おおしまたくろう楽器展#2 滑琴の耳奏耳(かっきんのみみそうじ)
Date:2022/03/25(Fri.)~04/03(Sun.) @パララックス・レコード
背景
2021年の前半は山下残さんと音遊びの会のコラボレーションのお手伝いがメインの活動だったので、後半は自分の活動に力を入れたいと思い、締め切りを設けるために助成金を獲得して活動することを目指しました。活動内容としては、コロナ禍以前から取り組んでいたスケートボードとエレキギターを合体させた楽器「滑琴(かっきん)」の活動と、コロナ禍以後に取り組み始めた耳型マイク装置「ミミックロフォン」の活動を掛け合わせた内容を企画しました。無事に企画がアーツサポート関西の助成対象活動に採択されたので、3月の展覧会開催を目標に動き始めました。
https://artssupport-kansai.or.jp/grant_list/index.html ▲助成企画について
まず活動を始めるにあたり新たに導入したiPadでスケッチを描きました。美術大学の工房に就職してから造形を意識するようになり、装置の見た目も機能であると考えるようになりました。またスケッチを描くことで他人とアイデアを共有でき、企画が助成金に採択されやすくなったり共同作業が楽になりました。 活動の方針として、1)量産化を視野に入れた新型滑琴の開発、2)滑琴用の背負子型ギターアンプの開発、3)耳型マイク装置を用いたライブ配信の実施。以上の3つを活動方針に定めて制作を進めました。具体的には、1)は3DCADと3Dプリンターを用いた滑琴専用部品の開発、2)はレコーダーや通信機器の機能を兼ね備えたバッテリー駆動のギターアンプの開発、3)はカメラ越しにもマイクの位置関係が把握できる高さ40cmほどの巨大な耳型マイクの開発を行います。
▲ギターアンプと耳型マイク装置のスケッチ
滑琴4号機マルチプライアー(増殖子)について
滑琴の新作を作るにあたり「量産化」を目指した設計を意識しました。具体的には3号機ではスケートボードの木の板(デッキ)に穴を開けて、エレキギター用の部品を取り付けることで楽器の構造を実現していましたが、手作業での組み立てが難しく、締結部品が多いために重量増加を招いていました。そこで通常のスケートボードのトラックを滑琴用のものに交換するだけで簡単に楽器化できる構造を目指しました。これはエレキギターのテレキャスターというモデルをヒントに考案した構造です。テレキャスターが従来のエレキギターと違いボルトでの組み立てを可能にしたことで、職人技無しで量産化に成功したように、デッキへの追加工無しで滑琴用トラックに交換するだけで簡単に楽器化できます。 また光造形3Dプリンターのタフレジンを用いて、複雑な形状の部品を十分な強度と軽さで実現します。まだまだ小ロットでの生産が続くと思いますが、金型制作への移行も視野に入れて滑琴用トラックを3DCADで設計します。
▲3D設計した新型トラックの初期案
▲初期案をテスト出力したところ
滑琴3号機を持って秋田県に滞在した際に、地元のスケーターの方に乗っていただきアドバイスをいただきました。ギターペグが面に出ているとトリックの障害になるのでできるだけ隠した方が良いとの意見があり、今回はペグをデッキの内側に隠すような構造に変えました。最初のプロトタイプでは、パーツの干渉や負荷が集中する箇所を確認するため安価なFDM方式の3Dプリンターで試作を行いました。実際に組み立ててみるとギター弦が干渉していたり、負荷が集中しやすい箇所で弦が切れやすく、試乗してみるとトラックが破損しやすい箇所が見つかりました。
▲仮組みしたところ
設計のアップデート作業には、以前にも耳型マイク装置「ハッピーニューイヤー」の制作の際にモデリングサポートいただいた水口翔太さんに関わっていただき、より軽量かつ強度のある形状に改良しました。まだペグ周辺の設計などに課題が残るものの、3号機と比べて格段に組み立てやすく、軽量で量産化に適した設計が実現できました。 完成した滑琴の意匠として、ピックガードを取り付け僕のキャラクター「ピンクのあいつ(エンジェルVer.)」を描きました。ピンクのあいつのイラストは、いつも僕の活動のデザインを担当してくださる丹羽彩乃さんに依頼しました。楽器は人間が発せられない音を出す点で神様の道具であったり、神様と交信するための道具に例えられます。ピンクのあいつも天使になって滑琴の音を天上に届けてくれているのでしょう。
▲安全を祈るピンクのあいつ
響筐(きょうきょう)と疑似耳(ぎじじ)
これまでの滑琴を使った野外パフォーマンスではマーチングバンドの小太鼓で使用するキャリングホルダーにギターアンプをくくりつけてパフォーマンスしていましたが、肩に負担がかかって長時間のパフォーマンスが難しい状況でした。そこで今回はギターアンプをホルダーが一体になった背負子型ギターアンプ「響筐(きょうきょう)」を制作しました。
▲従来の背負子型ギターアンプ(左:1号機、右:2号機)
背負子部分には登山メーカーの背負子を流用して、肩だけでなく腰にも荷重が分散でき、クッション性のあるものを選びました。またギターアンプ部分はスケッチをいくつか描いてから3DCADで設計してレーザーカッターを使って組み立てました。ギターアンプの回路にはBoss Cube Street 2を分解して使いました。Cube Street 2は電池駆動かつスマートフォンから音量調整が可能なため、いちいちアンプを背中から降ろさなくても良い点に着目して選択しました。
▲CADで設計した背負子型ギターアンプ
▲市販のアンプを分解している様子
▲仮組みしてサイズ感を確認
響筐の側面には巨大な耳型マイク「疑似耳(ぎじじ)」を取り付けます。疑似耳は野外での滑琴の演走音を集音してライブ配信先に送るためのマイク装置です。マグネットとベルクロテープで響筐に取り付けており、取り外すことで好きな音の定位感覚でフィールドレコーディングできます。 ライブ配信と耳型マイク装置の組み合わせは新型コロナウイルスの環境下で思いついたアイデアで、本来は透明化したメディアとして映像の中に潜んでいるマイクの存在を耳の造形でアピールします。鑑賞者は画面に映る巨大な耳を見て、現場のマイキングを把握できる仕組みです。耳型マイク装置の総称を「ミミックロフォン(ミミック+マイクロフォン)」と称しており、耳の造形には僕の耳を3Dスキャニングしたデータを用い、これまでに3つのバリエーションでミミックロフォンシリーズを作りました。疑似耳の特徴としてギターアンプとスムーズに切り離しができることと、サイズの大きさが挙げられます。
▲ダンボールでサイズ感を把握
▲マグネットで洗濯機に付けてみる
実験とフィールドワーク
制作した滑琴などを用いてパフォーマンスイベントに参加したり、フィールドレコーディングの収録を実施してみました。まずは金沢などの4都市をつないでオンライン開催された「NxPC. LIVE Vol.54 密(ヒソカ)」に出演しました。イベントの2週間前にお誘いいただいたイベントでしたが、だらだらと開発を進めていたこともあり、ひとつのゴールとしてちょうど良いと思い、参加を決めました。このイベントでは「新作を完成させてイベントに参加する」を目標に制作を進め、無事に楽器本体と配信システム、パフォーマンス構成を完成させました。 パフォーマンスは3部で構成して、第1部では室内での2人の演奏者による疑似耳を用いたパフォーマンス(通称:耳奏耳、みみそうじ)を実施して、第2部は前日に金沢市に滞在して撮影した疑似耳を用いたフィールドレコーディングの記録映像を放送し、第3部は疑似耳を響筐に取り付け、市内を滑琴で演走する様子をLINE通話で配信しました。30分のパフォーマンス時間の中で矢継ぎ早に構成が変わっていくてんこ盛りの内容でしたが、自分のやりたいことを妥協することなく実施できました。 今後の課題としては、3部の配信でLINE通話を用いた配信を実施しましたが、音声の集音が上手くできておらず、野外での配信システムの見直しが必要そうです。また響筐と疑似耳の装飾が完了しておらず寂しい印象でした。
▲会場で展示中の楽器たち
https://nxpclab.info/vol.54/
▲イベントのアーカイヴページ
次の実践の場はFIGYAを拠点とした配信実験とフィールドワークです。滑琴3号機の完成発表を兼ねた個展をFIGYAで開催した経緯があり、今回もFIGYAでの発表を通じて前作との差異を確かめる狙いがありました。前回の個展ではFIGYA周辺でのルート譜(滑琴の規範的楽譜)を作曲したので、新型の滑琴で同じルート譜を演奏してみました。残念ながらレコーダーの設定にミスがあり良い記録を残すことができませんでしたが、疑似耳を組み合わせて新たな音響の鳴らし方が実現できました。 またFIGYA周辺で疑似耳を用いたフィールドレコーディングを実施しました。マイクスタンドに疑似耳を付けて自販機や高架下、公園、河原などに設置して録音しました。町の景色の中に耳が生えている様子は自分が自販機の気持ちになったり、町の気持ちになって環境音を聴く感覚を呼び起こしました。この時の改善点として、疑似耳の中が空洞のため共鳴によるコーという音を集音していました。これについてはスポンジなどの軽くて吸音性能のある素材を詰めて対応したいです。
▲此花区での演走(撮影:mizutama)
▲淀川での録音風景(撮影:mizutama)
次に説明するパララックス・レコードでの展示中にFabCafe Nagoyaでの自作楽器イベント「廻転 -DIY Instrumental Performance」に出演しました。残念ながら個展開催中だったため会場を離れるわけにいかず、オンラインでの出演を検討するなかで新作の滑琴を用いたパフォーマンスを実施することにしました。 金沢でのパフォーマンスの画質や音質への反省を受けて、今回のパフォーマンスではLINE通話でなくGoProから直接YouTubeへライブ配信するシステムを採用しました。パフォーマンス構成は前半・後半に分かれており、前半はZoomを使って主催者や来場者と会話をして、ZoomのチャットにGoProのYouTube配信URLを貼って後半へ進みます。後半は演走者の頭に付けたGoPro目線の映像を配信します。 ZoomとYouTubeという異なるサービスを行き来することに興味を抱きパフォーマンスを構成しましたが、鑑賞者からは「3人称視点と1人称視点を行き来するパフォーマンス」のように評していただき、確かにカメラの視点や会話の関係性がパフォーマンスの中でダイナミックに変化する状態は面白いと感じました。今後のライブ配信のバリエーションのひとつとして考えていきたいテーマです。
https://fabcafe.com/jp/magazine/nagoya/2204_rotation_report/ ▲イベントのレポート
パララックス・レコードでの展示
助成金に採択されたのが9月末ごろだったので、半年くらい開発活動を続けてきました。活動のまとまった成果発表の場として、京都にあるアバンギャルド系のレコード店「パララックス・レコード」で展覧会を開催しました。 パララックス・レコードには高校生の時からお世話になっており、当時はより変わった音楽を探してレコード店を回っているうちに出会ったお店でした。特に工学を勉強していた高校生の僕にAlvin Lucierを出会わせてくれた重要な場所で、Lucierとの出会い、そしてパララックス・レコードとの出会いがなければ自作楽器を作る僕はいなかったかもしれません。そんな僕の原点とも呼べる場所で新作を発表できることは感無量でした。
▲展示風景
展示会場には開発した3つの装置(滑琴4号機マルチプライアー、響筐、疑似耳)とこれまでの滑琴開発に関する記録映像、NB-606、Zine、それからパララックス・レコードの商品をチョイスさせていただき「おおしまたくろうのスペシャルセレクトコーナー」を設置しました。僕がパララックス・レコードで購入したお気に入りのアルバムや気になる商品をチョイスしました。 会期中は久しぶりに会った友人や美術関係の方々が見にきてくださったほか、パララックス・レコードの入っている詩の小路ビルのストリート系のお店の店員さんやお客さんも見てくださり、現場の人のリアクションやアドバイスをいただけました。個性的な店内にも不思議と馴染んでおり、アバンギャルドな姿勢を貫きつつもフレンドリーな見た目の作品になったなぁと展示空間を見ていて思いました。
▲セレクトコーナー
▲展示会場の記録映像
展示を終えて
半年に及ぶ開発と展覧会の開催を経て、滑琴の開発がかなり進んだと思います。特に新しい職場に就いてから造形意識が芽生えてきたので、作品の造形やカラーリングに注意を払ったこともあり、展示会場でもキャッチーな印象を放っていました。 開発中や展示中にも周囲の人から「ベース型の滑琴」や「小型で安価な滑琴」などのバリエーション展開を期待する声や、購入を希望する声をいただきました。これは楽器をテーマに活動する僕としては重要な声で、常に「楽器はあくまで音楽のための道具」という側面を意識しており、僕一人が扱うアート作品ではなく、他の人の身体と組み合わさって新たな価値を生み出すものであってほしいと願っています。人々が滑琴を自分ごととして捉えてアドバイスをいただいている今の状況は大変ありがたいですし、期待に応えないといけないですね。
今後の展開としてはアドバイスにあった1)滑琴のバリエーション展開や2)パフォーマンスの展開、また3)展示方法の検討などが挙げられます。滑琴のバリエーションとして、ベース弦を張った滑琴や弦の本数を減らしたモデルの実験、ペニーの滑琴化などが考えられます。パフォーマンスの展開として、これまで野外での演走のみでしたが今後は室内での大音量でのパフォーマンスを検討しており、特に2022年度は秋田市文化創造館の企画「SPACE LABO 2021」に採択されたこともあり、新しい滑琴の演走形式が提案できるでしょう。コロナ禍になってから安定的にパフォーマンスイベントを開催することが難しい状況が続いています。そのため滑琴の展示活動にも力を入れていかないと認知が広がらないので、今後は滑琴の展示方法も検討していきます〜終
https://akitacc.jp/article/220408/ ▲SPACE LABO 2021のレポート














