なんと、人間の海馬から「トム・クルーズ細胞」というニューロンが見つかりました。もちろんトム・クルーズはアメリカの俳優ですが、彼が神経科学の研究をしたわけではありません。てんかんの治療目的で電極を刺した患者さんにさまざまな画像を見せたとき、たまたまトム・クルーズにだけ発火する細胞が見つかったのです。 おもしろいことに、このトム・クルーズ細胞は、正面の写真でも、横顔でも、何と文字情報でも、トム・クルーズを示す情報にならすべて反応したのです。アニメのキャラクターや女優さんの顔では、その細胞は発火しませんでした。さらにおもしろいことに、一連の画像を見せたあと、この患者さんに口頭で「誰を見ましたか?」と質問します。すると、一連の画像について思い出す中で「トム・クルーズがいました」と答えるときに、先ほどの細胞が発火したのです。 つまり、頭の中でトム・クルーズを思い出しているときにさえこの細胞は発火するのです。どうやら人間の海馬には、あらゆる語彙に関して、情報を統合するようなニューロンがあるようです。たとえば「安倍晋三細胞」や「講談社ブルーバックス細胞」など、人によってさまざまなものに反応する細胞があることでしょう。 誤解の無いようにしてほしいのですが、トム・クルーズ細胞は、たった1個のニューロンではないはずです。動物実験では多くの電極を刺すことができますが、人間では実験の制約上、ニューロン1個分の信号を解析しているだけなのです。動物実験での結果を援用すれば、おそらく複数個のニューロンが作る神経回路がネットワークレベルで、そうした情報をコード(符号化)していると考えられます。しかし今のところ、そうした神経回路の詳細は、まだまだ不明です。
脳と時空間のつながり vol.4 | 理化学研究所 脳神経科学研究センター(理研CBS)












