砂に埋もれず
はじめて、死を見た。 いや、それはただの比喩だ。でもあの時の一瞬は、比喩なんかではなかった。
「――っ!!!」
微かな衝撃を感じ、慌てて飛び起きた。辺りを見渡す。 そこは懇意にしている宿屋の一室。僕の剣と少しの荷物と、この街で買ったガイドブックが枕元に置いてあるから、僕の部屋で間違いなさそうだ。その剣が横になり、僅かに震えているのを視認して、さっき聞こえたのはそれがひとりでに倒れた音だったのだと納得した。ひとまずの安堵から溜息をつき、いつものように寝台から降りようとして、ようやく気づく。
「――っつ……!」
いつも胸につけているさらしの代わりに、腹部や肩にかかるように巻かれた包帯。利き手の反対の腕もうまく動かせない。じんわりと血が滲んでいる傷口が、そこらかしこにあった。 これは、誰が手当したんだ? 真っ先に考えねばならないのがそれだった。宿に寝ていたわけだから、一通りのことは宿の女将さんが医者を呼んでやってくれたのだろうか。だがその時に、あの二人は――。 そうだ、ヨロクとホルムは? 僕等は確か、あの砂漠を冒険していたんじゃなかったか?
「…………」
あの時は確か、巨大な砂漠の虫が、僕を丸呑みにしようと襲いかかって、それを僕はいなしきれなくて、噛まれて、その場に倒れて――いや、それだけじゃない。あいつらはそのまま、ヨロクの所まで行って、自分と同じように、噛みついて、彼が見たこともないような速度で打ち上げられたのを見て。
「…………ぁ……あぁっ……」
震えが止まらない。今更その事実に、自分があの時死んでいたかもしれない、もしかしたら彼も一緒に死んでいたかもしれない、そんな、光景を目の当たりして。 傭兵としてこの街に来る間も、何度か命のやり取りはあった。多少危険な場面もあったけど、それでもここまで恐れを感じることなんてなかった。 だとしたら、この恐ろしさはどこから来るのか。
「……あ……」
痛む腕を少しだけ伸ばして、枕元に置かれていたガイドブックを掴む。間に挟み込んでいた写真を取り出して、息を吐いた。 それは以前のお祭りの時、屋台のおじさんがいつの間にか撮っていたものだ。ヨロクが受け取っていたけれど、僕とホルムも一枚ずつ焼き増ししてもらって、三人で持った。でも迷宮に持っていくのはなんとなく忍びなくて、僕はこの本に挟んでしまったままだった。 困り顔で肉を頬張る僕が、変な壺を片手に更に酒を飲もうとしているホルムを止めようとしている。その横でヨロクが僕の肉を狙ってた犬を止めてて、二人とも笑顔で……舞う黄金の葉が綺麗で。
「…………」
ふと、その金色が滲んだ。 どうしてだろう。あの霧の中で感じた熱とは違う。胸を強く締め付けて、一度認識すれば、それは際限なく溢れ出していく。留められなかった。 ダメだ、君はそんな柄じゃないだろう。心の中であの頃の自分が叫ぶ。 あの時は何もできなかったこと、何もしなかったこと。勝手に傷ついたり考えたりして、女々しくて、独り善がりの考えだから、こんな自分だから、何も持てない、何も守れない、誰も見てくれない、誰も、振り向いてくれなかったから。 だから、この髪を切って。次こそ誰かを守れるように、強くありたいと、ずっと努力してきた。
でも、そうやって守りたいと思ってた2人に、本当は僕が守られていて、僕はそんな二人を失うことが、何よりも怖くて、死にたくない、死んでほしくないと自覚してしまった。
「…………っ……ぅう……」
熱は静かに流れていく。せめて声は外に聞こえぬように、口元を押さえ
2人に、たまらなく会いたかった。だけど同時に、この顔で、この体で居合わせたらなんと言われるだろうかと、言い知れぬ不安から肩を抱いた。










