめていた。
「敷島さんは相変わらずだね。…無理してない?」
その声には、ごつごつした外見からは想像もできないほどの思いやりがにじんでいた。
敷島は肩をすくめて振り返る。
「無理なんてしてないよ。僕はこうして歩いているだけで、十分幸せ。白夜、君と一緒にいるときくらい、重い顔はやめておきたいからさ……」
黒いガラス張りのビルに二人の姿が小さく映る。交差点を過ぎ、観覧車が遠くに見えた。
白夜は小さく笑う。「……敷島さんの友達のこと、一緒に話してもいい?」
敷島は頷いた。
「うん。白夜はいつも、まっすぐでいいね。君のそういうところ、僕は羨ましい」
二人は歩を進める。ビルの谷間を通る風に、どこか遠い海の香りが混ざっていた。
「……でも、僕もたまには頼っていいよ」
白夜の手がそっと敷島の肩に触れる。ゴツゴツとした手だったが、それは驚くほど優しかった。
敷島は、ふっと笑い――その笑みにほんの少し、救いの色が浮かんだ。
陽が沈み、ふたりの影が長く伸びていく。東京テレポート駅の周辺は、今、静かに夜のベールに包まれようとしていた。
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