WL恒例の観客のみなさんからこの1年に見た舞台作品の中で印象に残った3本を募るアンケートを実施しました。今回は17名の多彩な方々からご回答をいただきました。ご参加いただいたみなさん本当にありがとうございました。またご協力いただいた選出団体のみなさんにもあわせてお礼申し上げます。
今回も「あ~それ良かったよね~」「あ~それ話題になったよねぇ」がズラリと並んでいます。今年もこうして個人個人の記憶が集合体となることで2025年の舞台シーンを観客の側から形にして記録することができました。
商業メディアの年末回顧はその特性上12月に発表されて12月の公演は翌年に扱うというルールになっている所が多いですが、翌年の年末回顧で前年の12月の公演が取り上げられていることを見ることもほとんどありません。そういったことを避けて真のその年の回顧をしてアーカイブする目的もあってWLでは年が明けてからの発表にし続けています。是非あなたの2025年と照らし合わせてご覧いただき2026年に繋げていただければと願っています。
それでは心ゆくまでごゆっくりお楽しみください。
加美幸伸(FM COCOLO 765 DJ ・ScatRaw/TheMOST座長)
2025年の観劇本数:109本
入江雅人グレート一人芝居『大阪のパンクスタイル4』(聖天通劇場)
らんぶる第一回公演『晩節荒らし』(ABCホール)
Bunkamura『Bunkamura Production 2025 DISCOVER WORLD THEATRE vol.「リア王」NINAGAWA MEMORIAL』 (THEATER MILANO-Za)
私のこれまでの演劇への向かい方は、妄想に鍛えられた脳と、劇場で蓄積した経験、そして感情に鋭敏に反応する心、それらを調合し、伝えることを前提に塩梅を探りながら観劇をしてきた。ところが還暦を過ぎて再びの春を決意してからは、頑なな執念と純粋な情熱を燃やして奮闘する同世代に心を奪われてしまう。
入江雅人が観客と混ざりながらもグレート(受付や音楽、照明なども自身が行う)に一人で創る奇天烈な世界。
佐藤誓と山西惇、二人のベテランが多役を瞬間的に演じ分け物語を進める姿。そのスリルは佳境に向かいドキドキが止まらなかった。
大竹しのぶが新しい解釈のリア王像を発明。あのシェイクスピアが観たらきっと冥界で驚愕したことだろう。匠から未だ来ぬものを魅せられた喜び。これが今、私の演劇愛を増殖させてくれているのだ。
X: 加美幸伸(Yukinobu KAMI) ScatRaw/The MOST Official
CCCreation『黒蜥蜴』(スペース・ゼロ)
糸川耀士郎1人音楽劇『夜啼鳥』(シアターミクサ)
あやめ十八番『金鶏二番花』(座高円寺1)
ストーリー、芝居、音楽、ビジュアル、複数の点で楽しめたものを選びました。人が追い詰められたときの美しさを描いている作品が好きなのかもしれません。
大野由美子(会社員)
2025年の観劇本数:10本
滋企画『ガラスの動物園』(すみだパークシアター倉)
新国立劇場『スリー・キングダムス』(新国立劇場 中劇場)
ナビロフト『りすん 2025 edition』(KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ)
赤坂レッドシアター『Address unknown』など、ファシズムや全体主義、その先にある戦争に危機感を持つ作品も心に残りました。
片山幹生(演劇研究)
2025年の観劇本数:70本
劇団前進座『裏長屋騒動記』(サンシャイン劇場)
Theatre Moments『遺すモノ〜楢山節考より〜』(シアターグリーン Box in Box Theater)
新国立劇場『焼肉ドラゴン』(新国立劇場 中劇場)
前進座『裏長屋騒動記』は明朗で味わい深い世話物喜劇の傑作。山田洋次脚本には、笑いの奥に社会風刺と弱者へのまなざしもある。
『遺すモノ〜楢山節考より〜』はTheatre Momentsのレパートリーの一つ。深沢七郎『楢山節考』の世界を映画とは全く異なる、独創的な演劇的仕掛で提示する。抽象度の高い美術と斬新な演出で深沢の寓話の問いかけと普遍性が凝縮された素晴らしい舞台だった。
『焼肉ドラゴン』は中劇場での凱旋公演を見た。中劇場の空間でも、濃厚でエモーショナルな芝居のエネルギーが落ちることはない。劇場は千人の観客の高揚感で満たされた。
Instagram: katayama_mikio
谷岡健彦(大学教員)
2025年の観劇本数:80本
PARCO STAGE『星の降る時』(PARCO劇場)
文学座『野良豚』(文学座アトリエ)
世田谷パブリックシアター『キャプテン・アメイジング』(シアタートラム)
①は上質な翻訳(小田島則子)と達者な演技陣のおかげで、大笑いしつつも深く考えさせられる劇に仕上がっていた。江口のりこが、まるで当て書きされたかのように役柄を自分のものにしていたのが印象的。
②は香港の莊梅岩の戯曲。権力によるメディア支配を描く。執筆当時は不条理劇と受け取られた内容が、いま香港では現実になっているという。日本社会も将来、この劇のようにならないとは断言できない。
③はトリプルキャストでの一人芝居。同じ戯曲でも、三者三様の解釈と演技の差でかなり違った作品に見えた。これもまた演劇の楽しさだ。
結果として、すべて翻訳劇の選出となった。2026年は、日本の劇作家による傑出した舞台に出会いたい。
オペラ・オーストラリア『椿姫』(シドニーオペラハウス)
名取事務所『燃える花嫁』(北九州芸術劇場)
甘棠館Show劇場プロデュース『滑落、我ら大八食産登山部』(甘棠館Show劇場)
ほかには、EPOCH MAN『我ら宇宙の塵』、鳥獣戯画『三人でシェイクスピア』、クラウド・ゲイト・ダンスシアター『WAVES』、『レ・ミゼラブル ワールドツアースペクタキュラー』が楽しめた。
このところ、中堅クラスの劇団の九州公演が少ないのがさびしい。
ベイビー、ラン『わたしたちの失敗』(扇町ミュージアムキューブ CUBE01)
劇団激男『黄ばみかけの完熟トマト、そこにちょっとのユートピア』(扇町ミュージアムキューブ CUBE01)
劇団あしあと 『だから今、走る』(扇町ミュージアムキューブ CUBE01)
第10回全国学生演劇祭から3本選出しました。
選考委員が「どの作品も完成度が高く最優秀賞を出すことが難しかった」と語るほどの才能の拮抗と熱量を思わせる結果に。
対して年末の演劇人コンクール2025では「特筆すべき作品がなく、賞の選出に難航した」という講評。この差に、権威を目指す者たちの停滞と学生演劇というアングラ精神の再萌芽を見ました。演出家の登竜門である演劇人コンはその権威の保身も図れないほどの質の低下を露呈してしまった。回数を重ね権威化しつつある学生演劇祭だが、その中身はあくまで辺境。今年の演劇人コン出場者程度ならいつでも背中から刺しに行ける。そんな逆転の狼煙を彼らの作品に感じた。
そんな訳で、2025年を象徴するのは『下剋上の予感』。豊岡という平田オリザのお膝元で図られる小劇場演劇の更なるクリーン化を尻目にナイフを砥ぐ若者たち。新たなストリームは周辺から生まれる。それは豊岡ではない。
kiki(地方公務員)
2025年の観劇本数:123本
あやめ十八番『草創期 金鶏 一番花』(東京芸術劇場 シアターイースト)
Mrs.fictions『再生ミセスフィクションズ3』(武蔵野芸能劇場 小劇場)
ロデオ★座★ヘヴン 『幻書奇譚』(新宿眼科画廊)
選んだ3本はどれも信頼のおける団体の間違いない作品。一方で、まだ観たことのない団体等の作品に触れる機会が少なかったのが少し寂しい。もうちょっと時間をやりくりしていろんな作品を観に行けたらいいな、と思ったりしている。
金鶏 一番鶏:テレビの開発と伝統芸能、軸となる2つの流れが遠くで交わったり、随所に7月の二番花との関連が見られたり、いろんなところでワクワクした。ある種の仄暗さもこの団体らしくて好み。
再生ミセスフィクションズ3:未公開作を含めた再演短編集。単純なハッピーエンドなんてたぶんひとつもないのに、幸せによく似た何かがじんわりと込み上げる。気の遠くなるような未来への約束やもう決して届かないあの人への思いが細やかに綴られて美しかった。
幻書奇譚:再演とのことだが初見。博物館の会議室での会話劇。壮大な展開をワクワクしなら見守った。キャストもそれぞれ絶妙で、駆け引きも思惑もたっぷり堪能した。
りいちろ(観客・演劇ビューワー)
2025年の観劇本数:148本
ゾノノキカク『Crash』(シアター711)
家でできる演劇『インディゴは水に溶けない』(スペースあや)
いいへんじ『われわれなりのロマンティック』(三鷹市芸術文化センター 星のホール)
多くの作り手の方々がそれぞれに新たな工夫とともに演劇を紡いでいたように感じた1年。選んだ3本はそのよい例で、それぞれの工夫で表現するものを描き出す才を感じ、観終わって新たな体感が残りました。また若い作り手にも心惹かれることが多く、演劇ユニットび/わ、演劇ユニット冷蔵庫ポルカなどの舞台にも捉えられました。
老年団・サポート・センター/町田博治(無職)
2025年の観劇本数:288本
滋企画『ガラスの動物園』(すみだパークシアター倉)
劇団温泉ドラゴン『痕、婚、』(ザ・ポケット)
劇団印象『女性映画監督第一号』(東京芸術劇場 シアターウエスト)
ガラスの動物園
出演者と演出/音楽 額田大志の相性の良さ。演技の冴え。岩城保の照明は闇と陰を操り、壁に影を切り取る光、息を呑む見入る観客。出演の西田夏奈子/原田つむぎ/大石将弘/佐藤滋が素晴らしかった。
痕、婚、
関東大震災の朝鮮人の虐殺後が描かれる。 痕と婚に恨を加わえ、「痕、婚、恨、」ということにも出来るか。誰も責められないなどと言うことでは済まされない。でもそれを変えて行くことを思い、前に進んで行くことを続けるしかない。素晴らしい上演だった。
女性映画監督第一号
印象は5作目、鈴木アツトのベストに。
満州で残酷な時代に巻き込まれてしまう板根田鶴子。板根田鶴子が虚空に手を伸ばす最後のシーン、吊るされたフィルムを模した舞台美術に手を伸ばしていたのだ。このシーンが、最後の展開でザラザラとした思いが心に澱の様に残らせる作品に終わらせず、未来へと繋ぐのだと言うことを思わせてくれたと思う。
久保脇 望(DOVES LLC/GODEON Records 制作)
2025年の観劇本数:11本
東京グローブ座『Bug Parade』(東京グローブ座)
キョードー『「レ・ミゼラブル」ワールドツアースペクタキュラー』(フェスティバルホール)
梅棒『梅棒 20th Breakdown「FINAL JACKET」』(COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール)
奇才・小沢道成が「人生は選択の連続」であることを問いかけた『Bug Parade』照明・映像への挑戦を体感し、同時に美術や衣装で醸し出される世界観に没入。良い意味でクセのある役者が揃うなかで篠井英介さんのストーリーテラー的存在感が圧倒的。
『レ・ミゼラブル』ワールドツアースペクタキュラーは、各国巡回するにあたり工夫されたであろう舞台機構はシンプルでありながらも『オペラ座の怪人』のシャンデリアのように重厚な存在感。また、歌唱をメインに据えたとも言える演出にインターナショナルキャストのとんでもない表現力は、突き放された絶望感さえ味わった。
ダンス×演劇カンパニー梅棒20周年記念公演では、ゲストは入れず梅棒のメンバー11名のみでのパフォーマンス。”宛書”にも感じるほど、それぞれドンピシャにハマりこみ、“梅棒イレブン”の結束の強さから生まれる圧倒的なハッピーエンドに笑いと感動の涙が溢れた。
天乃こども(バーチャル作家)
2025年の観劇本数:30本
劇団だるめしあん 『バイトの面接に遅刻しそうだったが、どうやら遅刻していたのは世界の方だったらしい』(座・高円寺1)
エンニュイ『かえるまで、が。』(SCOOL)
細田学園高校演劇部『春子杜』(彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)
選んだ3本にはそれぞれ何らかの「境界」への切り込みが見えた。
1本目は、さまざまな人がさまざまな世界に転生していき、ジェンダー規範を撹乱していくのだが、「こちらはこう」「そちらはそう」の境界が崩されていった先に、今ここの我々が問われる。
2本目は、その空間自体が、観客と演者の境界を曖昧にする作用を持っていて、まるで夢を見たような感覚になる上演だった。
3本目は、大筋としては「あなたとわたしの世界」に固執するセカイ系っぽい作品なのだが、芥川龍之介『杜子春』を下敷きにして仙人になるという段階を経たことで、「あなたとわたしの世界」と「わたし自身」の境界が溶け合っていかず、切り離されているような感覚があった。悟りのセカイ系とでも言うべきか。
2025年、現実はむしろ如何に「境界」を引くかの世界であったようにも思う。それに対する抵抗であったにせよ、なかったにせよ。
大川朝也(劇団白色・劇作家・会社員)
2025年の観劇本数:45本
ナビロフト『りすん2025edition』(アイホール)
マシュマロテント『そのマンションは海底に建っていた』(インディペンデントシアター2nd)
Plant M『げきじょうのひ(連作公演)』(大阪市立芸術創造館)
諸事情で昨年は観劇数が少なかった為、すぐ選べると思ったが中々に苦戦した。
この瞬間も「本当にこれでいいのか?」と悩む程、今年も良き出会いがあった。
3本の共通点として「入れ子構造」が挙げられる。
どの作品も作中の物語と現実の境が曖昧に描かれている。
Plant Mは他2作と比べるとその境は明瞭であるが、それでも非常に接近している。
入れ子構造自体は珍しくないのだが、昨年はこれまで以上に切れ味を増して私の中に入ってきた。
経済不安や国際問題により、コロナ禍を抜けても依然として気の休まる現実は訪れない。
挙げた3作でも現実は辛く、物語は心地よく描かれる。フィクションにしか安らぎはないのだろうか?
だが、どの作品も最後に主人公は現実世界と対峙し、希望を暗示して幕を下ろす。
現実を諦めずに何とかサバイブしていこうと、厳しくも心強いメッセージを感じ、私個人としてもそれに支えられた1年であった。
ナカタアカネ(作家)
2025年の観劇本数:63本
劇団酔族館旗降ろし公演『未来世紀天下茶屋 最終章 西区辺境部物語』(インディペンデントシアター2nd)
劇団未来『五人のアルベティーン』(未来ワークスタジオ)
劇団太陽族『横切るひとり、見つめるひとり、なにもない空間 』(伊丹アイホール)
劇団酔族館については旗揚げではなく終わりの活動、いわゆる劇団としての終活をするために何をやるかというのをオープンにした先駆けとして大きな衝撃を受けました。そしてその真摯な姿勢を尊敬せざるを得なかった。これにつきます。25年の動向かはわからないですが勢いのあった演劇人が中年以上でもあり活躍の場である劇場の終わり…絶対なくならないと多くが(勿論私も)勝手に安心していたアイホールの終わりも含めて身近が始まりではなくどう終わらせるかということに目を向けているような気がします。
かおる(営業・観劇者)
2025年の観劇本数:250本
倉田翠/akakilike『病癒えし者の着色された魚への聖なる感謝の歌』(京都芸術劇場 春秋座)
広田ゆうみ+二口大学『足のある死体』(UrBANGUILD)
ヘラヘラ企画『すれ違うにはせまい道』(ウイングフィールド)
記憶に残る芝居ということで、た組『ドードーが落下する』も澤田誠企画『旧飛行時代』も餓鬼の断食『DOGHOUSE』もJACROW『骨と肉』も林英世ひとり語りもカムカムミニキーナ『しめんげき』も迷ったが上記3作品となった。新しい視点や技術の発見と旧知の巧さであるはずなのに新鮮に感激(感動程度で済まない)させてくれる演者とそれぞれに呼応する観客が「あれら」を越えて存在していることを感じる一年だった。
幻灯劇場『Waltz for Daddy』(恵比寿・エコー劇場)
ネルケプランニング『怪人21面相』(新宿シアターモリエール)
べろべろガンキュウ女『道玄坂PINKVIBE』(北千住BuOY)
個人的ベストと記憶に残るは相違があることも踏まえて。
①幻灯劇場→ベスト+記憶に残る作品だった。身体や大道具の使い方がうまい。今作品では観た後放心状態になってしまいました。
②ネルケ→2.5次元が得意なネルケが野木萌葱脚本を!?となった衝撃たるや。モリエールにぎっちぎちに並べられた椅子に劇団とは違う客層感で観る面白さあり。
③べろガン→北千住BUoYがクラブとなり、観客を中央に集めて円の外側を演劇スペースにした作りが面白かった。演者が同時に多方向で会話を進めるところにイマーシブっぽさを感じ。だんだんとこの物語の主軸が見えてくる面白さがあった。現地でこそ意味を成す演劇でした。
2025年も多方向の演劇ジャンルに手を出しましたが、近年における直接的な政治批判を並べたてるだけの演劇は選択肢から外していました。北関東から多額のお金を払ってわざわざデモ集会に参加する気はないなと前年に感じたので。
小泉うめ(観劇人・観客発信メディアWL)
2025年の観劇本数:150本
akakilike『“倉田翠ソロ2” 音楽 宇山心奈』(THEATRE E9 KYOTO)
一心寺地蔵盆ミュージカル『へこきクマのプップププー2025』(一心寺シアター倶楽)
松原俊太郎(草)『「インポッシブル・ギャグ」リーディング公演』(京都芸術センター フリースペース)
なかなか思い通りには劇場に足を運べないでいるがそんな中だからこそ客席に座る時は変わらずリラックスとフラットであることを心がけている。おかげで多くの素晴らしい出会いと繋がりが続いている。
倉田翠の作品はすべて一貫していて一続きだと言えると思うが、そういう意味で本作は大きなメルクマールで、それ故それ以降の作品にも継続して影響しているのを感じている。
一心寺地蔵盆ミュージカルはこの鄭義信作品のビエンナーレだ。子どもと子どもの心を持つ者の真夏の大冒険にたくさんのことを教えられたし純粋に心を打たれた。
松原俊太郎の伸びやかに筆力の爆発した戯曲が鮮烈だった。リーディング公演という枠を超えていたと思うがもしこれがリーディング公演なら革命的でもある。